第3話

ユラは不思議な少女だった。

実際、誘拐されたというにも関わらず、まるで興味がないかのようにのんびりとした動作でコーヒーを飲んでいる。

周りでユラへの対応を議論している時ですらボンヤリと窓の外を見ていた。

朝の光は強さを増し、窓の外は人の賑わいを感じさせる。

空には雲がゆっくりと流れ、窓の外を眺めるユラの姿はまるで平和そのもの。

隣で暗殺者の集団が少女の命を左右する議論をしている事が、あまりにもアンバランスに思えてくる。



「テメーはどうしたいんだよ!」


まるで他人事のように興味を示さないユラに苛立ちを見せたのは、役立たずだとユラを一番に見限ったソルだった。

すぐに感情を剥き出しにするソルだが、このチームでは最も人間味がある。

ユラを切り捨てて殺せと主張しながらも、本人の意思を確認しようとするところが何より彼らしい。



「それとも口もきけないのか?」


ソルが急かし、ユラはようやく視線をこちらに向け、唇をもごもごと動かしながら全員を確認する。



「私は…生きたい、です」


これまでの経緯から、まるで生への執着が欠けているのかと思ったがそうでもないらしい。

「そーかよ」と腕を組むソルがチッと舌打ちをしてメンバーへ視線を投げる。

どうやらこれ以上何もいう気がないらしい。

判断はこちらに任せるという事だろうが、他の面々も腕を組んでユラをじっと見つめて考えあぐねているようだった。

全員がラグナロクの事で決断しかねているのだろう。

判断を間違えば全員の命が危ぶまれる。

暗殺を生業とするという事は、そういう事なのだ。

1つの判断が結果を大きく左右する。



「まぁ、良いんじゃないか?」


クロウが投げやりとも言えるようなあっけらかんとした口調で笑う。

胸の前で組まれていた腕を頭の後ろで組み直し、ワハハと笑い飛ばして「スルーが初めて持ち込んだ問題だしな!!」と締めくくる。



「それ言われると認めざるを得ないなー」


ヘラっと笑うのは最初にユラを睨んでいたシンだった。

「確かに」とそれぞれが頷き、ユラを仲間に迎え入れる事が決まる。

俺の持ち込んだ問題を、だからこそ仕方ないと認められることにむず痒さを感じはしたが、この時ばかりは胸を撫で下ろした。

かなり無茶苦茶を主張している事は分かっていた為、理由も聞かずに受け入れて貰えるとは思わなかった。

元々理由を言うつもりはなかったが…。


「すまないな」


礼を口にすると、どことなくぎこちなくなってしまった。

日頃しない事をすると言うのは、かくも難しい事なのか。


「じゃ、よろしくな。ユラ」


ソファーに座ったまま戸惑ったように目を見張るユラに、メンバーが代わる代わる手を差し出す様子を、ただ目を細めて眺めた。

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