32「ピエロ」
研介と信太が1階の喫煙室付近に行くと、既に仲間が居た。
「あれ?皆さんどうしたんですか?」
「ああ、研介さんと信太さん」
「あれを見てよ」
優理はにやけながら喫煙室を指した。
そこには舞が大斗に寄り添うように座っていた。
「あの2人何があったのかしら?」
「分からない」
「ま、いいんじゃねえか?」
大斗が研介達に気付いたようで、舞を起こし、研介達の所へ来た。
「おう、待たせたな。舞はもう大丈夫だ」
「すみません。もう大丈夫です」
「それでは行きましょうか」
研介達は地下へ進んだ。
「舞ちゃんも中々攻めるねえ」
「い、いや、そうゆう訳じゃ……」
「でもこの男、超鈍感だから」
そんな中、ラジオが始まった。
『ヘーイ!時間は10時!そろそろ昼のラジオだ!!』
とある扉を開けると、そこのガラスの先に黒人の男性が1人、マイクに向かって話していた。
男性はこちらに気付いた。
『おおっと!久しぶりのゲストだ!!良いぜ!入ってこい!!』
大斗はラジオを消して、スタジオの中に入った。
それに続いて研介達も入った。
『多いな。1、2、3、もういいや!とにかく、最初は音楽だ!スタート!』
男はマイクの音量を下げ、それまでと違う落ち着いた口調で話し始めた。
『あの謎解きを解いてきたのか?』
『まあ、それまでにも解いてきたからな』
『解いて来たのか、あれ以外の謎も。まあいいや。あの子供、あれは俺だ』
『そうですか。何であんなものを?』
男性は椅子から立ち上がり、答えた。
『知ってもらいたかったんだ。俺の人生を。誰にも秘密のまま、あの世には行きたくはないんだ』
『という事は、あれでは終わらないと』
『そうだ。あの後、俺は母親に引き取られた。その後は、暴行を受ける日々だった。家族全員から、俺は厄病神と言われた』
『当然、何かしたんでしょう?』
『ああ、俺は耐え切れず、家を出た。だがすぐに警察に捕まった。その時来た母親は……演技をしていた』
研介達は黙って聞いていた。
『優しい母親を演じていた。その後は更にひどくなった。それに加え、おしとやかだった性格のせいで、学校でも苛められた。中学に入ると、それも酷くなった』
男性はラジオの音声を切った。
『高校に入り、俺は全てを変えた。おしとやかで暗い性格を隠し、ピエロになった。全てを変えるしかなかったんだ。俺を偽るしかなかったんだ。だけどその時、父親の他の子供が学校にいた。そいつに徹底的に苛められた。俺は必死に勉強して、大学に入り1人暮らしを始めた。そしてこの仕事に就いた。ありがとう、聞いてくれて』
舞は涙を流した。
『それは同情の涙じゃないな。もっと、そうだな、過去を思い出した涙だ。だけど、懐かしさじゃなく、悲しみの。聞かしてくれないか?』
舞はゆっくりと口を開いた。
『あなたと同じ様に、私の両親は離婚しました。私は父親に引き取られました。そして、父は再婚しました。だけど、周りの人たちはその時の母を非難した。それによって母は病んだ。父は交通事故で死亡。そして私に強く当たるようになったんです。学校では、友人も出来ませんでした。中学に入ると、私は家出をしました。』
研介達は黙るしかなかった。
『行き場所が無い私にとある男性は手を差し伸べ、止めさせてくれました。だけど、身体が目的だった。私は逃げた。それから、家に戻った。そしたら、既に母は別の男と付き合っていた。家の中に居た。周りからは、更に酷い目で見られた。』
舞はその場に座りこんで言った。
『私は大人が嫌いだった。大人になりたくなかった。醜く、汚い大人に、なりたくなかった』
涙を拭った。
『だけど、今はもう違う。私は、ここに居る人たちのように、真っすぐに、きれいに生きたい。きっとあなたもきれいな大人のはずです』
男性は微笑み、鍵を舞の前に投げた。
『最後に、本当の俺で終われて良かった』
そう言って、男はゾンビの群れに入って行った。
悲鳴が鳴りひびいた。
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