ツーサイドアップ・カウンター 前編

「やはりツーサイドアップは良い。ツインテもいいけど、やっぱりわたしはツーサイドアップだね。今月はツーサイドアップヒロイン強化月間にしよう」

 つまりツーサイドアップの髪型のヒロインが登場する、ゲームやらラノベやらを中心に、購入していく月間である。

 というわけで、読み終えたライトノベルをベッドへ放り、着替える。

 ブラジャーを装着し、ワイシャツを着、襟に青色のリボンを通す。

 靴下を穿き、紺色のセーラー服に着替える。

「寒いな……ニーソックスにするか」

 美少女以外が履く、ニーソックスなんて誰得だとは思うが、まぁ、誰かに見せるのを目的としているわけでもないし、そもそも、わたしなんて、誰も見てないだろうし、いいだろう。ニーソックスは防寒着なのです。誰にでも履ける権利があるのです。

 一階へ。

「あんた隈すごいけど、もしかして寝てないの?」

「心は寝ている」

「若いからいいけど、ほどほどにしときなさいよ」

「うぃうぃ」

 母と軽い挨拶を済ませて、朝食。

「じゃあ私行くから。戸締りちゃんとね。あ、夕飯冷蔵庫に入ってるから、食べるときは温めてね」

「うん。行ってら」

「じゃ」

 朝食を摂りながら、母の見送り。

「さて」

 素早く朝食を済ませ、洗面所へ。

 雀の涙ほどではあるが、一応、身なりにも気を遣う。と言っても、洗顔して、ブラシで適当に髪をとかす程度であるが。

「髪伸びてきたなぁ……」

 後ろ髪は、背中にまで届いている。

 伸ばしていたわけではなく、ただ切りに行くのが、面倒だっただけだ。平凡女のわたしが、自分の髪型に拘ってもしょうがない。そういうのは美少女だけで良いのだ。

 今日は放課後に予定もないし、切りにいくか。

「……」

 いや。

 どうせ切るなら、髪が長いうちに、やってみたい髪型がある。

 今朝読んだ、ラノベの影響か、そんなことを考えてしまった。

 そう、ツーサイドアップだ。

 ああいう髪型は、本来、美少女がやるものだが……魔が差した、と言うべきか。この機を逃したら、一生、ツーサイドアップにする機会はない、と思ったのだ。

「だったら、一回くらい……」

 女なんだから、髪の毛で遊ぶくらい、いいよね。

 適当なヘアゴムを手に取り、髪を結う。

 ツーサイドアップはツインテと違って、後ろ髪までは結わないから、長髪のほうが映える。

 と思っていた時期が、わたしにもありました。

「……うん。普通」

 鏡に映った、自分を見る。相変わらず、死んだ魚の目みたいだな。いや、今はそうではなく。

 なんだろう。

 似合わないわけじゃないんだけど、かと言って、特別映えるわけでもない。

 見たことあるぞ、こんな感じのやつ。なんか、そう、アニメのモブに、こういうキャラ居たぞ。ゲーム版では立ち絵はないんだけど、アニメ版開始にあたり、仕方なく作画したみたいな。

 詳しく例えるなら、物語を盛り上げるために、主人公に告白して、振られるやつのような。そのためだけに登場するような、お手軽切り捨てキャラである。クソ! モブキャラに救いは無いのか! 無いな!

 しかしながら、普段しない髪型なだけあって、新鮮さはある。気分転換と思えば、気持ち的には、そう悪くはないだろう。そう思ってないとやってらんない。

「ま、いっか」

 どうせ、最初で最後のツーサイドアップだ。今日はこれで、一日過ごしてみよう。

 放課後を過ぎれば、この髪型とも、おさらばなのだから。

 と、この時のわたしは、そう思っていた。

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