54「龍一、舞と大斗」
ビルのロビーには、男が1人居た。
顔は布などで隠され、表情は分からなかったが、余裕があることは間違いなかった。
「なあ、龍一。闘わねえか?」
男はそう言いながら、顔を覆う布を取った。
「父さん!?」
「もう感づいてたんだろ、あの日の注射。何で俺が持ってたか」
「龍一、本当に父さんなのか?」
「ええ、先に行って下さい。私がここを抑えます」
研介達は龍一を1人残し、先へと進んで行った。
「父さん。何故、俺に注射を―」
男はいきなり龍一を床に突き倒した。
「さっさと来いよ。俺を倒してみろ」
龍一はすぐさま立ち上がった。
そして、掌底打ちをした。
だがその腕が掴まった。
龍一は反対の腕で、男の腕を下から叩いた。
そして背負投げのように投げた。
男もすぐさま立ち上がった。
そこを狙い、龍一は義手で殴りかかった。
男はそれを払うと龍一の腕を絡め、一気に床に突き落とした。
馬乗りになった。
男は鉄槌打ちを龍一の顔面の中心めがけ放った。
しかし龍一は男の胴体に足を絡め、そのまま床に振り落とした。
2人は立ち上がった。
「まだ俺を父さんと呼んでくれるんだな」
男は真っ直ぐ向かい、そのままタックルをした。
龍一はそれに対応出来なかった。
男はさらに龍一の腕を掴み、投げ倒した。
龍一は立ち上がった。
「俺はまだ、あんたを父さんと呼ぶ。だが、俺とあんたは他人だ」
男はさっきと同じように龍一に向かってきた。
龍一は前蹴りをした。
男の腹の中心に思いっきり当たった。
そして男がしたように、龍一も男を投げ倒した。
男は立ち上がった。
2人は同時に殴った。
そして男は、その場に倒れた。
「龍一、俺を倒せ、そして生きろ。その為に、あんたに注射をした」
「ああ、俺は生きた。そしてこれからも生きる!」
龍一は思いっきり、男の顔を義手で殴った。
男はそのまま動かなくなった。
「父さん、俺はあんたのようにはならない。妻と子も大事にする。それが俺の生きる意味だ」
龍一はその場に座った。
一方、研介達は階段を駆け上がっていた。
エレベーター前にここに来た際に、壊れた。
半分駆け上がった所で、横の壁が壊れた。
瓦礫と共に、舞は吹き飛んだ。
「舞!大丈夫か!」
舞は体を起こそうとしたが、上がらなかった。
空いた壁から、ハンマーを持った男出てきた。
『さて、俺と戦うのは誰だ?幾らでも待ってやる』
男は、ハンマーを肩に乗せて言った。
「大斗さん、ここは」
「龍一、お前が行くのか?」
「いえ、大斗さん、あなたが行くべきです」
「俺が?」
研介は一言、「ええ」とだけ答えた。
「別に構わないが、何故だ?」
「大斗さん、あなたが守ってあげるんです。今まで護ってきたもの以上に」
大斗は舞をじっと見た。
「気付いてあげてください。舞の本心に」
舞の瞳に大斗が映った。
「分かった、戦おう」
大斗は視線を戻しながら言った。
その目は、今までとは、少し違ったかもしれない。
「研介とジェイムズは上に、愛美は舞を看てくれ」
その言葉を、研介達は行動に移した。
「大斗、くれぐれも気をつけて」
「ああ、分かってる」
大斗はハンマー男に向かって言った。
『遅れてすまない』
『お前が俺の相手か。手加減はしない』
そう言って、ハンマーを大斗に大きく振り落とした。
大斗はアッパーをした。
そして腹に、顔に。
流れるように打撃を入れた。
ハンマー男は一瞬よろめいた。
『なかなかやるじゃねえか。俺も素手で行くか』
男はハンマーを外へ放り出した。
そして、殴った。
大斗も殴る。
殴る。
蹴る。
殴る。
2人とも小細工は無しに、ただ、激しい戦いを繰り広げていた。
そして、しばらくの後。
大斗は男を思いっきり、男が耐えきれない威力で殴った。
男はその場に倒れた。
大斗は舞と愛美の所に戻った。
そして、倒れた。
舞は心配するが、愛美が大丈夫と言うと、安堵の表情を見せた。
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