ニー子ちゃん、休日!

 夏。休日。自室にて。

「声優のステージだぁ? たいして可愛くもないのによくやるよ」

 その日は特にすることがなかった。なので、ぼーっと、ニコニコ動画で生放送を眺めつつ、わたしはぼやいていた。

 テーブルに置いた、ノートPCの画面を、ベッドの上で横になりつつ、眺める、のマイスタイル。

「いや、これは周りのバカどもが悪いな。企画したバカどもが、アホだからこういうことになるのかねえ。声優はアイドルじゃねえっつーの」

 みたいなことを、ビッチ(友達のあだ名)に言ったら、「時代でしょ」と返されたっけ。

「いやあでも、よく見てみ? まぁ可愛く見えることもあるかもしれないけど、それは声優補正だよ。その人がただのパンピーだったら、見向きもしないでしょ。ニー子ちゃん知ってんだから」

 途中から視聴したので、詳しいことは分からないが、どうやらスマホゲームのイベント中継のようだ。三人の女性声優が、こじんまりとした、ステージの上で唄っていた。会場にいるのは、大半が大きいお兄さん。察するに、オタ向けゲームか。

 三人の女性声優は、笑顔を振りまき、所狭しとステージを駆ける。振付の一環らしい。大変そう。

「どうせこいつらも、心の中ではオタクキモいとか思ってるのに、ようやるわー。仕事って大変ね」

 ステージは三曲ほどで終わった。会場からは声援の雨霰。

 で、そろそろ番組も終わりに差し掛かったところで、事件は起きた。

「何? また?」

 突然、会場の照明が落ちる。突然の出来事にざわめく会場内。コメント欄も!?で埋め尽くされる。

 程なくして、流れ始める、ロック調のBGM。ディストーションの効いたギターと、重厚なベースライン、そして、疾走感ある、16ビートのドラミング。

 聴いただけで、悪役をイメージさせるような曲調だ。中々良い作曲家をお持ちのようで。

「って……えっ」

 スポットライトがステージを照らす。いや、正確には、ステージ上にいる、一人の男を照らしていた。

 瞬間、わたしの目が見開く。

「うっそマジ!? レンレンじゃん!!」

 実力派男性声優、佐沼蓮。32歳。通称レンレン。

 女性に大人気の声優の一人であり、出演した作品は数知れず。声優だけではなく、歌手や舞台俳優も務め、マルチに活躍するイケメン声優。イケメン、イケボ、と女オタにとっては、垂涎ものの声優でありながらも、その気さくな性格から、男のファンも多い。むろん、わたしも大ファンだ。彼のCDもDVDも、全て網羅している。

 そんな彼が、この生放送に出て、ステージ上で唄ってるんだから、そりゃ興奮しますよ、えぇ。会場のみんなも大盛り上がり。

「マジかよ……レンレン出てんなら、ダウンロードするかな、このアプリ」

 会場にいる、女は明らかにレンレン目当てだよねえ、これ。

 と。

 ふいに、コメント欄に流れる、不穏な文字。

『佐沼とかいらねえ』『こいつ嫌い』『裏で女声優食ってそう』

 さてはおめーらアンチだな。

 やれやれ。醜いねえ、童貞どもの僻みは。NGにしとこ。こんなことで、心を乱す、新子さんじゃないですよ。

『心の中では、どうせ女オタキモいとか思ってるんだろうな』

「はああああああああああああああああああああ?」

 レンレンはねえ、おまえらキモオタと違って聖人なの。分かる? そんなこと思ってるわけないだろ!

『カッコよく見えるかもしれないけど、声優補正だよなこいつ』

「ああああああああああああああああああああん?」

 いや、そんなことないから。彼がパンピーだったとしても、惚れてるからわたし。

 これだから困んだよねえ、キモオタはさぁ。自分がモテないからって、イケメンのレンレンに嫉妬ちゃってさぁ。あーカッコわる。

 とりあえず、イラっとしたので、思いつく限りの反論を、コメント欄に打ち込んでいく。悪口じゃないよ、ちゃんとした反論だよ。ホントだヨ。

 良い子のみんなは、こんな風馬鹿どもみたいになっちゃ駄目だよ? 新子お姉さんとの約束だ。

 え? おまえが言うな?

 

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