第十八話 すべてを賭けて――。
二人を残して、奥へと進もうとした――その時だった。
リベドの部屋へと繋がる扉の方から、件の人物の笑い声が聞こえてきたのは。
見ればそこには、諸悪の根源が立っていた。杖をつき、ほくそ笑む老父――リベドは、ゆったりとした動きでこちらへとやってくる。
「ほっほっほっほっほ……ユキは死んだのかの。何とも理解不能な男じゃったの」
「――――――――――――っ!?」
そして、許されない一言を口にした。
何の悪びれもなく、こいつは命を賭して家族を救ったユキを冒涜したのだ。
「リベド――お前っ!!」
「ほっほっほ。そうすぐに頭に血を上らせるでない――程度が知れるぞ?」
俺が食ってかかろうとすると奴は、まるで子供をあやすかのようにそう言った。だが、それはもう俺にとってどうでも良いこと。アニの身を確保したなら、もう手加減をするつもりはなかった。そう、それはつまり――。
「リベド。お前は――【家族】をどう思う?」
――この【人でなし】を、再起不能に追い込むということだ。
「む? 何を馬鹿げたことを言っておるのだ。【家族】など取るに足らぬ。富や名声、己が命に比べれば軽いモノよ。そんなモノに、価値などないに決まっておろう」
俺の問いかけに、リベドは当然のことと言わんばかりにそう述べた。
「そうか――お前は、可哀そうな奴だったんだな。リベド」
「……なんじゃと?」
対して俺は、そう返す。すると老父は明らかな不快感を見せた。
けれども俺は以前のようには動じない。もはやあの時の俺ではなかった。決意も違えば、コイツへの恨みもあの時の比ではない。何だったら、即座にコイツを消し去ってやりたい衝動にだって駆られていた。
でも、その前に――コイツには教えてやらなければならないことがある。
そう。【家族】とは何なのか、を。
「お前は【家族】を取るに足らない、と言ったな? でもな、それは大きな間違いだ。何故ならユキのように、【家族】を守るために、それだけのためにここまで強くなれる。大切な人のためなら、驚くほどの力を出せる」
そう。【家族】とは力となるモノ。
【家族】とは、互いを支え合っていくモノであり――
「――そう。【家族】の中で【人間】は産声を上げて、成長するんだ。それは相互に、重なり合うように求め合い、高め合っていく。だから俺は思うんだリベド……お前は、それを知り得なかった。本当は可哀想な奴なんだ、ってな」
俺は、学んだすべてをここに紡ぎ出した。
それを黙って聞いていたリベドは、静かに、だが確かに怒りをにじませる。そして、まるで俺の素性を知っているかのような口調で、こう言った。
「ほう……じゃが、そうのたまうお主は何者じゃ?」――と。
それは、挑発するように。
しかしもう、俺にはそれを隠す必要はない。だから、言ってやった――
「――俺は、ただ【家族】が大好きなだけの【魔王】だよ」――と。
「ほう、【魔王】と言ったか――ならば、この程度は跳ね除けられるよのう?」
俺の言葉を聞いたリベドは、指を鳴らした。
すると、それを合図として扉という扉、影という影から仮面を付けた男達が姿を現す。間違いない。あれは【束縛】の仮面だった。
なるほど、数は百余名といったところか。けれども今はもうその程度の障害、苦でも何でもない――俺は一つ、指を鳴らした。
すると、出現するは無数の剣。
それらは狙いを外すことなく、男達の仮面を破壊した。
倒れ伏す男達を目の当たりにして、リベドは初めて狼狽えてみせる。そして――
「――貴様。誠に、何者じゃ」
そう漏らした。
だから、俺は改めて答える。
そこには今までの怒りを込め、こう宣言した。
「俺の名前は【魔王】スライ。そして――お前に引導を渡す者だ」――と。
こうして、始まるのだ。
俺が【人間】について、そして【家族】について知る旅の、最後の戦いが――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます