第4話
翌日、僕はいつもより重い身体を引きずりながら学校に行った。昨夜のことは両親にも兄妹、信徒にも言っていない。この事実を知っているのは渚だけなので、そこだけが不幸中の幸いだ。
『ハル、そんなに疲れてるの?』
「当たり前だろ。昨日は二年ぶりに霊力を開放したんだ。しかも言霊で。霊力の制御が大変でほとんど寝てないよ。まあ君はぐっすりだったけどさ」
『あはは……。ま、まあ式神はご主人の疲れ具合でもっと疲れるのだよ。そういうことにしといて!』
僕はジト目で渚を見た後、また学校に向けて歩き出す。校門をくぐり階段を上り、自分の席につく。
「あ~、眠い。いいや、少し寝るから後で起こしてくれ、渚」
『わかったけど、裕也が来たよ?』
「よ、晴彦!」
「……っち、朝からハイテンションすぎんだろ、お前」
朝から僕に声をかけてきたのは加茂裕也だ。彼は家族ぐるみでの僕の幼馴染だ。
「何だよ、昨日とうとう渚ちゃんとしちゃったのか?」
まあ性欲の塊みたいな男だ。だが、これでも陰陽師の名家、加茂家の長男だ。高い霊力を有しているので、渚が見える。
「そんなわけないだろうが。馬鹿が」
「んだよ、つまんねえな」
そもそも幽霊とそういう行為ができるわけないだろうが。馬鹿ばかしくなって僕は不貞寝することにした。
「はーい、せきついて!」
担任が入ってきて朝のホームルームが始まる。それをなんとなく聞き流す。だが、そうもしていられなくなった。理由は、
「転入生が今日来ました。入って」
このくらいなありきたりだ。まあ今の時期を考えたら普通におかしいが。だが、理由はそうじゃない。その転入生が、
「どうも、有馬沙夜です。よろしくお願いします」
昨日助けたあの少女だった。
『な、なんであの子が?!』
彼女は有馬沙夜というらしい。有馬、自分と因縁のあるやつの苗字でもある。だがそんなことより、
「偶然じゃない、よな」
彼女が僕のほうを見た。目が合う。彼女は、微笑とよりかは嘲笑を僕に向けた。確信した。これは偶然ではないだろう。
「くそ、また僕の日常が壊れるのかよ」
この僕の言葉はざわめいた教室のおかげで誰も聞いていなかったと思う。
「じゃあ有馬、お前は、安倍の隣座れ」
これまたわざとにも思えてしまう。有馬は僕の隣の空いた席に座った。
「どうも、没落の陰陽師。焔の神童、それに伐折羅の召喚式神でしたっけ?」
「っち……、やっぱり昨日は仕組んでいたみたいだな。お前も陰陽師かよ」
「はい。まあ、その話は後でしましょうか。今夜にもあなたと面談したい方がいるので」
「誰だ? 宗祇屋のほうが許可を出したっていうのか?」
宗祇屋というのは僕の実家、安倍家が中核を担う陰陽師の宗教的組織だ。
「ええ、あなたの兄が」
兄、安倍晴樹は宗祇屋から独立してある陰陽師結社に勤めていると聞いた。こいつはその陰陽師結社の一人なのか。
「……わかったよ。昼休みでな」
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