チャプター11
固いブロックの上で眠るのはこれが初めてだ。おかげで体中の関節が痛い。
すでに起き上がったマキナは、新しく運ばれてきたパンに手を付けて、一人で咀嚼していた。
「あんた起きたのね」
「今何時だ?」
「朝の八時だそうよ。さっきネーナが来たから聞いたわ」
鉄格子の前に置かれている朝食を一瞥してトレインは、そうだな、と呟いた。
「今日中には私たちがどうなるか決まるそうよ」
「ヴォーグの奴は結局最後まで信じてくれなかったな」
トレインは口に含んだパンを飲みこんで視線を床に落とした。
何も出来なかった。
「ええ、しょうがないわ。でもこれからどうするの? エレファントに戻っても私たち間違いなく殺されるわよ」
「ここら辺で他のエレファントが通ればなあ。そっちに移住できるんだけど」
ディーンのようにエレファントごと居住区を移すものは珍しくない。それどころか、ずっと渡り歩いている旅人もいるのだ。
追われていたことを秘密にしていれば問題ないはずだ。
そうなるとマキナと二人で生活していかなければならないのだが。
途中まで考えてトレインは頭を振って妄想を飛ばした。
「だけどそう簡単に見つからないわよ。ガルマスが集まるのを防ぐために、距離をあけるのがルールになってるし、エレファント同士が接近するのは一年に一回だけよ。学生の時に一回あったわね」
トレインはつい半年ほど前の事を思い出しながらパンをかじった。
同じような姿形をしたエレファント同士が横に並び、食料やガルマスの情報などを交換していた。そして発展した技術も持ち込まれ、そのおかげでローダーの性能が上がったのだ。
「てことはまだ半年近く間があるのか」
「ええ、他のエレファントへの移住は難しそうだわ」
天井を仰ぎ見たマキナにトレインは。
「ごめん。俺があんな本見つけなかったら、こんな事にはならなかった」
そう謝るしかなかった。
エレファントにいた時に問題が無かったとは言わない。それでも何とかやって来たし、隊としては仲良くやってきた。
だけど、今はディーンと分かれて地上人に掴まってしまった。しかも博士は殺されたのだ。
「なんとかマキナだけでも逃がしてもらえるように……」
「あんた本当に言ってるの?」
マキナの言葉にトレインは顔を上げた。
瞬間、彼女の平手が飛んできて頬に当たる。
「お父様が死んだことは確かに悲しかったわ。でもあんたの言葉は今の私を否定する言葉よ。都市を探すと決めた私の決意を無かったことにしようとするのは許せないわ」
思わず目を見開いたトレインに、マキナはさらに詰め寄った。
それから襟を掴み、トレインを引き寄せる。
「前言撤回しなさい。そうじゃないと死んだお父様まで侮辱されている気がするわ」
目を吊り上げてマキナはさらに手に力を込める。
だんだんと息が苦しくなってくるのも忘れて、その強い眼差しにトレインは見入ってしまった。
すると。
「痴話喧嘩する元気があるんかい。もっと手荒に扱うべきだったかね?」
扉が開き、ヴォーグとネーナが入ってくる。
マキナから解放されたトレインは、恥ずかしさなど無くただ前にいる男を睨んだ。
「おいおい、朝から怖い顔するなよ。お前たちにいうことがあるから、早めに来たんだ」
ヴォーグがネーナを一瞥すると、ネーナは頷いた。
「結果から行ってしまうと、あの写真は本物でした」
懐から蝋のカギを取り出しながらネーナは近づいてくる。
そして蝋の扉を開けると、少し目蓋を伏せる。
「それと……通信機器や光信号の装置が無かったので、連絡手段がないと判明しましたので釈放します。申し訳ありませんでした」
首を垂れるネーナの前に立ったマキナは。
「これで許してあげるわ」
トレインの倍はある勢いで、頭を下げているネーナの頬をぶった。
思わず目を疑ったトレインだが。
「ちょ、いえ、ごめーん」
止める間もなくヴォーグの顏にも拳をめり込ませたのだった。
「ヴォーグさん、ネーナさん。その顔どうしたんですか?」
