第12話、プラトーン
突然、現れた、馬賊のような、ならず者たち。
皆、手にしたウインチェスター銃を、空に向けて乱射しながらやって来る。
切れ味の悪そうな大刀を振り回し、奇声を上げている鬼もいるようだ。
赤や黄色の鳥の羽を、頭に飾っている鬼もいる。 スー族の襲撃か・・?
「 ブッチ将軍の、親衛隊だッ! 」
サンダスが叫んだ。
RPGをブッ放して来たコマンドに比べ、親衛隊がアパッチ仕様かよ!
おい、ネクタイ鬼! ナニしてんだ! さっきの南部で・・
ネクタイ鬼を見ると、彼は、必死にマガジンに弾を込めていた。
・・さっきのは、弾なしかよ・・? お前、役者じゃのう・・! って、感心してる場合じゃない。 え~と・・ 迷彩服鬼のトカレフと、Tシャツ鬼のガバメントは、モデルガンだし・・・ そうだ! さっきのM―60は、どうしたっ? ジャムしたままか?
そう思っていると突然、M―60が、火を噴いた。
撃っているのは、獄長と課長である。 エリート官僚同士の、卓越したフットワーク!
「 68年の、ケサン攻防戦を思い出すわね! 課長っ! 」
「 サイゴン陥落は、痛恨の極みですっ! スカーレット曹長! 」
・・・あんたら、ベトナム帰り? もしかして、101空挺師団のレンジャーか、LRRP出身・・・?
獄長が叫ぶ。
「 カパーゾ! ヘリを呼びなさいっ! 」
「 了解ッ! 」
迷彩服の鬼が答える。
・・やはり、コイツは、カパーゾなのか。
無線機を耳に当てながら、カパーゾが叫んだ。
「 曹長っ! ジャクソンが、やられましたァッ! 」
カパーゾの脇に伏せていた、Tシャツ鬼が、腕を押さえている。
コイツは、ジャクソンってのか。
「 衛生兵は、ドコ行ったのッ!? ウエイド! ジャクソンを手当てしなさいッ! 」
いつの間にか、赤十字の付いたヘルメットを被ったポロシャツ鬼が、メディカルキットを片手に、ジャクソンの所へ行く。
「 もう大丈夫だぞ? オレが来たからな 」
課長が叫ぶ。
「 アパム! アパム! 弾を持って来いッ! アパム! 」
ネクタイ鬼が、首に弾帯をジャラジャラ巻いて、機銃の所へやって来る。
ジャクソンにウエイド、アパムだと・・・? 全部、プラーベート・ライアンの登場人物じゃねえか。 もしかして、そのうちミラー大尉が出て来るんじゃねえだろな?
サンダスが叫んだ。
「 コック! コックは、いるかっ!? 」
ヒールで開いた頭の穴に、ガムテープを貼ったコックが、サンダスの元に来る。
「 こちらに・・! 」
「 志願、ご苦労ッ! 一番槍は、お前のモノだ。 いけっ! 」
サンダスは、コックに地雷を抱えさせると、狂犬の如く迫り来る辺境軍の鬼共の前に叩き出した。
「 ・・う、うわ・・ わ、わあああ~あ~あ~ッ!! 」
コックは、地雷を抱えたまま、悲痛な表情で叫びながら、敵に向かって走り出した。
・・哀れなり、コック。 自らを肉弾と化し、その小さな体を、この窮地において捧げる、というのか・・・!
いいぞ。 賞賛に値するわ。 やっと、役立ったな、お前。 骨は、拾ってやる。 心置きなく、見事に散れや。
ドカーン、という、大音響と共に、地雷が爆発し、敵軍の鬼たち数人が、吹っ飛んだ。
サンダスの横に、ポタリと、コックが落ちて来る。
「 ああ~、面白かった! ね、ね、もう1回、やっていい? 」
・・・お前、中東へ行くか? イスラム原理主義の過激派から、スカウトが来るぞ。
やがて1人の敵鬼が、馬から飛び降り、サンダスに襲い掛かった。
「 ◎∵☆~!! 」
「 上等だァ、来いや~ッ!! 」
強烈な左フックが、サンダスの左顔面に入る。
「 ぶふっ・・! 」
倒れこむ、サンダス。
敵鬼の後ろから、カパーゾが、木の棒で頭を殴る。
木の棒は、意図も簡単に折れてしまった。
「 ・・・あらま? 」
折れた木の棒を見ていたカパーゾの顔面に、敵鬼の16文キックが、炸裂する。
目をむき、鼻血を出して倒れこむカパーゾと入れ替わり、アパムが、南部拳銃を構えながら、敵鬼の前に出た。
「 動くんじゃない! 動くと・・ 」
敵鬼は、お構いなしに、アパムの顔面にストレートを叩き込んだ。
・・コイツは、なかなかやる。 図体も、かなりデカいし、スタミナもありそうだ・・・!
