ヒトカケラの思い出

芝樹 享

1

 六月が終わり、梅雨の時期から開放され、夏の炎天下を迎えた朝である。

 道路には陽炎が立ち容赦なくアスファルトを灼く。

 下敷きを団扇代わりに、通学路を歩く瀬際せぎわはじめは、かったるい、と呟いた。

「あっちーな、朝からこんなに暑いんじゃ、学校行くのがだれちまう」

 と、言いつつも校門を抜け、六年二組の教室へと向かった。

 すでに小学校で習うべく勉強の一通りは、塾で受けていた。


 小学校の低学年の頃、外で遊んでいたが、学校の環境変化や家庭の環境によって、中学年になると徐々に、外への関心が薄くなる。文明依存ともいうべき、スマホ端末やタブレット端末による仮想空間へと、興味が集中するようになった。追い打ちをかけるように、彼の両親はここ数年、別居状態であった。

 はじめは、生まれた街で暮らしていたものの父親と離れ、母方の親戚から学校に通うようになる。外で遊ばなくなった。一方で、テレビゲームやスマホに依存するようになっていた。

 家庭でも、学校でも、塾でも、ストレスが溜まっていた。


 一学期の終業式を、三週間後に控えた水曜日に事件が起こった。

 市の職員が、小学校の裏の雑木林にある、一軒の古びた洋館に入ったことから始まった。職員は行方不明のまま帰ってこなかったことから、悪い噂が飛び交うようになる。

 学校の廊下を歩いていると同級生の女子や教室の中では、根も葉もない噂が空気中に漂っていた。

『ねぇ、あの館の話、きいた?』

『小学校の裏手の雑木林にあるっていう、あの二階建ての?』

『うん、役所の職員の数人が行ったときに、体験したらしいんだけど……』

『あの古びた建物のこと?』

『誰か、住んでるんだっけ?』

 はじめは耳を傾けずにはいられなかった。

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