第12話

ああ、何でこんな事になったんだっけ。


優磨は、たらりと汗を頬に流して、じりじりと後ろへと下がる。やがて工場の壁へと背中がついてしまい、舌打ちをして目の前の男を睨んだ。



「殺す……お前が奪ったんだ……! お前が俺の幸せをぉ……!」



男は目が血走っており、腕なんかぴくぴくと血管が浮き出て動いている。相当興奮している証拠だ。そして、その両手には、一本のナイフ。それを震えながら持っているせいで、かたかたと音が聞こえてきそうだ。



(……決して、奪ってはいないんだけどな)



優磨は、ここに来るまでの経緯を思い返してみた。











最近、街を歩いていたら一人の女の子に声を掛けられた。小柄な女の子で、長い髪の毛にパーマをかけていて、とても可愛らしい女の子。正にドストライクだった。


それをきっかけに、メールで連絡しあうようになった。毎日おはよう、やら、今日はなにをする、やら、おやすみ、やら、どうでも良い事を言い合って、たまに会うようになった。端から見たら、良い感じの雰囲気だ。


まかさ兄弟の中で一番早くに彼女が?! なんて、自分でもるんるん気分だった。


そんな時だった。


何とも衝撃な真実が彼女の口から発せられた。



「私ね……彼氏がいるの」



同棲している彼氏がいる、そう言った。


衝撃だった。声をかけてきたのは彼女だし、彼氏がいる雰囲気も出ていなかった。


驚愕で声が出せなかった優磨に、彼女はごめんなさい、と謝って、でも、と話を続けた。


聞けば、彼氏は彼女を愛しすぎて手を出す、という事だった。それなら知っている。DVというものだってことくらい、知っている。


手を出されるのは服の下。服を着てしまえば気付かれないような場所。そして手を出された後には必ず謝って、優しい彼に戻るみたいだ。それは徹底的な暴力だ。そんな男すぐに別れた方がいい。



「それで、それがストレスで……だから優磨君に声かけたの」



誰でも良かった。心の癒しを求めていた。ごめんなさい。と、彼女は続ける。


優磨は勿論言った。「別れた方がいいよ!」 と。彼女は、そう何度も考えて、男にそう伝えたと言う。だが、伝えた矢先飛んでくるのは何も変わらない暴力の言葉の刃。


「お前は俺のモンだ」から始まりまた手を出され「ごめん本当にごめん愛してる、だから別れるなんて言わないで」で終わるようだ。


怖くてたまらない、警察に行くのも怖い、と彼女が涙を流すのを見て、優磨はこう言った。



「俺、一人じゃ無理だから、兄さん達に相談してみるよ。大丈夫、きっと何とかしてみせるから」



優磨の兄弟、五人はクズなバカだ。そこに女性が絡むともっとクズになる事は知っている。だが、真剣な話に対して、真剣に向き合ってくれることも知っている。



また連絡するから、とそこで別れて、家に帰宅して早速相談した。


やはり最初は、女性というワードを使っただけで、殺されそうになった。「話聞けよ!」と怒鳴ればやっと話を聞く体勢に入ってくれた。本当にクズだ。だからモテないんだよ、もちろん俺もだけど。しかし、誰にでも優しい優磨には密かにファンが居ることを本人は知らない。


そして今自分が抱え込んでいる事を話せば、真剣に考えてくれた。クズなのか、しっかりしてるのかどっちなんだ。


うんうんと悩んでいたが、一心が結論的にまとめたのが「彼女の本当の気持ち」だった。確かに、優磨が話を聞いたときは、別れた方がいいよ、と言って、最終的に彼女の本来の気持ちを聞いていない。これからどうしたいのか、それを確かめたあとで、となった。



