第91話 かぞく

 港に現れた大きな船、そこから出てきたのは僕が今一番会いたい人の父親でした。


 彼の写真を見せられた僕は答えました。


「彼のことならよく知っています」


「本当かい?いやよかった!あ~すまない!自己紹介がまだだった!私はナリユキと言うんだ、海の向こうから息子に会いに来た」


「かばんと申します、よろしくお願いします」


「かばん?ちゃん… 変わった名前だね?まぁよろしく頼むよ」


 とても紳士な方でどこか雰囲気がシロさんとよく似ていて、きっとこんなお父さんに育てられたから彼はあんなに優しいんだと思いました。


「えっと~ってことは~?シロちゃんのお父さんってこと!?えー!?どういうことなの!?」


「シロ?」


「彼の愛称です、みんな彼のことをそう呼びます」


「なるほど… しかし、そっちのサーバルちゃんはサーバルキャット、でも君は… 見たところ動物の特性がない、フレンズではなく人間ということで合っているかな?それにその帽子は…」


 彼のお父さんはフレンズを知っている。

 聞いたことがあります、まだパークがとても賑わっていた頃、ここで研究をしていたって。

 僕のを見てすぐに特徴を気にし始めました、きっと頭がいいんだと思います。


 カコさんみたいに。


「かばんちゃんはシロちゃんの奥さんだよ!」


「奥さ… お… え?奥さん?」


「はい、シロさ… いえ、ユウキさんの妻です… あの、ナリユキさんはお義父さん?になるんでしょうか?」


「まぁ~その通り、そうなるね… えっと~…息子がいつもお世話になっております、まったくアイツは親に黙って…」


 そこで、なんだか長くなりそうだとお義父さんは僕たちを船に案内をしてくれると言いました、こんなに大きな船に乗組員はたったの四人だそうです、なんでもこれ以上は「国が厳しい」とかで。


 中に入ると僕にはよく理解できない複雑そうな機械を使い誰かに話しかけています、通信機?というやつでしょうか?

 

「あーこちら本部、こちらに客人が来て進展があった、シンザキ君にナカヤマ君は一旦戻ってくれるか?


 …うん、サーバルの子ならこっちに来てくれたから会いたいなら早く戻りなさい


 …なに?いや、ジャガーの子は来てない、豹じゃないサーバルキャットだ!模様の区別の話はここに来るまでに散々聞いたしすでに知っている、いいから早く戻りなさい…


 ふぅ、やれやれまったく彼女の部下は何でこう変わり者が多いのか…」


 察するに二人… ってことはもう一人船に誰かいるはず、いったいどんな人なんでしょうか?


「かばんちゃん、これなに?すっごーい!なんだかよくわからないけど!とにかくすごすぎるよ!?」


「これが本当の船なんだね、機械が沢山あって複雑で、でもどうやって使うのか僕には全然わからないや…」


「あぁすまないね二人とも、なにから話そうか?そうだ、ユウキは元気にしてるのかい?いや驚いたよ、まさか二年半ぶりに息子に会いに来たらこんな可愛らしい奥さんがいるとはね?」


「あのお義父さん!実はユウキさんが大変なことになっていて…!」 


「ナリユキ君?お客さんですか?」


 僕が今の状況を話そうとしたときです、奥の部屋から今度は髪の長い女性が現れました、僕はその人に見覚えがあります。


 なぜだかわかる、この人を僕は知っている。


 知っているし、とても他人に思えない。


「あ、あれ?あれ?」


「サーバルちゃん?」


 隣に座るサーバルちゃんを見るとポロポロと涙をこぼしていました、こういうシーンを前にも見ました… そう、あれはロッジで。

 

 ロッジで“彼女”の姿を初めて見たとき。


「あぁ“ミライさん”、聞いてくれ?彼女はユウキの奥さんだそうだ」


「まぁ!素敵ですね!彼が幸せに暮らしている証拠です!出会えた奇跡に感謝しましょう!」


「かばんちゃん!ミライさんだよ!やっぱりミライさんだ!」


 ミライさん、ラッキーさんの見せてくれる映像で何度も顔を見た。


「ミライ…さん?あなたがミライさん?本当にミライさん?」


「はい!初めましてミライです!あれ…? ごめんなさい、どこかで会ったかしら?おかしいですね、あなたを知っている気がします」


「ミライ オカエリ」


「その声はラッキー?どこ?」


 本物なんだ!とうとう会えた!


