第83話 びょうき

 シロの日記


“ マイホームを頂いた日に嫌な夢を見た。

 最悪の夢だ、そんな夢も隣にいる妻の顔を見れば忘れられる。

 だが翌日パークに来て初めての風邪を引いた、川に落ちたのが原因だろう。

 高熱でダウンしたが妻の手厚い看病があるならたまには寒中水泳も悪くないかもしれない。

 逆になんで今まで風邪もひかずに生活できたのか不思議で仕方がない、大ケガをしたことはあるが。 ”





「シロさん大丈夫ですか?」


 と心配そうに俺を見つめるのは妻のかばんちゃんである。


「ごめんね?ちょっと動けそうにないや…」


 強がって動いても迷惑になるだけだし余計に心配をかけるだけだろう… はい、安静にします。


「あの?やっぱり服を着ないで寝たのが悪かったんじゃ?」


 それは違うな、断じて違う!くっついてるから暖かかったろ?←そもそも猛暑である


「いや、実は氷を取りに行ったときに川に落ちたんだよ」


「あんなに寒いところで川に!?大丈夫なんですか!?」


「ギンギツネさんが助けてくれた、温泉に入れば?って言われたけどみんな待ってたし、そのまま帰ったんだ」


「もう… 危ないことしないでください?シロさんがいなくなっちゃったら僕は…」


 目には大粒の涙、不安が溢れた表情。


 ギンギツネさんにも言われたけど、もう一人だけの問題じゃないんだ、ちゃんとしないとな。

 一人の女性の人生を預かったんだし、心配かけたらだめだ。


「ごめんかばんちゃん?すぐ治すから?本当にごめん…」


「心配してるんですよ?」


「約束する、もう危ないことはしない、心配かけないようにするよ?」


「わかりました、今日は安静にしててくださいね?僕がご飯作りますから」


「うん、頼むよ… ごめんね?」


 去り際彼女は身を乗り出してキスを迫ったが、俺はそれを止めた。


伝染うつっちゃうよ…?」


「ずっと隣にいるのに今更です、それにもし僕が倒れたらその時はシロさんが看病してください?」


 フム確かに。


 そんな彼女に押し負けて結局俺は唇を許す、熱で敏感になった体に唇同士の当たる感触が優しく伝わった。


 弱ったときに色々されるとグッと来る、彼女が奥さんで良かった、ひいてみるもんだな風邪。







「かばん、シロはどうです?」


「熱がスゴいみたいで、今冷やしてるところです、ご飯今作りますね?」


「わたしも手伝うよ!」


 シロさん、何か他にあったんでしょうか?夜は怖い夢にうなされて怯えていたし、朝は熱が出てこの通りです。

 

 僕は心配です。


 川に落ちただなんて、死んじゃったらどうするんですか…。


「しかし珍しいのです」

「というか… 初めてではないですか?」


「初めて?なにが?」


「シロはここに住んでから風邪を引いたことがないのです」

「疲れや怪我、心の病に倒れたことはありますが、単に風邪を引いて熱をだしたのは初めてなのです」


「そうなんですか?でもシロさん、雪山の川に落ちたって…」


「うみゃ!?大変だよ!川じゃないけど、わたしも温泉と間違えたときもうダメかと思ったもん!」


「なにをやってるのですかあの間抜けは…」

「まったくです」


 と二人は飽きれた顔をしていましたが、氷を取りに行ったのもみんなの為で、危ないことはしてほしくないけどあまり責めることもできません、彼の厚意は嬉しいから。



 それから朝食の用意をしてるときのこと。


 博士さん達は「朝は納豆がいいのです」と言うけど、納豆?ってこの臭いのあるネバネバした物のこと?


「カバン 納豆ハ発酵食品トイッテ…」


 ラッキーさんの説明だとこれが正解みたいです、でもこれ本当に食べれるんでしょうか?その… 腐ってるんじゃ?