だからまず彼女と会うために連絡をとり、待ち合わせた。君がどうしたいか聞きたい、と書いて街中の待ち合わせ場所で待っていた時だった。


彼女から連絡がきたのだ。内容的には、「人目がつかないところで話したいので、ここに待ち合わせましょう」との事だった。


確かに、あまり人が沢山いる所で話したい内容でもない。優磨は送られた画像の場所へと足を進めた。


調べてみると奥の道にある、隠れ家のようにぽつんと建てられたカフェの様だ。ここなら静かに、真剣に、尚且つ人目つかずに話せる。


さすが隠れ家をイメージした店だ、周りの景色はやがて、人目のつかない道へと変わっていった。



その時点で、いやむしろ、彼女から連絡が来た時点でおかしいと、思っていれば良かったのだ。疑わずにここまで来たのがいけなかった。



「お前か……あいつを盗もうとしてる奴は……!」



後ろから現れたのは、一人の男だった。


こちらをぎろりと睨み、今にも殴りかかってきそうな、体格の良い男。その顔には見覚えがあった。


あの彼女の、彼氏だ。彼女の携帯でこれが彼氏だ、と見せてもらった画像と、同じ顔だった。画像の中に写っていた彼氏は、とても優しそうで穏やかそうな印象を受けたが、今目の前にいる男からはそういった印象を全く受けない。目が血走っており、眉間にしわを寄せて、いかにも悪人という感じがした。


これがあの画像に写っている人物と同一人物だとは思えない程だった。



「あいつとこそこそと会ってやがんのはお前だな……許さない、許さない……!」



じりじりとこちらに近付いてくる男に、優磨は背中を向けて走り出した。この人目のつかない場所を待ち合わせ場所にしたのは、あの男だと、すぐに理解した。こうも都合良く立ち合わせるなんて考えられない。大方、彼女の携帯を何かしらの理由で手にして、連絡を寄越したのだろう。そうなれば今日会う、ということも知っていたに違いない。


彼女が言ったのか、それとも携帯を見たのか、それとも二人でいるところを見られたのか、とにかくどの理由でも今の状況をどうにかしなければならない。


優磨は、知らない道をとにかく走り続けた。


そして冒頭に戻る。



知らない道なのが不運だった。走り回っている内に奥へと行ってしまって、たどり着いたのがここ、もう使われてはおらぬ工場だった。


入り込んで立ち向かおうとした時に、武器であるナイフを取り出され今に至る。



男はもう我を失っている。話をつけるという方法も考えたが、それは難しそうだ。



「返せよ……! あいつは俺のモンだああ!」


「……ッ!」



叫びながら男は、ナイフを振りかざした。それをギリギリなところで避けて、男の背中へと回り込む。だが、男は素早く後ろへ向いて、がむしゃらにナイフを振り回してくる。



「返せ! 返せえええ!」


「ねえ、ちょっと! さっきから返せ返せってさ……ッ、彼女の事大切にしてたの!」


「………ッ」


「そんなに離れたくなかったら、大切にしろよ! それに彼女は……っ、」


「うるせえ! テメェに俺等の何が分かる……! 幸せを奪ったのはお前だ……お前が……! お前があいつと会うから、俺から離れていくんだ! お前のせいなんだ……お前の……!」


「!!」



運が悪いのは連続で続く時がある。優磨が避け続けていた際に、足元に転がっていた鉄パイプに躓いてしまい、体のバランスを崩してしまったのだ。それを男は見逃してはくれず、腹に思い切り蹴りを入れられた。


