第99話 あの日と同じ

「しかし、お前が料理か…」


「意外?」


「いや、でもほら?母さんはあれだったろ?」


 城を出て師匠の元を目指している。


 その間運転する父と少しここでの自分のことを話していた、最初来たときにツチノコちゃんと会ったとか料理をするために図書館に住むことになったとかのことだ。


 姉さんのことも師匠のことも。


「それに弟子までいるとはな?あのアライグマの子は火を恐れないのか?」


「最初だけね、気合いと根性で慣れたみたい… 表現が悪いけどサーカスの火の輪くぐりのようなものじゃないかな?」


「なるほどな?確かに母さんも料理がまったくできない訳ではなかったしな」


「よく失敗してたけどね」


「ハハッそうだな?」


 でも、アライさんを見てれば母さんの気持ちがよくわかる。


 頑張ったのだろう、父や俺のためになにかできることはないかと。


 誰かの為にがんばって、苦手な物を克服して、喜ぶ顔を見て幸せな気持ちになる。


 そんな母さんもアライさんも、俺は尊敬している。


 そして何人もいる尊敬できる人物の中でこれから会う師匠には“自分を信じる”という精神を学ばせてもらった。


 そして同じくらい仲間を信じること、俺には師匠と姉さんがついている、だから安心して修行に専念できた。


 「君の為ならなんだってできる」と妻に言うのも二人の教えからくるものだ。


「ライオンちゃん、いい子だな?」


「そうだけどさ、なんで口説くの?あぁいうのよくないと思うんですけど」


「そういうつもりじゃない… ただやっぱり、母さんのこと思い出してしまってな、別人なのに面影を探してしまったんだよ」


 それはつまり口説いているということではないだろうか?勘弁してくれ父さん、もう若くないんだから。


 でも、なんだかんだ母さんのこと好きなんだなって少し安心してみたり。


「次に会うヘラジカのフレンズはお前の師匠だって?」


「うん、姉さんのおかげもだけど、師匠がいないと今みたいに野性を上手くコントロールできなかったよ」


「サンドスター濃度が濃いからな、お前のフレンズの部分が過敏になっていたんだろう」


 やっぱり暴れた原因はそれくらいしか考えられないか。


 暴走も発情期も全部サンドスターの仕業だよ、まったくやれやれ厄介だなサンドスターとかいう不思議物質は?







「シロ!よく来たな!体はもういいのか?」


「ご迷惑おかけしました師匠、おかげでこうして自分を取り戻すことができました」


「私はなにもしていない、礼なら後ろにいるお前の妻に言ってやるといい」


「僕はもう十分聞きましたから、今日はヘラジカさんが聞いてあげてください?」


 いつも通りの師匠の対応に安心すると、父が前に出て挨拶を始めた


「あなたが森の王ヘラジカか?」


「そうだ、王と自ら名乗るほどではないが私がヘラジカだ!確かお前はシロの父親だったな?」 


「そうだ、私はナリユキ、息子があなたのおかげで成長できたと聞いた、私からも是非礼を言わせてほしい… ありがとう、森の王」


「こちらこそ… シロのような戦士に会い、師になれたことを誇りに思っているんだ、ナリユキよ?素晴らしい出会いに感謝する」


 かしこまった師匠初めて見た!?後ろの部下'sも「あっ!」と驚いたような顔している、まるで顔に「意外!」と書かれているようだ。


「そしてナリユキ、お前からも言葉で表現できない強者のオーラを感じるぞ!どうだぁ…?勝負しないか?」


「遠慮しておこう、私は争いごとが苦手でね?君のように強い力はない、足も遅いし打たれ弱い、それに老体に無理をすると孫の顔を見れるか不安だ」


「ふむそうか?それは残念だ… やはりヒトという生き物は不思議だな?皆、体よりも心が強いものなのか?」


 師匠がそういうのはかばんちゃんや父さんがそうだからだろう… だが実際は違う。


 人の心は驚くほど壊れやすく繊細だ、怖くて部屋を出られない人や目を見て話せない人もいっぱいいる、そして俺もまだまだ未熟。

 少しは成長したつもりだがまだまだ心の闇に負けることも多い


 昔、思春期で暴れまわる俺に向かって父は言った。


「バカにされたり理不尽な暴力を受けたり納得のいかないこともそりゃあるだろう、だがお前はそんなやつら一瞬で蹴散らすくらいの力を持ってるだろ?だったらそんなやつらはいちいち相手にするんじゃない、同じことでやり返してるようじゃそいつらとなんら変わりはない、なんでも力で解決するな」


 今ならできるだろうか…?

