第100話 忘れないで勇気
「島を… 出てくのか?」
「その言い方には語弊があるよ、まずは腕を治して、それからかばんちゃんの様子次第だけど、そしたらすぐに帰るつもり」
「そうか…」
ツチノコちゃんには簡単に事情を話してからサンドスター火山を目指した。
…
火山のフィルターについて、こちらも簡単に話しておくと。
その昔、ジャパリパークにもまだヒトが沢山いたころの話だ。
自我を持ちフレンズに生まれ変わったセルリアンがいた。
彼女は仲良しのサーバルキャットのフレンズそっくりの姿で、そのためセルリアンのサーバル… セーバルと名付けられていた。
セーバルには友達も沢山いてパークで幸せな毎日を送っていたが、そんな幸せはある異変により一変してしまう。
セルリアン大噴火事件。
ツチノコちゃんの話だと「それが例の異変」だそうで、彼女はもちろん博士たちもハッキリとはその概要を知らない。
「なんでも、史上類を見ないほど大噴火があったらしく、セルリアンがわんさか出てきたそうです」
「ヒトはそのときにパークのために尽力を尽くしましたが、それも虚しく絶滅… 及び島から出て行ったと、調べた結果わかりました」
「まぁお前の話だと、単にパークスタッフが出て行っただけのようだがな?」
そんなセルリアン大噴火事件が起きたことによりパークは大混乱。
超大型セルリアンの出現、戦闘機を出撃させてその大元である火山を爆撃、いよいよ収集がつかなくなってきたというところに立ち上がったのが四神のフレンズ。
と思われているが、実は順序が違う。
セルリアンが増える。
四神のフィルター計画が始動。
同時に国が危険視したとこで戦闘機が出動、火山の爆撃。
衝撃により超大型セルリアンが出現。
戦闘機は撃墜と撤退、四神は急ぎフィルターを張ることになった。
こういうことが起きたそうだ。
「四神はフレンズだったのか?」
「聞いたことがあるのです」
「その昔、神獣のフレンズがパークには存在していたことがあると」
その四神…。
ビャッコ、スザク、セイリュウ、ゲンブ。
四人は火口に沈む“セルリウム”?とかいうものを封じる為に「技」を合わせ封印することを決めたそうだ。
「セルリウム?それがサンドスターロウの元か?」
「ごめん… そこまでは教えてくれなかった、でも名前からしてそうだね?」
「四神は正にパークの守り神だったというのですね?」
「それで、そのあとどうなったのです?セーバルは?四神はいまどこに?」
そう、四神のフレンズたちはそれを封印。
つまりフィルターを張ることを思い付きそれを実行しようとするが、それにはひとつ問題があった。
その問題とは。
”
フレンズが1体生け贄にならなくてはいけなかったのだ。
この話しにはさすがの三人も強張ったような顔をしていた、“生け贄”という言葉は良くなかっただろうか?
しかしこれが真実であり、秘密である。
そしてその人柱に名乗り出たフレンズこそがセルリアンのフレンズ。
セーバルだった…。
皆彼女を止めたが、彼女は言った。
「みんなが大好き、だから… セーバルはみんなを守りたい」
そんな彼女の決意を四神は汲み取り、彼女を人柱にとうとうフィルターは完成した。
その時、四神は力を使い果たしたのか石板になってしまった。
あるいはそこにいないとフィルターを維持できないからわざと物言わぬ石板に姿を変えたのかもしれない…。
即ち火山のフィルターとは。
パークの平和を願ったセーバルと四神の犠牲の上に成り立つ存在だったということだ
「この結晶も、セーバルちゃんの一部だって…」
俺は火口の前に立ちキラキラと光る巨大なサンドスターの結晶を見て言った。
彼女はここで生きているのか、あるいは母さんみたいに思念体のようになっているのかそれはわからないが…。
あの時俺が彼女と会えたのは俺がセルリアンになったからだろう、そう言っていた。
それはセルリウムとかいうやつのおかげなのか彼女がセルリアンのフレンズだからなのかそこまでは彼女も知らないと言っていたが、とにかく俺が彼女と話せたのも単なる偶然ではあるまい。
せっかく会えたのだ、袖すり合うも他生の縁というやつだ。
「しかし、おまえみたいな特殊な例だから話せたんだろうな?」
「どうかな?セルリアンに食べられた子は一旦“あそこ”に行ってしまうらしいよ?すぐに消えてしまうから長くは話せないけどって言ってた」
「だとしたら、かばんもセーバルに会っているのでは?」
「1度食われているのです」
「運良く助かった子も忘れてしまうんだって?確かに今までそんな話は聞いたことがなかったよ」
立ち話もほどほどにしようか。
では… スケールがでかすぎて俺がこんなこと言うのはおこがましいかもしれないが、かけがえのない俺に似た君へささやかなプレゼントだ?
