第8話 変わった関係
放課後を告げるチャイムで俺は目を覚ます。
もちろん、ここは保健室ではなく教室。
午後の授業は出て、こうして眠っていた次第だ。
ホームルームは残っているが、ここ最近はお決まりの内容なので帰って構わないだろう。
「ちょっと、秋葉君。まだホームルームが――」
目敏く、委員長が注意をしてきたが俺は結果的に無視を選ぶ。
何を言っていいかがわからず、黙って鞄を背負って教室を出た。
「……あぁ。さよならぐらい、言っとけばよかったか」
昇降口で今更なことを呟き、俺は帰路に付いた。
自分の部屋に荷物を置いて、制服のまま店に向かう。
「いらっしゃい……て、しーくんか」
店に入るなり、和佳子さんが出迎えてくれた。
「しかし、早いわね」
白のカッターにエプロン。
以前はバリバリのキャリアウーマンだったらしいが、今ではパソコンを使っている姿以外からは、その面影を見ることはかなわない。
「特にやることもないんで」
「高校生でしょ? 楽しいこと、たくさんあるでしょうに」
そうかもしれないが、一人でやれることはそんなにない。
なので、店の手伝いをしているのが一番有意義で将来のためになると思う。
「秋葉先生がいないから助かるっていえば、助かるんだけどね」
和佳子さんが入って時間にゆとりができたのか、父さんと母さんは最近、カフェのほうには顔を出さなくなくなった。
大きなコンテストに出るらしく、ケーキを作ったあとも隣の工房に篭っている。
「あ、しーくんだ」
既に帰っていたのか、つなが俺に駆け寄ってきた。
「よっ、元気か」
「元気だよ」
飛び跳ねてハイタッチを求めてきたので、応じてやる。
「こうしてみると兄妹みたいね」
「そうですか?」
俺はつなを見下ろす。千代見とは違う感情が浮かんでくる。
惹かれているのは確かだけど、それは――決して微笑ましい感情なんかじゃない。
頭を撫でるとくすぐったそうに、
「う?」
見上げてくる。
それを見て、学校では吐き出す機会のない笑みを零す。
「ぁ、そうだしーくん」
「あん?」
いつものように返すと、引っ張られた。
「その乱暴な口調は止めなさいって。つなが怖がるでしょう」
耳元で囁かれる。
子供のつなは、乱暴な口調や暴力といったものに酷く弱いらしい。
「で、なんでしょうか」
そのせいか、ここんとこ妙な敬語が癖になってしまった。
「つなを連れてお使いにいってきてくれる?」
「別に構わないですけど」
「なら、これをお願い」
手渡された紙を見る限り、小学校で使うモノのようだ。
「それじゃ行くか、つな」
「うんっ!」
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