第2話チャプター2

刹那。

目を見開いて、慌てて右へと避ける。

同時に乾いた発砲音が響き、地面に弾痕を残す。

「マジかよ」

 こんな事は初めてだ。今まで幾度となくこの通りを練習場として使ってきた。もちろん注意されることはあったが、辞める気にはなれない。どうせ誰も気にも留めないのだから。

 下手をすれば殺されかねない射撃をされてトレインは深く息を吸って吐いた。

 もしかしたら都市警備員にトレインを捕まえるようにと頼まれたのかもしれない。もしくは、地上人に対するトレインを懲らしめようとしている常識人か。

 だがどちらにしても直に話を聞く必要があるようだ。

 トレインはさらにローダーの出力を上げて目の前の角を曲がると、大きく跳躍した。

 ローダーの底から噴出される白煙がトレインの体を持ち上げて、雑貨を売っている店の屋根まで飛翔させる。

 着地すると同時に素早く剣を背中から取り外すと、目の前まで持ってきた。

 ダンッ!

 着地時にはどうしても動きが鈍くなる。学校で学び父から教わった事だ。

 予想通り遠くの敵はこの瞬間を狙って撃ってきた。

「分かりやすいな」

 そう呟くがトレインは内心で感心していた。

 狙いがかなり正確なのである。

 受け止めた剣から伝わってくる振動の中心、そこは胸の心臓にピッタリと会っている。

 目標の位置を把握しながらトレインはさらに移動を開始する。

 連射できないことを考えると、相手は狙撃銃がメイン武器だろう。

 連なっている店の屋根の上を滑り、飛び渡る。

 目下の人々が何事かとざわつくのを感じながら、ついに住宅地へと続く坂の入り口にたどり着いた。

 なるほど、腕は確かだが少しばかり不用心な奴のようだ。

 ぐっと口を一文字に引き絞って剣を握る手に力を込める。

 戦闘員になったらこんな事は日常茶飯事なのだ。ガルマスは容赦も躊躇もしてくれない。それでいて図体もデカいし、甲殻に覆われて攻撃が効かない事もある。

 ガルマスと比べれば簡単な相手に違いないが、下手をすると死んでしまう可能性もある。

 始めて味わう生死の賭けに高揚している。

「違うな、これで二度目か」

 あの時も命の危機は確かにせまっていた。死にかけていた。

 こんなエレファントでぬくぬくと育った人間とは違うのである。

 トレインは最大出力でローダーを動かし、坂道を一気に駆け昇る。

 相手は狙撃のみ、しかも同じ場所から動いていない馬鹿だ。

「接近戦に持ち込めばこっちの」

 そう呟きかけて、トレインは奥歯を噛み締めた。

 足底を左へと倒して右へと移動する。同時に連続して銃声が響き、銃弾の雨が襲い掛かってきた。

 左から徐々に弾丸の雨が迫り来る。発砲音と同じ位に弾が風を切り裂く音が周りを支配した。

 こんなもの正気の沙汰ではない。いたずらと言う度を過ぎている。明らかな怒りと悪意、殺意が肌に突き刺さる。

 剣の柄頭を勢いよく押し込むと、カチリと音がする。

 中に埋め込まれている歯車が回りだし、刃の部分がさらに押しだされる。

 刃幅が二倍になり、銃弾を受け止めながら突撃する。

 腕にかかる力は今まで経験したことないほどだ。無理やり前に剣を押しだしてそのまま進む。

 弾丸の一発が頬を掠め、さらには胸のプレートにヒットした。

「これは、訓練用のゴム弾?」

 金属同士がぶつかり合う音は響かない。そう言えば剣に当たってもどこか気の抜けた音になっているのだ。

 しかし当たると死ぬほど痛い。学校の訓練で的にされていたから分かる。

 トレインはほっとため息をついたが、すぐに怒りが湧きあがってきた。