 

 いや、どうかな?自信はない。


 自分のことならいいけど、正直身の回りの人達のこと言われたらそれは我慢できる自信がない。







 俺は師匠にゴコクエリアに行くことを話した、その為ここにはしばらく顔を出さないので行く前に稽古をつけてほしいとも伝えた


「師匠、最後の稽古をつけてほしい」


「最後とは随分寂しいことを言うんだな?」


「古い俺は今日で終わり、帰ってきたら新しい俺のためにまた稽古をつけてほしいんだ」


「無謀にも片腕でこの私に挑むのか?」


「その慢心こそが隙を生む、片腕でも俺は師匠の槍を折った男、油断して足下を掬われないようにするんだね?」


 俺は図書館から持ち出した槍を左手に持つとぐるりと器用に回して見せた。


 そしてそれを構え師匠に向かい合う


「守らなきゃならないものがたくさんある!その為に師匠!手合わせお願いします!」


「その意気やよし!気に入った!いいだろう!さぁ来い!」





 結果から言うとだ。

 

 当たり前のことだがまぁ負けたんだ、両腕でやってるときからまともに勝ったことないんだからそれは当然の結果といえるだろう。


 いつもと違うのは今日が一番善戦したということだ、サーバルちゃんの手を借りずとも今回はしばらくは一人で互角に渡り合うことができた。


 片腕の俺を不憫に思い手心を加えられていたのか、本当に油断していたのか… それはわからない。


 ただ師匠の性格上、常に全力しか出さないのでは?なんて都合良く考えてみたい… だから個人的には善戦した。


 最後はこうなった。


「ガァァァァアッ!!!」 


「でぇぁぁぁあッ!!!」



 互いに振りかぶった槍がぶつかる、そしてその時。


 バギャァンッ!


 というような強烈な炸裂音がすると、サンドスターの光を激しく散らせながら双方の槍が折れてしまう。


 今まで何度も助けてくれた師匠の槍、免許皆伝の証。


 それはこの瞬間武器としての役目を終えた。


 衝撃で俺の手はビリビリと痺れ思わず残った柄の部分も手放した。


 まだ終わっていない、だがこの様では手を使った攻撃はできない。


 ならば足がある!と俺は回し蹴りに入ったんだ。


 これで決まる、がその時だ…。


 師匠はやや屈んだ姿勢になると頭の角、髪の硬質化した部分で俺の蹴り受け止めた、少し怯んでいたがなんのことはなく、すぐに跳ね返して反撃に移った。


「フンッ!」


 ガツン!と眉間に頭突きをお見舞いされてしまい、俺はそのまま後ろへぶっ飛んだ。


「ぐぁっ!?」


 背中を壁に打ち付けられて野性解放は解けるとそのままずるずると地面に座り込んだ。


「シロさん!?」


「大丈夫!なんでもないよかばんちゃん?

 はぁ、あぁクソ!また負けた!やっぱり師匠は強いや…」


「最高の戦いだった!さすがは私の一番弟子、そしてライオンの弟だ!まさかまた槍を折られるとはな?両腕なら負けていたかもしれん」


 謙遜しちゃって… やろうと思えば一瞬で倒せたんじゃないのか?なんて慢心しないように自分に言い聞かせてみる。


「ごめん師匠、せっかくもらった武器が折れちゃった…」


「こんなものは重要ではない、戦いの末折れたということはお前が槍の力を超えたということだ、これで真の免許皆伝と言えるかもしれん」


「今までのはなんだったのさ?」


「決まっている!免許皆伝見習いだ!」


 なんだよそれ、免許皆伝の免許皆伝があるってこと?ややこしいなぁもう…。


 まったく師匠は!