トレインたちを牢に連れて行った男は、赤くなっている二人の頬をまじまじと眺めて聞いた。
「いや、そこで転んだだけだ。気にするな」
「……ヴォーグの言う通りです」
ネーナは得意の毒舌も封じてヴォーグの案に乗る。
二人の後ろにいるトレインとマキナはすっきりとした顔であさっての方向を見ていた。
「それで、すぐにでも発表するんだろ?」
「そうね。印刷機が無いから全て手書きだけど、今までの謎を白黒はっきりさせることが出来るなら、地上人の人たちの協力も得られるはずよ」
二つの本をマキナはぎゅっと胸に抱きしめると、案内された部屋に足を踏み入れる。
ヴォーグは御付の男を下がらせると、腰に手を当てて部屋を見回した。
「ここは俺の部屋だが好きに使ってくれ。ペンと紙はその棚の上、定規は机の上にある。住民は七百人近くいるからな」
「助かるわ。これで貴方達の協力が得られればいんだけど」
「まあおおかた大丈夫だと思うが……エレファント人の説得法を決めておいた方がいいぜ。俺はネーナの部屋にいるからな、何かあったら呼んでくれ」
ヴォーグはひらひらと手を振って出て行った。
残されたトレインとマキナは互いに目を合わせると頷く。
この資料を地上人に公開してどんな反応があるのか予想もつかない。しかし明らかにしなければ協力は得られないのである。
机に向かったマキナを見つめて、トレインも内から沸き起こる熱意を発散させたくなった。
「よし、じゃあ俺は剣の手入れと素振りしてくる」
「分かったわ。私の方は出来上がり次第、配る予定よ。七百枚なんて書いたことないけどね」
学校の課題でもそんな大量のレポートを書くことはまずない。
マキナは持っているペンをじっと見つめてから、トレインへと視線を移す。
「早く行きなさい、集中できないでしょ」
「分かった。でも時間ないぞ、絶対あいつらは俺たちを探してるはずだからな」
「言われなくても分かってるわよ」
手を振って追い払われたトレインは、すぐさま自分の剣を持って外に出た。
やはりエレファントとは違った目線を目の当たりにするのは違和感がある。
遠くの山も荒れ地も、住宅街も全てが新鮮に感じられた。
ここには蒸気を通す管も煙突もない。剣ん層はどこか遠くに行ってしまったようだ。
「よし!」
自分に喝を入れると、剣を握ってローダーのスイッチを入れる。
それから目の前に置いた丸太を敵に見立てた。
仮想の敵として何かないかヴォーグに訪ねると、薪割のかわりにと長い丸太を貸してくれたのだ。
トレインは前かがみになると、丸谷一気に迫り一刀両断する。
なんてことない、簡単な一撃だ。
しかし、感嘆の声が聞こえてきた。
「すげえ、あれがきかいなのかな?」
目を向けると、そこには五人ほどの子供が集まってトレインを見つめていた。
どうやらそのうちの一人が呟いたらしい。
「ばか、気づかれたじゃないか」
「そうだよ……もう帰ろうよ。パパに近づいじゃダメだって言われたし……」
トレインの視線を受け止めた子供たちは各々主張するが、さっき声を上げた少年だけは目を輝かせている。
「ねえ、もう一回やってよ!」
目御輝かせる少年に他の子どもは何かを言おうとしたが、トレインのローダーが音を上げると口を閉ざした。
始めて見る剣とローダーに全員興味津々のようだ。
トレインはセットした別の丸太に瞬時に詰め寄ると剣を薙ぎ払う。
斬られた丸太は宙を舞うが、それだけでは終わらない。
切断した木を剣で空高く打ち上げると、ローダーの噴射を全開にしてトレインも飛び上がった。
宙に舞う標的を真上から斬って、次に横へと刃を走らせる。
銀線が縦横無尽に丸太へ襲い掛かる。
トレインは剣の重さに逆らわず、標的の左右上下に移動しながら斬撃を繰り出した。
ゆっくりと着地すると、少し遅れて細切れになった丸太が振ってくる。
「「「おお!」」」
子供たちの声が重なり、さっきまで警戒していた子までが見入っていた。
興奮を抑えきれなくなったのか、全員が駆け寄ってくる。
「今のどうやったの?」