 彼女はミライさん、映像だけでなくパークの至るところでその痕跡を見ることができました。

 あのミライさんについに会えた、しかもシロさんのお父さんと一緒に!


「は!?それよりも… サーバルさん!?あなたサーバルさんですね!?」


「うみゃ!?あ、うん!サーバルキャットのサーバルだよ!」


「最高です… フレンズさんにまた会うことができました… パーク再建に時間をかけること20年、この瞬間をどれ程待ちわびたか、とうとうこの地にまた足を踏み入れることができました」ワナワナ 

 

 なんだか様子がおかしい、まるで始めてサーバルちゃんと出会った時の狩りごっこ… あの時のサーバルちゃんのウズウズした顔を思い出す。


「ミライさん、落ち着こうか?」


「だきしめたーい!?」←暴走


「うぎゃぁ~!?」


「また発作か…」


 間違いない… ミライさんだ。←確信




 その後僕たちはこれまでのことをざっくりと説明し、現在シロさんが大変なことになっていることも話しました。


「それは本当なのかい?」


「はい、港には彼を探しに来ました、海に身を投げるか火口に身を投げるかと決めかねていた風だったので…」


「なんてことだ、体質のせいでここに来たことが裏目にでてしまったのか…」


 お義父さんの話では、彼は体内のサンドスターの回復を補うために外気からもサンドスターを取り込むような体質になっているらしいです。

 その為か濃度の薄い… 例えばまったくサンドスターのない海の向こうでは野生解放もこちらで見せたような大きな力を出せない、それでもヒトに比べればずっと強い。

 でもだからこそ濃度の濃いパークに来るとその力はさらに大きく発揮される、そのため抑えられていた野生に初めは彼自身が負けてしまった。

 

「サンドスターロウまで取り込んでしまうとは、完全に誤算だった」


「僕は彼を、夫を助けたいんです!だからお義父さん!ミライさん!力を貸してください!お願いします!」


「顔を上げてくれかばんちゃん」


「私たちは、もとからその為に来ました… 彼に会いに来たんです、彼は向こうでずいぶん辛い思いをしてきましたから?もしもここでの生活が幸せなら、それが一番だって」


「大丈夫だ、完全にサンドスターロウに飲まれていなければ策はある」


「本当ですか!」

「よかったねかばんちゃん!」


 あぁよかった… まだ助かるんだ、彼とまたお話できるんだ。


 彼は助かる…。


 そう思うとまた滝のように涙が溢れてきて、僕は周りも気にせず声をあげて泣いていました。


 そんな僕の頭をミライさんが撫でてくれて、その時感じたことのない安心感に包まれました、なぜだかとても懐かしいような気持ちに。


 お母さん… こんな感じなのかもしれません。


「彼のことを本当に愛しているんですね?」


「はい…」


「ナリユキ君?あなたの息子さんは幸せものですね、こんな素敵な奥さんがいて」


 ミライさんはお義父さんに優しく笑い掛けて言いました、その時お義父さんは返事をするのと同時に気になることを僕達に向かい言いました。


「ずっと思ってたんだが、かばんちゃんはミライさんとよく似てないかな?うん… やっぱり似てるよ?まるで親子みたいだ、声もよく聞いたら似てる」


「そうですか?ところでかばんさんはどこからきたのかしら?まだ若いのにどうしてここに?そもそもあの厳重な警戒を潜り抜けてどうやってパークに近づくことができたのか」


 僕の思っていたことをお義父さんまで?これは偶然?


「僕はここで生まれたんです、この帽子についていた髪の毛にサンドスターが当たってフレンズとして生まれました」


「なんだって?」


「その帽子、気になっていましたが誰のものでしょう?私の帽子はここを出るとき風に飛ばされて… まさか?」


「ソレハ ミライノ帽子ダヨ」


 映像に残ってた、それは僕もみました。

 でもこれがミライさんの?ということはまさか… 残っていた髪の毛って?


