こちら銀河長屋2500

虎昇鷹舞

第1話

 西暦2500年…増えすぎた人類は地球の資源を吸い尽くし、生活の場を宇宙へと変えた。

 国連指導の下、スペースコロニーの着手に取り掛かりおよそ100年をかけて全長200キロの途方も無い長さのコロニーを完成させた。

 最初に作られたこのコロニーにはギリシャ神話の全能の神から名前をとり「ゼウス」と名付けられた。

 何回かに分かれて行われた移住でコロニーには数多くの人が暮らし、多種多様な民族が暮らすことになった。そのため、新たな問題も生まれてくる。生活様式が違えば習慣も感覚も違ってくる。たちまち各地でトラブルが発生した。

 これを苦慮した政府はコロニー内に警察機関「ZCP(ゼウス・コロニー・ポリス)」を設立。選び抜かれたエリート警官達が今日もさまざまな事件に立ち向かうのだった。


 そんなコロニー内でも比較的治安が守られている地区で家屋が所狭しと入り組んでいる住宅街、通称「銀河長屋」にある警察署に一人の女性が駆け込んできた所から事件が始まった。

 女は「銀河長屋私鉄沿線44分署」と書かれた警察署に飛び込んで声を上げた。

「ウチのダンナがヤック~ザに連れてイカレテシマイマシタデス!!」

 カタコトな言葉遣いの女性が涙を流しながら助けを求めに来たのだった。年のころ20代前半、黒髪をカーリーヘアにした褐色のナイスバディなレディだった。

「何と!?」

 署の奥で座っていた角刈りにサングラスの男が椅子から立ち上がると、へたりこんで座っている女性に駆け寄って手を差し伸べた。

「お嬢さん、詳しく事情を聞かせていただけませんか?」

 サングラスの奥の瞳を光らせて男が女性を安心させるべく微笑みかけた。

「ここでは目につきますので奥の部屋に行きましょう」

 サングラスの男の隣に立っていた若い刑事が女性の肩を支えながら署の奥にある取調室に連れて行った。


「・・・なるほど。あなたの夫の経営しているお店が地元のヤクザからみかじめ料を請求されていてそれを断ってから色々と嫌がらせを受けていたということですね」

 サングラスの男は取調室で電子タバコを吹きながら女性の話を聞いていた。

「エエ、アイツらは悪魔ヨ。オソロシイオソロシイ・・・」

 女性は涙をボロボロ流しつつ話しているので言葉がだんだんと不明瞭になってきていた。

「よし、この人は署で保護。さらわれた夫の方を追うぞ。バナザード、ホシは洗えたか?」

 サングラスの男が資料を調べ終えて取調べ室に戻ってきた若い刑事に聞いた。

「はい、ヤクザの組織名は星龍会。この辺りで幅をきかせているタチの悪い連中です。闇金、シャブの密売、恐喝、売春、何でもアリですよ…」

 バナザードと呼ばれた若い刑事が数枚の写真をサングラスの男に見せた。

「モブソン雅、45歳。コイツが星龍会を取り仕切っている組長です」

 見るからに極悪そうなパンチパーマにサングラスの男の写真を見せた。

「よし、事務所に全員で急行するぞ!」

 サングラスの男が取調室を開いて詰めていた刑事たちに声をかけたのだった。


 サングラスの男が号令を掛けると警察署にいた刑事たちが一斉に署を飛び出し、ZCPオリジナルのエアカーに乗りはじめた。

 このエアカーというもの、現在主流のガソリン車ではなく電気と燃料電池を使った優れモノ。まぁ石油自体が枯渇寸前なのでガソリン車が鉄クズになってしまったから急遽開発されたものなのだ。ちなみに、地面をホバリングするように地表より浮いて動いている。なお、電気カーはロマンが無いという理由で廃れた。

「ポンセとパチョレックの乗ってる車は事務所の裏手を、俺とゲーリーとオマリーの車で事務所に正面から向かう」

 サングラスの男が全車に無線を入れる。エアカーは一列になって事務所へと急行した。


 事務所の近くにつくと、すでに事態を察していたのが事務所の前の道路を廃材やらドラム缶やら故障車などで粗末ながらバリケードを張り、道をふさいでいた。

「野郎、姑息な手を使いやがる!」

 エアカーから降りてバリケードに歩み寄ったゲーリーがバリケードの一部を蹴り飛ばす。

「ビックボス! 『NOBUNAGA』で行きましょう」

 ゲーリーの乗っていたエアカーに乗っていたチェンバレンがビックボスと呼ばれたサングラスの男に車越しに呼びかけた。

「よし、これより『NOBUNAGA』を仕掛ける。1回で突破を決めるぞ!」

「了解!」

 刑事達は再びエアカーに乗ると、横一列になってバリケードから少し後退した。

「砲撃準備!」

 ビックボスが全車に指示を出すとエアカーのサイドミラーの下の部分から銃口が顔を出した。

「一斉射撃後に突入する! ファイア!!」

 エアカーについている銃口が一斉に火を噴いた。砲弾はバリケードに直撃して軽く吹き飛ばした。まだ周囲が埃が舞っている中をエアカーが砲弾を発射した地点のバリケードへ一斉に突入していった。