 とりあえずラッキーさんの指示の元用意することにした。


「はい、お待ちどうさま!」


 これでみんなの食事は用意できました、僕自身のご飯の前にシロさんにはこれからお粥と言うのを作ろうと思います。


「ね、ねぇかばんちゃん!なにか手伝えることある?」


「あ、サーバルちゃんはごはん食べててもいいんだよ?僕はこのあとに食べるから」


「わ、わたしもかばんちゃんと一緒に食べるよ!」


 妙によそよそしい、まるで食卓から離れたいみたい…。


「ふふ、もしかして臭いが嫌なの?」


「ちょっとわたしには早すぎる食べ物みたいで…」


「僕も、食わず嫌いするわけではないんだけど…」


「「あっははは!」」

  

 サーバルちゃんも納豆が苦手みたい、僕達は笑い合いながらお粥作りに入りました。


 お粥。


 お水とお米を用意して柔らかく煮た料理。


 シロさんが寒い日にお鍋の〆に作った、おじや?と似てるかな?その時シロさんは炭酸抜きがどうとか特大タッパーがどうこうと言っていたけどちょっと僕にもわからない話だったのでそれはいいとして。


 調べるとお粥は体が温まって消化にも良くて風邪の時に食べることが多いそうです、まさに今のシロさんにピッタリ!


 なのでたっぷり愛情を込めて作ります、だから早く元気になってねシロさん?


「かばんちゃんなんだか嬉しそうだね!」


「え、そう?えへへ」







 ボーッとする… 熱は何度かな?勘では39℃5分くらいかな、立ち上がるのも億劫だ。


 そんな俺の元にピョコピョコピョコと独特な足音を経てながら近づく者がいる、さては図書館ラッキーだな?


「シロ 具合ハドウ?」


「素敵な奥さんが手厚い看病してくれるから、少しずつ良くなってるよ」


「今日モ気温ガ高イカラ 沢山汗ヲカクヨ 水分補給モ忘レナイデネ?」


「うん、ありがとう… ねぇラッキー?退屈だからなんかしようよ、しりとりはどう?」


「任セテ」  


 さぁ始まりました“しりとりINジャパリパーク”バージョン高熱!お相手は尻尾の赤い布がチャーミングな図書館ラッキー!それでは“しりとり”の“り”から!

 

「じゃあ俺からね?りす!」

「スイカ」

「かえる!」

「ルール」

「チッ!ルで返してきたか、ルービックキューブ!」

「ブレストファイヤー」


「はっ!?」 


「ブレストファイヤー」 


「なんて!?」


「ブレストファイヤー」


 なんだそれ!?なんでそんな言葉インプットされてるんだよ!空にそびえる黒鉄の城ってか!?


「シロノ番ダヨ」


「そ、そっか“や”か… えっと… ヤンバルクイナ!」


「納豆」

「馬!」

「マンゴー」

「ゴリラ!」 

「ラストシューティング」


「え!?」


「ラストシューティング」


「なんで!?」 


 こいつ作ったやつ誰だよ!おっさんだろ!


 なんて思ってたら俺は小さい頃にも熱を出したことを思い出した、あれは母さんを亡くして間もない頃だった。


 父さんもしりとりをすると知らない言葉を使って小さい俺をよく混乱させたものだ。


 例えば…。


「カルピス!」

「スペースコブラ」


「え!?」


「スペースコブラ」


「なにそれ!?」


「コブラだ、キャプテンコブラ…」


 父さんの説明だと「それは紛れもなくやつさ」とか「孤独なsilhouette」とかまるで意味のわからない説明をされた上に結局ごり押しでその言葉のまましりとりを再開しなくてはならないという苦行を強いられてしまった、丁度今のこのラッキーのように。


「ぐ…ぐ… グリルチキ… いやまて… グラスファイバー!」


「バイストンウェル」 


「く!また伝わりにくい言葉を…!」


 でも気が紛れた、頭は上手く働かないが。


 するとその時丁度家の扉が開き誰かが入ってきた、妻が様子を見に来たのかもしれない。


 ガチャ キィ

「おじゃしまーす!シロちゃんごはんだよ!」


 ところが来たのはサーバルちゃんか、その元気少し分けて?


「サーバルちゃん…!起こしちゃ悪いから!」アセアセ

「あ!ごめんね!」


 否、妻とサーバルちゃんだ。

 わざわざ食事を持ってきてくれたようだ。


「起きてるよ?ありがとう二人とも」


「シロさん、良かった… 具合はどうですか?」


 後ろでまとめた黒い髪、そしてエプロン… お鍋の中にはお粥かな?素晴らしい!ビューディフォー!


