第6話
あいつは男です。男が胸を張って夢を語るのであれば、それは否定のしようがありません。ですがね田上さん。私は普通の親として、アレには公務員とか、安定した企業で安穏な生活を送ってもらいたかったんです。それがいつからか「漫画家になる」なんて言い始めて、バイトをしながらなにやら描いたり消したりしているんです。家に金は入れているようなんですけど、それも微々たるもので得た金の大半は遊びに使っているそうです。その金の事は私が出ていった後に本人から聞きました。二ヶ月くらいした後突然電話がありまして、「事情は全部聞いたが別に気にしてない。それより酒でものまないか」なんて軽口を叩いてきたもんですから、それにつられて、まさにこの店です会って話を聞いたわけです。絵に描いたような駄目さ加減なんですがね。たまにこういった店に連れられてきて、あいつの酒を飲んでいる姿を見ると手前味噌ながら「粋な奴め」と思ってしまうんですよ。ありゃあ根っからの遊び人です。私なんかにゃたどり着けない境地です。当然上には上がいるんでしょうが、あれ以上は貴方、いけません。あれ以上は
結果を求める今の日本の資本主義には反する言葉ですが、私の人生の中で、唯一胸を張って真実と言える事です。当然、成果を求められ場面も起こるでしょうし、そこで上手く立ち回れなければ無能と判断されるでしょう。しかしそれ以上に、貴方が本気で仕事に挑めば、得るものは必ずあるんです。もっとも、今の私にはいささか説得力がありませんが……
ただまぁ田上さん。貴方なら大丈夫でしょう。見る限り、貴方は仕事帰りでしょう。こんな日に、こんな時間までご苦労様です。また、美味しいお酒、ありがとうございました。マスター。チェックをお願いします。田上さん。すみませんが、一足お先に失礼します。あんまり遅いと、また女房に新しい女ができたのかなんて心配をかけてしまいましたから。それではありがとうございました。また、お会いできる事を楽しみにしています……
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