エピローグ

 真生が呼んだ警察を待つ間、家に戻って事件の真相を話した。

 男は真生が持ってきた縄で颯馬に縛られて玄関に転がされている。投げられたときの衝撃が相当強かったのかずっと気絶しているままだ。


 男が狙っていたのは初めから私だった。どこで見たのかわからないが私を気に入った男は手に入れようとした。

 その頃、村に伝わる伝承にハマっていた私と結菜は図書館であの書物を見つけた。神隠しを調べるために他の人には内緒で山をかけた。

 女子中学生二人で山に入ったことは男にとって好機だっただろう。

 運悪く私たちがあの男に見つかったのが、神隠しが起こったとされていたあの小さな祠がある三昏山の中腹だった。

 男は私に向かってナイフを向けた。言うこと聞かないと強行手段をとると脅したのだ。

 恐怖に支配されて動けなくなった私を守るため、結菜が私と男との間に入った。男は邪魔するものを消そうとナイフを結菜に突き立てた。何度も何度も。

 しかし、そこで正気に戻って焦ったのだろう。その場に穴を掘り出した男から私は逃げ出した。けれど、山の麓で力尽きた。

 そして、そこで颯馬が私を見つけた。血に染まった私を見て、真生と二人、両親がちょうど出ていた颯馬の家で血をすべて洗い流し、服を変えてから大人たちに伝えたらしい。

 数日後病院で目を覚ました私は結菜のことは何一つとして覚えていなかった。

 事件前後の記憶も、過去の記憶も。時々豹変したように何かに怯えて暴れ出す私は約四ヶ月間精神病院に入れられた。

 結菜が私の発狂の原因だと判明したときに村からすべての結菜が存在した痕跡が隠され、はじめからいなかったものとして村は動き始めた。



 私の思い出した記憶のあとを颯馬と真生が補強する形で事件の全貌が明らかになる。

 一人の執着から始まったそれは壮絶なものであった。

 男は結菜を埋めたあと村の外に逃げ出した。

 そして、事件が収まった今、また私を村に戻そうと流した神隠しの噂にまんまと釣られたのだということが後日警察の取り調べにより判明した。

 あの祠の近くを掘ると白骨化した結菜が出てきた。二年の月日の間に男が埋めた上に土がさらに被さってより深くなってしまっていたらしい。

 犯人の自白により事情聴取は短く、私は予定通り四日目に帰宅することができた。




「まさか村ぐるみで存在を隠してたとはな」


 ゴールデンウィーク明け。部室に集まった私たちの話題は当然合宿のことである。


「みぃちゃん愛されてるんだねー」

「結局マジの事件で、しかも被害者は美桜の双子のお姉さんって。もう濃すぎですよ」

「けど、結果としてよかったよね。そういえば、陵。図書館からの帰り盛大に転んだやつ大丈夫だったの?」


 笑いながら言う副部長に部長が顔が真っ赤になり、掌に力がこもる。


「お前……!」

「そうですよ。田舎の道なんて整備されてないから危ないんです。どうしてあんなに暗かったのに山なんかがよく平気でしたね」


 村の人間である真生が懐中電灯を持っていたくらいだ。どうしてこの人たちが平気だったのかずっと不思議だった。


「そんなに暗かったか? なんかぼんやりと明るかったよな」

「そうそう。まるで提灯があるみたいに」

「提灯? 祭りなんて季節でもないし、そもそも山道に提灯なんて……あっ」


 私の思わずこぼれ出た声に副部長が納得したように頷く。


「そういうことだろうね」

「ですよね」


 顔を見合わせて笑みを浮かべる私たちに周りは首を傾げる。

 本当に愛されている。そう思わずにはいられなかった。


「えー! なになに! なんなの!」

「んー? さぁ? あっ、次はこれ、調べてみませんか?」


 そして、私は用意してきた資料を出し、この近くのとある都市伝説を話し出した。

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隠蔽された神隠し 紫垂 @syoran

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