37
家から遠ざかりつつ、スペットの森へと足を向ける。
いつもは家から南に行けばすぐに着けるんだけど、ゴブリンたちがいるので川の所から遠回りして向かった。
この前、狩りをしてたら偶然見つけた洞窟があるので、いったんそこに身を寄せることにした。
初めてウサギを仕留めた丘の麓にそれはあって、入口は大きな木の背に隠れていて茂みにも覆われている。
一見してもわかりにくいので、隠れるにはバッチリの場所だ。
ただ中はそんなに深くなくて、私が寝転んで身体を伸ばしたら足が外に出てしまうくらいの奥行きしかない。
こうして改めて見てみると、洞窟というより窪みといったほうがいいかもしれない。
でも少しの間の辛抱だ。
この窪みにこもって情報を集めて、奪い返すための作戦を立てて成功させれば、また我が家に帰れるんだ。
私はひとまず穴の中に荷物を置くと、木漏れ日のように差し込んでくるわずかな夕明りを頼りに、持ち出してきたゴハンを食べた。
お腹を満たしたあと、今日はいろいろあって疲れていたのですぐ横になる。
やらなければいけないことはいっぱいあるけど、明日からにしよう。
でも地面がゴツゴツ固くてなかなか寝れなかったので、リコリヌの鞍リュックを床敷きがわりにして、猫のリコリヌと私のぬいぐるみを抱きしめながら眠りについた。
次の日から、小さな別荘での生活がはじまった。
朝のうちに森を巡って食べ物を集めて、その合間に家を偵察するという毎日を送る。
ウサギを狩ったり火を使ったりすると、跡が残るおそれがあったので普段は木の実を食べ、たまに遠く離れた所まで行って干し肉やキノコを焼いて食べた。
ゴブリンたちは私が地下に貯めておいたゴハンの他に、どこからか持ってきていた荷車の中にあるものを食べていた。
たまに森にもわらわらとやって来て、ウサギやシカなどを狩っていた。
私は鉢合わせするんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだけど、どうもゴブリンはかなり臭うらしく、リコリヌが得意の鼻で近くに来たらすぐに教えてくれた。
おかげで、寝ているところを見つかるなんていう最悪のことは避けることができた。
それと野宿は生まれて初めてだったんだけど、寝心地の悪さに加えて、虫とかも寄って来るのであまり眠れなかった。
本にならって虫よけのハーブを身に付けて寝るようにしたらだいぶ楽になった。
それでも身体の窮屈さだけはどうしようもなかった。
目覚めると身体じゅうが痛かったので、朝起きるとすぐに穴の外で、大きく伸びをするのが日課になっていた。
そんな日々を送っていると、疲れだけでなく焦りも募っていった。
いくら考えても、ゴブリンたちを倒すいい手だては思いつかなかった。
どこかへ行ってくれることを祈る毎日だった。
でも、ある日、それを見つけたんだ。
朝起きて穴から這い出たあと、日課となった背筋伸ばしをしていると、木の上に引っかかっている何かが目に入った。
私はいつもは穴に背を向けて伸びをしてるんだけど、その日に限って穴の方を見ながらしたんだ。
そしたら顔をあげた拍子に、穴の上で不自然にしなっている木の枝が目に入った。
そこには明らかに自然のものではない、四角い水色の物体が引っかかってたんだ。
「あれ、なんだろう……?」
木に登ってはたき落としてみると、ガランガラン大きな音をたてて地面を転がったので、ゴブリンに見つからないかドキッとしてしまった。
私の寿命を半日くらい縮めたそれは、金属の塊だった。
四角いブロックみたいな形をしており、水色のペイントに白い雲の模様が描いてあって、ところどころ大きな出っ張りやへこんだ穴が空いていた。
「これ、どっかで見たことあるような……?」
私は金属片のまわりをリコリヌと一緒にグルグル回って、いろんな角度から観察した。
すると、隅のほうに小さく文字が彫り込まれているのを見つけた。
「えっと……ゼングロウ&エリサリオ共作、アイアンゴーレム……」
文字を読み上げた私は、アッと声をあげる。
「これ……パパとママが作った番人のゴーレムだ……!」
ゴーレムというのは魔法により生命を吹き込まれた、動く人形のこと。
主人にのみ従い、与えられた命令をひたすらこなす。複雑なのは無理だけど、理解できる命令であれば拒否しないうえに疲れも知らない。
ただ力の源である魔力が尽きてしまったり、壊されちゃったりしたら動けなくなる。
従順で頑固な意思を持つ、魔法と機械を併せた奇妙なヤツなんだ。
このゴーレムは、かつての夜の嵐で吹き飛ばされて、バラバラになって動けなくなっちゃったんだ。
鉄でできたゴーレムをこんなにしちゃうなんて、あの嵐は相当強烈だったんだろう。
私はゴーレムの変わり果てた姿に心を痛めてたんだけど、ふと閃いて、本の「ゴーレムについて」の項を調べてみた。
その中のママの解説によると、壊れて動かなくなったゴーレムは魔法により再び生命を吹き込むことができるらしい。
「ゴーレムの部品を集めて組みたてて、生命を吹き込むことができれば……イケるかもっ!?」
まだ家があった頃、このゴーレムは休みなく外を見回りして、我が家の平和を守ってくれていた。
動きはのろいけど力はすごいみたいで、岩の後ろに隠れていた悪いヤツを、岩ごとブッ飛ばしているのを見たことがある。
うまく使えれば、ゴブリンとの戦いでかなりの戦力になるはずだ。
もうこれしかないと決めた私は、さっそくリコリヌに頼んでアイアンゴーレムの部品のニオイを嗅いでもらった。
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