114 - 再会(後編)

 名を呼ばれるよりも先に、視線が交わった。


「セフィ!!」


それはあまりに懐かしく、耳に馴染んだ声。


 驚きと、戸惑い。そしてそのすぐ後に込み上げてきた感情に、彼もまたその名を呼ぶことに躊躇いはなかった。

「リー……!」

駆け寄る彼に手を差し伸べる。

「セフィ! あぁ、やっと会えた……!」

強く抱き締められて感じた温もりと思いを、自分自身も返したくて、セフィはその腕を彼の背に回して応えた。

「リー、貴方だったのですね……」

海の上に居るにもかかわらず、深い森の中の様な気配を纏っている彼の、髪が頬に触れ肩口に息遣いを感じる。思いつめたような声で何度も名を呼ばれ胸が熱くなった。

「会いたかった、セフィ」

ふっと力が緩み、真正面から見つめる翡翠の瞳が微笑む。

彼の唇が右頬に、左頬に順に触れて、もう一度抱き締めて深く息をする。

まるで愛しい者にするかのようなやり方が心地良くて、

「……髪が、少し伸びたのではないですか?」

セフィは彼の背から後頭部へ、それから頬の近くへ手をすべらせ、その髪に触れた。指先で梳きながら微笑む。

「そうか?――あぁ、そうだ。それだけ長い間会ってなかった、ってことだよな」

僅かに身を離して確かめるように覗き込む彼は、セフィにとってかけがえのない存在だった。

「えぇ、本当に。お元気そうで、よかったです」

向けられたいつもの優しい笑みに、心から安堵する。その距離の近さが気にならないほど嬉しかった。

「ね、ねぇ、ちょっと! どういうこと!? シン、セフィと知り合いだったの!?」

声を上げたのは、橙の髪の娘だった。注目を集めてしまっていることに気付いたセフィが、彼の胸をそっと押して、

「んーただの知り合いよか近しい関係かなー」

渋々、といった風に彼は腕を緩める。

そんなあまりに慣れた動きを目の当たりにしたヘルガは、ごく自然に感想を言葉にした。

「……恋人?」

「幼馴染です」

頷きかけたシン、否リーを制するようにセフィが笑顔で主張した。

「そっか。そうだったのね」

「つかヘルガ。オレの言ったこと忘れたか?」

納得した娘に非難めいた表情を向けるリー。

「でもっ」

確かに、余計なことは喋るな、と彼は言っていた。だが、何も考えていない様な、余りに慎重さに欠けるような彼の行動に娘は一言、言わずにおれなかったのだ。

 一通り再会を喜んだ彼女の叔父が、そして今まさに、ユーディットに横付けしようとしている船に乗る議会員が、説明を求めてくるはずだ。

 周りを見渡せば、必死に見つめてくるヘルガと、その隣の紳士は何とか冷静を装っているもののしきりに咳払いをしている。驚きの表情を浮かべるアレス、にやにや笑いのアーシャとロル、そして船員達が向けるのは、おそらく羨望に満ちた眼差し。

「……しゃーねぇなぁ」

彼は頭を掻いて溜息を吐いた。

「で、誰に説明しろって?」

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