「最高です」


「本当ですか?ちょっとおでこ当てますね?」ピト

「…///」


 いっつもチューしたりしてるのになんでこういうのドキドキするんだろうね?

 また君ぃ~にぃ~♪恋してるぅ~♪フフフーンフフフンフーンフフン♪←うろ覚え


「うーん… まだ結構熱いですね?無理したらダメですよ?寝てても大丈夫ですから」


「眠っていたら君の顔が見れないじゃないか?」キラッ☆


「もうまたそうやって… 心配してるんですからね?でも思ってたより元気そうで良かったです!」


 その「もぉ~」って笑顔最高なんですよ奥さん、好きだ。


「シロちゃん図書館のボスと話してたの?」


「うん、しりとりをね?」


「シロノ番ダヨ」


 はいはい、まだ勝負は終わってないと言うんだね?やってやろうじゃん?


「る、ルールルルル… じゃあルビー!」


「ビキニギャル」 


「おまえほんといい加減にしろ」


「なにそれなにそれー!」


 えーいもういい!


 ごはんができたのでその場でしりとりは中断させてもらった、これからもぐもぐタイムなんだ… サーバルさんには少し席を外していただきましょうか?恥ずかしくって見せられないぜ。


「はいシロさん?それじゃあアーンしてください?」


「フーフーしなきゃ食べれないよママ?」


「もぉ~甘えん坊さんですね?フーフー」


「あーん…」モグモグ


 あら美味しい、お粥だってのにやるもんだ!流石ハニーだぜ!


「どうですか?」


「美味しい、あんまり食欲なかったけどこれなら食べれそう」


「良かったぁ…」


 なんて体調不良をいいことに甘えるだけ甘えるんだ、ただ俺は赤ちゃんプレイが好きなわけではない、誤解しないでくれ頼む。


 それにしても、お粥って大抵味気ないんだけど、これはなんか美味しいです… さてはトッピングで愛を入れたな?



 そんな手厚い看病のおかげか熱は一日で下がった、病み上がりで少しふらついたりはしたが翌日から普通に動けるくらいには回復した。


 数日経ってもみんなにも伝染ったりした様子はなく順調、そのまま変わらない毎日を過ごす。

 

 いつも通り料理して、アライさんたちが来たときはいろいろ教えてあげて、たまに姉さん達のとこに顔だして。


 かばんちゃんとも夫婦らしく協力しあった生活を送っている、実に充実した毎日だ。



 でもいつもと違うことが起きた。






 シロの日記


“ 今日おかしなことが起きたので書き残しておく。

 たまに師匠に稽古をつけてもらおうと向こうを訪れた時だ、師匠はいつも通り嬉々として槍を構えた。

 「どこからでもかかってくるがいい!」といつも通りの台詞を聞いてから野生解放をし

て俺も師匠に立ち向かう。


 その時、野生解放に痛みを伴った。


 感覚としては耳や尻尾、爪と牙が出る時にバリッと突き破って出しているような感覚で、各所が痺れるような感覚を味わった。

 凄く痛い訳ではないが多少顔が歪む程度には痛い。

 変わったことと言えば風邪が治ってから初めての野生解放だったという点であり、何か関係があるかどうかもわからないので地下室で似たような例がないか調べようと思う。


 妻に話そうか迷っている。 

 とりあえず調べてなにか分かってから話そう、心配かけてしまう。 ”





「ガオガオ病… 本来の動物の鳴き声しか出せなくなるフレンズの病気、放っておくと理性を失う… 違う

 じゃあサンドスター欠乏症… サンドスター由来の技が使えなくなる、人間でいう過労のような状態で、あるいはセルリアンに捕食され運良く助かったフレンズはしばらくこれに悩むことが多い…  ん~違う」


 わからない、先日の熱といい俺に何が起きているんだ?気にしすぎ?