スーっと息を吸うと火口に向かい叫んだ。
「セーバルちゃん!約束どおりジャパリマンもってきたよ!いつも島を守ってくれてありがとう!」
よし、それじゃあお供えしようか… ところでこれは放り込めばいいのかな?置いておけばいいのかな?
祠みたいな物を作っておくべきだっただろうか?これは参った、どちらにせよお供えらしいことにはならないぞ。
「落としていいんじゃないか?」
「さっさと放り込むのです!」
「セーバルも喜んでくれるのです」
「ん~そうだね?んじゃいくよ?それっ!」
ジャパリマンいっぱいの袋は火口の中に吸い込まれていく…
俺はそれを確認すると火口に背を向けて三人のもとに歩き出した。
無事任務終了、あとはツチノコちゃんに謝罪を申し上げて帰るだけだ。
「さぁ行こう?」
とその時、小さな揺れがあった…。
「うわ、なんだ!?」
ゴゴゴゴ… と地響きを感じると、その揺れに比例したような小さな噴火?が起きた。
ドンッ! と爆発音と共にサンドスターが吹き出し宙に舞う。
「このタイミングで… ですか?」
「よくある規模ではありますが、偶然にしては…」
「おい、あれ見てみろ!」
振り返り空を見ると…。
パンッ パンッ
と破裂音をだしサンドスターが弾けているのが見える、例えるならこれは…?
「花火?」
「なんだそれ?」
「いろんな色と形の火を空に打ち上げるんだ… 綺麗でね?夏祭りなんかでやることが多いよ」
「なるほど確かに」
「これはなかなかどうして美しいのです」
それは、まるで「ありがとう」と何度も言うように打ち上がる。
セーバルちゃん、嬉しいのかい?俺も嬉しいよ?
みんなも見てるかな?
かばんちゃん大丈夫かな?一緒に見たかったけど、今帰るからね?
サーバルちゃん、君はセーバルちゃんの知ってるサーバルちゃんではないのかもしれないけど、代わりに受け取ってあげてね?きっと親友だっただろうから…。
そうして花火が止まり落ち着いた頃。
「それじゃ、行こうか?」
「そうだな、いろいろ知れて満足だ」
「さぁお前たち、掴まるのです」
「いっきに降りてやるのです」
そうして俺が再度火口に背を向けた時。
あ り が と う
「ん…?」
「おい、どうした?」
「いや… どういたしまして」
「なんだ急に気持ち悪い」
「ひどぉ~い!」クネクネ
「やめろ!本当に気色悪い!」
俺には確かに聞こえたよ、帰ってきたらまた来るからね?今度は子供たちも連れて来たいな?
