第90話 たすけたい

 あれから夜が明けて、朝がきました。


 当たり前のように彼が帰ってくることはありません。


 昨日聞いた彼のメッセージ… あれは正確には遺言になります「もう自分の心は死んでしまうから見た目が同じでも気にするな、それはセルリアンだ…」とつまりそう言っていたんです。


 でも…。


 みんなへのメッセージならなぜ名前をパスワードにしたのかそれがわかりません、あれでは僕がいないとロックが解除できない。


 彼は… 本当は何を伝えたいの?





「では、我々は行きます」


「どこへ行くんですか…?」


「この事を皆に知らせるのです」

「シロの最後の頼みなら、聞かない訳にいきません」


「つまり、彼を殺すんですか…?」


「あのまま放ってはおけないのです」

「あのまま苦しめるならいっそ、楽にしてやるのです…」


 二人の言ってることは長としてまともだと思う、パークを守る為でもあり長い時間を彼と共にした二人なりのケジメなのかもしれない。

 

 でも、それでも僕は…。


「ダメです、やめてください!」


「かばん…」

「気持ちはわかりますが…」


「のけものにするんですか?」


「「…」」


 本当はわかってる… こんなのわがままだってわかってる。


「あんなにお世話になったのに彼をのけものにするんですか!」


「かばんちゃんやめて?二人も辛いんだよ?お願いかばんちゃん?」

 

 サーバルちゃんに止められながらも、わかっているのに怒りが表にでてくる、どうしようもないってわかってるから余計にイライラしてる。


 僕がしてるのはただの八つ当たりでした。


「かばん、お前の気持ちも分かるのです」「実は本当にこれが正しいのか我々にもわからないのです」


 わかってました僕がただ駄々をこねてるだけだって。


 でもあんなメッセージを聞いてしまった僕はどうしたら… どうしたらいいっていうんですか?


 僕は彼を愛しているんです、どうしても一緒にいたい…。


「かばん?シロが… 誰かに嫌われることをもっとも恐れていたことを知っていましたか?」


 その時、不意に博士さんが僕に尋ねました。


 急になんなのか?なぜそんな話を?


 でも確かに、シロさんはよく僕に気持ちを確認するようなことを聞いてくることがありました、

 

 「嫌?」って聞いたり「嫌いになった?」だったり。


 だから僕はその度に「大好きですよ?」と答えていました。


 嫌いになんてなるはずがない。



「ではあいつがなぜそれをそこまで恐れるかそれはわかりますか?」


 と今度は助手さんが言いました。

 

 この理由は何となく僕にも察しが着いています。


 彼は子供の頃友達を傷つけたそうです、恐らくそれが根本にあり自分の相手に対する行動に自信が無くなる、相手が大切であればあるほどそれは大きくなる。


「シロは小さい頃はヒトの姿ではなくフレンズの姿をしていたそうです」

「野生解放しなくても耳と尻尾があったのです」


 二人の話は彼の昔話でした、やはり子供の頃の事が理由なんだ。


 シロさんは小さなフレンズでした、でも友達もたくさんいて、みんな周りと違う彼に親しみを持ちよく耳を撫でてくれたそうです。


 そのなかでも特に仲の良い子供がいて、二人は本当に仲良しかと思われました。


 でもある日、彼はほんのじゃれるつもりでその友達に飛び掛かってしまった。


 彼には耳と尻尾だけではなく鋭い爪と牙がある、それは小さくても同じことで彼はその時友達に怪我をさせてしまった。


 痛みに震える友達に彼は何度も謝りました、でも。


「そのあとその友達がシロをどうしたと思いますか?」


「許してあげたんじゃ…」


「違います、幼いころことですがシロはよく覚えているそうです」

「今でもその時の言葉を思い出して辛くなることがあるとさえいっていました」


「なんて… 言われたんですか…?」


 彼が友達に言われた言葉は、とても仲良しだったはずの子が言ったとは思えない一言。


 それは。



「「近寄るな化け物」」


 そう化け物って、そう言われたそうです。

 思わず僕の胸が苦しくなりました。


「怯え突き放すようにそう言われたそうです」

「それがきっかけだったのかは知りませんが、いつしかフレンズの姿は隠れるようになり今のシロのようにヒトの姿が通常となったそうです」


 そんな…。


 カコさんから聞いた「ヒトは自分と違うものを恐れる」という話を思い出しました。


 確かに彼は怪我をさせた、その友達は痛くて辛かったと思う。

 でも彼はその子が好きだっただけ、ただ一緒に遊びたかっただけで…。


 力加減が子供の彼にはわからなかっただけなのに、それなのに化け物だなんて… 確かにケガをさせたのは良くないことだけど!でも…!


