8日目の虹

@torinosasami

8日目の虹

あれは私が木に登れるようになってから2日目の事だったか、暑い昼下がり、木の下から突然話しかけられたのが始まりだった。

彼は私に「やあ、君達の事たまにしか見かけないんだが、旅人かなんかなのかい?」と不思議な事を聞いてきたのだ。

私はそんな彼に興味を持ち「私達の事を知らないのかい?」と返すと、木の下の彼は「驚いた、話しかけて返事が来たのははじめてだよ」と目を丸くしながらはしゃいでいた、私はなんだかそれがおかしくてしばらく笑っていたのだった。


翌日の昼も彼と私は対話を続けた、傍から見れば他愛もない話ばかりだったが、あまり知らない世界の事を聞いた。

私は比較的狭い場所にいたので、彼の話す広々とした世界の話を聞くのがとても楽しかったが、ただただ頷いているばかりの私を見て「もしかして僕の話はつまらないかい?」と心配そうに私を見上げてきた。「いいや、なんていうか君の話は驚きに満ちていて、私には想像もつかないものだから、なんて返事したら良い物かと思うばかりだ、良かったら明日も話してくれないか?」と私が彼に伝えると、

彼は「喜んで!」と言ってくれた。


それから数日、この世界で起こってるいろんな事を私は彼から聞き続けた。

本当に本当に楽しい日々だった。

一つ気がかりだったのは彼が私の事を良く知らないという事だった。

この楽しい時間が無くなるのは名残惜しいが私は彼にお別れを告げなければならなかった。


翌日、私は彼にもう会えなくなる事だけを告げると彼は残念そうに「そうか、残念だけど君達も旅人だもんな、またここで会えるかな?それまでにまた色んな話を集めておくよ」と言ってくれた。

私は少し心苦しかったが「きっと、また」と伝え、この木を後にした。

これが最後の旅になる、彼に見つからないように遠くへ、出来るだけ遠くへ行かなければならない。


出来るだけ、出来るだけ遠くへだ。


彼が話してくれた話の中で一番好きだった話がある。

「空から突然たくさんの水が落ちてくることがあるのだが、それが終わった後に

空に綺麗な橋がかかる事があるんだ」と彼が楽しそうに話していた。

本当か嘘かなんて事はどうでもよかった、ただ彼が楽しそうに話していたのを眺めてるのが本当に楽しかった。


暑い地面に背を向けながらぼんやりと滲む空を見上げながら私は

「ほんとだ、ほんとに綺麗な橋だ」と呟いた。それが私の最後の言葉になった。


その亡骸を彼が見つけたのは間もなくだった、虹がかかった空の下

彼は「そうか、君達をこの季節しか見られないのは旅立つからではなく、生きられないからだったんだな」と友人の亡骸に呟く。そのまま嘴でそれを銜えると、地面を蹴り上げ大空に羽ばたいていく。


「もう少し近くであの橋を見よう」とカラスが銜えた友人の亡骸に言う、

嘴に挟まったセミの翅はそれに答えるかのように緑色にきらきらと光っている。

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