「すっげえ、空飛べるの?」
「俺もしたい!」
顔を輝かせた少年達にトレインは一つずつ答えようとしたが、そこで拍手が聞こえてきた。
「さっきのは見ごたえあったね。でも実戦で使えなきゃ意味ないがね」
いつの間にか立っていたヴォーグが拍手をしながら歩いてくる。
子供たちは彼の姿に気が付くと、ばつの悪そうな顔をした。
「パパとママには言わないから安心していいぞ」
すぐに子供たちの心配事を察したのか、しゃがみ込んで頭を撫でる。
それだけで子供の顏には笑みが戻る。
すると、一人の少年がヴォーグとトレインを交互に見て、とんでもないことを言った。
「ヴォーグとこのお兄ちゃんはどっちが強いの?」
それを聞いたヴォーグは立ち上がると、トレインを見てきた。
「無邪気な質問は怖いけど、それを証明するのも大人の責務だと思うがね?」
「まあ少しなら……俺もここ数日剣を振ってなかったからな」
肩を回して準備運動するヴォーグを見て、トレインは剣を構える。
会話では無く戦闘と言う名の会話はつくづく厄介だと思う。
「それじゃあ、君たちは少し下がっていなさい」
ヴォーグが子供を遠くにやったのを確かめると二人は向かい合う。
「……」
「……」
緊張が走り、トレインはごくりとつばを飲み込む。
瞬間。
気が付いた時にはヴォーグが目の前に現れ拳を振りかぶっていた。
「うお!」
右に避けると、すかさず相手の左足が顔面へと叩き込まれようとした。
転がるようにして回避したトレインは、態勢を立て直すと。
「はあああ!」
勢いよく剣を突きだした。
剣はヴォーグに吸い込まれるが、ギリギリのところでかわされた。
悪態をつきたくなるトレインだが、そんな余裕はない。
突いた勢いで前かがみになってしまったのを相手は見逃さない。
再び拳を出してきた。
トレインはローダーの勢いを全開にすると、そのまま飛び上がり敵の後ろへと着地する。
すばやく剣を横に滑らせるも、敵は前転して回避した。
「うおおおお、すげえええ」
遠くから子供たちの声が聞こえてくる。
それに乗せられるかのようにトレインは剣の柄頭を押した。
剣の内側に隠されていた刃が飛びだす。
それから唾のねじをいじり、剣の背に蒸気の噴射口を作り出した。
「少し本気で行こうか」
「んじゃ、俺もそうするかね」
ヴォーグが大きく息を吐くと彼の体の周りに赤い揺らめきが現れる。
お互いがグッと足に力を入れ、飛び出そうとしたその時。
「そこまでです」
「トレイン、やめなさい」
麗しい声音が合さって聞こえてきた。
トレインとヴォーグが視線を向けると、そこには鬼が二人、腕を組んで立っている。
「……」
「……」
トレインとヴォーグは互いに目を合わせるなり、彼女達に背を向けた。
「逃がしませんからね」
「あんた何所行くのよ!」
トレインは後ろから聞こえてくる声に怯えながら、見知らぬ街を駆け回った。
「進捗はどうだ? もうそろそろ時間だぞ?」
息を飲むほど美しい彼女の横顔をトレインはまじまじと見つめながら言った。
「ええ、もうすぐ…………やっと終わったわ」
マキナはペンを置いてぐぐっと背を伸ばす。
「お疲れ様」
トレインは山のように積み重なっている紙束を眺めて言った。
博士の膨大な研究を住民たちに分かりやすく説明し、都市発見に欠かせないガルマス討伐の協力を得るようにしなければならない。
この二つを整理するだけでも難しく、しかも同じ文言を何度も書かなければならない。
マキナの努力には舌を巻くばかりだ。
トレインが持ってきた飲み物を、口に含んだマキナは盛大なため息をついた。
「生き返るわー。それにあんた、初めて持ってきた物より美味しく淹れてるんじゃないかしら?」
「まあ、ネーナさんからこれくらいはするように言われたからな」
そう言えば、初めて自分が淹れた飲み物を持ってきたとき、盛大に吹かれたことがあった。
あれから何回か練習したが、その成果がでて何よりだ。
まあ少しばかり疲れの取れる薬も入っているのだが、それは秘密だ。