筋肉もそれなりについていたその力に勝てず、優磨は吹っ飛ばされ、転がると同時にそこら辺に落ちていた木材に頭を思い切りぶつけてしまった。


ぐらりと一瞬目が回り、目の前がちかちかと光っている感覚がした。



「ああああ!!」


「…………!!」



狂ったように叫ぶ男が、ナイフをこちらに向かって振りかざすのが、回る景色の中に見えた。このままいけば、ぐさりと、あのナイフが刺さってしまう。



やば、間に合わない。



優磨は反射的に目を閉じて、来たる衝撃を受け止めようとした。


……が。



「……ぁ、……なん、だ……」



衝撃が来ない。肉を裂く痛みも、血が流れる感覚も来ない。代わりに聞こえたのは、男の小さな声のみ。


優磨はそろりと目を開けると、ナイフが目の前で止められていた。あと数センチ動かせば、刺さる所の様な場所で、だ。



「優磨!」



そして、離れた所から聞こえたのが。



「一心兄さん!」



四人の兄の内の一人。次男の優磨の声だった。


一心は工場の入り口付近で、こちらに向けて手を前に翳していた。それを見て優磨はピンときた。


この男の動きを止めているのは一心だ、と。



一心と、残りの兄の内の長男である真人は、物心ついた時から超能力が使える。物を浮かしたり止めたりする念力、力を見られた時に使う記憶操作。最近では一心が千里眼を発症させている。


今までもかなり助けてもらったが、どうやら今回も助けてくれたようだ。今、目をぱちくりとさせて、顔を青くして、口をぱくぱくと動かしている目の前の男は、一心の念力によって体を動かせないのであろう。


優磨に刺さる一歩手前で、止めてくれたのだ。



一心は手をおろして、優磨と男に近寄り、男が手にしているナイフを目掛けて蹴りを入れた。ナイフは入り口付近まで飛ばされ、もう男は使うことは出来ない。



「優磨、大丈夫か!」



ナイフが飛ばされたのを確認した一心は、優磨の前にしゃがみこんで、頭を撫でた。



「大丈夫、ありがとう。……でも一心兄さん、何でここが?」


「優磨が言っていた彼女が教えてくれたんだ」





一心は言う。


今日、優磨と彼女が話し合う事は知っていた。それが終わるまで、自分達に出来ることは無い。一心は家で待とうとしたが、どうにも落ち着かなかった。その為少し外を散歩していたのだ。



そこで出会ったのが、優磨に聞いていた彼女だった。



歩いていると、酷く焦って辺りをキョロキョロと見渡し、何かを探している様な同い年ぐらいの女の子を見つけた。険しい顔をしていて、どうしたのだろと思って、話しかけた。



「どうしましたか?」

 



自分にすがり付くような目をしている彼女を、見捨てておくのはいくら何でも頂けない。しかも、話を聞けば弟の名前が出てきた。それなら話は別だ。


まずは落ち着かせて、自分は優磨の兄である事を説明すると、自分もこの人が優磨が言っていた人だと理解した。


だが、すぐに顔を青くさせて、話を進めた。



話を聞けば、どうやら彼氏は優磨と今日会う約束をしているメールを見てしまったようだ。


そして彼女が少し目を離している隙に、優磨に嘘の待ち合わせのメールをして、姿を消した。彼女はそのメールを見て、探しに来た、と。


先程待ち合わせ場所まで行ったが、二人の姿も見えず、もしかして元の待ち合わせ場所にいるのではと考え、街まで戻ってきたと言う。



「私の……私のせい……私が優磨君に話し掛けたから……!」



彼女はそう言って涙を流す。


ぼろぼろと流す彼女を見て、一心は肩をポンと叩いて言った。



「心配ないですよ。俺の弟だって男ですから、あとは俺に任せてください」



そして彼女に家で待っているように言い、一心はその場から離れて裏道に入り込んだ。そこで超能力の一つである千里眼を使って、この工場に入る優磨が見えてここに来て今に至る、と。






「一応一心兄さんにも連絡したんだが、間に合ったみたいだな。良かった」



そう笑って手を差し伸べる一心は、我等弟達が好きな兄の顔だ。自分等を助けてくれる時に必ず見せる兄の顔は大好きである。



「ありがとっ兄さん!!」


「うん」




優磨は差し伸べられた手を握って、起き上がる。先程打った頭も少し痛みを感じるが、血は出ていないため大丈夫であろう。



「さて、こいつをどうしようか」



一心が見つめた先には、驚愕で声が出ないのか、未だに口をぱくぱくとさせている男だ。未遂とはいえ、優磨を刺そうとした、傷付けようとした。それは許される事ではない。


ぎろりと睨んで、片手をポキポキと鳴らせば、男の表情は恐怖の色に滲んだ。



「ちょっとストップ! 気を失わせる前に話し合ってもらわなきゃ!」



"一心は兄弟を助ける為なら何をするか分からない"