 つまるところ撃ってきているのは学生の誰かであり、鬱憤を晴らそうとしているのだ。

 そんなに俺たちの考えが許せないのか? エレファント上人と地上人との間にどれだけの差があると言うのだ。

 今まで抑えてきた怒りが沸々と込み上げてくる。

 こんな事になるならば、授業の戦闘訓練でクラスメイトを痛めつけておくんだった。

 幼いころからローダーの扱いを教え込まれてきたトレインにとって、学生の技術は外で使えるようなレベルに達していない事は一目瞭然だった。

 それもそうだ。エレファントはガルマスを見つけると遠ざかるようになっている。

 遠出をしている一部の戦闘員だけが戦う術を知っているのだ。

 ふと、剣にかかる圧が減り、トレインは微かに顔を出した。

 ブロロロロロロ。

 何かのエンジン音が鳴り、遠ざかって行く。

 諦めて逃げているのか。だけどここまでしておいて黙っている訳がない。

 全速力でトレインは後を追った。


 名も知らぬ人物が乗っているのはバイクだ。小さなものだが荷物も積めるしサイドカーもつけられる。

 トレインははっきりと姿を捉えると口の端を釣り上げた。

 住宅密集地を駆け抜け、徐々に間が縮まっていく。

「おい待て! こんな事してただで済むと思うなよ」

 大声を張り上げると、目前の敵は僅かに振り返った。

 すぐに大きな一本道に出ると、トレインはいよいよ決着をつけようと剣を構えるが、絶句してしまった。

 なんと相手はくるりと振り返って後ろ向きに座ったのである。

 銃を二丁構え、後ろの腰には大きなライフルを携えている相手は狙いを定めてきた。

「ええ、ただで済ませるつもりはないわ! あんたの馬鹿げた考えをなおすまではね!」

 聞き覚えのある声にトレインは目を見開いた。

 考古学博士の娘、マキナ。

 痛みで考えを変えさようとは、かなり古いやり方だ。そも、これくらいで変わるはずはないのである。

「今日の話で分からなかったのか? 俺は考えを変えるつもりは無い。地上人もエレファント人もどちらも一緒の人間だ」

「だーかーら、その考え方は間違っているのよ。私が正してあげるわ」

「力づくでか?」

「いいえ、ちゃんとした証明で説明するわ」

 だとしたらこの行為に意味はあるのか。

 いきなり襲ってきて、それでちゃんと証明するとはどういうことだ。

 整理がつかないトレインは首を振ると、不必要な考え事を追い出した。

 捉えれば分かる事だ。

「さて、最後と行きましょうか」

「ああ、お前の負けでな」

 マキナはにやりと笑みをたたえて数発撃ってきた。

 トレインは左右に体を振って避けると、一気にたたみかけようとする。

 後ろ向きになっているからか、バイクのスピードがさっきよりも落ちている。

「はあああ!」

 トレインが剣を振りかぶった瞬間、さらに笑みを大きくしたマキナは口を開いた。

「後ろががら空きよ」

「え?」

 直後、誰もいないはずの背後からゴム弾が飛翔し、トレインの後頭部に命中した。

 言葉に出来ないほどの痛みが走り、ローダーの安全装置が作動する。

 一気に減速したトレインは顔面から地面にダイブすると、数メートル進んで止った。

 口の中に広がるのは土と血が混ざった何とも言えない味だ。

「丁度いい的が見つかったから、いつもより濃い自主練が出来たわ」

 引き返してきたマキナはバイクから降りるなり、トレインの前に立った。

 こっちは学校での続きをされているのかと思っていたのに、とんだ勘違いをしていたのだ。

「いきなり撃つなんて卑怯だぞ」

「家の外ではいつ危険な目に合うか分からないじゃない。少しの用心は必要よ」

