第5話 夜が明ければ
その後の一週間は、日めくりカレンダーをめくるくらいのペースでめくっていくように早く進んでいくように感じた。よく、昔を振り返るとあっという間に感じるとよく言うが、初めてそんな経験をした。いつも夜は十時に寝ていたのに、十時にベッドに入っても、眠れない。寝たい。眠れない。そんな格闘が連日続いた。講義中は睡魔との闘いを強いられることになった。授業・講義寝ない記録十三年の僕にとっては、どうしても負けたくなかった。なんとか勝利をつかんだ。
ついに金曜日になった。もうどうしようもない。もうどうするべきでもない。いや、どうしたってどうしようもない。というか自分の頭の中がよくわからない。何を考えている人間ってなんなんだ。何が起こるんだ。どうなるんだ。助けてくれ。あーあーあー。わからない。わからないことが不安だ。もし、寝坊したらどうしよう。前方不注意で交通事故に巻き込ませてしまったら、バニック起こしそう。あー、予期不安なんてするだけ疲れるのに。そんなの自分が一番よくわかっているはずなのになどと考えているうちに意識がなくなった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、起きないと!」七海の声がする。
「なんだよ、今日休みだろ。目覚ましもかかってないし」
「忘れてんの!今日デート行くんでしょ!お兄ちゃんは遅刻する奴なんてありえないってよく言ってるよね」
「あ!しまった!七海、もっと早く起こせよ!」
「人のせいにしない!ちゃんと自分で管理しないと、いつまでたっても自立できないよ!」
「ごめん」
「ご飯出来てるから、早く食べて」
「わかりました」
「早食いしたら、のどつまらせるから、ゆっくり食べるんだよ」
「もう、いちいちいちいち。お前は親か」
「なんでもかんでもつっかからない!人の話はちゃんと聴く!今日はちゃんと相手の言うこと聴いてあげるんだよ。男なんだから」
「わかったよ。てか、それ聞いたよ」
「どうせ忘れてたでしょ」
「忘れてなんてない。海北大なめんな」
正直に言ってこれ以外には覚えていることがないのだが、高校生に馬鹿にされるのが嫌で、いつもの癖で強がって言い返しただけだった。
「ごちそうさま」
「じゃあ、ちゃんと歯磨いて、ひげ剃って、トイレ行って」
「俺をいくつだと思っているんだ」
「お兄ちゃんめんどくさいって言って歯磨かないときあるでしょ。口臭ってかなり気になるから」
「そうか、じゃあそうするよ。いや歯は言われなくても磨くけど」
それから、歯を磨いて、顔を洗って、トイレに行って、着替えた。このブラウスとかいう服の感触はいつまでたっても慣れない。運動するわけではないからいいと言われるかもしれないが、動きにくくて窮屈な感じがする。肌触りも違和感しかない。気にしないようにと意識すると余計気になる。でも、そんなことを気にしていられない。出発前からもうちょっと疲れてきた。
いつも通りの運動靴を履いて、玄関の扉を開ける。
「行ってきます」
「気を付けて。楽しんできてね」
「ありがとう」
直前になると急に小言を言わなくなる。なんかうれしい。
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