またね?セーバルちゃん。
…
山を下ったが俺は少しツチノコちゃんと話したいので遊園地に下ろしてもらった。
「妻の妊娠中にお前というやつは…」
「節操がないのです」
「そんなことしないよ!」
と長の憎まれ口にも負けず彼女に話したいこととはもちろん先日の件である。
結果蹴りをもらい何もしなかったが俺は浮気しようとしたのだ、しかもその動機が死ぬためだ、質が悪いにもほどがある。
こうして生きているのなら、ちゃんと謝っておかなければならない。
「あの… ツチノコちゃん?この前のことなんだけど…」
「なんのことだ?忘れたな…」
「嘘つき、ちゃんと謝らせてよ?酷いことしてごめん… でも止めてくれてありがとう、おかげで妻を裏切らずにすんだよ」
港に向かい歩きながら話した、遊園地と港… 実はここはかばんちゃんよりも彼女との思い出が深いのだ。
ここで初めて彼女と出会い、港で再会し、次に遊園地に来たとき告白を受け… 俺は自分の本当の気持ちを知った。
「あれは挨拶だ、プレーリー式の…」
「違うよ、あれはキスを迫ったんだ」
「あぁ!ったく!だったらなんだ!何もなかっただろ!それじゃダメなのか!?別にお前の弱味を握ったとか、そういうつもりもない!かばんにあの事をわざわざ話そうってつもりもない!」
「それは任せるよ?ただ謝るべきだと思って言っただけ、もしこれを妻に話すと言うならそれも仕方ない… それくらい罪なことをした自覚はある」
「チッ」と小さく舌打ちをして立ち止まると、彼女はこっちを睨み付けて言った。
「そんなに罰をうけたいのか?」
「それで償えるならね」
「だったら頼みを聞いてくれ」
「いいよ、なんでも言って?」
ジッとこちらを睨み付ける彼女の目からフッと怒りが消えた、そして…。
「ゴコクエリア!オレも連れていけ!」
確かにそう聞いた。
驚いたよ、何を言われるかとビクビクしていたら連れていけときたもんだ、俺は確認の為に聞き返した。
「本気なの?」
「なんでも… とそう言ったよな?」
「言ったけど、いやでもまさかそう来るとは…」
「ダメなのか?」
「ツチノコちゃんがそう言うならいいんだけどさ、理由を聞いてもいい?」
その訳は、言うなれば彼女の性格故のことだった。
彼女は、キョウシュウのいろんな場所は俺とかばんちゃんのおかげでほぼ解明しているのでもっと知らないところで知らないものが見たいと語った。
忘れていた、彼女は好奇心の塊のような子だったっけ?知識欲がすさまじく、特に歴史やヒトの遺物が大好きなんだった…。
四神の件もそれで食いついてきたのだ、今さら何も驚くことはない。
「それに会ってみたいんだよ?お前の腕を治せるかばんの師匠ってやつに」
「スナネコちゃんはどうするの?」
「アイツはああいう性格だからな、くっついて来ることもあればしばらく顔を出さないこともあった、別に孤独って訳でもないから、オレがいなくてもどうとでもなるだろう」
「本当に来るの?」
「くどいヤツだな!いいんだろ?いいから連れてけよ!?」
なんか、そっかぁ… しばらくお別れかと思っていたからかな?変な感じ…。
腐れ縁っていうのかな?彼女とは何だかんだこれからもず~っと付き合いがあるんだろうとそう感じる。
それに彼女優しいから、もしかしたら片腕の俺と身重のかばんちゃんを心配してくれてるのかもしれないな。
「OKそれじゃ、これからもよろしくね?」
握手を求め手を伸ばすと、彼女はポケットに突っ込んでいた手を出して俺の手をとった
「あぁ、あっちにもフレンズが沢山いるらしいからな?かばんが妊娠中なのをいいことにバカなマネをしたら、今度こそ撃ち抜くからな?」
「怖い怖い… そんなに信用ないかなぁ?」
子供に恥ずかしくない父親にならないと、父さんみたいにあとから恥ずかしい事実が出るのは仕方ないとして。
…
港に戻ると既にみんなが集まっていた。
いつの間にこんなに集めたのかと長の一声には驚かされるばかりだ。
ナカヤマさんもシンザキさんも既に戻り、あとは出港を待つだけとなっていた。
「ジャガーさん…」
「そんな顔しないでよナカヤマ!私はいつでもここにいるんだし!また会えるよ!」
「本当は俺やってここに住みたいねん、でも仕事もせなあかんしぃ?向こうにも帰らなあかんしぃ?ジャガーさん連れて帰りたいわ」
「ひゅー!やるねぇナカヤマ!ジャガ~?どうすんの?」
「え、えぇ~…///」
あれに見えるはジャガーちゃんにコツメちゃん、そしてナカヤマお兄さんだ。
ナカヤマさん、ここぞとばかりにアタック仕掛けてますやんか?これは見物ですわ、オオカミさんも既にスケッチに入っている。
「気持ちは嬉しいけどさ?また会う日まで毎日を大事にしようよ?今度はほら、さっき話してくれたそのTSUYOSHIってヒトも連れてきてよ!」
悲報 ナカヤマさん、憧れのジャガーさんにフラれるの巻… 一方その頃、シンザキさんは?
