第79話 旅の終わりに

 幼い頃、母を失った。


 俺はあのときのことはよく覚えてない、父も多くを語らないのは俺がショックを受けないようにしてくれていたからなのかもしれない。


 ある日幼い俺は大怪我をした。

 

 事故か何かだったと思う、ハッキリ思い出せないまま俺は病院のようなところで目を覚ました


 辺りを見回して違和感の正体に気付くと父に尋ねた。


「ママはどこ?」


 だがその時に父は何も話してくれなかった。


「ごめん… ごめん…」


 ただひたすら謝り続け、俺を抱きしめた。

 

 今思うとあれは俺への謝罪ではなく母へのものだったのかもしれない。


 そしてその時、何度朝が来てももう母には会えないのだと子供ながらに察し、泣いた。




「あ…」


 朝か、怖い夢だ… 母さん…。


 亡き母を思い出すと同時に愛しい人の存在を思い出し、まさか彼女まで消えたのでは?と恐くなり寒気がした。


 か、彼女は?かばんちゃんは!?


 すぐに隣を確かめると…。


「スー…スー…」Zzz


 そこには昨晩と変わらずすやすやと寝息を立てる彼女がぴたりと俺に寄り添っていた、お互い服は着てない。

 昨晩のあれのため浴衣が布団の横に無造作に放り投げられている、昨晩の起きた事が現実に起きたことだという証拠。


 彼女の存在を確認できると互いの肌が当たっている部分に温もりを感じ、安心と愛しさに溢れて彼女の髪を撫でた。


 よかった、いてくれた。


 そして、昨晩俺達は結ばれたんだ。


 これで俺は無事童貞の卒業を果たし、同時に彼女の処女奪ったことになるのだが… これは責任重大だ、必ず幸せにしなければなるまい。


 でまぁ、やはりというか… 最中当たり前のように彼女は痛みに表情を歪ませて涙を浮かべていた、理性の続く限り優しくしたつもりだが、血もでていたしやっぱり痛いものは痛かったのだろう、もっと上手にしてあげたかった… なんだか俺だけが満足して終わった気がする。


