第11話、大いなるアホ
再び、2階の捜索に着手する、サンダス。
モップを槍のように構え、用心深く、階段を上がる。
庭先で、成り行きを見守っていた僕らの視界から、サンダスの姿が見えなくなった。 どうやら、2階に到達したらしい。 シ~ンと、している。
時々、ゴソゴソという、物音。 パリーンと、コップのような物が、割れる音が聞こえる。
・・・ナニしてんだ? アイツは・・・ ヘンなもん、盗んで、ポケットに詰め込んでるんじゃないだろうな?
途端、チュドーン! という大音響と共に、すべての2階の窓が、火を噴いた。
飛び散る、ガラス片。 屋根も、一部が吹き飛び、破片が、バラバラと落ちて来る。
「 やあ~、凄い、凄い!! 」
閻魔大王が、喜んで手を叩く。
・・・喜んでいる場合かよ。 2階が、ブッ飛んだのよ?
傍らにいた、ネクタイ鬼が、無線を入れた。
「 ハッパ作業終了。 これより、採掘に入ります 」
ポロシャツ鬼や、迷彩服鬼、Tシャツ鬼が起き上がり、作業服に着替える。
・・・ここは、採石場か? それにお前、今、ドコに連絡、入れたんだ?
「 サンダス殿は、どこから、お出でになるのでしょう? 」
賽姫が、ワクワクしながら言った。
あのね、姫・・・ 引田 天功じゃ、ないんだよ? 今、現実に、2階が吹き飛んだの。 サンダス、こっぱみじんかもよ? 全然、緊迫感が無いね、みんな。 むしろ、楽しんでるように見えるケド・・・?
「 階段付近を、集中的に捜索しろ! それと、フロ場とトイレもな! 」
いつの間にか、消防団のハッピを着込み、白いヘルメットを被ったネクタイ鬼が、指示をする。
フロ場とトイレって、ナニ・・・? それと、アンタのメットに書いてある『 鈴井町消防団 』って、ドコ?
やがて、鬼たちが言った。
「 発見しましたあ~! 」
仰向けで、鬼たちに両足を持たれ、現場から引きずり出される、サンダス。
真っ黒コゲだ。 顔には、割れたサングラスが、歪んだまま、はまっている。
鬼たちは、そのまま、階段を引きずり降ろした。
サンダスの後頭部が、執拗に、何度も階段のヘリで、ゴンゴンと殴打されるが、鬼たちは、ニコニコとお構いなしのようだ。 あからさまに、ワザとやっているようにも見える。
最後は、玄関から庭先へ、ズタ袋を放るかのように、サンダスを投げ出した。 しかも、せ~の、とか言いながら・・・
放り出された反動で、庭先の石に頭を殴打する、サンダス。
ボクッ、という鈍い衝撃音と共に、サンダスは気が付いた。
「 ・・ううう~・・! 頭が、ガンガンするぜ・・・! 」
そりゃ、そうだろな・・・
「 弾薬箱の中に、秘密書類が入ってたんだ・・! 持って帰ろうとして、持ち上げた途端、爆発しやがった 」
お前、それ・・ ベトコンの偽装爆弾じゃねえのか? しかし、よく生きてるな。 ゾンビみたいなヤツだぜ。
閻魔大王が、サンダスを、手を叩きながら称える。
「 いやあ~、最高のイリュージョンでした! さすがですね 」
「 はっはっは・・! 次は、棺おけ抜けに挑戦しますよ。 はっはっは 」
・・・そのまま、抜けられずに、永遠の眠りに就けや、お前。
「 ご飯だよ、ご飯! ご飯の時間にしようよ、ねえ? 」
いきなり、コックが出て来て、ほざいた。
・・おいっ! ナンで、お前が、ココにいるっ? ハイエナのグレーテルに、食われたんじゃなかったのか・・・?
僕は、恐る恐る、コックに聞いた。
「 ・・お前・・・ ハイエナに、食われたんじゃなかったのか・・・? 」
「 お尻から、ポン、と出て来たの 」
「 ・・・・・ 」
あっけらかんと答える、コック。
お前は、ペットの腸内洗浄もやるんか? しかも、自らの体を使って・・・ 金管楽器の『 くるくるポン 』という、掃除用品みたいなヤツだな、お前。
しかし・・ 我が家が、吹っ飛ぶ光景を目の当たりにして、ご飯かい・・・! 状況を、全然、把握しとらんな。 メシの事だけしか、頭に無いトコなんぞ、さすがコックだ。 恐れ入るぜ。
「 お兄さんっ・・! 」
声に振り返ると、そこには、美しい女性鬼が立っていた。
おおっと・・! これは注目すべき展開だ。 誰だ? このキレーなお姉さん。
僕は、彼女の妖美な美しさに、意味もなくドキドキした。
「 おお、スカーレット! 久し振りだなあ~! 」
豆が言う。
・・は・・? お、お前が、お兄さん? という事は、この美人鬼が、獄長・・・?