「そんな銃はひつようないだろ」

 トレインはゆっくりと起き上がり、体についた土を取り払う。

 彼女は手に持っている銃を一瞥して苦笑いを浮かべた。

 金メッキが施してある金属と防腐剤を縫っている木で出来ているスタンダードなものだ。

「これはお父様が持って行けってうるさいのよね。私かよわい美少女じゃない?」

 いきなり狙撃してくる奴をかよわいとは言わない。それにバイクに乗りながら射撃する姿は美少女とは呼びにくい姿だった。

「てかさっきのは跳弾か?」

「そ、ゴム弾だからこそ、あんな風に真っ直ぐ戻ってくるのよ。実弾だと数度角度を変えるだけで精一杯なのよね」

 あんな芸当は始めて見た。銃を使わない父からは教わっていない。今後は少し勉強もした方がよさそうだ。

「んで、さっき俺に言っていた証明って……どうする気だよ。もしできなかったら今度こそ切るからな」

「それをあんたにも手伝ってほしいと思ってたのよ」

 訳の分からない事を言い出したマキナにトレインは首を傾げる。

 狙撃してきたことと何か関係があるのだろうか。

 そんな拓斗の胸中を察したのか、マキナは続けた。

「あんた、卒業したら戦闘員になるんでしょ」

「当たり前だろ、オヤジを探すためにな」

 行方不明になった親父が帰って来れば、エレファント人も考えを変えるはずだ。

 地上人といがみ合っていてもしょうがない。共存できることを何としても親父の口から行ってもらわねばならない。

 そのためには地上に降りて探さなければならないのである。

 幸いにも戦闘員には数泊の遠出も許されている。

「じゃあ、同時に私のも手伝いなさい。神話に出てくる都市を探し出すの。あんた結構ローダー使いこなせているじゃない」

 マキナは自分の目的である『エレファント人こそが真の人間』という証拠をつかむために仲間を探しているのは理解できた。

 トレインに目をつけたのは偶然だろうが、彼女の目に留まったらしい。

 卒業後の戦闘員は主にガルマスと戦うことを仕事としている。加えて町の警備を時々しているくらいだ。

 メンバーの組み合わせは勝手に決められることもあるが、基本的には仲の良い連中でつるむことが多い。

 トレインはマキナの言葉を理解すると、きっぱりと首を横に振った。

「バカ言うな。いきなり撃ってきた奴と仲間になれるかよ。それにお前の親父の研究って証明する必要あるのか?」

エレファント人説に偏った本を出しているのは知っている。そして受け入れられているのならば、神話の都市なんて探す必要はない。

 マキナはばつの悪そうな顔をすると、しぶしぶと言った様子で口を開いた。

「最近、お父様の考えがあんたみたいになって来てるの。だから、私が目を覚まさせなくちゃいけないのよ」

 使命感に取りつかれたマキナは顔を引き締める。

「どうせお互い外には出ないといけないんだから、協力しましょうよ」

「断る。俺は一人で探しにいくよ、その方が君も動きやすいだろう」

「ガルマスは一人じゃ倒せないわ。特に今いるクラスメイトじゃ何人もいないと刃が立たない」

 その言葉にトレインは小さく頷いた。

 一人で一蹴できるとしたらこのエレファントの最高実力であるガーディアンだけだ。

 まあそれほどの力が無くても、普通の戦闘員ならば数人がかりで倒すのだが……。

「それは俺も思っていてたところだよ」

「でしょ。でもあんたは私の攻撃を掻い潜ってここまで来たのよ。あと一人いれば私たちは外に出ても生きていけるわ」

「えらく自分を買ってるんだな」

「お父様の遠出に小さい頃からついて行ってたのよ。ガルマスと出くわすことにはもう慣れているわ」