「ン… シロさん…?」


 少しちょっかい出しすぎたかな?目を覚ましてしまった。


「おはよう、起こしちゃったね?」


「おはようございます、夢を見てました…」


「白いゾウが体に入る夢かな?」


「え?なんですかそれ?ふふっ違いますよぉ?サーバルちゃんと大きな雪だるまを作る夢でした」


 よくわからんがとにかく可愛い、サーバルちゃんでなくて申し訳ないがそれは是非ここを出る前に記念に作っていこう。


「痛みは無い?」


「平気です」


「ごめんね?上手にできなくて…」


「そんなことないです!その、良かったですよ…?それに僕、今すっごく幸せです!」


 俺の方が幸せだというのは最早言うまでもない。


 嬉しくなり、昨晩の事が始まる直前と同じように俺は彼女を優しく抱き締めた、そしてまた彼女の体温を全身に感じると昨晩の気持ちがまた汲み上げてきた。


「あ、あのシロさん…?」


「ん?」


「当たってます…」


「まことにすいません…」




 このあと二回戦目をして、さらにお風呂場でも盛りあった。




 …かどうか気になるとこではあるだろうが、それは想像に任せる。

※ヒント「あーはー!」



… 



「あら二人ともおはよう!仲良く過ごせたかしら?」


「最高だった…」


「もぉ!シロさん…!」


「ま、まぁ喜んでもらえてなによりよ…?」


 おキツネの二人は既に起きていて、顔を見るなりすぐに声を掛けられた。


 おかげさまで特別な夜を過ごせた、感謝しかない。


「洗濯大変そうだね?ギンギツネお願い」


「そーね… そうくると思ったわ…」


「「ごめんなさい…」」


 そう、汚してしまったからね。

 本当に申し訳ない。



 お礼と言っては難だが、玉子三種の神器である“目玉焼き、卵焼き、ゆで玉子”を振る舞って二人にで食べてもらった。





 それからここを出る前に、彼女の見た夢の通り入り口の横に二人で雪だるまを作り宿の名物として君臨させておいた。

 その後おキツネの二人には丁寧にお礼を言って温泉宿を後にし、次はバギーを走らせロッジを目指した。


 最高のもてなしをありがとうキツネちゃん達、帰ったら博士達にも改めてお礼を言わないとね… 彼女ともっと仲良くなれたから。


「かばんちゃん?」


「はい?」


「これからもよろしくね?」


「はい!」





 雪原を抜けてどのちほーとも呼ばれない森の中へ突入。


 ここをまっすぐ抜ければ港、日の出港だ。


 港には俺の船がある、もう使うこともないと思うが余裕があれば確認しておこう。


 ともあれ今日用があるのはロッジだ。


「アリツさーん?泊まりに来たよー?」


「あぁ~シロさん!ようこそいらっしゃいました!かばんさんもご一緒に… ということは~?」


「あはは… えっとぉこれなんですけど?」


 と彼女はプラチナチケットを照れながら受け付けのアリツさんに見せた、するとすぐに良いお返事が。


「わぁ~!お二人とも本当に良かったですねぇ!しっかり用意させていただいていますよ?さぁこちらです!」


 お部屋 “なかよし” 

 嘘偽りないツガイ専用の部屋だ、以前お世話になった時もかばんちゃんと使ったんだ、その時はお悩み相談だったけど。

 あの時は普通の部屋でいいのにいろんな勘違いがあって余計なお節介を焼かれてしまったのだ。

 ま、今じゃそれもいい思い出だ、まさか本来の用途で使う日がくるとはね?


 荷物を置いて部屋で一息、この部屋は何でもかんでも1つが二人用だ。


 イスには並んで座り、ベッドは温泉の時同様に1つの物に枕が2つ。


 昨晩の情事を思い出してしまう、寒いゆきやまちほーで熱い夜を過ごしたんだ、彼女のあられもない姿は俺だけが知っている。


 そう、思い出しただけでゾクゾクすらぁ!ジュルリジュルジュル


「前もこの部屋に入りましたね?」


「ラブレター事件だね?」


「はい、ビックリしたんですよ?急にシロさんからラブレターが届いたなんて言われて…」


 ただの手紙として出したはずの俺もかなり驚いたが、彼女からしてみれば唐突にラブレターなんぞ押し付けられて困惑してことだろう… ところで。


「嬉しかった?」


「まぁ、はい…///」 


 なぁんだぁ~それじゃあ本当にラブレターにしてもよかったかなぁ~?それにあの時の君だって最高だった。


「ロッジに着くなりモジモジしてるところも可愛いかったよ?」


「からかわないでくださいっ」プイッ


 からかってるわけじゃないんだけどなぁ?よし、耳に息吹き掛けてみよう。←唐突


「怒らないでよぉ~?フ」フー


「ァン!?…」ビクッ


「ビックリした?」


「も、もぉ~!ビックリしました!」


「可愛いのはほんとだよ?だから許して?」


「むぅ~シロさんズルいです!」


 感度抜群じゃあないか?次の夜は見とけよ?


 それからおでこに軽いキスをするとそっぽ向いてた彼女もにこっと笑ってくれた。


 このまま続きをしたいのは山々だが挨拶を済ませてこよう。


 なので、カップル繋ぎとかいうのをやってみたくて手を繋いで部屋を出た、指を絡めあい並んで歩く、実にカップルしてる。


「オオカミさんキリンさん、遊びに来たよ」


「おや?よくきたね!話は聞いてるよ二人とも?おめでとう」


「おめでとう!でもわらからないわ?どうしてくっついたり離れたりしていたの?」


「僕の考えすぎです、ご迷惑お掛けしました…」


 キリンさんはまだ頭に「?」を浮かべているが、オオカミさんは「ヒトは頭がいいだけにそういうことも多いのかもね」となんか大人な答えを頂いた。


 ロッジでも彼女とのことは本当にお世話になった。


「ところで二人とも、どこまで進んだんだい?」


「「え!?」」


「私の予想だとまだ距離を計りかねてモジモジしてると思っていたんだけど、どうも凄く良さげな雰囲気…」


 あらあら流石オオカミ先生?やっぱりわかっちゃうかな~?あからさまにベタベタしてるもんなぁ~?まいったねぇ~♪


「まぁその首筋にある“赤い花びら”を見ればどこまでいったかすぐにわかるよ、フフフ…」


「「赤い花びら?」」


 あ… それってまさかまさかまさか?