まさか、妹だったとは・・・! しかも、えれ~美人じゃないか。 地獄本部の受け付けも、キレーなお姉さんだったが、こちらの方が数段、美しい。
ゆるやかなパーマをかけた、ロングの金髪に、淡いブルーのワンピース。 レースのカーディガンに、広く開いた胸元には、小さな銀色のペンダントが光っていた。
何で、この美人鬼のアニキが、この豆なんだ・・? 鬼の遺伝子配列は、想像を絶するものがある。
・・・ん? ちょっと待て。 どうやって、家の中から出たんだ? まさに、イリュージョンだ・・・!
僕の素朴な疑問など、完璧に無視し、豆とスカーレット獄長は、ひしと抱き合っている。
人の感覚など、全くかえり見ない、素晴らしいストーリー展開。 脳髄が、ヒクヒクするわ。
やがて、サンダスが言った。
「 獄長、ち~と、聞きたい事があんだけどよ・・・? 」
ふと、その声に振り返った獄長は、僕らを見て言った。
「 あ~ら皆さん、いらしてたの? 」
・・・ず~っと前から居たんだけど・・・? ってゆ~か、さっきから花瓶投げたり、植木鉢攻撃したの・・ おたくだよね? モップトラップもあったし、今なんか、ご丁寧に、2階も吹っ飛ばしたりして・・・
僕の、素朴な疑問など、またまた完璧に無視し、ニコニコしながらサンダスに近寄る、獄長。
「 ちっとも、気付かなかったわ。 ごめんなさいね。 今、お茶でも・・ むんっ! 」
いきなり彼女は、掛け声と共に、ブッ太いトゲトゲが付いた鋼鉄製のこん棒を振り回した。 間一髪で避ける、サンダス。
「 入れま・・・ 」
振り下ろしざま、今度は、それを横に振り、サンダスのわき腹を狙う。
腹を引っ込め、これもかわしたサンダス。
「 しょうかっ・・? 」
強烈な、アッパー風なスイング。
これも、かわした代わりに、近くにいたコック( 兄 )を、張り倒す。
きゅっ、と、小さな声を出して、コック( 兄 )は、空中高く、吹っ飛んだ。
「 ナニしやがんでえ、このアマ~ッ! 」
サンダスが叫ぶ。
「 えぐったろうかいっ? おおおっ? 」
上半身、裸になり、胸をドラミングするサンダス。
・・・お前、その脅し文句と行動、一致しとらんぞ? ナニも、恐怖を覚えん・・・
獄長の足元に、ポタリと落ちて来た、コック( 兄 )。
サンダスに対し、不敵に笑みを浮かべながら、獄長はカンフーの構えをした。 サンダスを見据えながら、足を1歩、じりっと、前に踏み出す。 獄長のヒール( 8cm )が、コックの頭にミシミシと、めり込んでゆく。
サンダスを睨みつけ、対峙したまま、彼女は言った。
「 ・・・兄さん、今のうちよ・・ ここは、あたしに任せて、早く逃げて・・・! ナニしてんの、兄さんっ、早くっ・・! 」
・・あの~・・ その兄さん、アンタ、踏んでんだケド・・・?
豆が、獄長の足元から言った。
「 やあ、スカーレット。 今日は、ピンクの花柄かい? いつも可愛いね 」
獄長は、イキナリ、豆( 兄 )を、アメフト選手よろしく、プレースキックする。
豆は、遥か遠くの、ゴールポストの間を、回転しながら飛んで行った。 どこから来たのか、チアガールたちが、ポンポンを振っている。
なあ、豆よ・・・ お前、宇宙最高のアホだ。 天然記念物に指定してやるよ。 むやみに繁殖するんじゃねえぞ? 間引き、されるからよ。
それに、いつも可愛いねって、ど~ゆ~意味だ? いつも見てんのか? お前。
「 そこまでだ・・・! 」
ネクタイ鬼が、いつの間にか拳銃を構え、獄長に言った。
拳銃は、旧日本軍の、南部14年式( 8ミリ )である。 ・・それ、弾、出るんか・・・?