今度は、ウエイドが、医療用メスを持って、敵鬼の足に突き立てた。
「 ××■/∴~ッ!! 」
こいつは、少し、効いたようだ。
ウエイドは、続けてオキシフルを、敵鬼の目にかける。
「 ◎=××~!! 」
これは、かなりシミるはずだ。
ついでに、鼻の穴に、ヨードチンキを流し込み、注射器を鼻先にブッ刺した。
・・お前、メチャクチャだ。 相手が、可哀想になって来るぞ。
ナニが入っていたか知らないが、ウエイドは、お構い無しに、そのまま注射液を注射した。
・・多分、モルヒネだろう。
敵鬼は、しばらく仁王立ちのまま、ヒクヒクしていたが、やがて、ゆっくりと、仰向けに倒れた。
突然、辺りに響く、ヘリの爆音。
上空を見上げると、モスグリーンのカモフラージュ塗装を施した、大型ヘリがいた。
敵の鬼共は、ヘリを見ると恐れおののき、一目散に、逃走を始める。
サンダスが、嬉しそうに言った。
「 グレース大佐だ! 」
あの、本家、豆か。
信頼性は、ゼロだが、ヘリに乗ってやって来たのは正解だ。 助かったぜ・・・!
ヘリが、降下して来た。
シコルスキー HH―3Eだ。 レスキュー・チョッパーじゃねえか。 ジョリー・グリーンか?
機首には、サーベルをクロスさせたマークが描いてある。 ・・う~む・・ ますます、ベトナム戦の様相を、呈して来たな・・・!
やがて、着陸したヘリから、グレース大佐が降りて来て、言った。
「 ・・グランド・ホーに、会いに来た 」
お前、そのセリフ・・ ベトナム帰還兵にしか、理解出来んぞ・・・?
ハノイ・ヒルトン、行くか? もし、そうなっても、戦時捕虜を救出する作戦には、オレは参加しないからな。 こいつらだけで、行けや。
サンダスが、駆けより、グレース大佐に、敬礼しながら言った。
「 大佐! 助かりました。 親衛隊の奇襲に遭いまして・・・ 危ないところでした 」
「 ちょっと前に、砲撃支援を要請しただろ? 様子を見に来た 」
第1機甲騎兵師団の、師団マークが付いた軍服( トロピカル・ジャングル・ファティーグ )を着込んだグレース大佐が、答える。
・・お前さん、いつから、スコードロン( 騎兵 )師団長になったの? 砲撃要請を、勝手に航空支援にしたのも、お前さんだな・・?
スカーレット獄長も、敬礼しながら、グレース大佐を迎えた。
「 閣下、お久し振りです・・・! 」
獄長は、いつの間にか、第4師団の師団マークが付いたアーミーシャツを着ている。 しかも、剣に稲妻の、特殊部隊章( サブデュード )も付けて・・・
あんた、やっぱり・・ レンジャー?
「 おお、スカーレット君! テト攻防戦以来じゃないか。 元気にしていたか? 」
にこやかに答える、本家豆。
獄長は、辺りを見渡しながら言った。
「 お兄様あ~? どこにいらっしゃるの~? 大佐が、お見えになったわよ~。 お兄様あ~? 」
足、足・・! あんた、またアニキ、踏んでるって・・・!
課長も、挨拶に来た。
「 閣下! 士気、ますます盛んにて、連戦連勝であります 」
「 おお、君は確か、第9師団の・・! 」
グレース大佐は、課長の左腕にある部隊章を見て言った。
「 おや? 第25師団かね? ほほう・・ 2回目のツアーとは、感心だ。 君は、まさに軍人の鏡だね。 結構、結構! 」
・・・ねえ、君たち。 もう、戦争ごっこ、ヤメない? 僕、早く、そのヘリに乗って、帰りたいんだけど。
グレース大佐は、僕を見とがめると、言った。
「 おお~、天野殿! いかがかな? 地獄めぐりの旅は 」
・・お前、何か、思いっきり、カン違いしてないか? 誰が、旅行してるってか・・? オレは、天国行きを賭けて・・ その真意を確認しに、この、獄長の家まで来たんだぞ! 途中、RPGは飛んで来るわ、ならず者は襲って来るわ・・・! ヘタしたら、死ぬトコだったんだぞ、てめえ~・・・
僕は、超、ノー天気なグレース大佐に、ムカつきながらも、ぐっと感情を押さえて答えた。
「 そろそろ、帰ろうかと思ってね。 そのヘリで、送ってくんない? 」
「 困ったな・・・ ヘリは、軍事用だからね。 民間人には、危険が多過ぎるな 」
歩いていた方が、もっと、危ねえっちゅ~の・・・!
閻魔大王が言った。
「 天野様は、お急ぎなのですよ。 天国便を、早急に、お出ししなくてはならないのです、大佐。 獄長・課長と共に、一役、買って出て頂けませんか? 」
さすが、大ちゃん! 話が、分かるじゃないか。 閻魔大王の言う事なら、誰も、イヤとは言えまい。
「 そう言う事でしたら、お引き受け致しましょう 」
答える、本家豆。
やった! また1歩、天国に近付いたぞ!
