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 数人の教諭が様子を見に行った。数人のうち、ひとりがいつの間にか屋敷内で居なくなる。教諭たちは方々を探し回った。見つからないまま、警察に事情を説明する。遺留物はおろか、痕跡がないまま警察もお手上げ状態になった。これがきっかけとなり、更に噂話に拍車がかかった。


 教諭の行方不明と洋館への警戒から、緊急の職員会議が開かれた。

ひとりの熱血教師が熱弁を振るう。

『あの館には近づけさせないように、対策をせねばなりません。ましてや私どもは、保護者の方々から大事なお子様を、預かっている教育者として……』

 職員会議を偶然にも、聴いてしまったのは、一組にいた情報屋のだった。彼は学校内でLINEを通じ友達に言いふらす。噂話をそこに書き込み、更に学校中に広めてしまった。

 小学生の高学年だからこそ、噂の流行るスピードも速かった。休み時間には、小学生の間で瞬く間に伝染していく。

 LINEの書き込みには、

『なぁ、屋敷の噂、きいたか?』

『行方不明者がいるんだろ?』

『それって、行ったっきり戻って来れないってこと?』

『なんでも、その館には幽霊がいるとかモンスターがいるとか?』

『そんなの作り話だろ?』

『西洋風の扉があいて、そこから違うところに飛ばされるとか?』

『どこでもドア???』

『当てにしないほうがいいって』

 いろいろな噂が尾をつけたように飛び回る。はじめの耳にも入ってきた。ふざけ合いながらも、友達伝いにも噂話から想像がふくらみを増す。でたらめなことが吹聴されていった。

『幽霊がでてきて、アイテムをくれるんだろ!』

『でたらめに決まってるよ』

『じゃあ、宝物がてにはいるとか?』

『亀が出てきて竜宮城につれてかれる?』

『玉手箱が手に入るよ』

『冗談だろ』

『もしかして、あの小学校の近くの森の洋館?』

『たしか、あの洋館は?』

『そう、蜘蛛屋敷』

『宝箱があるんでしょ?』

『こんど、探検してみない?』

 好奇心旺盛と噂に興味津々になったはじめは、学校内で共有しているタブレット端末の【スクールニュース】に書かれた洋館の噂話に夢中になる。すっかり信じ込んでしまった。

 同じ教室で隣の席に座っていた柿谷敬幸かきたにたかゆきも噂には興味があった。

 隣のクラスのコミヤは、【スクールニュース】のネタを取材するためだろうか、数人で洋館に行くといいだす。タブレット端末のチャット内で宣言してしまう。

『それならオレが真相を突き止めてやる! 【館に潜入する人を募集:興味があるヤツは、六年一組のコミヤのところまで】』


 はじめと柿谷もコミヤに誘われていた。しかし、はじめはコミヤに断りを入れる。

「ゴメン、その日は大事な用事があって外せないんだ!」

「館に入る以上に、大事なことなのかよ」

「ああ……」

 内心、はじめも屋敷の探索には参加したかった。運が悪いことに、その日は、両親の離婚裁判の瀬戸際せとぎわで、親戚に連れられ裁判所に行かなければならなかった。

 コミヤのそもそもの目的は、噂とされる『巨大な宝箱』だった。

 数日が過ぎ、はじめは柿谷とコミヤから噂の真相が聞きたかった。だが、館から戻ってきたのは、コミヤと柿谷だけで命からがら脱出したという。コミヤは館で何を見たのか、そのまま学校に来なくなった。

 はじめは柿谷に何があったのか問いただした。

 柿谷の話に、はじめは二年前のことを思い返した。

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