「シロはヒトの世界でずっとそうして恐れられたそうです」

「その点ジャパリパークではみんながあいつを受け入れました、おかしな話です」


「そうですね助手?ヒトの姿になった獣の我々にできて、本物のヒトが同じことをできないとは…」

「まったくです」


「つまり、何が言いたいんですか?」


「いえ… ただあいつが出ていったのも結局そこに帰結していると思うのです」

「あいつは怖かったんですよ?みんなに恐れられる以上にお前に恐れられることが…」


 セルリアンは怖い… フレンズを食べてしまう恐ろしい生き物。


 サーバルちゃんが食べられた時も怖くて仕方なかった、フレンズさんに悪さをするセルリアンに怒りさえ覚えた、


 そのセルリアンに、彼はなってしまった。


 このままそばにいて彼が心を失った時、一番近くにいる僕がその被害を始めに受けるのかもしれない。


 その時僕は彼に怯えて逃げてしまうのかもしれない。


 でも… それでも僕は彼が好き。


 決めたんです、何があっても味方でいるって、彼がもし心を失ってしまっても、僕が思い出させてみせる。


 だから、彼を殺させはしない!


「かばん、お前しか知らないはずの名前をパスワードにしていたということはあれはお前に対するメッセージなのです」

「要件だけ話してサクッと終わればいいものをあんな未練タラタラな甘い言葉をお前に言う… それが証拠です、まったくだらしないやつなのです」


「あの… どういうことですか?」


 二人は僕のそんな言葉無視して飛び上がりました。


「さあ助手!好奇心旺盛なやつには特に注意を呼びかけるのですよ!」

「はい博士、かばん?その間、お前は好きにするのです」


 そう言い残し二人は飛び立ちました、やっぱり長として彼がみんなを襲うのを放ってはおけないのでしょう。


 だから僕はその間…。


「サーバルちゃん!ラッキーさん!協力してください!」


「任せて!」「任セテ」


 好きにさせてもらいます!

 


 まずはアライさんとフェネックさんにはすべて話しました、その上で協力をしてくれるか… その点は二人に任せます。


「どういうことなのだ?アライさん全然わからないのだ!」


「信じられないけど、その様子だとシロさんはもう…」


「いえ、まだです… 僕たちはこれからシロさんを探します、二人はどうするか… それは任せます」


「そんなの手伝うに決まっているのだ!」


「かばんさんとシロさんのためだものー?ドンとこいさー?」


「ありがとうございます!」


 頼もしい協力を得たところで情報を整理します。


 セルリアンになってしまったシロさんは自決を図ったけど石は砕けなかった、他の方法として海か火山に身を投げるかと決めかねた状態でした。


 個体にも寄るけれど海水に弱いセルリアン、入れば溶岩に変わるかもしれない。


 一方火山にはサンドスターロウを封じるフィルターがある… 中に落ちてしまうとどうなるかわからない、死んでしまうかもしれないし生きていたとしてもフィルターに防がれて脱出することができないでしょう。


 でも死なせない、どちらもさせはしません。


 僕が絶対に助けてみせる。


「二手に別れて探すべきでしょうか?」


「片方は港で、片方は火山だねー?」


「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」


 サーバルちゃんが不安そうな顔で手を上げて話に入った、なにか不安要素があるなら今のうちに対処しておくべき… 結論を焦らずに話を聞くことにしました。


「シロちゃんを見つけたらそのあとは?どうやったら治るのかもわからないしなんであぁなったのかも結局わからないままだよ?」


「うん… 考えられる原因として、シロさんは自分にしか起きない症状って言ってたよね?」


「言ってたと思う!どういうことかな?シロちゃんにだけ起こるなんて変だよ!」


 原因… 結局なんなのだろう?


 そもそもどうしてサンドスターロウがシロさんに発生してしまったの?頭を冷静に、ゆっくりと結論付けて… 落ち着いて。


 そうだ、シロさんの体質?確かシロさんは… 野生解放の時にしかフレンズの姿になれないけど、あるときはその姿を維持してたはず、それは確か?


