第14話、地獄の決闘
周囲を警戒しながら、とりあえず、大きな建物を目指す。
通りの向こうに、割と大きな建物があった。 木造だが、太い柱で組まれており、階上には見張り台もしつらえてある。
カパーゾが言った。
「 でけえ銭湯だな・・・! 」
・・お前、その銭湯という発想、ドコから来るんだ? たわけが。 どう見ても、指揮所か指導者の住居だろうが。
豆が、トテトテと、建物の方へ走りながら言った。
「 ハク~! カマ爺ぃ~っ! 」
・・誰か、あいつ、撃ち殺せ・・!
サンダスが、豆に声を掛ける。
「 コック! おい、コック! 危ねえから、コッチに来いっ! お前、死んだら、誰がメシ作るんだよ・・! 」
心配するな。 ヤツは、死なん。 とりあえず、誰か、ダマらせろ。 構わん、頭に一発撃ったれ。
突然、大音響と共に、豆の足元が爆発した。 どうやら、地雷が仕掛けてあったらしい。
ポタリと、豆が、僕の脇に落ちて来た。
「 ああ~、ビックリしちゃった・・! ふうう~・・! 」
・・・やはり、不思議に思うのだが、ナゼお前、死なん・・・?
アパムが、凧を豆に手渡しながら言った。
「 なあ、コック。 コイツを、さっきみたいに、揚げてくんねえか? 」
「 いいよ! わ~い、わ~い 」
無邪気に答える、豆。
アパムが、付け足した。
「 なるべ~く、あの建物の入り口辺りが、い~い風、吹いてると思うぜ? 」
・・・お前、エゲツないヤツだな。 豆に、地雷を踏ませる気だな? ナンちゅう、見事な作戦だ。 意義なし。 行け、豆。
「 わ~い、わ・・ 」
豆が走り出した途端、大音響が何発もこだまし、豆の持っていた凧が、空中高く巻き上げられた。
・・こりゃ、ホントに死んだかもしれん。 色々、世話ンなったな、豆よ。 悪く思うなよ・・・
爆風と、土埃が収まったあと、目をやると、そこには、豆が突っ立っていた。
こちらを向いて、ぼそっと言った。
「 ・・・凧、どっかに行っちゃった 」
地雷を除去( 誘爆 )させた入り口から、中をうかがう。
・・薄暗い部屋の中。
タバコの煙が、もうもうと立ち込め、2台設置してあるビリヤード台で、数人の鬼がプレイしていた。 奥には、コーラの自販機と数台のピンボールがあり、二人の鬼が、台をガタガタ揺すりながら、奇声を上げ、騒いでいる。
カウンターにも、数人が座っており、皆、一斉に、こちらを振り返った。
・・・何なんだ、この演出は。
明らかに、白々しい。 入り口で、地雷が爆発してんだぞ? フツーにしてんじゃねえよ、フツーに・・・!
サンダスが、軍靴の音を、ゴスゴスと立てながら、カウンターに近寄る。
・・・乗る気だな? この、バレバレの演出に乗る気だ。 いかにも、ヤツが好みそうな雰囲気だし・・・
持っていたM―16を、カウンターの上に、ゴトトッと置きながら、サンダスが言った。
「 ・・・バーボン・・・ ダブルで 」
ポケットからコインを出し、カウンターの上に軽く放る。
テンガロンハットを被り、カウンターの中にいた、太った、ヒゲもじゃのボーイが、じろり、とサンダスを横目で見た。 棚からワイルドターキーを取ると、ショットグラスに注ぎ、それを、サンダスの前に置く。
・・カウンターにいた数人は、じっと、サンダスを見ている。
連中をチラッと見たあと、グラスのバーボンを、一気にあおる、サンダス。
その後、再び、連中を見返すと、鬼たちは、サンダスから視線を外し、無言でテキーラを飲み始めた。
ボーイに尋ねる、サンダス。
「 ちょっと聞きてえんだが・・・ この辺に・・ 小っこい、人間の女の子、いないか? 」
ボーイは、サンダスを見ず、グラスをタオルで拭きながら答えた。
「 さあねえ・・・ ここいらは、流れモンが多いから・・・ 」
「 そうかい。 ・・じゃ、ソッチの、兄ちゃんたちは、知らねえかい? 」
先程の鬼たちに、サンダスが尋ねる。
鬼たちは、サンダスの方を見ると答えた。
「 オレらに、言ってんのけ? 」
「 決まってんだろ。 マヌケな、野蛮鬼にゃ、分からんか。 アルコールで、脳ミソ、溶けちまってるもんなあ? 」
サンダスを睨みつけながら、ゆらりと、鬼たちは立ち上がった。
・・・そこで、乱闘なんだろ? 時間の無駄だ。
僕は、その鬼たちに近付き、一番手前にいた鬼の頭に、銃口をゴリッと押し当てて言った。
「 悪いな。 オレは、せっかちなんでね。 乱闘騒ぎは、あとでやってくれ。 その女の子、いるんだろ? ここに連れて来いや 」
状況を見て、他の席に座っていた鬼たちも、ヤル気で立ち上がる。
「 動くんじゃねえっ! フッ飛ばされたいか、お前ら! 」
カパーゾたちが、一斉に銃を構える。
ビリヤードをしていた連中も、キューを持ったまま、手を挙げた。
僕は、叫んだ。
「 いいかっ? オレはな・・ 天国行きの人間なんだ! 明日には、天国便( グリーン車 )で、こんなトコとは、おさらばすんだよっ! はよ、用事済ませて、さっさと帰りたいんだ! 邪魔するヤツは、容赦しねえから、そのつもりで相手しなっ! 分かったかッ!! 」
心の叫びである。
サンダスが言った。
「 兄貴のタンカ、カッコイイっスぅ~! 」
お前は、だまっとれ。
「 天野様・・・! 」
奥の階段から、賽姫が現れた。
この情景に、セーラー服の登場は、異常な程に、ミスマッチだ。 緊迫感すら、薄れる。
賽姫の後ろには、大きなメキシカンハットを被った大男がいた。 ・・どうやらコイツが、ブッチ将軍らしい。
賽姫の姿を見て、サンダスが叫んだ。
「 おおお~っ! 賽姫殿・・! ご無事で何よりでございます! ささ、帰りましょうぞ・・! 」
大男は、賽姫の腕を掴むと、サンダスに言った。
「 まてや、サンダス! 」
・・どうやら、タダで返してくれそうもない雰囲気だ。
サンダスは、その男を睨みつけると、答えた。
「 ブッチ、てめえ・・! こんな事して、タダで済むと思ってんのか、ああ? 」
「 オレは、この姫が、気に入ってまったでかんわ。 くれ! 」
・・・コイツの思考回路も、よう分からんぞ? はい、そうですか。 毎度~、ってな具合に、なるとでも思っているのだろうか。 さすが、あの文矢を書いただけはある。
「 こんな、めんこい子は、初めて見たでよ。 で~ら~気に入ってまったでかんわ。 特に、このセーラー服がいいねえ・・・! 校章と、クラス章が付いてるトコが、マニアックでえ~わ 」
・・・妙なディティールが嗜好であるところを見ると、お前も、サンダス並にマニアだな?
