第10話 響け恋の歌

「綺麗ですね、海も、桜も」

やっと二人で見れた海と桜は、一人で見ていたときよりももっと綺麗に見えた。

「それって私が綺麗ってこと?」

「あー、そうですね」

「何その言い方。絶対思ってないでしょ」

「思ってますよ」

「はいはい」

美咲さんは信じてない顔で返事をした。


「あ! そうだ、歌ってくださいよ、また聴きたいです。美咲さんの歌」

「嫌だ」

「なんでですか?」

「恥ずかしいに決まってるじゃん。電話と目の前にいるのとじゃ全然違うから」


「えー」

「渉くんこそ歌いなよ、私ばっかりじゃ不公平だよ」

「嫌です」

俺はそういうタイプじゃないんだ。

「なんだよ、自分だって嫌なんじゃん」


「まあ、じゃあ、またいつかってことで」

「そうしよっか」


少しして、横を見ると美咲さんは泣いていた。

「どうしたんですか?」

「ううん、ごめん、ただ嬉しくて。十年間ずっと会いたかった人が横にいてくれて、夢みたいで」

そうだ、俺にとっては一ヶ月にも満たない時間でも、美咲さんにとっては十年なんだ。

わかってたことだ、それがどれだけ長いかってことは。


だから、だからこそ俺は、その十年を……

「すみません、待たせちゃって。だから、その十年分を埋めるくらい、俺が必ず笑顔にしてみせます。必ず……」

「うん……ありがとう」


俺なら、いや、俺たちならそれができる、確信できた。

十年なんて気にならないくらいの感情が、俺たちにはあるんだ。


美咲さんは歌ってくれなかったけど、俺にはあの歌がたしかに聴こえた気がした。

ハッピーエンドのエンディングにはちょうどいいな。

そしてどうか彼女が泣き止むまで、


響け恋の歌。

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十年前から電話がかかってきた 湯浅八等星 @yuasa_1224

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