「ラッキー!それは本当なの?」


「スキャン開始… カバントミライノ遺伝子適合率100% カバンハ ミライノフレンズダネ」


「ラッキーさん、それはつまり…」


「同一ノ人物 姉妹 アルイハ親子ト言ッテモ相違ナイト 個人的ニハ思ウヨ」


 僕はミライさんのフレンズ… ミライさんは、お姉ちゃん?お母さん?


 本当にお母さん!?


「驚くことが多すぎて反応を忘れてしまうな…」


「どうやら私、未婚の母になってしまったようです… いや、それもよりも!かばんさんあなた!少し失礼しますね?」ピピピ


 ミライさん?お母さん?どう呼べば… とりあえずミライさんで!ミライさんの眼鏡に何か文字が浮かびました、あれはただの眼鏡ではないようです。


「サンドスターの数値が… やはりフレンズさんで間違いないですね?人間のフレンズが生まれるなんて… 私もフレンズさんになりたかったです… ってあら?それからこれは?こ、これは!?」


「どうしたんですか?」


「なになに?かばんちゃんどうかしたの?」


「ラッキー!彼女をよくスキャンして!」


「ワカッタヨ スキャン開始…」


 ラッキーさんのスキャン?という作業は少し長く、何がなんだか分からないので僕はミライさんに尋ねました。


「あの、僕がどうかしたんですか?」


「あ!もしかしてかばんちゃん病気とか!?嫌だよ!どうしよう!?」


「大丈夫です、これが正しいなら悪い話ではありません!」


「スキャン完了」


 ラッキーさんのスキャンが完了するとまずはミライさんが僕に言いました。


「最近吐き気はありませんか?あとは熱っぽいとか?」


「あ、はい… 夫が心配で食べ物が喉を通らなくて、熱っぽいのは言われてみれば…」


「ミライさん!ボス!かばんちゃんどうしたの!?」


「ラッキー、結果を教えて?」


 キリッとした顔でラッキーさんに指示を出すミライさんは先程の優しいイメージはそのままにとてもしゃんとして頼もしい雰囲気になりました。

 

 そしてラッキーさんの言葉にその場は僕も含めて騒然となりました…。


「カバン オメデトウ」


「なんですか?急に?」


「ラッキー、間違いないのね?」


「間違イナイヨ 妊娠、約2ヶ月ダヨ」


「やっぱり…」



 え…?



 「「「え?」」」



 妊娠…?



「ナリユキ君!すごいですよ!お孫さんですよ!」


「え!?俺がお爺ちゃんに!?大変だ!えっと… 大変だ!?」テンパリマックス


「すっごーい!かばんちゃん!赤ちゃんができたんだよ!ついにやったね!二人とも毎晩すごかったもんね!」


「やめてくれ!息子の濡れ場の話をするんじゃあない!」


 妊娠… 赤ちゃん?僕のお腹に赤ちゃんが!?


「計算ノ結果 クリスマスパーティーノ

夜ダネ 音声サンプルノ再生」


「え!?ラッキーさん待っ…!?」


“『それじゃあ、ワガママを言っても… いいですか? 


 赤ちゃんが… 欲しいです… ///』”


「「「うわぁぁぁぁあ!?!?!?」」」





 赤ちゃん… 僕とシロさんの赤ちゃん。


 シロさん?家族が増えましたよ?急にいっぱい増えましたよ?


 パパになるんですよ?


 だから帰ってきてください?


 子供の名前、一緒に考えましょう?







「それにしてもユウキ君がセルリアンになるなんて、フレンズさんのハーフはまだまだ謎が多いですね?」


「逆のパターンなら事例があるんだ、こういうこともあるんだろう」


「あの、逆のパターンとは?」


「セルリアンのフレンズが… 昔一人だけいたんですよ」


 セルリアンのフレンズさん… 誰でしょう?


「今はそれはいい… ユウキは今どこにいるのかわかるかい?」


「わかりません… 火口に向かっているか、あるいはすでに心を無くしてパーク中をさ迷っているのか…」


 早くしないと間に合わない、シロさんどこにいるの?