「いいね、いい表情頂き!スケッチしていいかな?」


「二人ともどういうこと!?よくわからないけど吐きなさい!」


「いや~ハハハ」

「何と仰いますかその…」


 吐けもなにもその通りですよ、そうだね?たくさん吸ったり吸われたりしたからね?そしてスケッチはやめてね?恥ずかしいじゃないか。


 なんて照れくさがってるとかばんちゃんの右腕から声が…。


「音声サンプルヲ再生」


「は!?」

「ラッキーさん!?」


ピピピピピ…

“『ねぇシロさん… きて…?』”


「わぁ~ぁぁあ!?!?!?///」ラッキー外し

「うぉぉぉぉぁぁぁあっ!!!!」ブンッ

“『ん…ハァ…シロさ…』”「アワワワワワワ…!」ヒュイー


 ラッキー窓から外へ。

 狙ったとしか思えないタイミングで爆弾を投下してきやがった。


「へぇ、ご盛んだね?」


「どういう意味ですか先生?」


「二人は私達が思うより遥かに仲が良いということさ?またまたいい表情頂いたよ」


「「…~///」」


 なんだよ?昨日外しっぱなしだったからスネてんのかよラッキー?なんで録音してんだよ?


 一時間ほどの捜索のあとラッキーを発見、また録音されては困るので一晩受け付けでアリツさんに預けることにした。



 それからその日の夕食の時間。


「なんにせよ、よかったよ二人とも?色々あったけど雨降って地固まるというやつかな?」


「どういう意味ですか?先生?」


 博識ですな先生?どれどれ私がお答えしましょう。


「悪いことの後は返っていい状態に落ち着くってことだよキリンさん」


「さすが、シロ君は学があるね?」


「オオカミさんもね?」


「「フフフ…」」


 知の力を示しニヤリと微笑み合う俺達。


「二人とも仲がいいわね?怪しいわ!?」


 キリンさんのそんな一言の後だ。


「…」ギュ


 ん?かばんちゃん手なんか握ってどうし… イタタ!つ、つっよーい!?ヤキモチかな?表情を変えずにこんな力を!?成長したね!でも怒らないで!?他意はないから!



 とそんな茶番を済ますとオオカミ先生、なにやら我々の愛にインスピレーションを感じたそうで。



「ところで、二人を見てたら恋愛ものもいいかと思ってね?ギロギロに恋愛要素を入れようと思ってるんだ、これが試しに描いたものなんだけど二人はどう思う?」


 へぇーどれどれ?と二人でそれに目を通すとそこには。


「こ、これは!?」「わぁ~!?」


「どうだい?二人をイメージしてみたんだ」


 と言って見せられた内容それは。


 これエロ漫画ですよ先生!俺たちをイメージした結果エロ漫画が完成するのはなんか心外なんですが!ここぞとばかりに画力上げてくるのやめて!


「私自身ね、この姿になってから思うんだよ?自分を全てさらけ出せる相手との交尾… これはまさに愛を体現してるってことだとね?」


「深い… さすがですね先生!」


 不快だよ!なに悟ってるんだ!いい加減にしろ!実存する人物で薄い本を描くな!


「オオカミさん、シロさんの顔がひきつってるのでやめませんか?」


「アリツさんはどう思う?」


「アリツカゲラもそう思いますがやめましょうよ?あ、シロさんごめんなさい睨まないでください…」


 ほーう?揃いも揃ってエロ漫画の正当化ですか?流石はロッジ(意味深)のメンバーですね?