それが弟達全員に真人から言われていることだった。一心は普段は怒ることは無いが、兄弟が絡むと見たことない程キレる事がある。


これを見たことあるのは片手で数えるほどで、もう数年見ていないが、一心がキレるとやばい。これだけは分かる。


そんな一心を唯一止めることの出来る真人から「キレる前に一心をとめろ!」と言われている為、止める為に優磨は一心の腕を掴んだ。



「……あの彼女か。そうだな、話し合ってもらわなきゃな」


「そうだよ、だから落ち着いて、兄さん」


「いや、俺は落ち着いているが……それにしても、女の子を助ける姿は輝いている、さすが俺の」


「よし、とりあえずここから離れよっか」


「…………。そうだな」



恥ずかしいことを言いそうだったので、言葉を重ねたがそのお陰でいつもの一心に戻ったことが分かった。


優磨はほっと息を吐いて、とりあえずこの男と共に彼女の所に行かないと、と考えていたら、男が急に叫び出した。



「おいお前ら……またあいつの所へ行く気か! 行かせないぞ! あいつは俺のモンだっ!!」


「ちょっと、そんな物みたいに……」


「お前らのせいであいつは俺の側から離れようとする……そんなの許さねえ! あいつはこれからも俺の指示通りに動けばいいんだよ!」


「は、」


「そうすれば俺たち二人は幸せに生きていける……そうだ! 二人で! あいつは俺の物だ! あいつは一生傍にいるんだ! 自由なんて与えねえ!」



先ほどまで恐怖に滲んでいた表情はもう無い。"彼女"というワードがいけなかったのだろうか、興奮し目が鋭くなっていくと同時に本音がぼろぼろと溢れていく。


分かるのは、もうこの男は間違った方向で彼女を愛してしまっているという事だ。彼女と話し合ってもらう前に、この男の本音を聞いてしまったことに悲しさを感じてしまう。二人で話し合ってあわよくば、と思っていたのに、それはもう無理そうだ。もうやめてくれ、と耳を塞ぎたかった。


そして、今日は本当に悪いことが続く日の様だ。



「……なにそれ」


「!!」



汚い本音が聞こえる中、ぽつりと響いた小さな声は、それでも確かにはっきりと聞こえた。


その声がした入り口方面を見ると、扉の前でこちらを睨んでいる、彼女。



「わたしは……わたしが……どれだけ我慢したか……!」



一心に家で待っていろと言われていたはずなのに、追いかけてきたのだろうか、もしそうだとしたら、どこから聞いていたのだろうか、あの悲しそうに話していた表情はもうどこにも無い。怒りだけを出し、ふらりふらりとこちらに歩いてくる。


そして先程一心が蹴り飛ばしたナイフを手に取って、震える両手でそれを握り腹の前で構えた。



「ちょ、それは! まって……!」


「返してよ……私の時間返してよ……っ! 貴方に費やした時間を返してえええ!!」



彼女が彼氏にどんなことをされたのか、どんな事をしたのか、全て把握している訳ではない。その怒りは、彼女しか知らないもので、他人からしたら分からない事なのだろう。しかし、その怒りをその行動へは移してはならない。それだけは分かる。


優磨は声をあげるが、その声はもはや聞こえていないに等しい。その声を無視し、彼女は構えたまま停止している男へと一直線へと駆け出した。



「止まって」



しかし、優磨が彼女へ駆け出す前に、一心が動いた。


ナイフを握り締めている両腕を掴んで、肩を掴んで彼女の動きを止めた。男と女では力が違いすぎる。ましてや兄弟の中で一番力の強い一心だ。あっさりと止められて、彼女は悔しそうに涙を流した。