「さぁ行けシロ!次に会うときはもっと強くなって戦うぞ!」


「はい!お世話になりましたッ!」


 俺は師匠の手を借り立ち上がると深々と頭を下げ、その場を後にする。


 そして…。


「シロ!がんばってね!」

「また会いましょう?」

「赤ちゃん楽しみにしてるですぅ!」

「拙者達の力が必要ならいつでも貸すでござるよ!」

「帰ってくるの、待ってるね?」


「うん!みんなもありがとう!元気でね!」


 ヘラジカ勢の皆さんからもエールを貰いバスは出発した。





 このまま港に戻る、だが最後にひとつやることがあるし会いたい子もいる… がその子はどこにいるかわからない。


 港に着くと博士たちがジャパリマンを袋いっぱいにして俺の前に降りてきた。


「戻りましたねシロ」

「ジャパリマンありったけ… これでよいのですか?」


「ありがとう、十分だよ」


 袋いっぱいジャパリマンを受け取るとサーバルちゃんが物欲しそうにこちらを見ていたのでひとつ別けてあげた、そんな嬉しそうな顔をされたらあげた甲斐があるというものだ。


「シロさん、これどうするんですか?」


「火山にお供えに行くのさ」


「「おそなえ?」」


 「?」な顔をするサバンナコンビの隣で父が驚いたような顔をしている「なぜそれを?」という顔だ、父はあそこで何があったか知っているんだろう。


「おまえ、彼女を知ってるのか?」


「少し話せる機会があったんだよ… じゃあちょっと行ってくるね?」


「シロさん、僕も一緒に!うぅ…」


「かばんちゃん!大丈夫!?どこか痛いの!?」


 こちらに駆け寄ろうとした妻がよろけ、俺が手を貸す前にサーバルちゃんが支えてくれた。


 妻はあまり体調がいいようには見えない、あからさまに具合が悪そうだ。

 妊娠初期の症状が出始めている、これでは連れて行けない。


「かばんちゃん、先に船で休んでて?」


「いや… 行かないで…」

 

 かばんちゃん、随分不安そうな顔をするじゃないか?俺は彼女がパニックにならないように優しく話をすることにした。


「必ず戻るよ、博士たちに送って貰うからすぐだよ?」


「お願い… もう遠くへ行かないで?」


「遠くへは行かないよ、ちょっと行ってすぐ帰ってくるからさ?」


 俺は優しく訴えかけるが、彼女は泣きながらも俺の服の裾を掴んで離さない、本当は一緒に連れて行きたいけど、身重の嫁さんに無理させるわけにはいかない。


「かばんちゃん… おいで?」

 

 腕を広げると小さく「うん…」と答え、ゆっくり俺の背中に腕を回して抱きついてきた、体は震えているししゃくりあげるくらい泣いているのが分かる。


 俺が急にいなくなったことがよほどのトラウマになってしまったか、彼女は俺を絶対に離そうとはしない、そんな強い意思を感じた。

 

「聞いてかばんちゃん?実はね、セルリアンになったとき不思議なことが起きてたんだ」


「不思議なこと…?」


「そう、セルリアンのフレンズの子と会ったんだ、セーバルちゃんっていってね?名前もそうだけど見た目もサーバルちゃんとよく似てて、肌は緑色だった… 性格は大人しいけどよく喋るって感じかな?」


「セーバル… ちゃん?」


「そう、その子がいろいろ教えてくれたんだ?母さんのこととか四神のフィルターのこととか… 君の声が聞こえたとき出口を教えてくれたのもセーバルちゃんだった、出るとき言ったんだよ彼女?“戻っても自分のこと覚えてたらジャパリマンをお供えしてくれ”って」