「ねぇシンザキちゃん!どーしてそんなにわたしのことに詳しいの?」
「やっぱりサーバルぅ、動物の中でも特に好きなのでぇ… 特に念入りにぃ調べ込んでますね」
「え、えぇー!そんなにわたしのこと好きなの!?」
「サーバルぅ… 大好きですねぇ」
ストレート過ぎて度合いがわからないシンザキ氏の告白だが、天真爛漫で無垢な彼女のハイパーピュアホワイトな心に届くのだろうか?
「ありがとうシンザキちゃん!そんなにハッキリ大好きって言われたのかばんちゃん以外で初めてだよ!」
「余裕で、伝えちゃいますね」キリッ
あ、あれ?なんか成立しそうな予感が…?
興味深いがすぐに妻の元へ向かわねばならない、具合はどうだろうか?
…
ツチノコちゃんのことは途中で会った父とミライさんに話を通して一旦預けた、間もなく悲鳴が聞こえたが父さんもいるし大丈夫だろう。
それよりも今は妻に会いたい、心配だ。
「かばんちゃん、ただいま?」
「シロさん!おかえりなさい!」
部屋に入り声を掛けると勢いよく飛び付いてきた、先程よりもずっと元気そうだ、よかった。
「ね?すぐ戻ったでしょ?」
「でも不安でした…」
「ごめんね、もう離れないよ?君の半径2m以内でしか動かないから」
「ふふ、いいんですかー?そんなこと言って?」
「片時も離れないよ俺は、トイレにも着いていくつもりさ!」
「と、トイレのときは離れててください!///」
彼女にはセーバルちゃんのことを話す延長でツチノコちゃんのこともきっちりと伝えた、機嫌を悪くするかと少しひやひやしたものだが特にそういうこともなく「賑やかになりますね!」と笑顔で答えた。
「さっき、火山のほう見た?」
「あ、はい!小さな噴火がありましたよね?それから遠くから山を見てましたけど、上で光が弾けて綺麗でしたよ?」
俺は、ジャパリマンを放り込むことでセーバルちゃんが答えてくれたんだと語った。
あんなタイミングだからまず間違いないと俺は思ってる、そしてあれによく似た花火というのがあるという話をすると、彼女はうんうんといつものように楽しそうに聞いてくれた。
「今度は花火、一緒に見ようね?」
「はい、是非…」
二人になれたからやっとチューができた、しばらく父さんとサーバルちゃんが同行してたし俺は、お供えに出掛けたし…。
そろそろ甘えないとかばんちゃん欠乏症になってしまう、セルリアン化に伴いかばんちゃんレスが続いたからね?
そんな二人きりの部屋でついがっついてしまった俺は、舌を絡めディープで熱いキスに移項して片腕でもちゃっかり服の中に手を這わせた…。
「シロさん…?ダメぇ…」
「あ… ハァ… ゴメンつい…」
いけない!妊婦にこんなことをしては… でもでもこの体のそこから沸き上がるマグマのような感覚はどこへやればよいの?
「我慢、できますか?」
「できませ… できます!」
「もう~?ちょっとだけですよ?」
「え…?いいの?大丈夫?本当に大丈夫?」
「優しく、優しくしてくださいね?赤ちゃんがビックリしてしまいます…」
そ… そっかー!妻が言うなら間違いない!妊娠中でも優しくすれば大丈夫なんだね!しんはっけーん!