「ふーん。また時間があればお願いするわ」
「それって同居した時とか?」
「……!」
マキナは表情を固定すると、まじまじとトレインを見つめていたが。やがて顔を赤らめると腕を振り回してきた。
「どどどど、同居って意味が分かっているの? い、一緒に暮らすって事なのよ」
「そうだな知ってるぞ」
トレインはマキナの腕をひらりとかわしながら頬をつりあげる。
恋愛関係にはめっぽう弱いマキナを見ているだけで楽しい。
「でも同居って……あんた、まさか…………」
その先を聞きたい気持ちはあったが。
「みなさん、集まってください!」
外からネーナの声が聞こえてきたために、二人は話しを中断すると急いで紙をまとめる。
ヴォーグの元へと持って行って確認してもらい、それから外に出た。
ネーナが住民を集め、静かにするように言った。
何事かとざわついた住民は、前に立っているヴォーグへと視線を注いだ。
「皆聞いてくれ。もう知ってると思うが、少し前にエレファント人がここへ逃げてきた。その際に彼らが持っていた神話やガルマスの情報をまとめたものを今から配る。そして読んだ後に聞かせてくれ、エレファント人と協力してガルマスの親玉を倒す意思があるかどうかを!」
ネーナが紙を配って行くと、彼らは周りの人たちと話し合う。
「今すぐに決めろとは言わない! ただ俺は彼らと共闘することに賛成だ。以前、死んでいった仲間の弔い合戦を何としてもやり遂げ、その無念を晴らしたい。皆の中にあの時の記憶が残っていることを願う」
そういって締めくくったヴォーグは、壇上から降りるとトレインたちに目を向ける。
「やれることはやったからな。後は皆の気持ち次第だ」
「わかってる」
トレインは首を縦に振った。
決議を取る予定だった。
昨日配った紙が彼らの心に届いているかは確信が無かったが、僅かな希望を抱いていたことに間違いない。
しかし。
「エレファントだ!」
第一声で目を覚ましたトレインが外に出ると、目視できるほどに近づいたエレファントがあった。
それだけではない。
なんと地上には戦闘員が何人も整列し、手には各々の武器を握っていたのだ。
ヴォーグはすぐさま家具をまとめる様に住民へと指示をだし、女子供を集めた。
男たちは、地上人らしく顔や体を布で覆い集合する。
「トレイン、あれはどういう状況なんかね?」
「分からない。異常すぎる。……戦える奴以外は逃がした方がいいと思う」
迫り来るエレファントと戦闘員を前にしてトレインは眉根を寄せて、隣にいるマキナへと話しかけた。
「どうやってこの場所が分かったんだと思う?」
「さあ、見当もつかないわ。ネーナ、あなた達はいつからここに居るの?」
マキナがネーナに訪ねる。
「半年ほど前からです。ここはガルマスが出やすい地域でしたが、比較的安定していましたので」
ネーナはそう答えると、腰に差している二本の短剣を撫でた。
「てことは、あの噂は本当だったのか」
ぼそりと呟くトレインにマキナが聞き返してくる。
「どの噂?」
「エレファントに地上人がいるって噂だよ。そうとしか考えられない」
断言するトレインだが、証拠はない。
しかし今は考えている場合では無かった。
戦闘員の異様な目つきと、何時もより急ぎ足のエレファント。この二点から想像すると、明確な敵意を持っているとしか思えない。
トレインが思考の海に漂っていると、ふと、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「あー、あー。地上人の諸君、無駄な抵抗は止めて大人しくしなさい。君たちに危害を加えることはない。大人しくしなさい」
あの上官が前線に出てきているようだ。
トレインの隣に立っているヴォーグは腹を抱えて笑うと、険しい顔つきになる。
「なら、何故武器を持つ? 危害を加える気が無いのなら机を持って来い!」
大声で言うが。
「無駄な抵抗は止めなさい! 数も武器もこちらが勝っているのは分かっているはずだ!」
