第8話

 戦場に出る。西洋教会の祓魔師による攻撃が飛んでくる。炎の球が飛んでくる。

「消え去れ、急急如律令!」

 霊符を抜き去り炎の球を消す。祓魔師が集団で仕掛けてくる。魔術と同時に、霊力の込められた銃弾が飛んでくるが、

「爆ぜろ、爆炎符、急急如律令。吹き飛ばせ、疾風符。雷の灰になれ、雷撃符」

 一気に霊符を三枚使い対処する。普通の陰陽師は術式に組み込んだりしない限り、霊符を同時に使うことはできない。霊符を一気に三枚も使うのは霊力もコントロールも高い技術を求められる。これが僕、安倍晴彦という陰陽師がただものではないことを証明している。だが、敵の攻撃はやまない。

「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女。九字による穢れに制裁をもたらせ。急急如律令!」

 破邪の法を右手で刻み、左手で霊符を九枚ばら撒く。青白い光が敵を切っていく。僕の周りを取り囲んできた敵を倒しきったとき、

「晴彦君、暴走した魂鬼をビルのなかで抑えている最中だ。急行してくれ!」

 桜木の式神が指示を飛ばしてきた。僕は少し走りジャンプする。そして、

「八咫烏、飛べ!」

 コートに黒き羽が生え飛び立つ。八咫烏は正式な歴史には残っていないが安倍晴明が使役していた式神でもあり、身を守るコートとして使ったともいわれている。僕にはそのコートを幼いときから操れた。これが僕が転生といわれた理由だ。 

 ビルの中腹あたりに滑り込む。そのフロアで交戦しているのが見えたからだ。そこには人魂社の妖魔討伐官とカルマを暴走させた魂鬼が数体いた。彼らの両目は黒と黄色に染まっていた。それ以外にも、体表も半分くらいが黒く染まっている。マイザイアウイルスの影響だ。身体中の霊力やカルマの粒子を貪られているのだろう。

『ハル、伐折羅使う?』

「いや、僕の手で終わらせる」

 僕は歩み寄っていく。妖魔討伐官のなかには負傷しているものもいる。この隊を率いているのは、

「お兄ちゃん、なんでここに?!」

「下がってろ、晴香。部下と一緒に撤退しろ」

「りょ、了解しましたなのです!」

 僕の妹、安倍晴香だった。彼女たちが逃げられる様彼女たちの前に立つ。そして腰に帯刀していた刀を引き抜く。その刀は血のように深紅に染まっていた。そしてなにやら妖しく光っている。

「迦具土、力を貸せ。右腕に憑依だ」

 僕の掛け声と同時に刀を紅き炎が包む。それと同時に刀を持つ僕の右手も紅い呪詛を纏う。刀を両手で握り構える。僕は幼いころから剣術を習っていた。剣術の稽古だけは習慣的に続けてしまっているので剣の腕に問題はない。おそらく、僕の霊力が高まるのを見て危険と判断したんだろう。一人の魂鬼がつ込んでくる。その魂鬼のカルマは剣のようになっており、迦具土とぶつかり合う。そのカルマが摂氏数千度の灼熱の炎で灰に変わる。魂鬼が悲鳴を上げる。少し心が痛む。二年前、僕があのウイルスを濃くしたりなんかしなかったらこの人はまだ生きていれたのだろうか。やはり、この人たちの命を絶つのは自分なのだろう。僕はホルダーから霊符を取り出し魂鬼の額に貼り付け呪文を唱える。

「祓いたまえ、清めたまえ。急急如律令」

 霊符の放つ青白い光に覆われその魂鬼は消滅でした。それを見てそのフロアにた魂鬼たちが一斉に襲い掛かってきた。それを居合い切りの構えで切り伏せる。そしてまた霊符を貼り付け呪文を唱え成仏させる。フロアは静かになった。迦具土を鞘に戻す。迦具土はただの刀じゃない。鬼神を封じ込めた存在、式鬼だ。その依り代がこの刀だ。今は言霊で迦具土の力を制御しているので僕が喰われるようなことはない。

『大丈夫、ハル?』

「ああ、問題ないよ」

 ある意味、こいつは呪いだ。だが、僕はそれに向き合っていくしかない。僕が一息ついたとき、電話が鳴った。

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