まっかせてぇ!とびきり優しくするから!
さぁさそれではドアの鍵を閉めてっとぉ!
じゃあ張り切って…。
突撃でありまぁーっす!!!
「シロ 食ベチャダメダヨ」
「同意の上ですよ」
「ダメデス!妊娠中ノ性行為ハ胎児ニ影響ヲ与エル可能性ガアリマス!ダメデス!ダメデス!」←アラート
ら、らぁっきぃ~パパぁ!?なんで急に仕事するのぉ~!?
「ちょっとだけ…」
「ダメデス!」
くそ!わかってるよ!これまでも何度も出鼻を挫いてくれたなラッキー!はいはいわかりました!我慢我慢!はぁ…。
「はわわ… かばんちゃん、もし俺が一人でベッドでゴソゴソ動いていたりやけにトイレが長いとしても、決して問い詰めたりしないで… 」
「あはは… ごめんなさい…」
いいのいいの、パパ頑張るから。
つまり俺の愛を試そうというのだな?いいだろう!やぁーってやるぜぇッ!!!
目の前に妻がいるのに手を出せない。
それはその後、俺の最大の苦行となったそうな…。
…
他のみんなにも挨拶を済ませた、それぞれ激励の言葉を頂き、皆いつでも帰っておいでと俺達を送り出してくれた。
俺が散々心配していた、嫌われたり避けられたりというのはまったくなかった、パークに来てからというもの皆快く俺を受け入れて仲良くしてくれた。
まさにケモノはいてもノケモノいなかったというわけだ。
それは俺がパークで唯一のノケモノ、セルリアンになってしまっても同じだったんだ。
治って良かったし、腕も治るならそれは良いことだと皆で喜んだ。
それから意外というか… スナネコちゃんが大泣きしてしまった、俺のことではなく急にツチノコちゃんがいなくなることが悲しいんだろう、ツチノコちゃんは「おとなしく待ってろ」と彼女の髪をわしゃわしゃと撫でてまた船に乗り込んだ
確かに、急な船出になったな…
急な出港でなにもできなかったけど、帰ったら必ずパーティーをしよう。
みんなありがとうってパーティーを。
…
それから約一年と数ヵ月後…。
「シェフの気まぐれパスタお待ちなのだ!」
「ほう、海鮮のクリームパスタですか?」「やりますね?」
「粉チーズ置いとくねー?」
「では助手…」
「はい博士…」
「「いただきますッ!」」パンッ!
すっかりと見慣れた風景。
長の二人とアライグマとフェネックはそんな当たり前となった毎日を過ごしていた。
「腕を上げましたね?」
「確かに、美味しいのです」
と長は二人に言った。
長が素直に褒めるのは珍しいことだと二人は少し驚いて疑り深く言い返す。
「なんか気持ち悪いのだ!」
「裏がありそうだねぇ?」
「な!?せっかく褒めてやったのに!」
「お前達、素直に喜ぶのです!」
だが長の二人はアライグマが急に腕を上げたのではなく単に慣れてしまっただけなのかもしれないと思っていた…。
シロの不在が長すぎるためにいつしか味をアライグマの作る料理に更新されてしまったのだと。
と言ってもそれが嫌だというわけではなく、二人の料理ももちろん美味しかったのでそれそのものは構わなかった。
ただ…。
二人はどこかそれを少し寂しく感じていたのも事実だった。
「ラッキービースト、音楽をかけるのです」
それはシロの父ナリユキが教えてくれた機能だった。
フレンズには干渉ができないラッキービーストだが、ナリユキが少し改良を加えいくつかの機能をフレンズでも使用可能にしていったのだ「息子が世話になったお礼」という理由だった。
「たまによくわからない曲がかかりますが、音楽とは良いものです」
「PPPの曲もそうですが、これもまたフレンズとしてヒトの姿を取っているからでしょうか?」
長の二人は音楽を聴きながら本を読んだり、あるいは調べものをしたり…。
一方アライグマとフェネックは食後に紅茶なんぞ楽しんでいた。
