113 - 再会(前編)
先頭を切って向かってきたのは、船団の中で最も小振りの一隻だった。彼らの乗る小さな船の横に慎重につけると、すぐさま舫い綱が投げられ、縄梯子が下ろされた。心配そうに、興味深げに幾人もが此方を見下ろしている。
「お嬢さん方お先にどーぞ。アレス、下支えてやって」
舫い綱を船に結わえながら彼は促した。
「あたしも持っておくわ。ヘルガ、先に、わっ!?」
立ち上がりかけたアーシャが、だが力が抜けたようにへたり込んだ。
「アーシャ!?」
「大丈夫か!?」
船が大きく揺れたわけでも無いにも関わらず、立ち上がることが出来ない様子にアレスとヘルガは慌てて駆け寄ろうとする。
「ごめっ、ちょっと、なんだか力が……」
だが、それよりも舫い終えたシンがアーシャに歩み寄る方が早かった。
「あぁ、悪い。さっきので消耗したんだな。ヘルガ、いいからお前は先に上がれ」
来なくていい、と二人に合図して跪く。
娘が不安そうに頷いて従ったのを横目に、
「さっきの、って、あなたがやったんじゃないの?」
「いんや。オレは水の加護は受けてない。手を貸しただけだ」
「でもあたし、あんなすごい魔法使えないわ」
そもそも、水竜を召喚する方法など知らないと、アーシャは首を振る。
彼は、船底に張り付いたようになっている少女の額の前で十字の印を切ると、頭頂部に手を置いた。
「まぁここは場所がよかったってのもあるからなぁ。――どうだ、立てるか」
アーシャは彼の触れたところから何か温かいものが流れ込み、全身に伝わっていく様な感覚を覚えた。
「ん……」
そしてシンが手を離すと、ふっと身体が軽くなる。
「おぶってやろうか?」
「いらないわよっ」
先に立ち上がった彼の差し伸べた手に縋りながら、アーシャは反射的に声を上げた。
「ならよかった」
最初からそんな気など無かったというように、シンは軽く笑った。
ヘルガが上まで登り切り、数人の船員がその身体を船に引き込んだのを見届けて、アーシャ、アレスが、そして彼もまたその後に続いた。
軋みぐらぐらと揺れる不安定な縄梯子を登り切り、舷に手をかけると彼は身軽くユーディットに乗り込んだ。
「!」
甲板に降り立って顔を上げると、まともに目が合った。
色硝子の向こうの、その瞳の美しさを自分は知っている。
光を弾く、色素の薄いその髪の柔らかな感触を自分は知っている。
遠い地で、幾度と無く思い焦がれた。
名を呼ぶ声、触れる指先、甘やかな体温さえ、鮮明に。
この上なく愛しい存在にやっと、たどり着いたのだ。
「セフィ!!」
呼ぶと、驚きの表情をすぐに綺麗な笑みに変えて、風がその声を、白く清しい花の香りを届ける。
一瞬でも早く触れたくて、堪らず彼は駆けた。
「セフィ! あぁ、やっと会えた……!」
抱き締めると、応えてくれる。記憶や想像より現実が劣ることなど何も無かった。
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