灰塵纏う教会
夏葉夜
第0話・灰は舞い、死は大地を埋め尽くす
人の死を写し出す一枚の
帝国領最北端にある教会……通称『
しかし、それは一ヶ月前までのこと。現在は違う。何百年もの間、不毛の大地として人々を拒み続けてきたこの土地と教会を、一つの影が
それの存在感はまるで無い。
注意を怠ると灰色の景色に埋没してしまうような、
灰の大地に足跡一つ残さずに、揺れるような気楽さで、それでいて真っ直ぐと、教会の扉を開き聖堂に入る。慣れた動作だ。扉の開閉で、
そして、
「エレィナトゥ……」
エレィナトゥの顔を写していた魔鏡は、写し出す景色を一変させる。
写し出されたのは灰の大地の最南端。帝国領内で、人間の活動出来る領域の最北端にある村オードルラント。
エレィナトゥは、魔鏡を見て
「……ッヒヒ、今度ハ……コイツラカァ……」
人間なら舌なめずりの一つでもしそうな表情で、不快を感じさせる笑い方をした。
エレィナトゥは魔鏡に写される風景を、舐めるようにして眼に焼き付けたあと、入ってきた時と同じく揺れるように立ち上がる。風に揺られる炎のように……そして踊るような足取りで、聖堂を後にする。
目的地は魔鏡に写し出された南の村。目的は……魔鏡に写し出された村民の殺害。殺害といっても、エレィナトゥは刃物や鈍器のような明確な武器は持たない。
エレィナトゥは影。
闇に乗じて魔境の示した人物に
死という
それが、エレィナトゥであった。
エレィナトゥに自己は無い。
魔鏡に
深夜。
風に流されるようにして、村にやってきたエレィナトゥはそのまま目的の人物が寝る民家に滑り込んだ。鍵など入らない。扉なんて関係ない。影は実体を持たない。教会の扉をわざわざ開いて正面から入るのは、エレィナトゥが魔鏡を含めた教会全てに信仰が傾いているからである。そこらの
寝首を
たったそれだけで、呼吸は止まり心臓の活動も停止する。生者の魂はエレィナトゥに吸い取られ、
そして灰は残らず風に乗り、教会の建つ不毛の大地に流され
また少し、灰の大地の領域が拡大し、帝国領の北端で続く国土の灰化は音もなく進行し続ける。エレィナトゥは、この晩に三人の村人の魂を吸い取り、
明朝。
音もなく舞い戻ったエレィナトゥは、再び聖堂に入り鏡の前に腰を下ろす。
そして再び掠れた不気味な声で囁いた。
「エレィナトゥ……」
魔鏡に写りこんだ自分の
それを見たエレィナトゥは、それまで見せなかったような極上の笑みを見せた。
次の対象は帝国の首都ガイロニア。
人口百ニ十万人……大陸
「……ッヒヒ、クハヒヒヒヒヒヒヒ――」
北東の大帝国が灰に飲まれる。
それだけでエレィナトゥは、込み上げてくる笑いを抑えられなかった。灰色の大地は、灰塵纏う教会を中心にして今も広がり続けている。
**************
そしてその翌年。
ガイロニア帝国の英雄スクリオが、灰塵纏う教会に巣食うエレィナトゥ討伐に名乗りをあげた。その腰に帯びた
灰塵纏う教会 夏葉夜 @arsfoln
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