 エアカーがバリケードを突破した先には星龍会と大きく書かれた事務所があった。

 既に相手は臨戦態勢らしく、事務所の前に積んである廃材などの影には組員が銃を構えてる姿が見え隠れしていた。

「ビックボス! 強行突破しますか?」

 ビックボスの乗るエアカーの助手席に座っているバナザードが銃の準備をしながら聞いた。

「よし。連中の潜んでいる廃材の手前に砲撃をし、怯んだところを一気に取り押さえる。いいな!」

「了解!」

 全車がまた横一列に並ぶ。と、組員らが銃撃を始めた。

「よし、撃て!」

 ボスが命令すると一斉にエアカーで砲撃をした。激しい爆発音と煙が立ち込める。

「煙が薄くなったら一気に突っ込んで捕縛する。みんないいな!」

「了解!!」

 ボスがそう指令を出し、皆が煙が薄れてきた頃合をみて一気にエアカーを降りて突入した。

「おとなしくしやがれってんだ、コンチキショーめ!」

 ボスの隣でチェンバレンが砲撃でひるんでいた組員の一人を取り押さえていた。他の刑事も順調に組員らを取り押さえていく。

「あらかた片付いたようですね。あとは事務所内に踏み込むだけですね…」

 バナザードがボスに話しかけた。

「待て、あちらさんからお出ましだ…」

 事務所のドアが開くと、組長のモブソン雅が手を後ろで縛った男の背中に銃を突きつけながら出てきた。

「アイツ、卑怯なマネをしやがる」

 組員の一人を抑えつけながらゲーリーがモブソンの姿を見つめていた。モブソンはゆっくりと左手で銃を男につきつけ、右手に持った銃はボスの方を向けていた。


「このマッポども! 一歩でも動くんじゃねぇ。こいつをブッ殺すぞ」

 モブソンは男に銃を突きつけながらボスに向かって叫んだ。

「わかった。何が条件だ、言ってみろ!」

 周囲を何かを探すかのように軽く見回してからボスはモブソンに言った。

「そんなもんわかってるんだろ? 脱出用の車と金だ! そうだ、地球向けのロケットもあるといいな。アッチだったらここよりも自由に暮らせるからな!」

 今の地球は荒廃し尽くされた暗黒時代のような様相を見せていた。富裕層は安全で数少ない自然に囲まれた土地で生活ができるが、そうでない数多くの人々は過酷な環境で暮らしていた。もちろんそうなれば荒れることは火を見るより明らかで、無法地帯と化していた。

「ずいぶんと高飛びをお望みなんだな…。わかった手配をするからしばらく待て」

 ボスはエアカーに戻り無線でモブソンに聞こえないように他の者達に伝えた。

「パグリアルーロとパチョレックは配置についたか?」

「こちら、ポンセ、パチョレックは配置につきました」

「こちら、デービス、パグリアルーロは配置についております」

 ボスの無線に返事があった。

「よし、なら頼むぞ。合図はいつものタイミングだ」

「了解しました。伝えておきます」

 二人同時に返事が返ってきた。ボスはそれを聞くと再びモブソンの方へ歩き出した。


「遅せぇじゃねぇか。早いところ準備してくんないとこいつをぶっ殺しちまうぜ」

 モブソンが男に向けていない方の銃をくるくると回してふざけている。と、ボスは手に持ったショットガンをモブソンに構えた。

「あいにくだが、お前さんの要望には答えられないと上からのお達しだ。残念だな」

 急なことにモブソンは真っ青になる。

「おいおい…こいつを殺してもいいんだな! いいんだな! いいんだな!」

 手を震わせて銃を構える。

「…といいたいところだが、人命が優先だ。車を用意するよう手配しておいた」

 ボスはそう言って銃を下ろした。モブソンがホッと胸をなでおろした瞬間、銃声が二つ響いた。その直後、モブソンが地面にうずくまっていた。

「この野郎! 好き勝手言いやがって!」

 バナザードが駆け寄ってモブソンを取り押さえる。モブソンは両手に傷を負っていた。

「相変わらず、いい仕事をするな」

 ボスは周囲を見回した。物陰で狙撃銃を持ったパチョレックとパグリアルーロが顔を出した。ボスはそれを見て手を握って親指を立てて腕を上げた。

「アナタアナタ、無事ダッタノネ!」

 駆けつけたモブソンらに軟禁されていた男の妻が男に駆け寄った。そのまま黙って抱き合った。

「一件落着ですね」

 ゲーリーがボスに話しかける。既に地元の警官らも来て組員らの連行や現場検証を始めていた。

「そうだな、後は任せて帰るぞ」

「了解!」


 今日もビックボス以下、銀河長屋の刑事達は事件解決に挑んでいくのだった。

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