とその時だ、急にピタッと音が止まってしまったのだ。
「あれぇ!?どうしたのだボス!なぜ止めるのだ!?空の彼方に踊る影とはなんなのか聞かせてほしいのだ!?」
「アライさぁん?もしかしてボスを怒らせたんじゃないのー?」
「なにもしてないのだ!というか優雅なティータイムの最中だったのだ!フェネックはずっと隣にいたから知ってるはずなのだ!」
そんな騒ぎを聞き付け長の二人もその場に降り立った。
「騒がしいですね?」
「なんの騒ぎです?」
「ボスが急に音楽を止めてしまったのだ!」
気に止めていなかったが確かに音楽は鳴り止んでいた、博士はもう一度音楽を聴かせるよう頼んだがラッキービーストに反応はない
「やっぱり怒ったんじゃなーい?」
「えぇ~!?よくわからないがアライさん謝るのだ!許してほしいのだ!」
とその謝罪を受けた瞬間、ラッキービースト何らかの反応見せた。
ピピピピピ
“「あーもしもーし?キョウシュウエリアが見えてきたよー?これから上陸しまーす」”
「博士、この声は?」
「もしや通信では?」
ラッキー越しの声は続けて話した。
“「誰もいないのかな~? あぁ~!?ダメダメ!パパの耳を引っ張らないで!」
「キャッキャッ」
「そっちの耳もダメ~!こら~!ヤンチャだねお前は!それこ~ちょこちょ~」
「キャアハハハ」”
「お前その声は!シロですか!そうですね?」
“「あ、博士?なんだいるなら返事くらいしてよ~… もうすぐ港に着くんだ、船が見えるはずだよ?」”
「博士、それでは?」
「えぇ!盛大に出迎えてやるのです!」
“「ありがとう!じゃあ一旦切るねー?」”
その言葉を聞いた長は言った。
「ラッキービースト!パークにヒトが帰って来ます!島中のフレンズを港に集めるのです!」
すると図書館のラッキービーストの目が輝き、各ラッキーへの情報伝達が始まった。
…
すぐに沢山のフレンズが港に集まった。
あの時船を見送った時と同じくらい多く集まっていた。
そして、大きな船が港に着いていた。
その船、それもやはり彼等を乗せて海を出たのと同じものだった、
しばらくすると、まずはその船からフレンズが一人船から降りてくる。
「みんなー!ただいまー!」
「「サーバル!」」
あの日、彼等と行動を共にしたサーバルキャットのサーバルである、彼女はあの時と変わらないようで、どこか成長したようにも見える。
「サーバル、シロとかばんはどうしたのです?」
「腕は治ったのですか?子供は?」
「すぐに来るよ!」
サーバルがそういうと、男女が二人船から降りてきた。
女性の方は長めの黒髪にゆったりとウェーブが掛かっており、それを後で一つにまとめ肩に垂らしている。
羽飾りのついた白い帽子は被らずに首に掛け、背中大きめの白いリュックを背負っている。
そして、その腕には白い髪の小さな女の子が抱かれていた。
男性の方は、長めの白髪の頭には猫のような耳がピョンと飛び出ており、尻尾も生えている… その白い髪の為老けて見られがちだが、彼は二十歳になったばかりである。
すっかり大人の彼はついにここ、ジャパリパークキョウシュウエリアへ“帰って”きた。
そして、彼の腕には黒い髪の小さな男の子が抱かれている。
二人は子供を抱いたままみんなの方を見ると大きく右手を振った。
そしてそろって皆に言った。
「「ただいま!」」
沢山のフレンズ達はそれに答えた。
\おかえりなさい!/
…
この日、シロとかばんは帰ってきた。
失った腕を取り戻し、彼に良く似た白い髪の女の子と、彼女に良く似た黒髪の男の子を連れて。
二人は故郷に帰ってきた。
おわり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます