第14話

病院。

何も覚えていない。じゃあ最後に覚えているのは? 最後に記憶として残っているのはーーー。


自分を守るように目の前に現れた、白色の背中。


「!!」


一心は思い出した反動と共に起き上がれば、ぐらりと眩暈がした。だがそんな事いま気にしている場合ではない。

倒れている優磨に駆け寄り、抱き起こす。ぐったりとしていて、目を閉じ、まるで寝ているようだ。服についている血も、もう広がってはいない。ちゃんと暖かい、冷たくない。それでも刺されたのだ、自分を守って、刺されたのだ。


「……優磨……っ!」


守れなかった。自分のせいだ、自分がもっとしっかりと周りを警戒していれば。力を使っているから大丈夫だと、油断していたせいだ。何が守ってやる、だ。前回の幸の時に思い知らされたのに、そんなの全然意味がないではないか。もう二度と、同じこと繰り返したくないのに、守る、と誓ったのに。こんなの、こんなの。


「一心!」


目の前がぼやけ、押し寄せてくる後悔で頭が爆発しそうになった時、真人の声が聞こえた。

はっとして声の主を見ると、いつの間にか上に浮いていた鉄パイプや木材は、隅へと移動しており、真人は男の頭を掴んでいた。


「後悔する前に早く病院行くぞ!」


男から手を離して近付いてきた真人は、一心の額にデコピンをした。痛い。


「ほら、しっかりしろ! いまアイツの記憶消したし、あの姉ちゃんの記憶も消した。救急車も呼んだから、俺等がここにいたらやばいんだって! いくぞ!」


優磨なら大丈夫だから、と、一心の頭を撫でる真人は、長男の顔をしていた。時々見せる、長男でまとめてくれる兄弟が好きな顔だ。

目を袖で拭き、優磨を抱えて立ち上がる。ふと、入り口を見れば、あの彼女が静かに横になっているのが見えた。怪我をしている様には見えない。記憶を消した、と言っていたから、きっとこの事は覚えていないのだろう。その方が良い。真人がどのように記憶操作したか分からないが、お互い見直した方が良い。


「一心」

「……ああ」


救急車の音がこちらに近づいてくるのが聞こえ、真人は入り口付近で彼女を見つめている一心の名を呼んだ。

それに返事をし、二人は急いでその場から離れたのであった。

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