第5話 放課後RPG

 放課後を告げるチャイムが鳴るなり、俺はアキトたちから無言で見つめられ、頷かれた。


「はぁ……」

 

 誰一人、なにも語らずに教室を出ていく。

 勿論、このまま一人で帰っていいわけではないだろう。

 俺が荷物を纏めて教室を出ると、目の前にアキトがいた。


「やぁ、きみだあ勇者だね?」

 胡散臭い挨拶。


 俺は渋々片手だけ上げる。


「ずっと探していたんだ。さぁ、共に旅たとう!」

 

 どういう設定なのかは知らないが、学校を出るまであと二回、これを繰り返さないといけないと思うと泣きたくなる。


「どうした? 先頭は勇者だ」

「ちなみに、お前の役職は?」

「吟遊詩人か賢者で頼むよ」

 

 だから、なんで俺に決定権を委ねるのだろうか? 

 そんなことを訊いたら、勇者だからって答えが返ってくるんだろうけど。

 

 俺たち二人は階段を降りる。

 一階にはねここがいた。


「ねここが仲間になりたそうにこちらを見ている」

 

 俺はいつこれを倒したのだろうか? 

 頼む、誰か教えてくれ。


「どうする?」

「断ったらどうなるんだ?」

「どうするかは面白そうだけど、さすがに今回は可哀そうだから止めようよ」

 

 俺はリアルに溜息を吐いて、

「はい」

 を選択した。


「よろしくっす。勇者、閣下」

 

 三人になった俺たちは靴に履き替え、校門まで無事辿りついた……って、俺も毒されてるな。

 校門にはジジが待ち構えていた。


「ここを通りたければ、オレ様を倒して行きな」


「今度は沈めるぞ?」

 俺は相手の喉元を狙い定め、手を開く。


「……ふっ、中々骨のある奴もいるようだな。いいだろう、付き合ってやる」

 

 だから、俺はいつ倒したのだろうか? 

 教えてくれなくてもいいから帰らせてくれ。


「さて、ここからは僕が先導するよ」

「あぁ、そうしてくれ」

 

 俺は最後尾につく。

 といってもアキトとねここから数歩離れ、ジジと並んで歩く。


「それで閣下、どうするっすか?」

「まずは、初心に帰ろうと思うんだ」

「初心っすか?」

「そうだ、僕たちが集まった原点」


「ああ言っているけど、いいのか?」

 ジジが忠告してくれるも、


「どうにかできるのか?」

 俺はもう諦めていた。


「面白いことが起こればいいな」


「んな投げやりな……」

 運になんて、頼ってられるかよ。


「やけに大人しいな。もしかして、会う口実ができてラッキーて思ってるとか?」

「ちげーよ。会う口実なんていくらでもあるんだから」

「へ~、それは初耳だ」

「言わないからな」

「訊きだす気もない。言いたくなったら、言ってくれればいい」

「そうかい」

 

 目の前では、アキトたちがはしゃいでいる。

 昨日の今日だ。やはり何人かが気づき、足を止めたり携帯を向けたりしている。


「しかし、タフなメンタルしてるよな」

 隠し撮りに対してピースサインで応じるアキトを見て呟くと、


「別に、そういうわけじゃねぇんだけどな」

 ジジが否定の言葉を添えた。


「あん?」 

「言わねぇかんな」

「なにも訊いてないだろ……」

 

 好奇心を刺激されるも、我慢する。

 アキトとは幼馴染らしいので、やはり色々と知っているのだろう。


「ぉ、ついたついた」

 

 徒歩数分。

 道路を渡らずに行ける近さにあるものの、ウチとはなんの関係もない市立小学校。

 ただ、その近さからボランティアやイベントなどで協力したりもする。

 そのおかげか、敷地内に入っても不審者扱いはされなかった。


「目の保養だな」

 

 グラウンドや遊具場で遊ぶ子供たち。

 前者は高学年が多く、後者は低学年が多い。


「お前もロリコンだったけ?」

「勇者は穢れてんな。あの無邪気な顔、癒されると思わねぇのか?」


「やかましい」

 最近、気にしているんだから言わないでくれ。


「んな怖い顔してていいのか?」

 ジジが指さす。


 一人の女の子がこちらに気づき、可愛らしく小走りしてくる。

 丁寧に編みこまれた三つ編みが揺れ、スカートが危うくひるがえる。


「しーくん!」

 

 華麗にアキトとねここを素通りして、俺の前までやってきた。


「よっ、つな」

 俺は軽く腰を下ろして、目線を合わせて微笑む。


「どうしたの?」


「昨日この辺りで誘拐未遂があったらしいからな、危ないから迎えに来た」

 俺は用意していた言葉を放つ。


「うわぁ、どおりで珍しく素直に付いてきたわけだ」

「さすが勇者、一枚上手だね」

「相変わらず卑怯っすね」

 

 三人からは批判を受けるも無視、無視。


「そうなんだぁ! ありがとうっ」

 

 目の前では、つなが素直に信じてにっこりと笑う。

 年相応に純粋な女の子――四宮初名しのみやはつな。八歳、小学二年生。俺の、好きな子である。


「おれもいつか言ってみたいっす。好きになった子が、たまたま少女だっただけって」

「確かに、一度は言ってみたい台詞ベスト三には入るな」

「いやぁ、やっぱ勇者だよね」

 

 余計なことを口走ったら止めようと神経を研ぎ澄ませていたら、相変わらずな会話をしていた。


 まぁ、なんだ。

 これこそが、俺がアキトたちとつるむ……否、勇者となった原因。

 

 ――いや、きっかけだった。

 

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