「シロさんは、火山に行くとサンドスターの濃度が濃くてしばらくフレンズの姿でいられたはず…」


「そうだったねー?元に戻れないまま発情期がきてー?少し事件になったことがあったよねー?」


「そもそもなんでそんなことになるのだ?アライさんは火山に行ってもいつもと変わらないのだ!」


「それが普通だからねー?」


 つまり、フレンズさんはみんな濃度が濃いところに行ったところでもなにか変化があるわけではないということ、でもシロさんは違う、濃度が濃いとフレンズさんの能力が強くなる?ハイになると言っていたっけ?


 ってことは…。


「シロさんはサンドスターを外からも補給できるのか、それとも環境に合わせてサンドスターの影響を受けやすいってことでしょうか?」


「難しくてわからないよぉ…」


「アライさんにもさっぱりなのだ…」


「濃いところでは元気になるってことだよねー?それってつまり息を吸うみたいにサンドスターも吸ってるってことかなー?」


 なるほど… 簡単に言うとつまりそういうことになります。


 ということは、シロさんはどこかでサンドスターロウを吸い込んでしまった?吸収してしまったってことになります。


 普通のフレンズさんなら息をするみたいに外から取り込んでしまうなんてことにはなりません、サンドスターは体内から湧き出たりジャパリマンなどの食事で満足感を得たりしたときに回復するはず。


 でも外から取り込めるシロさんは違う、何かが原因でサンドスターロウを取り込んでしまえば… でも息を吸うように取り込んでしまうならもっと早くこうなっていたはず、ならなかったということはサンドスターロウは別の方法で吸わなくてはならないということ?じゃあ直接触れてしまったとか?なにか良くないものを食べてしまったとか?理由はわからないけど…。


 では取り込んでしまったサンドスターロウはどうなるのでしょう?


 例えば、シロさんの体内にあるサンドスターを食べてどんどん大きくなっていくとしたら、その時フレンズさんの源であるサンドスターの代わりにセルリアンの源であるサンドスターロウが体にみなぎってしまうことになります、体が時間を掛けてゆっくりとセルリアンに乗っ取られていくようなことになるんじゃ…?


 それじゃあ…。


 そういう原理だとして、治すにはサンドスターを供給しつつサンドスターロウを吐き出させればシロさんは元に戻れるはず!


 でも吐き出すなんてどうすれば?ダメだ… 僕じゃわからない…。

 

 カコさんがいれば… 教えてカコさん?


「サンドスターロウを何とかして取り出すことができれば、元に戻せるかもしれません」


「本当!?でもどうやればいいんだろう?」


「わからない… やっぱりカコさんの力が必要だよ、でも先にシロさんを見付けよう!」


 僕は立ち上がりバスに向かおうとした。


 でも彼のことで眠れず食事も取れていなかったのが体に堪えたのかフラりと立ち眩みが起きました。


 でもその時フェネックさんが受け止めてくれて、そして言いました。


「かばんさーん?気が急いてしまうのもわかるけど何も食べてないんでしょー?それじゃあかばんさんが先に倒れちゃうよー?」


「ご飯を用意しておいたのだ!少しでいいから食べていくのだ!」


「ありがとうございます!でも大丈夫です、移動しながらジャパリマンも食べれるので?それに心配したりショックだったりしたせいか、最近は食べてもすぐに戻しちゃうんです、せっかく作ってもらったのにそれはもったいないので…」