「何で、何で止めるの……! 許さない、許さないんだから……!」


「許さなくてもいいが、それだけは駄目だ。君の手をあんな奴の為に汚す必要はない」


「だって、あの人は、あの人は……!」



しゃっくりをあげながら一心にすがり付くように泣く彼女を見ていられない。優磨はふいと、視線を反らした時に、それを見た。


先程までぴたりと体を止めていた男の体が、震えている。おかしい、今この男は一心の超能力で動かせないはずなのに。



「……せ、……れを、はなせ……。……くな……」



何か小さくぶつぶつと呟いており、口が微かに動いている。それは理解できるのだが、段々と手の位置が変わってきているのは、気のせいだと思いたかった。


そして、ぐりんと首を一心と彼女へと向けたのと、一心の体がぴくりと反応したのは、ほぼ同時だった。



「そいつを、そいつから離れろおおおお!」



男が、叫んで動き出す。


一心は自分の力を振り切られたのを感じた。ぱりんと、男に使っていた力を壊される感覚。何かに跳ね返られた感覚だ。



(破られた……!?)




初めてする体験に目を見開くが、直ぐ様後ろを向こうとする。だが、既に男はポケットからカッターを取り出して、一気に一心に向かって駆け出していた。



(間に、合うか……!)



未だに涙を流している彼女を背に隠して、男の動きを止めるために手を前に翳そうとした。間に合わなくても、そのカッターが自分の体を突き刺さろうとも、この男の動きを止めようと、そう、思っていたのに。



体に何か当たったと同時に、視界に広がったのは、赤色。



「……え、」



一心が彼女を背に隠しているように、一心を背に隠すように前に立っているその赤色は、のように暗い色。


そして、その赤に対して先程止めようとした男が、目を見開いている表情がよく見える。目の前にあるからだ。


何故目の前にあるか? 何故目を見開いているか?

それは男がゆっくりと赤い物体から離れた際に見えた、手に持たれているもので分かった。



「ゆ、うと……?」



カッターには、どろりと流れる赤い赤い血。そして、ふらりと倒れる赤色……優磨。


咄嗟に一心はその体を受け止めると、手に何か暖かいものが付いた。自分の手を見るとそこには、カッターに付いている同じもの。それが優磨の腹部から流れているものなんて、考えたくもなかった、信じたくなかった。今、自分が夢を見ていると思いたかった。



優磨が、一心を庇ったのだ。



「優磨……優磨……!」



白色の服が段々と赤色に変わっていく横腹を手で押さえて、優磨を横向きに抱えた。苦しそうに顔が歪められて、汗を頬に流して目を閉じている。


後ろにいる彼女は顔を青ざめて優磨の名前を呼んでいるし、男だって震えてカッターを落として「俺じゃない、俺のせいじゃ……」と呟いているが、それに目や耳を傾けず、弟の名を何度も呼ぶ。



ぐつりぐつりと、自分の中にある液体全てが沸騰しているのではないかと思わせるほど、熱くなるのを感じた。目に写る景色も、赤く染まっていく様な気がした。


やめろ、やめてくれ。弟の顔が見えない。やめてくれ。


一心は、震える手で優磨の手を握る。すると、それに応えるように、優磨の目がゆっくりと開いた。



「優磨!!」



優磨は、ぼんやりとした目に一心を映して、握られた手をゆっくりと動かした。そして、心配そうに、悲しそうに、悔しそうに顔を歪ませている一心の顔に手を伸ばしてへらりと笑ったのだ。



「無事で、よかった……一心……」



頬に触れると思った矢先、その手は力無くぱたりと下ろされ、体から力が失い、全体重が一心にかかる。


その、よく昔に聞いていた呼び名で、小さく、儚く、消えていくような声を聞いた瞬間。



「……ぁ……」




ぷつりと、何かが切れる音がした。



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