 肩をすくめて飽きあきとした表情を作るマキナ。

 彼女が引き下がる様子はない。おそらく、ここで逃げれば後ろから追いかけてくるだろう。明日の学校でも追いかけてくるはずだ。

 トレインは両手を上げると。

「分かった、卒業後は一緒の隊になるよ。そして俺はオヤジを探す、君は神話の都市を探す。これでいいだろ」

「ええ、付け加えておくと、私はそれを証明してあんた達の目を覚まさせてやるわ」

 ビシッとトレインを指さすマキナは白い歯を見せて宣言した。


 このエレファントには数百人の戦闘員が日々人々を守っている。

 主に住民からの依頼をこなして対価をもらうのだ。中にはガルマス討伐の依頼も存在し、それはエレファントからの依頼となって出される。

 養成所を卒業した後は、三人以上の隊をつくる。もし、二人しかいない場合は勝手に他の人間が組み込まれることになる。

 信頼関係をある程度築いている者同士が良いだろうと言う、安直な考えには少し賛同しかねるのだが、しょうがない。

「いいか、このライトが光信号の役割を果たす。もしガルマスを見つけたら知らせるんだ。そして戦えるかどうかの判断を下し、倒せないようなら逃げて来い」

 頬に切り傷をいくつも付けた強面の男は、手にしたライトを各隊に渡していく。

 戦闘員志望の学生は支給されたプロテクターをはめ、隊ごとに並ばされていた。

「それで、いつになったら外に出られるのよ」

「すぐにでも出ることになる。まずはお前たちに地上の心地よさを味わってもらわんとな」

 口を開けて笑う男に、マキナの隣に立っているトレインが小声でつぶやく。

「あの人、一応今期の教官らしいけど都市警備専門らしいよ」

「はあ? 何それ? ここに集まったほとんどの生徒は戦闘員志望だって事忘れてない? 今すぐにでも銃をぶっ放したいわ」

 悪態をつくマキナにトレインも同意した。

 外での実戦経験を必要とする戦闘員に対して、直属の上官が都市警備専門なのは理解しがたい。

 光信号や武器の種類を説明していく先輩だが、そんなことはとっくに学校で習っている。周りを見ても詰まらなさそうにしている元生徒がほとんどだ。

 上が何を考えているのかは全く分からないが、これではガルマスと言う脅威を野放しにしていることになる。

「ディーンはどう思う?」

 トレインは左側に立っている青年へと目を向けた。

 淡い白髪に堀の深い顔立ち、一言で表すならばイケメンだ。

 ディーンと呼ばれた青年はトレインの言葉に気が付くと、苦笑いをした。

「そうだね、僕もそう思うよ」

「さっきまで近くの女子と話してたろ」

 学生時代に噂になっていた転校生、キセル・ディーンは自動的にトレインの隊に組み込まれた生徒だ。

 他のクラスからも女生徒が見物しに来たらしいのだが、そう言う生徒がいたことを記憶の片隅で覚えている。

 しかし卒業してからもその人気は絶えないらしい。

「いや、まあちょっとだけだよ」

 やっぱりなとトレインはため息をつく。

 どうせこいつも異端扱いしているに違いない。さっきからこの場を離れたいのが顔に出ている。

 そんなに俺と一緒にいるのが嫌なのか。だが生憎とこれからは死ぬまでこのメンバーだ。

一刻も早くマキナの証明が実施されることを祈っているがいい。

 それまで考えを変えるつもりなど毛頭ない。

「いいか、まずお前らに俺が直接指示を出すことはない。初めは依頼発注所に行って仕事を貰ってくるように。そこで出た成果や報告を踏まえて徐々に新しい任務をこなして行ってもらう。ガルマスが現れた時はさっき言った通りだ。以上、何か質問があるやつは?」

