サクサクサクラ

「なんだよこれ……SSRの確立渋りすぎだろ。何時間リセマラさせんだよ、このクソゲー」

 いい加減、馬鹿らしくなって、スマホをベッドへ放る。

 話題のスマホゲーって聞いてたのに、蓋を開けてみりゃあ、DL時間は長いわ、サーバーは重いわ、SSRは出ないわの三重苦。

 運営が馬鹿だと、こっちのやる気がなくなるよねー。

 良いゲームであれば、ユーザーは自然と課金するのに、最初から全力で課金させようとしてくる、運営は分かってないね。ここの運営はクソ運営だ。 

 そういやこのクソゲー、リリース記念に、生放送を配信するって、話だったな。こりゃ荒れるぞー、楽しみ。

 まぁ、リリース当初はクソでも、後々改善されて、良ゲーになる例も多々あるが……ここの運営は、さて。

「はー二時間無駄にした。別ゲーで憂さ晴らしするか」

 アンインストールは、まだしないでおいてやる。ありがたく思いたまへ。

 などと胸中で宣いつつ、PS4の電源を入れようと手を伸ばす。 

 と、

「ん?」

 スマホから着信音。

 わたしに電話をかけてくる奴は、だいたい限られている。家族かほんの数人の友達だけ。

 スマホを覗くと、着信画面に載っていたのは、案の定、三人の友達のうちの一人、佐倉さくら咲楽さくらだった。

 ちなみにこいつ、わたしの幼馴染でもある。性別は女。なぜ男じゃないんだ。

 無視してもよかったのだけど、とりあえず出る。

「もしもし」

「あ、ニーちゃん? 今暇だよね?」

「なぜ決めつける」

「だってPS4の電源入れようとしてたし、他にやることないんでしょ?」

 え。

 なんでこちらの行動を、そんな詳細に把握してるのか。

「ねえ、わたしの部屋、盗撮とかしてないよね?」

「やだなぁ、そんなことしてるはずないじゃん」

 まぁ、それもそうか。

 わたしの部屋なんか盗撮して、誰が得するんだって話だ。

「万が一、億が一、サクラが盗撮してたとしても、ニーちゃん困ることないでしょ?」

「それもそうだねえ。サクちゃんに隠すこともないし」

「……よし」

 よし?

「なんでもないよ。そんなことより、ちょうどサクラも暇だったから、ニーちゃんち、遊びに行ってもいいかな?」

「いいよ。ゲームくらいしか、することないけど」

「大丈夫。サクラ的には、すること満載だから」

「そうすか」

「うん。じゃああとでね」

 通話が終わる。

 さて――

 気を遣うような仲ではないが、お菓子と茶請けくらいは用意しておくか。

 パジャマは――着替えなくていいか。外に出るわけでもないし。


 というわけで。

 佐倉咲楽。通称サクちゃん。

 彼女が、どんな人物であるかと問われれば、一言。

 かわいい、である。

 特筆すべきは、なんと言っても、アイドル級のかわいさを誇る、その容姿だろう。

 髪型はボブカット。髪色はブラウン。大きく、優し気な瞳は、慈愛に満ちているかのよう。

 人当たりも柔らかく、こう、なんというか、ふわふわしていて、所謂天然というやつだろう。その容姿と性格から、骨抜きにされる男があとを絶たない。

 どちらかと言えば控えめで、前に出るような性格ではないから、クラスの中心人物ではないが、それでも、一目置かれてることには変わりない。たまに変な言動をするところもあるが、そこもまた、かわいいところであろう。