 正確には“ジャパマン”だったか?独特な方言みたいなものだろう、とにかく覚えているなら約束通り持っていかねばならない。


「俺は彼女にお礼がしたいんだ、ダメ?」


「でも、もしシロさんがまたいなくなっちゃったら僕…」


「いなくならないよ?みんなのまえで約束したじゃないか?俺が君との約束を破ったことがあるかい?」


「ついこの間勝手にいなくなったばかりです…」ムスッ


 はい、そうでした…。

 カッコつかないな、いやすいません。


「ご、ごめんね?でもかばんちゃん、君が逆の立場なら俺と同じことをしない?」


「それは、はい…」


「それに、赤ちゃんの為に無理しないって約束したよね?」


「あ… はい…」


「じゃあ、いい子で待てる?」


「はい…」


「ありがとう、じゃあいってきます」


「はい… お気をつけて…」



 説得が完了した、離れるのは心苦しいが博士たちに送迎を頼み俺は空高く舞い上がった。


 飛びながら長がぼやく。


「片腕では持ちにくいのです!」

「バランスが悪いのです!」


「しょうがないじゃん!無いものは無いの!… ん、あれは?ちょっと下ろして!」


 丁度遊園地の上空から下を見ると気付いた、俺にはすぐにわかった、今更間違うはずはない。


「いったいなんなのですか?」

「飛べと言ったり下ろせと言ったり、ワガママなやつなのです」


「いいでしょたまには?さてと… どこかな~?」


 なんて口では言ってみるがそんなのは決まっている、俺はまっすぐ遊園地内のとある建物を目指した。



 そこは…。



「ここは」

「お化け屋敷…でしたね?」


「御名答、よく知ってるね?」


「バカにするなですよ?」

「この島の長ですよ?」


「はいはい… ちょっと待っててね?」


 俺は暗闇のお化け屋敷に足を踏み入れた。

 思い出すね、島に来た時のことを。


 当時は懐中電灯を持っていたんだ、でも夜目が利くとわかってからそんなものは不要だ、ズンズン奥へ突き進むと彼女を見付けた


「みーつけた」


「あぁぁぁぁ~!?!?!?」


「わぁーあ!?」


 向こうだけ悲鳴を上げ一気に外へ出た、俺はそのまま出口に向かい走った、外に出ると間もなく反対側の… 入った側の出口… つまり入り口なんだけど、そこから女の子が奇声を挙げながら飛び出してきた、懐かしいね?


「…ぁぁぁあー!!!???…え?」


「おはようツチノコちゃん、元気?」


「アァー!?!?なんでいるんだよー!?おぉいっ!!!」


「会いたかったよ、探してたんだ?」


 相変わらず難しい子だとなだめていると、今回はスタスタ歩いてきた博士たちがツチノコちゃんに向かいこう話した。


「おまえツチノコ、また一人で騒いでいるのですか?」

「相変わらず落ち着きのない」


「だって驚くだろ!急に来るなんて思ってもないやつが現れたんだぞ!」


「ツチノコちゃんは何してたの?」


「あ~… 実はその…」 


 聞くところによると俺のお見舞いにわざわざ寄ってくれたらしい、このツンデレめ。


 でも意を決して船まで近づいたはいいが運悪くミライさんと遭遇した。


「UMAのフレンズ!?是非お友だちになりましょうツチノコさん!可愛がってあげますから!」


「あぁー!!??近寄るなッ!?」←逃走


 ということがあり断念、ミライさんがいる限り船には近づけないと様子を伺っていたのだった。


「なんかごめんね…」


「いやいい… なんだ、その… 元気か?」


「おかげさまで、この通りだよ?」


「腕が片方のやつに健在と言われても正直説得力はないけどな?まぁよかった、無事に起きたんだな?」


 ここで… しかもこのタイミングで彼女と会ったのは何かの縁だろうか?島を出るという日に、島に初めて来た時とほとんど同じのこのシチュエーションで彼女と会った。


 俺は彼女に言いたいことがある、せっかくだから彼女を連れていくのはどうだろうか?

 今俺はパークの歴史に詳しい彼女も首を縦に降らずにはいられない理由で火山に行こうとしているのだから。


「ツチノコちゃん、これから火山に行くんだ、よかったら一緒に行かない?」 


「シロ、勝手に我々の負担を増やすなですよ」

「そうです!勝手はやめるのです!」


 二人をまぁまぁとなだめているとツチノコちゃんも何やら疑わしい目でこちらを見ている、まぁジャパリマンを持って火山に行くなんてイカれているとしか思えないだろう、しかも大量だ、ピクニックにしてもおかしい。


「火山に?ジャパリマン持ってか?意味がわからん、何しに行くかに寄るな」


「お供えだよ、四神のフィルターの謎… 知りたくない?」


 ツチノコちゃんだけではない、博士も助手もその言葉には目を丸くした。

 何せただでさえ謎の多いフィルターの秘密を知りたくないか?と持ちかけているのだから、そんなことを言われては考古学者心をごっしょごしょにくすぐられてしまうことだろう。

 

 口を揃えて彼女たちは答えた。


「「「知りたい!!!」」」





 今宵は四人、サンドスター火山の秘密に迫る… って、全部をはっきり知ってるわけではないけど。

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