 上官はこの場に集まった新米の戦闘員に目を走らせた。

 すると、一人の見知らぬ男性が手を挙げた。

「今日はガーディアンが我々に激を飛ばしに来てくれると思ったのですが……」

「そのことだが、現在エレファントの前方一キロ先にガルマスが出現していてな、その討伐に向かわれている」

 まだやってるかな。と呟いた上官は部屋の入り口付近までいくと、そこに在ったレバーを力強く引いた。

 ガコン、キリキリ。

 僅かな振動があったと思うと、部屋の正面の壁が上へとスライドしていく。

 エレファントで最も高い建物の上にいるのだから、景色はかなりいい。

 室内がざわめくのを、上官は手を打って静めた。

「ふむ。皆見えるか? あれがエレファントのガーディアンだ」

 遠くまで見えるようにレンズ状になっている窓ガラス。そこから見えるのは異様な光景だった。

 四肢は黒く、筋肉隆々、獅子のような顔にはいくつもの目がついている。長い尻尾の先には固そうなコブをつけており、体を軽く一周はするだろう。

 その異形の生き物の前にちょこんとガーディアンが立っているのだ。

「あのガルマス、かなり大きいわね。多分三十メートルくらいあるんじゃないかしら」

 顎に手を当ててマキナが呟く。

 トレインも一部始終をじっと見守り、ごくりと生唾を飲みこんだ。

 父は英雄扱いされていた。それは何体ものガルマスを屠り、エレファントを救ったからだ。当然ながら剣の腕前は一流であり、ローダーの使い方にしても右に出る物はいない。

 それでもガーディアンには遠く及ばないと言っていたのだが、まさかさっそく実力をお目にかかれるとは思わなかった。

 あの災害のような獣に、どうやって立ち向かうのだろうか。

 室内が静まり、上官さえも頬に汗を垂らしている。

「動くよ」

 そう言ったのはディーンだ。

 トレインが彼の横顔を一瞥したとき、室内にどよめきが起こった。

 慌てて前を向いたトレインはわが目を疑った。

 ガーディアンは全身に金色の機器を見に纏い、その機動力を生かして敵の懐に潜り込んだ。そして、下から一発、拳を突き上げる。

 ガルマスの巨体がふわりと宙に舞い、ガーディアンは後を追って飛び上がる。

 ドン!

 ガルマスへ叩きこまれた一撃の余波がエレファントにまで響き、トレインの居る部屋の窓ガラスを振動させる。

 室内の新米戦闘員が驚きの声を上げる中で、トレインとマキナ、ディーンだけは黙っていた。


依頼発注所は文字通り、依頼を発注する場所だ。市民から寄せられた依頼は、新卒の戦闘員に振り分けられる。とは言っても、普通は早い者勝ちなのだ。

 発注所に住民が依頼をだして、そこで戦闘員が受け取る仕組みはかなり前から変わっていない。

「ディーン、あんた外にいた経験があるの?」

「無いよ。僕は生れも育ちもエレファントさ。もっとも……他のエレファントから移って来たんだけどね」

 トレイン、マキナ、ディーンは発注所の登録用紙に氏名や住所を書き終え、明日の予定を立てる。

 とは言っても、どうせこの場所に来なければどんな仕事なのか見当もつかない。

「ごめん、僕今日は用事があるんだ。明日は朝の九時集合にしよう」

 ディーンは両手を合わせると、トレインとマキナに背を向けて発注所から出て行った。

「あいつ、さっきのブリーフィングからそわそわしてたな」

「まあ、彼女でも待たせてるのよ。あんたと違ってね」

 ふふんと鼻を鳴らしたマキナにトレインは何か言ってやろうかと思ったが、事実なので何も言い返せなかった。

 がっくりと肩を落とすトレインにマキナは呆れたように。

「あんた今まで一人で学校に来てたんでしょ。だったらそのくらいで落ち込むんじゃないわよ」

 そう言われると、これまた反論できない。

 トレインは頭を振って変な考えを外に出すと、無理やり話題を変えた。

「お前さ、神話の都市ってどこにあるか見当ついてんの?」

「まあ大体ね」

 二人は歩き出し、発注所を出る。

 エレファント内を駆け回っている電車の駅へと向いながら続けた。

「お父様の資料を漁っていると、殆どの神話が同じ場所を指示していたわ。地図でも確認してあるの」

 意外と簡単のようだ。場所も分かってしかも地図でも確認出てきている。エレファントがどの進路を通るのかが問題だが、最も近づいた時が好機だ。

 トレインが考え込んでいると、マキナが逆に尋ねてきた。

「あんたはどうなのよ。お父さんの手掛かりはないの?」

「何もない。あるのはこの剣と写真くらいだな」

「そんなのでどうやって見つけるのよー」

 マキナは腰に手を当てて首を左右に振る。

「仕方ないだろ。遠方にガルマスが出て、それっきり音沙汰なしなんだから」

「しょうがないわね。あんたのお父様ほど有名だったら、当時の資料が残ってるかもしれないわ。うちに来なさい」

「いや、でも……」

 有難い申し出ではある。しかしながら、マキナの父とトレインの父は相反する思想の持ち主だ。

 学校でも忌み嫌われていたトレインを受け入れるはずがない。

「大丈夫よ。でなけりゃ私たちが手を組んだ意味が無いでしょ?」

「分かった、分かったから銃を向けるのを止めてくれ」

 突きつけられている銃を手で払いのけながらトレインは言った。

「それでいいのよ」

 くるくると銃を回しながら満足そうに言うマキナ。

 こんな所にも得物を持ってくるとは、どうやらマキナの父親はかなりの親ばからしい。


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