 わたしにはもったいない幼馴染である。

 で、さっきの電話から10分。

 その幼馴染は、わたしの部屋にいた。

「いやぁ熱いね~。思わずアイス買ってきちゃったよ」

 格好は白いワンピースだった。なんの変哲もないワンピースでも、美少女が着ると映えますねえ。細い体型なのに、出るとこ出てて、羨ましいな、この野郎。

 そんなサクちゃんは、ソファーでだらけている、わたしに棒アイス差し出してきた。

「はい、ニーちゃん、あーん」

「あーん」

 こんな美少女にあーんされるのも幼馴染の特権ですなぁ。

「ニーちゃん。ちょっとこっち見て」

「ん?」

 棒アイスを咥えながら、上目遣いにサクちゃんを見やる。

「かはっ……」

 するとサクちゃんは、衝撃を受けたかのように、身体をのけ反らせた。

 意図はよく分からないけど、面白い反応するなぁ、こいつ。

「で、何すんの?」

「ナニしたい……」

「サクちゃん?」

「え? あ、うん。じゃあゲームしようか」

 というわけで、PS4の電源を入れる。

 ジャンルはFPS。

 一人称視点で、銃で敵を撃ち殺していく、シューティングゲームである。

「ニーちゃん、隣いい?」

「ん? うん」

 サクちゃんがわたしの隣に座った。クチナシの、甘い匂いが鼻腔をくすぐってくる。美少女は匂いまで、通常のソレとは違うのだ。

 というか密着してきた。

 サクちゃん、わたしのこと好きすぎか。

 まぁ、特に珍しくもない、サクちゃんなりの、わたしに対するコミュニケーションでもある。昔からこんな感じだからね、この子。

 とはいえ、この部屋にエアコンが無かったら、普通に引きはがしてるけど。

 それから雑談などを交えながら、二人でゲームに興じる。

「ニーちゃん、今期面白いアニメある?」

「んー日常系多いね。サクちゃん向けなの多いと思う」

「百合?」

「そうそう」

「やった。じゃあ片っ端から見ないと」

「サクちゃん百合好きだね」

「そ、そう? 変かな?」

「別にいんじゃね。好みなんて人それぞれだし」

「そうだよね! おかしくないよね!」

「めちゃくちゃ嬉しそう」

「あ、そうだ、異世界系は?」

「あーあるね。なんこか。けど見なくてもいいと思う」

「つまんないの?」

「うん。ちょっとエロいハーレムもので、全部よくありがちなやつだから」

「じゃあ見なくてもいいかなー」

「この作者、絶対童貞だろって感じがひしひし伝わってきて、正視に堪えない」

「あはは」

 などと。

 とりとめのない会話しながら、ゲームに興じていると、あっという間に、日が暮れる。

 窓から西日が顔を出す。

「うーん」

 ゲームのほうも、一段落。

 コントローラーから手を放し、サクちゃんは伸びをする。

 おっぱいめっちゃ動いてるよ、すげえ。

「じゃあサクラ、そろそろお暇しよっかな」

「そう? 飯くらい食ってけば? なんなら泊ってけば?」

 そっちのほうが、いい暇潰しになる。

 というか、手伝ってもらいたいクエストが、あるだけなのだが。主にネトゲで。

「え!? 泊ってもいいの!?」

「テンションたけえ!?」

 なんか知らんがめっちゃ食いついてくるサクちゃん。

「親は明日の朝まで帰って来ないから、めっちゃ騒げるよ」

 姉、兄ともに一人暮らし。父親は既に他界している。

 なので、この家には、基本的に母とわたししかいないのだ。

「え!? 帰って来ないの!?」

 ずいっ、と興奮気味に顔を寄せてくるサクちゃん。肌綺麗だなー羨ましい。

「というかニーちゃん!! 親帰って来ないとか言っちゃ駄目だよ! 誘ってるふうに見えるよ!!」

「なんかさっきからうるせえな!?」

 思わず突っ込むわたし。

 誘ってるふうも何も、誘ってるんだけど、サクちゃん、なんかニュアンスが違うような。

「佐倉咲楽、泊まります!」

 拳を握り、サクちゃんは朗々と宣言した。やっぱ面白いなー。

「じゃあ先に風呂入る?」

 うちは夕飯より、入浴が先に来る家庭である。

 例外的に、いつも、わたしは寝る前に入浴してるけど。

「うぅん、お呼ばれされておいて、そんなに図々しくできないよ。ニーちゃんが入り終わるまで、待ってるよ」

「そんなん気にすることなくね? わたしとサクちゃんの仲なんだし」

 親しき中にも礼儀あり、か。わたしと違っていい娘だねえ。

「じゃあ間を取って、一緒に入るとか」

「何してるのニーちゃん! 早くお風呂入るよ!」

 なんかいきなりやる気出してるけど!?


 

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