第17話

「優磨はミルクティー……幸はカフェオレで、あとは……」


誰もいない自動販売機ルームに飲み物が落ちる音が響く。

一心は、自動販売機の前でボタンを押す。ぶつぶつと全員から注文された物を繰り返しながら、次々と飲み物を買っていった。

近くにあった椅子に買った飲み物を置き、やがて全員分を買い終えた一心は、財布の中身を見て、う、と止まってしまった。


「うぅ……財布の中が空っぽだ……」


だが、こんな事で悲しんでいたら篠崎家では生きてはいけない。一心はふっと一人で髪の毛を払い、そろそろ戻ろうと、椅子に置いてあった飲み物を順番に両手で持ち始めた、その時だった。


「……っ?!」


がらん、ごろん、がたんっ!

持っていた飲み物が全て地面に転がった。目の前の椅子に捕まって、倒れそうな体を止めた。膝を強打したが、そんな痛みなど伝わってこなかった。


「……っは……」


一心は震える手で地面に転がっている暖かいミルクティーを右手で取った。暖かい。それをそのまま左手に渡す。


何も、感じない。


一心は右手で、右足の太ももをごつんと叩いた。痛い。今度は左足の太ももをごつりと、同じ強さで叩いた。


何も、感じない。


「……ぁ……」


やばい、と思ったら、もう駄目だった。勝手にぼろぼろと涙が溢れて、地面に転がる缶やペットボトルへと伝っていった。

少し、違和感は感じていた。左の手足に痺れを感じていたのだ。それでも少しの違和感だけで何も支障は無かったし、手足の痺れだったら今までの副作用に体験したことあった為、気にしないようにしていたのだ。

だが、今。飲み物を取って立ち上がろうとした時。左側の感覚が失った。左足と、左手腕の感覚が、無い。急にそれが起きた為に崩れてしまった。

今まで体験したことの無い、副作用。体を壊していく、副作用。命を削るーーー副作用。


「……っ……」


大丈夫、怖くない。大丈夫。

感覚が無いだけで、力が入らない訳ではない。その証拠に左手に飲み物を持って立ち上がっても、何も可笑しなところはない。すぐ治る、大丈夫。

ただ、この左手で、力加減が分からないこの左手だけで、何かに触れなければ、弟達にバレる事はない。今まで通りに過ごせば、気付かれないはず。

大丈夫、大丈夫。怖くない。


一心は、ごしごしと袖で涙を拭いて、全ての飲み物を拾って、ゆっくりと歩き出した。向かう先は、大事な大事な兄弟の元へ。家族の元へ。

あの弟達には、何も不安など感じずに、ただ幸せに笑って生きてもらいたい。笑っていてくれるのなら、あの笑顔を見れるのなら、この副作用だって、怖くない。

例え命を削られてる副作用だとしても、体を蝕んでいく副作用だとしても、ちっとも怖くない、大丈夫。

気にするな、決めたではないか。あの場を守ると、決めたではないか。バカやって、笑って、喧嘩して、そんな当たり前の事が出来る場所を守る、と。


例え、自分が居なくなっても、守ると。


そう決めた。

だから、こんな副作用、怖くないのだ。あの場から笑顔が無くなる事の方が、よっぽど怖く感じる自分には、こんな副作用、ちっとも怖くない。


「……怖くない」


弟達を守れるなら。

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