38「覚醒と隔世」

 ウォルターがどこからか出てきて言った。

 『頼みごとをする』

 『頼みごと?何だ?』

 『付いて来い』

 大斗達はウォルターに付いて行った。

 外に出て、はしごの下に着いた。

 『塀の、外?』

 『そうだ』

 『あの、そこで何を?』

 ウォルターは塀を指差して言った。

 『簡単だ、ゾンビの掃除をする』

 『ゾンビの、掃除ですか』

 『そうだ。この塀もあまり大きくはない。無限に出てくるゾンビを食い止めても、いつかは壊されるかもしれないからな』

 『でも何で俺たちに?仲間はどうした』

 『中を監視してたり、自由に遊んでる奴もいる』

 ウォルターは呆れた様子で言った。

 『死体はどうするんですか?』

 『そのままでいい、後は仲間が何とかする』

 『分かった、それじゃあ、行こう』

 ジェイムズは飛んで塀を越え、大斗達ははしごを登った。

 はしごの下にもゾンビが居る、ウォルターはグレネードを投げ、その辺りのゾンビを倒すとはしごから降りた。

 大斗、舞、龍一も続いて降りた。

 『それじゃ行くぞ!』

 一斉に弾が発射された。

 次第に大斗達は四方に散らばっていった。

 舞は塀に寄っていった。

 弾切れが起こり、リロードをした。

 だが、ゾンビはじわりとよって行った。

 『間に合わない!』

 ゾンビが飛びかかろうとした途端、横から銃弾がゾンビの頭をぶち抜いた。

 血が舞の横を通り、塀に付いた。

 『気をつけてくれ!死ぬぞ!』

 大斗が見かけて、撃ったようだ。

 舞はその場に立ち尽くした。

 その隙に、ゾンビがまた襲いかかった。

 しかし次の瞬間、ゾンビの頭の一部が消失した。

 舞の手には血が滴っている刀があった。 

 舞はもう一方の刀も抜き、雄叫びを上げた。

 そして、次々とゾンビの頭のみを斬っていった。

 舞の性格からは、想像もできない光景だった。

 『よし、もういいぞ』

 しばらくたち、ウォルターは言った。

 はしごを上り、塀の中へ入った。

 『どうしたんだ一体?』

 『私は、一体何を?』

 『覚醒だ』

 ウォルターは言った。

 『覚、醒?』

 『ああ、そうだ。例えば、ボクシングでそれまで弱かったのに、ある日、とあるきっかけで自我を失ったように戦ったりする。そんな感じだ』

 『では、おそらく舞さんに掛かっていた謎の圧が舞さんをそうさせたと』 

 『多分な。まあ、普通に限界を超えたと考えてくれ』

 舞は頷いた。

 『お礼だ、飯を出そう。付いて来い』

 ウォルターはそう言って、中へと進んでいった。

 「命令なのは変わらないんだな……」

 大斗達はそのあとを追った。


 一方、愛美。

 「やっぱりここに居たのね」

 とある檻の中を見ていた。

 その目は、懐かしさと嫌悪がある目だった。

 「仁」

 仁という男は、ゆっくりと愛美を見た。

 床に座り、髭を生やした男だ。

 「久しぶりだな、妹」

 「黙りなさい、あなたに妹呼ばわりされる筋合いはないわ」

 「何だ、久しぶりに会ったのに冷たいな」

 仁はあぐらから立ち膝をした。

 「まだ根に持っているのか?まあしょうがない、俺は加害者、お前は被害者。その事実は変わらないからな」

 「自分のしたことがどうゆうことか、分かって言っているんでしょうね」

 「俺は神に忠を尽くした。それだけだ。どうする?ここで俺を殺しても構わないが。ここは世とは隔たれたところだからな」

 仁は冷酷な態度でそう言った。

 「自分の親を殺しといて、何を言っているの!?」

 「親?そうだな、俺は親を殺した。だが悪いことはしていない」

 愛美は檻の鉄格子を掴んだ。

 「悪きことじゃない!?」

 「俺は神に従っただけだ」

 「よく言うわ、神なんていないのに」

 「またそれか。もう聞き飽きた」

 仁はポケットから写真を取り出した。

 幼い男女と大人が映っていた。

 半分から上はちぎれていた。

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