「大丈夫ですよ!」


「でもミライさん?どこにいるか分からないのにどうやってみつけるの?」


「まぁ見ててください!ラッキー!今は私が統括管理者です!全ラッキービーストのネットワークにアクセス!」


「統括管理者ノ権限ヲ確認中… 認証完了… ミライ二全テノ権限ヲ付与 全テノラッキービーストネットワーク二アクセス」


「OKラッキー!こちらの端末からパークの現在の全地形をラッキーにダウンロード!それをもとにユウキ君の正確な位置を割り出して!」


「任セテ」



 ラッキーさんとミライさんの連携で、話が進展するようです。


 お義父さんにミライさん、それに赤ちゃん。


 一度にたくさんの事がありました。


 


 でもシロさん、ここにいないってことは…。






 

「フェネックあそこにいるのだ!シロさんなのだ!」


「こっちが当たりだったね~?まだ山には登ってないみたいだけど、この場所は…」


 アライグマ、フェネックの二人は火山に向かい走った。

 麓の森… フェネックはこの場所をよく覚えていた、ここは黒セルリアンと戦った場所だ。


 その少し開けた場所に出ると、フラフラと前に進む影があった。


「シロさん!行っちゃダメなのだ!」


「待ってアライさん… なんか変だよ?」


 フェネックは彼と目があった、暗くすべてを飲み込むような闇を連想させる目をしていた、表情は暗くも明るくもなくただ無表情… まるで脱け殻だった。


「返事をするのだシロさん!アライさんが助けに来たのだ!」


「逃げようアライさん…」


「なぜなのだ!シロさんを見つけたのだ!」


「もう… シロさんじゃない…」


 二人を見つけ向かってくる彼の髪は。


 だんだんと黒く変色していき。


 やがて耳と尻尾が発現した彼の姿に、かつて雪のように白く美しいホワイトライオンの姿は見る影もない。


 さながらブラックライオン。


 ついにフレンズの姿も乗っ取られてしまったのだ。


「嫌なのだ!シロさんはアライさんに酷いことしないのだ!」


「ダメだよアライさん!行こう!」


 表情を変えることなくその手がアライさんに振り下ろされる。


 その時…。


 ガキィンッ!


「お前たち!何してる逃げろ!」


「「ヒグマ!」」


 博士たちからの情報はハンターたちの耳にも入り、既ににシロの討伐が始まろうとしていた。


「シロ、私の声が聞こえるか?バカな真似はよせ!」


 彼は返事をしない、ただ無表情に獲物を見るだけだ。


「ダメか… クソ!わかった!今楽にしてやる!」


 ヒグマはいち早くその場にたどり着き、ハンターとしての自分の役割をまっとうするべく彼に立ち向かう。



 彼女とて辛かった。



 友人を手に掛けなくてはならないのだから。








 どこだここ?真っ暗じゃないか?


「おはよう」


 真っ暗なのに目の前には女の子が立っているのがハッキリと見える、ただこの子はなぜか緑色だ、まるでセルリアン… でもあえて言うならそう、サーバルちゃんによく似た見た目をしている。


「君は誰?ここは?」


「こんな風に入ってくる子は初めてだよ、みんなの意識は食べられてから最後にここに来るの」


「答えてよ、それも気になるけどまずは自己紹介から、俺は…」


「知ってるよユウキ」


 なんで俺の名前…。


「シロの方がいい?」


「どっちでもいいよ、君は?」


「じゃあよろしくシロ?ワタシはセーバル、セルリアンのフレンズ」


 セルリアンのフレンズ?セーバル?どこかで… 地下室だったか?



 砂漠を出てからの記憶がない、ここはどこだ?俺はどうなった?


「シロはもう、セルリアンにすべて乗っ取られたんだよ?可哀想に、あなたの記憶見たよ?幸せだったのにね?」


「記憶を見たって?まぁいいや… そっか手遅れだったか、あとは誰か犠牲になる前に俺を始末してくれるのを待つしかないのか」


「残念だね?お母さんせっかく犠牲になったのにね?」



 ちょっとまて… 母さんがどうしたって?


「今、母さんって…」


「そうだよ、覚えてないの?」


「なにを?」


「じゃあ見せてあげる、あなた一度死んだみたいだよ?」


 死んだって?俺が?



 いつ…?

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