「そういえばかばんちゃん、たまに具合悪そうにしてたもんね?今は大丈夫?歩けそう?」


「平気、ありがとうサーバルちゃん!」


 話し合った結果、アライさんたちには火山に行ってもらい… 僕とサーバルちゃんは港にバスで向かうことにしました。


 距離もあるのでこれが妥当な判断かと思っています、それにどうなるかわからない火口に身を投げるより海の方がまだ確率が高い気がします。


 とにかくそうして僕たちは二手に別れて彼を探し始めた。






 一方長である博士たちはパーク中を飛び回りフレンズたちにシロの姿を見たら報告するように伝えて回っていた、決して近づいてはならないと注意しながら。


 現在はさばんなちほー。


「カバ、聞くのです」

「シロを見かけたら近づいてはなりません、いいですね?」


「どういうことですの?彼、なにかしましたの?」


 長の二人もこれを皆に伝えるのにはいちいち苦虫を潰したような表情を隠しきれなかった、二人にとっても彼は手のかかる子供のような… そんな存在だったからだ。


「結果から言うと、シロはセルリアンになってしまったのです…」


「セルリアンにですの!?そんなことがあるわけ…」


「それがあるのです…」

「良いですか?見かけたら離れるのです、話しかけるのも戦うのも許しません、他の子にも伝えるのです」


「わかりましたわ… それで、どうしますの?」


「どう… とは?」


「助けられるの?それとも…」


 二人はシロの遺言を話し、腕利きを連れていずれ迎え撃つことを伝えた。 


 無論殺してしまうなど誰も望んではいない。


「そうですの… 二人はそれでもいいの?」


「わかりきった答えを聞くのはポンコツのやることです…」

「とにかく周りに注意するのです、なにかおかしなことがあったら伝えるように」


「あの?失礼します、サバンナシマウマです」


 話しに割って入ったのはずいぶん前にサバンナの案内をシロのために買って出たサバンナシマウマだった、彼女はシロの話を聞いて来たわけではない、彼女は彼女でおかしなことがあったのでカバと話しに来ていたのだ。



「シマウマ、今大事な話の最中なのです」

「後にするのです」


「いえその… 関係あるかわからないんですが見慣れない方を見たので話を聞いてもらおうかと思って?」


 そんなのは新しく生まれたフレンズだろうと二人は一蹴したかったが、話を聞くにどうもそうはいかなくなっていった。


「トムソンガゼルがジーっとなにかを見ていたんです、だからどうしたの?って聞いたら、なんかこう… 別に不快ではないんですけど?ニチャっとしたしゃべり方をする方が草むらから出てきてですね?その方耳も尻尾もありませんしフードも羽もないので、かばんとシロの仲間かなと…」


「つまりお前それは…」

「ヒトがこの島に上陸しているということですか?」


 二人は思った「このくそ忙しい時に

面倒な…」と。


 前ならヒトというだけの理由で知的好奇心が刺激され拉致していたであろう二人だったが、今はそんなことよりシロが大変なのだ。


 アライグマではないがまさにパークの危機である… できればことが済んでから関わりたいのでここでおとなしくさせておきたい二人だった。


「その方なにしに来たんですの?」


「詳しくは知りませんが、本人が言うには“調査ぁですかねぇ?”と」


「ますます意味がわからないのです、今はそれよりもシロなのです… カバ、さっきの話くれぐれも頼みますよ?」

「シマウマ、そのヒトらしき生き物は任せるのです、あまりフラフラしないように注意しておくのです、パークの危機ですよ?」


「わかったわ!」「わかりました」



 二人はサバンナちほーを後にした。







「かばんちゃん!港になにかあるよ!?」


「あれって… 船?」


 二人は既に日の出港にいた。



 僕たちが着いた時、そこにあるのは海に浮かんでいることから船で間違いないと思いました。

 でもそれはとても大きくシロさんの使っていた船と比べるとまるでいつかの黒セルリアンを思い出すほど大きさに差がありました。


「おっきいー!?なにこれー!?」


 バスを止めるとさらにその大きさが際立ちました、色は黒でまるで建物が海の上に浮いているようです。


 なんなのか?

 気になるけど今はシロさんを探さないと!


「サーバルちゃん!気になるけどシロさんが優先だよ!近くにいない?」


「う、うーん… いないと思うけど… これ気になってしょうがないんだけど?あ!誰か出てくるよ?」


 出てきたのは髭を生やした背の高い… 男の人です、でもシロさんよりもずっと歳をとっていて… だけど、あれ?なんかこの人な、どこかで?


「初めまして… 突然ですまないが君たちに聞きたい」


「あ、はい初めまして…」


「あ!サーバルキャットのサーバルだよ!」


「うん… それでは、この写真の少年を知らないか?」


 見せられた、写真… カコさんのとこでも見ました、その時その瞬間を一枚の紙に収める、すごいものです。

 

 そして僕はその写真を見たとき思わず目をハッと見開きました


「白い髪が目立つと思うんだが…」


「か、かばんちゃんこれ…」


「うん…」


「知っているのかい?迷惑掛けていないといいが、実はこの写真の彼は…」



 波の音と潮風が優しく吹くなか、その男の人は言いました。




「私の息子なんだ…」

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