「 投降しろ、獄長。 ここまでだ 」
サンダスが言う。
ここまでなの? 僕、もっと見たい・・・
どんどん、バトルロワイヤルして、アホが少なくなった方が、良いんだけどな。 ・・ムダか。 さっき、飛んでったはずのコックが、僕の横にいて、不二家のペロペロキャンディー、なめてるし。 しかも、ぷう~っと、力無く放屁しながら・・・
「 どういう事か、説明してもらおうか? 獄長 」
サンダスが、そう言うと、獄長は観念したのか、その場に座り込んだ。
他の者たちも座る。
コックは、ハンカチを持って、車座になっている皆の後ろを走り始めた。
ハンカチ落とし、するんじゃねえ!
リクリエーションしに来たんじゃないぞ、豆! 黙って座ってろ! ・・だいたい、妹が、尋問されているってのに、無邪気に、ハンカチ落としして遊ぶ兄が、ドコにいるんだよっ!
「 実は、あたし・・・ 脅されてて・・・! 」
獄長は、申し訳なさそうに、話し始めた。
サンダスが聞いた。
「 脅された? 誰に 」
「 辺境軍の、ブッチ将軍です・・・ 」
「 ヤツか・・・! ここんとこ、ハデにやらかしてやがるな。 昨晩も、本部に殴り込みを掛けて来やがった。 さっき襲って来た、待ち伏せの連中も多分、ヤツの配下の連中だろう 」
苦虫を噛み潰したような表情で言う、サンダス。
「 職務を怠慢して、本部の規律を乱せって・・・ 」
乱さなくても、充分、いい加減だと思うが・・・?
獄長は続けた。
「 人事課の課長に指示したの。 とにかく、サボれって・・・ 」
課長が、頭をかきながら言った。
「 いやあ~、それほどでも 」
分かっとる。 アンタは充分、アルツハイマーだ。 大体・・ あんた、ナニを、テレとる?
サンダスが言った。
「 やはり、課長が内通者だったか・・・! 」
課長が答える。
「 だ、だって・・ 言う事、聞かないと、おやつ無しだって・・・! 」
・・・あんた、幼稚園児か?
サンダスが言った。
「 なるほど。 それは、ひどい。 とても恐ろしい事だ 」
「 ・・・・・ 」
獄長が、涙ながらに言った。
「 脅されたとは言え、卑劣なブッチ将軍に屈したのは、事実です。 閻魔様、お許し下さい・・・! 」
許す。
問答無用で、許す。
あの、妖怪アニータなら、極刑のところだがな。 市中、引きずり廻しのうえ、張り付け獄門、さらし首・・ いや・・ さらし首にすると、余計に不気味か・・・
閻魔大王は答えた。
「 正直にお話し下さって、有難うございます、スカーレット獄長。 これからは、職務、頑張って下さいね? 」
相変わらず優しい、大ちゃん。
獄長は正座し直し、三つ指を突いて、閻魔大王にお辞儀した。
閻魔大王は続ける。
「 早速ですが、獄長。 こちらの人間の方は、天野様と言われて、私のお客人です。 誤って、地獄界へ来られましてね。 天野様の天国便を、早急に手配して頂けませんか? 」
来たんじゃねえ。 連れて来られたんだよ! 状況は、正確に伝えて欲しいぜ。
「 かしこまりました。 ・・では、課長、早急にお願い致します! 特等の、グリーン席ですよ? いいですね 」
課長の方を見ながら言う、獄長。
課長が答える。
「 承知致しました! 明日にでも、ご用意致しましょう。 天野様、お席の方は、窓側がよろしいですか? 」
・・・新幹線かよ。
「 どっちでもイイよ。 とにかく、早くしてくれ 」
僕は、そう言った。
やった! これでやっと、天国行きの切符を、手に入れたぞ! 長かった・・! わずか、2日の事だが、このアホの巣窟では、とにかく1日が長い。 あ~、早く行きたい・・ ! 早く、キレーな姉さまたちと、陽だまりの庭園で、お茶など・・・
僕は、ルンルン気分で、優雅な楽園生活を想像した。
しかし次の瞬間、低次元な騒がしい奇声によって、それは一気に、かき消される事となった。
緑の丘を越え、馬に乗った馬賊のような鬼共の連中が、こちらに向かって来る。
「 な、何だ、あいつらは・・!? 」
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