 悩んでいると階段を降りる音が聞こえてきた、おそらく妻だろう。


「お茶を淹れたんですけど、あの… 大丈夫ですか?」


「うん、ありがとう… ごめんねわざわざ」


「どうしたんですか?急に調べものなんて?えっと… “フレンズと病について”?どこか悪いんですか?」


 しまった、適当に誤魔化すしかないか。

 あまり隠し事はしたくないけど。


「え…っと… いや、この前急に熱が出たじゃない?」


「はい」


「風邪かと思ったけど違ったら怖いなって思ってさ?さやっぱり家族もいるし、心配かけたくないから」


 半分は嘘、というか隠して話してしまった、胸が痛む。


「ん~!」ギュウ


「おっと…!」


 その時グッと後ろから抱きついた彼女、不安にさせてしまっただろうか?まぁそうだろう、治った病気のことをあとから調べてると言ったんだから。


「ごめんね?不安にさせた?」


「はい…」


「大丈夫だよ?元気だから」


「構ってほしいです…」


 なぁんだよしきた、得意分野だ!


「やーめたやめた、資料よりかばんちゃん見てる方が楽しいもん」ガタッ


「わぁ!?」


 すっと立ち上がると、寄りかかるよりに後ろから抱きついていた彼女は身長差でぶら下がるような感じになった、足は下に着いてるが驚いた様子だ、可愛い。


 俺はそのまも反転して彼女の腰に手を回すと少しの間見つめ合い、やがて唇を奪った。



「き、急にされるとビックリします///」


「嫌い?」


「好き…」


「俺も好き…」


 そんなやりとりでスイッチが入ってしまった俺は彼女と舌を絡め始めた。

 

 暗い地下室に甘い吐息と濡れた音だけが鳴り響く、本当はこんなことベッドでしかしたことがない… あーいや、布団でもあるか。


 とにかく寝床でしか彼女を襲ったことがない俺だがなんだかこのシチュエーションにやけに興奮してしまい情熱的なキスをする。


 彼女もそんなキスを受け入れてくれる、嫌がった素振りはない。


 そう思うとたまらず服の中に手を這わせた。

 瞬間彼女の肩がピクリと跳ね、小さく声をあげた、それを合図にそのままその慎ましい胸を優しく撫でながら舌を絡め続ける。


 触れる度に彼女の口から小さな声が漏れ、唾液が混ざりイヤらしい音たてる。


 あれれ?やっぱり少し大きくなったんじゃない?これは努力の賜物ですわ、毎日の胸部マッサージで効果出始めたようだ、やったぜ!継続は力なり。


「ン…シロさァんダメぇ…」ドキドキ


「シロ 寝室二行コウネ」公認


べるよ… ハァハァ」


「ん~///ダ~メっ!こんなところじゃメッ!ですよ!」


 え、そんな… その気だったじゃないか妻よ?


「ダメ…?」


「ダメです!」「ダメダヨ」


 残念無念… だが今夜は寝かせる訳にはいかないな、生殺しなんてひどいじゃないか妻よ?俺の体から溢れ出るこのマグマのような物はどうすればいいんだ?責任をとって!


「もう、お耳まで出しちゃっていけない人ですね?」


「あはは、ゴメンつい… ん?」


 今、耳って…。


「耳… 出てた?」


「出てますよ?シロさんえっちな時に絶対そうなります!」


「だよね…」


 変だな、痛くなかったぞ?


 あれから数回繰り返すことがあったが毎回痛みがあったのに。


 いや変じゃない、正常に戻ったのか?あぁいや… 性常になったのかな?なんちて。


「どうかしました…?」


「んー… いや、いいんだ!調べものいらなくなった!」


「え?結局なんだったんですか?」


 治った治った!もう完璧!原理はよくわからないけどきっと愛の力に違いない!さすがはハニーだぜ!


「まぁいいじゃない!さぁ行こ行こ!」


 俺はかばんちゃんを… あ、妻ですよ?妻のかばんちゃんをお姫様抱っこして階段を駆け上がった、もっとも結婚した今はお妃様かな?うぇひひひ!いや、俺の永遠のアイドルはかばんちゃんだ、ペンギン的な意味ではなくプリンセスなんだ。


「え、えぇ!?どこ行くんですかぁ!?」


「寝室だよ!」


「ま、まだ明るいですよ~!///」





 なんでもないよ、たまたま調子が悪かっただけだ。


 


 もうすっかり元通り。




 大丈夫だ、大丈夫に決まってる。



 大丈夫だ…。

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