サンダスは言った。
「 賽姫殿が、お前のような、アンポンタンのトコに、行くか! 」
「 アンポンタンって、言ったなっ! 怒るぞ? 」
「 怒れ、ノータリン! 」
「 ま~かん、で~ら~頭来たわ。 お前の母ちゃん、でべそ! 」
・・出た。
「 なに~! お前こそ、うんこタレ! 」
「 言ったな~! バカ、カバ、チンドン屋! 」
「 3つも、言うな! 」
「 や~い、や~い、ションベンたれ。 パンツのヒモで、首くくれ 」
「 おメーなんか、パンツも履いてないだろ、バ~カ! 」
・・・お前ら、幼稚園児か。 年長でも、もうち~とマシな事、言うぞ?
アパムが、いきなりショットガンを、ブッ放した。 グラスや、ウイスキーの瓶が、粉々に飛び散る。
一同、全員が、ビクッと首をすくめた。
「 うざって~んだよ! いいから、姫を返せや、ブッチ将軍よォ・・! 」
お前、なかなかイイとこ、持ってくじゃねえかよ。 たまにゃ、迫力あるトコ、見せなきゃな。
アパムが続けた。
「 はよ帰らんと、セーラームーンが始まっちまうんだよ・・・! 」
・・・前言、撤回。
お前、やっぱ、オタクだな? 番組が始まると、来客が来ようが電話が鳴ろうが、テレビの前から、動かんタイプだろ? しっかり、録画も掛けてよ。
張り詰めた緊迫の中、豆が、スタスタと皆の前に歩み出る。
「 ? 」
ナニするつもりだ? 屁か? この場合、メルカプタン攻撃も有効かもしれん。
全員が、豆の行動に注目する。
カウンターを越え、厨房に入ると、フライパンを出し、油をひく。
やがて豆は、卵を割ると、フライパンで、卵焼きを作り始めた。
・・全然、状況にそぐわん行動すんな、豆ェッ!
凝視しちまっただろうが! そのフライパンで、香ばしく炒ったろうか?
突然、ローターの爆音が聞こえ、入り口の前の通りに、ヘリが着陸して来た。
「 お兄様あァ~ッ!! 」
機銃を、こちらに向けて構えた獄長が叫ぶ。 脇には、弾帯をサポートしている課長の姿も、確認出来た。
豆が叫ぶ。
「 おお、スカーレット! 」
「 卵焼き、出来ましたあ~? お兄様あ~! 」
豆が、隣にいたボーイに尋ねる。
「 デルモンテのトマトケチャップ、ある? 」
・・・豆よ。 お前、獄長の意思を感じ、卵焼き、作ったのか・・・?
ロシアか、ポーランドの超能力者みたいだな。 ある意味、すげー、兄弟愛だ。
ボーイは、両手を挙げたまま、獄長の銃口を凝視しつつ、棚の上から、カゴメのトマトケチャップを取ると、豆に渡した。
豆が言う。
「 ビニール容器のものは、ダメだよ? ビンに入ったのが、おいしいの。 今度、持って来てあげるね 」
銘柄指定なんぞ、どうでもいい。 今、命のやり取りをしてんだぞ、コラ。 肉食のクセして、卵なんぞ食うんじゃねえ。
・・聞いてんのか、おい! ご丁寧に、クレソンまで付けて、皿に盛ってんじゃねえよ。
・・・盛り付けを見て、悩むな! もう一品、彩りを考えてるんだろが? ポテトまで作ろうってんじゃ、ないだろうな、お前。
豆が、ボーイに尋ねた。
「 ワイン、ある? 」
そんなモン、あるか!
だいたい、卵焼きに、何で、ワインなんだよ。 しかも、その卵焼き・・ 海苔まで巻いてあるじゃねえか。 弁当のおかずかよ!
ボーイが答える。
「 ボルドーの赤なら・・・ 」
・・・あるんかよ。
豆が、エラそうに言った。
「 ここは、やっぱり白、なんだけどな 」
薬用アルコールに、ウスターソースを一滴垂らして、かき混ぜとけ。
色合い的に、雰囲気は出るぞ?
やがて、ヘリのホバリングの爆音の中、銃口を向け合ったまま、豆と獄長の和やかなランチは、始まった・・・・
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