冬と煙草

kana

第1話


彼と別れた日の夜、一人になった寝室で

彼との思い出に浸かって眠った。

夢は夢のまま

それは朝がきて目が覚めた時に

嫌というほど思い知った。


洗面台にある二本の歯ブラシ

台所にあるコーヒーカップ

彼の好みで買った香水の匂い

幸せそうに笑う写真


一つ一つがまだ熱を帯びていた。

果たしてこれが思い出になるのかと

過去になっていくのかと。


寂しい、ってこういう事なんだろうな


冷静に考える私が

酷く冷たい人に思えた


これからどんどん寒くなる。

私は冬が嫌いだ。

彼の熱を、ゆっくりと奪って

私はもう1人ぼっちなのだと

突き付けられているような気がして。



この熱が、彼を愛した証だ

この痛みが、彼を想い続けた結果だ



でもね、こんなものが

欲しかったわけじゃないんだよ。


部屋に残る香水の匂いから

逃げるようにしてベランダへ出た。

煙草を取り出し、火を付けたところで

ふと気が付く。


これも、彼のものだと。


4つも離れている歳が

いつも私を不安にさせた。

そんな彼に近づくために

背伸びをするようにはじめたもの。


不意に出そうになった涙は、

煙と一緒にぐっと喉の奥へ押し込んだ。


冬の残酷さと

煙草の残り香に

彼の背中を思い出し

きっとまた、私は夢を見る。


「今日のご飯、なににしよう」


さめないうちに

はやく、帰ってきてね


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冬と煙草 kana @OoaoO

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