入学式

 やばい。

 やばい。

 何がやばいかって、今日は入学式なのに、初日から遅刻しそうになってる俺がやばい!

 などと、頭の中で騒がしく考えながら支度をする倉田 伊月。

 今日はとうとう待ちにに待った高校の入学式だ。

 受験の結果はギリギリだったけれど、なんとか入ってさえしまえばこっちのものだ。

 彼がそうまでしてこの高校に入りたかったのには訳がある。

 追いかけたい人がいたのだ。

(………つばさ、覚えてるよな?忘れてるとかないよな?)

 矢代 翼。一つ年上の女の先輩だ。

 中学校が同じだった矢代は、部活が同じわけでもない自分にでも明るく話してくれた。

 でも実は人見知りらしく、自分にしか心を開いている男子はいないと知ったときは嬉しかったのだ。

 その嬉しさが何かは考えないでいたものの、矢代が卒業してしまうとき、やはり寂しかったのだ。

 会いたくて探してはいたものの、会えるわけもない。

 そんな中学3年生の日々を過ごした伊月は、いつしか同じ高校に入りたいと思うようになっていたのだ。

 矢代もそこまで頭がいい方ではないが、伊月の学力では厳しい受験となったが、落ちて元々、記念受験のつもりで受けた受験が、受かったものだからそれは驚いたものだ。

 またあのときのように、矢代と一緒に話したい。

 その想いだけでここまでこれた伊月はすごいと思う。

 だからこそ、忘れられていたときのショックは並のものではない。

(まぁ、そのときはそのときで、また仲良くなればいいしな!)

 無理やりポジティブな思考に切り替えた伊月は、春の風が吹く中家を出てバス停へ走った。

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あの夏に咲け! 蝉時雨 @mnt310

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