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 その日からさっそく森じゅうを歩き回って、パーツ探しをはじめる。


 いちばん最初に見つけたパーツはちょうど真ん中くらいの重さだったようで、それより重いパーツは家の手前あたりに、それより軽いパーツは洞窟より離れたところで発見することができた。


 幸いだったのはどんなに小さいパーツでも私の頭くらいあって、見つけやすいことだった。

 リコリヌの鼻のおかげでもあるんだけど、砂漠の中から砂金を探すような苦労はなかった。砂漠に落ちた隕石を見つけるくらいの労力ですんだ。


 でもリコリヌにも見つけられないパーツがひとつだけあって、もしやと思って池の中に入って探してみたら底のほうで見つけた。

 水に沈んでたおかげでニオイがなくなってたんだ。


 あとはすごい重いパーツとかもあったんだけど、それはロープを使ってリコリヌに引っ張ってもらって運んだ。


 それから何日かかけてパーツをぜんぶ集めたところで、本の説明にならってゴーレムを組み立てた。

 ちなみにこのゴーレムは、私が幼い頃に積み木で作った人形が元になっている。


 パパとママが、私が喜ぶようにとデザインを取り入れてくれたんだ。

 まぁデザインというか、ただ四角と丸をくっつけただけなんだけどね。


 でもおかげでどこがどのパーツなのかすぐにわかり、重さ以外の苦労をすることなく仮組みすることができた。


 積木が元になってるゴーレムだけど、身体は積木よりも大きい。

 私よりも、パパよりも大きくて、背伸びしたクマくらいの大きさがある。


 全身は角ばっててゴツゴツしてるけど、水色をベースにした白い雲模様の塗装がされていて、なんだか赤ちゃんの部屋の壁紙みたい。

 これはペンキ片手にパパが「ルクシー、どんな色がいい?」と聞いてきた時に、私が大空を指差したところから来てるんだって。


 パーツ同士を結合する方法はいくつか種類があるらしくて、よくあるのは機械仕掛けの関節によってくっついているやつなんだって。からくり人形みたいに動くらしい。

 少ない魔力で動かせるのがいい点なんだけど、組み上げるのが大変なのと、物理的に劣化しやすい、あとは動作音が大きいという欠点がある。


 そしてパパとママが作ったゴーレムは、魔力を使ってパーツ同士を磁石みたいにくっつける方式だ。


 組み上げるのが簡単なのと、物理的に劣化しにくくて動作音も少ないという長所がある。

 短所は動かすための魔力が多く必要……ようは機械仕掛けのやつとは逆の性質を持っているらしい。


 ぜんぶ本の受け売りなんだけど、魔力でくっつけるタイプだったおかげでゴーレムの知識が全くない私でも組み上げることができた。

 機械仕掛けだったら完全にお手上げになるところだった。


 ひとまず地面に寝かせた形での仮組みができたので、次のステップである生命を吹き込む呪文を唱えることにした。


 ゴーレムというのは、主人として教え込まれた者以外の命令は聞かない。

 このゴーレムの主人はパパとママのはずなので、このままだと私の言うことは聞いてくれない。


 でも本には、私を主人として教え込むための呪文がちゃんと書いてあった。

 教え込む魔法はとっても難しくて、私じゃ自力で組めないんだけど、ママはこうなることを見越していたのか、呪文をあらかじめ組んでおいてくれたんだ。


 だから私は書いてあるとおりに印を結んで、呪文を読み上げるだけでゴーレムの主人になれる。

 さっそくやってみよう、と触媒を呼ぶ。


「おいでリコリヌ! お座り、お手!」


 私がしゃがんで手招きすると、犬のリコリヌはすぐさまやって来る。サッと腰を落としたあと、片手をスッと私の掌の上に乗せた。

 私は煙突掃除の棒みたいなその手を握りしめ、本を覗き込みつつ呪文を読み上げる。


「……エリサリオ・ハートーンの名においてここに命ずる、ルクシークエル・ハートーンを新たなる主のひとりとして、その言葉に聴従せよ……エー・アル・セル・ハル・エリサリオ・スレイ・アド・ルクシークエル・フォール・トーク・ニール・セーマンテリオン……シャグオクト!」


 前もって練習しておいた甲斐あって、長い呪文でも一発で唱えられた。


 結んだ印が、巨大な氷の塊みたいな真四角の胴体に吸い込まれていくと、表面にギラリと光沢が走る。

 ガガガガガガと金属どうしが擦れ合うような音をたてて、アイアンゴーレムが起き上がった。


「や……やった! やったあっ!」


 私はリコリヌの手を握りしめたまま、腕を高く振り上げて喜ぶ。

 ゴーレムは続けざまに立ち上がろうとする。


 中が空洞になっている金属のパーツ同士が、動くたびにぶつかり合っているのか、調子のはずれた楽器みたいな甲高い音をたてていた。

 でも時間がたつとパーツ同士の間に隙間ができ、耳障りだった音はだいぶ小さくなった。


 ゴーレムは立ち上がる動作を終えると、ゆっくりと頭を傾け、私を見おろす。

 こちらに向けられたのは、幼い頃から見慣れているゴーレム顔だった。でも自分の力でこの子を復活させたんだと思うと、見つめられているだけでなんだかドキドキした。


 ゴーレムは命令を待っているようだったので、私は逸る心を抑えつつ、何か命令してみることにした。


「えーっと、えっと、どうしようかな、どうしようかな、あなたに何を命令しよう? うぅん、どうしよっかな……」


 最初の命令は大事だ、なんたって、私が生まれて初めてゴーレムへと下す命令。

 私が大きくなって偉大な勇者になったら、後世に残ることになるからカッコいいのじゃなきゃダメだよね。


 あれやこれやと考えてみたけど、途中でいいことを思いついた。


「あ、そうだ! あなたじゃ呼びづらいから……えーっと……そう、アイン! あなたの名前は今日からアインよ!」


 私が最初にアイアンゴーレムに与えたのは命令ではなくて、この子の名前だった。

 アインはその名前を受け入れるように、両手を振り上げてガッツポーズをしてみせた。

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