7話

「いつまでも子供じゃないんだ。いい加減ばかな反抗はやめたらどうだ」


 放課後、ヒナツはクラス担任に職員室に呼び出された。内申が、将来が、大学が。とりとめもなくお小言は続く。


「お前は優秀ないい生徒だと思ってたんだけどなあ」

 ヒナツは沈黙を守り続ける。わざわざ、再び評価を下げる必要もないだろう。どんな言葉を紡いだところできっとそれは暴言や罵声に変わってしまうだろうから。


 しばらくはぐちゃぐちゃと語っていた教師もとうとう沈黙に耐えられなくなり、ヒナツを解放した。



 職員室を出たヒナツは深くため息をつく。

「しょうらい……」

 そして教師の言葉を小さく口の中で繰り返した。


 罵声を浴びせてしまうのも、愛想笑いができないのも、ヒナツのせいではない。こんなことがいつまで続くのだろうか。高校卒業まで? あるいは一生?

 

 ヒナツは気が付くと屋上に向かっていた。彼と会うのはだいたい昼休み。もしかしたらいないかもしれない。いや、きっといない。それでも、一抹の希望を抱えて階段を上がっていった。

 もう十月。夕方ということもあり冷たい風が体中をたたく。


「ありかわぁ、約束、もう守れないよ……」

 涙が止まらない。覚えたそれは恐怖。そして将来に対する漠然とした不安。


 フェンスに手をかけて、体重をかけてみる。フェンスは勢いよくきしみ、ヒナツの体を前に乗り出させた。高い。落ちたらひとたまりもないだろう。

 「注意!」

 壊れているから、とつけられた張り紙はもう何年あるのだろう。ラミネートが施された中の紙は、長年の風雨のためか、インクのクロマトグラフィーを起こしてしまっている。


 容易く壊れそうなところを探して、二三度、ぎしぎしと揺らした。

「わっ」

 フェンスごと外れてしまってヒナツは驚く。まるで死への入り口ができたみたいだ。


__私がこの先、生きていくには社会はあまりにも生き辛いんだもの。どう足掻いたって人は一人では生きてはいけないから。愛想笑いして。お世辞を言って。媚びへつらって。そうやって居場所を確立してきた。神様の意志から逸れないように。臆病に、慎重にって。


「ばいばい、神様」


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