41「優理」

 部屋の中にいる男はどれも、大量には出血していなかった。

 気絶していた。

 『これ、全部舞さんが?』

 『そうです。何とか』

 『どこか、怪我とかしてないか?』

 『大丈夫です。ですが、優理さんが…』

 舞は、優理の方を向いた。

 『一体何が?優理は話せる状態じゃないわ』

 そして視線を戻した。

 『あの後、私たちはこの男達にここに投げ込まれて…』

 『アンブルク港はどこですか?』

 研介は突発的に話した。

 『あ、あの道をまっすぐ進めばすぐです。どうかしたんですか?』 

 『ジョンさんとメリオさんは男たちを連れて戻ってかまいません』

 『どうゆうことだ?』

 『ここからは優理さんの心理的な深い所に触れるかもしれません』

 ジョンはしばらく考えた。

 『…分かった、そこら辺の車に乗って、俺らは退散しよう』

 『ジョンさん』

 『行くぞ。ここから先はこいつ等の中の話だ』

 『分かりました』

 ジョンとメリオは外へ向かって行った。

 『待ってくれ。この男達はどうするんだ?殺すのか?』

 『多分、あのチェンソー、アイツは殺す。ウォルターなら』

 『殺さないでやってくれ…』

 『分かった、そう伝えておく』

 『手伝ってください』

 研介達は、男達を近くにあったワゴンバスに乗せた。

 男達がゾンビに噛まれた様子は無かった。

 車は発進し、ゾンビを蹴散らしながら進んだ。 


 建物内に戻ると、優理の震えは収まっており、下を向いてじっと座っていた。

 「皆、ごめん」

 下を向いたまま、そう言った。

 「ここで起きたことは想像できる。それで、お前の過去には何かあったのか?」

 研介は優理に聞いた。

 「ごめん、言いたくない」

 優理は座ったまま言った。

 「そうか、立てるか?」

 信太は手を差し伸べ、優理はそれを掴んで立った。

 龍一は舞の耳元で何か言った。

 「…すみません、全員、ちょっと外へ出ていて下さい」

 「へ?」

 「いいから」

 「分かった。外に出よう」

 優理と舞以外全員は外へ出た。

 「優理さん。優理さんは、レズですよね」

 優理は頷いた。

 「あの男達に襲われそうになった時、あなたは痙攣を起こしたんです。大丈夫ですか?」

 「記憶にないけど、今は大丈夫」

 「あなたは多分、男性に対して、トラウマがあるはずです」

 「男性恐怖症…」

 優理は小声で言った。

 「え?」

 「舞ちゃんは確か、もう処女じゃないんだよね」

 「そうですが…」

 「私も、同じなんだ…」

 「やっぱり…」

 「話は変わるけど、舞ちゃんがあいつ等を倒したのは覚えてるの」

 舞は驚愕した。

 「舞ちゃん、勇気を持ったんだね。だから、私も勇気をもって話すよ」

 優理はゆっくりと話し始めた。

 「私が高校の時、彼氏が居たの。でも、彼は裏切った。それで、今さっきのように。今さっきは舞ちゃんが守ってくれたけど、その時は…」

 「襲われた…」

 「私は彼が好きだった。大好きだった。一途に愛していた。でも、彼は彼の友人と一緒に…私を…。男性恐怖症はもう克服した。もう大丈夫」

 「ごめんなさい。こんなこと言わせて」

 「いいの、むしろ、すっきりした」

 優理は舞を抱きしめた。

 「聞いてくれて、ありがとう」

 優理は顔を舞の胸の間に埋めた。

 「あの…変な事しようとしてますよね?」

 優理は顔を上げ、優しく微笑んだ。

 舞も優しく微笑んだ。


 舞と優理は外に出た。

 研介達は、ゾンビと戦っていた。

 「終わったか、それじゃあ、車に乗るぞ」

 そして、近くにあったワゴン車に乗った。

 車のエンジンをかけて走らせ始めた。


 その車を眺めている1人の白人の若い女性が居た。

 アリスだ。

 アリスは、ダリエルに無線をかけた。

 『行ったわ。ダリエル』

 『分かった』

 『凄いわね、あなたもそうだけど。あの方たちも。人間離れした動きと連携…』

 『ああ、彼らこそ。奴らを倒せる』

 『それじゃ、きるわね』

 アリスはそう言って無線をきった。

 『コルト―vの初期ワクチンが入っているのが、3人もいる。どうゆうことなの?』

 車は、ゾンビをある程度避けながら進んだ。

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