繰り返す上官に、今度はトレインが肩をすくめる。
「交渉は決裂だな、しかも狙っているのは、どうやら俺とマキナだけじゃない」
「女子供を後方へ逃がせ! しんがりは俺達がやる! ネーナ、お前も行くんだ」
ヴォーグが支持をだし、相方のネーナへと目を向ける。
「何言ってるんですか? その頭でちゃんと考えてください、こちらも戦える者は一人でも多く……」
「ダメだ、これは命令だからな」
ネーナの言葉を途中で遮ったヴォーグは、目にもとまらぬ速さで手刀を繰り出した。
ふっと電源が切れた様に意識を失ったネーナは体を崩し、すかさずヴォーグが抱きしめる。
顔を埋めるようにしてそのまま数十秒が経つと。
「すまないが、彼女を連れて行ってくれ」
部下に頼んで再び前を向く。
一部始終を見ていたトレインはマキナへと視線を移した。
「お前も逃げろ。掴まれば絶対殺されるぞ」
「気持ち悪いわね、あんたまでヴォーグに触発されたのかしら?」
「バカ言うな。お前が生き残っていれば、博士の研究も引き継げるだろ。そうしたら俺達以外の奴が都市を目指す時に導いてやれる」
「そんな御大層な役目なんてまっぴらよ。売られた喧嘩は買うわ」
トレインは顔に手を当てて大きくうな垂れる。
追われるきっかけとなった本を持っている。内容も知っている。地上人にも伝えた。
だが彼女の役目はこれで終わりじゃない。神話の都市を探し出し、真の人間がエレファント人なのか地上人なのか見極める必要がある。
それが一番の願いであったはずだ。目先のことに囚われてはいけない。
「分かったよ、マキナにはお手上げだ」
トレインはそういいながら、マキナが跨るバイクの後ろへと周ってサイドカーの方へと近づく。
ポケットに手を入れて一枚の布を取り出すと、彼女の口元を被った。
疲れが取れるとしてマキナの飲み物に入れていた薬をしみこませてある。
ネーナ曰く、濃い臭いをかがせると数秒で眠りに落ちる作用があるらしい。
マキナの事だ。絶対戦うと言い張るに違いない。
予想して持ってきていたのだが、どうやら正解だった。
「中々強引な性格だな」
手刀を当てたヴォーグがからからと笑う。
トレインは眠ったマキナを抱きかかえて、近くにいたヴォーグの部下へと渡した。
その際にそっと頬を撫でて数秒だけ見つめる。
「もういい。行ってくれ」
後ろ髪を引かれる思いで言うと、ヴォーグへと目を向けた。
「お互い似たようなもんだろ」
「そうだな。好きな女には死んでほしくないからね」
ヴォーグは口の端を釣り上げてにやりと笑うが、トレインはそれを無視した。
エレファントと戦闘員は止ることなく進んで来た。
一発の弾丸がトレインの横を掠める。
風切り音を聞いていたヴォーグが、それを合図にして腕を上げる。
「これは初めから負け戦だ! そして撤退戦でもある! 愛する家族が去るための時間を稼げ!」
高々と言うと、後方に控えていた男たちが一斉に声を上げた。
内功を練って、前へと飛び出して行く。
「行くぞトレイン」
「死ぬなよヴォーグ」
二人も飛び出し、エレファント人へと牙を向けた。
対して相手方の上官も、トレインたちの動きを確かめると。
「全員構え! ……ってえ!」
銃をメインに使っている戦闘員を前に出して射撃指示を出す。
発砲音が響き、荒野に白煙が上がる。
しかし、それで止まる地上人では無い。
ヴォーグはマキナの銃を間近で受けても無事だったのだ。同じ技を使える地上人は止ることなく突っ込んで行く。
「ば、馬鹿な……ええい、数はこっちが圧倒しているんだ! 全員突撃!」
誰一人として倒れない地上人を目の当たりにした上官は、慌てふためいた。
エレファントの戦闘員も抜刀し、声を上げて近づいてくる。
トレインは剣の背から蒸気を噴出させると同時に、最前線へ躍り出る。
目をスッと細め、新米の自分たちにレクチャーをしてくれた上官へとめがけて、思い切り剣を投げた。
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