その時、負傷していたジャクソンが叫んだ。
「 た、大変ですッ・・! 姫が・・ 賽姫殿が、いませんっ!! 」
「 なッ、なにい~っ・・? 」
サンダスが、血相を変えて答えた。
駕籠の中にいたはずの、賽姫の姿が見えない。
サンダスが言った。
「 丘の上の、花でも摘みに行ったのかな? 」
常識ある彼女が、そんな事、するか。 お前を視点に、物事を考えるんじゃねえよ。
「 ・・・もしかして、親衛隊の連中に、連れ去られたのかも・・・! 」
心配そうに、ジャクソンが言う。
ワナワナと、全身を震わせながら、サンダスは言った。
「 な・・ なんだとぉ~・・! おのれぇ~・・! 我らが麗しき、賽姫殿を・・・ あの、小汚い、野蛮鬼共が拉致していったと言うのかあぁ~っ?! 」
・・・お前も、充分、野蛮だがな。
駕籠の蓋辺りに、赤い羽が付いていた。
間違いない。 親衛隊の連中が付けていた、飾り羽だ。 どうやら賽姫は、連中にさらわれたらしい。
グレース大佐が言った。
「 ナマイキに・・・ 人質にするつもりだな? 大体、連中は・・ 」
その瞬間、どこからともなく弓矢が飛んで来て、グレース大佐の頭に、カスッと刺さった。 実に、小気味良い音だ。
ビヨヨヨ~ンと、振るえる矢には、手紙が巻きつけてある。 どうやら、文矢らしい。 矢が飛んで来た方角を振り返ると、丘があり、その向こうへと走り去る、馬の蹄の音が聞こえた。
僕は、目ン玉をクルッとひっくり返したままの、グレース大佐の頭から、ブチッと矢を抜くと、手紙を外し、広げてみた。
・・何やら、書いてある。
『 お前の母ちゃん、出ベソ! 』
「 ・・・・・ 」
連中の知能は、死神並だ。
もしかして、この一句は、この地獄界においては、最高の罵り言葉なのか?
下の方に、どうやら本文が書いてあるらしい。
『 前略、
残暑厳しい折から、皆々様には、益々、ご健勝のことと、お喜び申し上げます 』
「 ・・・・・ 」
何だ、この季語に始まる文章は? どっかの手帳に書いてある、抜粋文みたいだ。
とりあえず、次文を読む。
『 オレら、こわいから逆らったらイカンよ。
おこったら、で~ら~めっちゃんこ、やるでね。
とりあえず、今シーズンは、ドラゴンズゆうしょうだでね。 みとりゃ~よ!
あ、ほんでね、おんなのこ、もらってくわ。
こっち、来てかんよ? 来たら、おまえ、おこるでね。 ホントだでな。
んじゃあね。 ばいばい 』
「 ・・・・・ 」
頭痛がする。
コイツら・・・ 思っきし、たわけだ。 しかも、微妙に名古屋弁。
来たら、怒るだと? 勝手に、怒っとけや。 それで脅しのつもりか?
カンケーない、ドラゴンズの話し、したと思ったら、最後は、ばいばい、かよ。
和やかな挨拶付きとは参ったぜ・・・
僕は、こめかみを押さえながら、サンダスに手紙を渡した。
それを読み始めたサンダスは、手紙を持っていた手を、プルプル振るわせ始める。
僕は言った。
「 まあ、焦るな、サンダス・・! 早速、賽姫を食おうって感じじゃ、なさそうだ 」
サンダスが答える。
「 や・・ 野郎ォ~・・・! 漢字なんか、使いやがって・・・ 読めねえじゃねえかよ・・・! 」
「 ・・・・・ 」
本文の中の漢字・・ 3コしか無いよ? ねえ。
手紙を読んだ課長が、言った。
「 恐ろしい脅迫文だ・・・! 」
ドコが・・? ただの挨拶文だぞ? 脅迫と言えば、『 来たら怒る 』とだけは、書いてあるけど・・・
閻魔大王が言った。
「 困りましたねえ。 1・2泊くらいだったら、良いのですが 」
・・・あのね。
ご招待されたんじゃないのよ? 拉致よ、拉致・・・!
みんな、もっと情況を把握して。 お願いだから。
突然、サンダスが、手紙をビリビリに破きながら言った。
「 賽姫殿を、取り戻すぞっ! お可哀想に・・ 今頃、恐怖に震えておいでに違いないっ! 一刻も早く、連中を追うのだ! 」
結構、くつろいでいるかも知れないよ? トランプしてたりさあ・・・
「 あの~・・・ 僕も、行くのかな? 」
僕が、そう言うと、一斉に、皆の冷たい視線が、突き刺さった。
特に、カパーゾやアパムなんぞは、凄まじいばかりの目つきだ。 賽姫が、駕籠に乗って下さいと、言った時どころの騒ぎではない。 まるで、極悪非道の猟奇殺人者を見るような目である。
確かに、冷たい発言だとは思うが、僕は、勝手にこの地獄に連れて来られた、いわば、被害者よ? 更に言えば、客人よ? しかも、閻魔大王の。 ・・ソコまで求めるか? フツー・・・
遂に、獄長宅訪問隊は、賽姫奪還特殊アホ部隊と化した。
僕は、本当に、天国へ行けるのだろうか・・・
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