第5話
そして授業をほとんど寝過ごし昼休みになった。
『本当にあの子の話し聞くの?』
「ああ。陰陽師関係なら僕にとばっちりが来るかもしれない」
実際そうだ。ここ最近は陰陽師関係で何かあったことは少ないが、半年前までは僕を戻そうと毎日が狂っていた。そんなのは嫌だ。僕はまた大切な人を失うくらいなら陰陽師なんてやりたくない。
「おい、有馬。屋上に来い」
「いいですよ」
僕と有馬は学校の屋上に行った。周囲の視線がなんだか痛いが気にはしない。もともと、あまり学校自体に積極的ではないので、知名度は低いし、幽霊憑きとしてもかなり周囲からは嫌われている。屋上に着く。特に周囲に人はいない。
「おい、有馬、お前は何者だ?」
率直に質問をぶつけてみた。
「私は人魂社に所属する妖魔討伐官です」
「人魂社? 渚、聞いたことあるか?」
『う~ん、聞いたことないけど』
有馬は安心したような顔をした後、また神妙な顔になって説明を続けた。
「我々人魂社は陰陽師と魂鬼の二つの種族が派閥を組み、所属する秘密結社です。まあ元は八咫烏が原点ですよ」
「八咫烏、か。ちょっと前に壊滅したって聞いたけど、まだ残ってたんだな」
八咫烏、陰陽道を学ぶ集団だったと聞いている。
「まああなたの兄、晴樹さんの職場でもありますけど」
「兄貴の?!」
『お兄さんの?!』
まさか、と思ったが、どうやらそうらしい。兄は去年高校を卒業し、そのまま就職したと聞いた。成績もよかったし、宗祇屋でも期待されていた兄が別の組織で就職すると聞いて驚いたのを覚えている。まさかこいつと同じ組織に所属していたのか。
「兄貴が所属している組織、ねえ。それで、昨日俺を図って何がしたかったんだ?」
「まあ、社長があなたを加入させたがってますからね。あ、それに妹さんもうちの社員ですよ」
「は?! 晴香も?!」
『晴香ちゃん、もなんだ……!』
まさか、妹までがその組織、人魂社に関係しているとは思わなかった。晴香は京都の私立の名門女子中学校に通っている。家系もあって陰陽師ではあるが、僕の関わらなかった二年でだいぶ変わったみたいだ。この二人ということは、
「もしかして宗祇屋自体が、人魂社の管轄なのか?」
「ご名答。宗祇屋様のほうは二年前からうちの社員です。もちろん、晴雅様もそうです」
『話の規模が大きくなってきた……』
宗祇屋は単体でもかなりの信徒を持っている。二年前の事件以降からさらに増えたので、今では日本の一割にもなる。ほとんどの陰陽師が陰陽師連盟か宗祇屋に所属していたはずだ。なら、
「陰陽師連盟もお前等の派閥になったのか?」
この陰陽師の歴史にも残ることを有馬はこともなげに「そうですよ」と答えた。
「おいおい、お前のところの社長って言うのは相当なやつだな。あの神門浩次も取り込んだのか。あいつは確かイギリスの女王が作った王立魔術学会にも横の線で繋がっていたと思ったんだが?」
「はい、王立魔術学会のほうとも公式に同盟を結んでいます」
『ま、まさか国を超えての話とは……』
王立魔術学会、イギリス女王の意志でできた組織で、イギリスでいう魔術師たちが科学と同時に魔術を研究している組織だ。確かに、あの組織は自分たちの発展のためならどんな組織とでも手を組む。それ自体は変じゃない。だが、
「組織が大きすぎるだろ……。まあいい、僕に接触した理由は?」
なんとなく話の流れでわかってはおいたが、一応聞いてみる。
「まあ何となく察しているでしょうが、うちの社長、桜木龍馬はあなた、安倍晴彦を陰陽師として必要としています。西洋教会やほかの呪術組織を日本から撤退させ、独立させるために」
聞いている人間によっては犯罪者に仕立て上げられてもおかしくはないことを有馬ははっきりと、そして強く言った。だが、
「そのお誘いの答えはノーだ。僕はもう陰陽師に関わるつもりはない」
その僕の答えを聞いて有馬沙夜は嘲笑を浮かべた。
「はは、もう関わるつもりはないなんていって、昨日はあっさり陰陽師としての力に頼ってましたけどね」
「ぐっ……!」
『まあそうだよね』
それをいわれると耳が痛いのだが、おい渚、今あっさりご主人を売ったな?
「それに、焔の神童、陰陽の申し子、かの安倍晴明の転生、とか言われてたやつも、もうこの様か。ま、社長が欲しいっていたから接触したけど、とんだ見込み違いでしょ」
「……何とでも言えよ」
彼女のいうことは全部事実だ。だからこそ、このあということも事実だ。
「あなたは、己の陰陽師としての責任と義務を放り出した逃走者だ。ただただ逃げまとう愚者だ。大勢の人を守れる強さを持っているのにも関わらず、自分の都合でそれらを投げ出すようなやつだ。愚者は愚者らしく愚かに生きればいい」
「……言いたい事はそれだけか?」
「いえ、あともうひとつ。今日の放課後、私についてきてください。桜木龍馬社長がお呼びです。社長はあなたの二年前の命の恩人、といってましたよ」
「わかった。放課後、声かけてくれ」
そうして僕は屋上を後にした。ドアを閉める寸前、
「腰抜けが……!」
小さく有馬がはき捨てたのが聞こえた。渚が声をかけてくれる。
『ハル、大丈夫?』
「ああ。心配しなくていいよ」
『う、うん』
憂鬱な毎日が今日は特段憂鬱だった。
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