 とにかくギロギロの作風にも世界観にも合わないしこれ以上辱しめを受けるなら「クッ!殺せ!」なので全力で阻止しておいた。





 そんな辱しめを受けて部屋に戻った俺達は。


「凄かったですね?オオカミさんの…あの…」


「わ、忘れよう!きっとスランプに入っててネタに困ってるんだよ!さぁ明日は早起きして帰るよ?寝よ寝よ!(一緒に)」


 くそ… オオカミさんのせいで今夜は誘いにくいじゃないか、しかもムラムラして眠れないよきっと!最悪こそっと一人で… くそが!せっかくのハネムーンチャンスが!


「シロさん…?」モジモジ


「どうかした?」


 なにやらベッドに座りこみ様子が少しおかしな彼女が心配になった、どうしたのかな?具合でも悪い?


「も、もう寝ちゃうんですか?」


「眠くない?まぁ寝るには少し早かもしれないけど」


「あの実は… 僕さっきの見てからなんか変で…」


 えっとそれはつまりなにか?


「昨日の夜を思い出しちゃって、なんかすごく…」


「し、したくなっちゃったって?」


「い、言わないでくださいぃ…!」


 なんてことだ、かばんちゃんなんか顔が赤いと思ったら… まさかその気になっちゃったのかい?体疼いちゃったのかい?俺が男を教えたせい?それともオオカミさんの漫画のせい?


 どちらにせよ彼女にここまで言わせたらもう我慢なんざしていられない!据え膳食わぬは男の恥っ!


 と、突撃でありまぁーっす!!!///



 昨晩は甘くとろけるような夜を過ごした。


 今夜は熱く燃えるような夜となった。


 次は痺れる夜になるのかな?





 早朝、日の出港…。

 近くの浜辺を二人で手を繋いで歩いた。


 「海がキラキラして綺麗ですね!」とはしゃぐ彼女を見て俺はウキウキする「君の方が綺麗だよ」なんて言ってみると、顔を真っ赤にしてほっぺにチューを頂いた… 好きだ。


 そのまま遊園地に足を運んだ。

 

 いろんなところを練り歩いた、観覧車は軋んだ音がしてやばそうなので乗らなかったが、動かないけどメリーゴーランドとか鏡の迷路とか例のお化け屋敷は見てまわった。

 

 ツチノコちゃんとはここで会ったと話すとほんの少しむくれていたが、素直に謝ると「冗談ですよ~!」と笑って胸に飛び込んできてくれた… マジ好きだ、天使。


 まさにデート、二人の時間を余すことなく堪能した2泊3日である。


「ねぇシロさん?これからどうしましょう?」


「帰らないの?いいよ?駆け落ちしようか」


「そうじゃなくって!ほら、きっとこうして二人になることもたくさんあると思うんです、あの?ずっと一緒… なんですよね?」


 君が連れてけってんなら喜んで拐うんだぜ?キラ☆

 なんて… つまりこの旅の後どんな風に二人の生活に変化が出るか?って話かな?


 難しい話は置いといて。


「もちろん決して離れないよ?母に誓います… だからそうだね、困ってる子を一緒に助けに行くとか、また二人で新しい料理にも挑戦したい… それから、行きたいとこへ行こうよ?」


「僕はシロさんと一緒ならどこでも…」


「綺麗な物を探しに行こう?美味しい物もたくさん食べよう?デートして、みんなとも遊んで… 今は離れて暮らしてるけど、いつか一緒に暮らそう?その時は恋人じゃなくて夫婦になるんだ、どうかな?」


「シロさんそれって…」


 あ…。


 そうか!?これプロポーズだ!しまったもっとこう然るべきタイミングで指輪とか用意してさ… 俺のドジー!


 なんて勢いで言ってしまったのだが。


「はい、喜んで!」


 やったぜ… 嫁確保!


「ほら、おいで?」


 俺が腕を広げると彼女はぴょんと飛び込んで俺の背中に腕を回した。

 ギュウと強めに抱き締められていると「絶対に離さない」とそんなことを言われている気分になり心も体も彼女で満たされる。


 上等である、俺も離すつもりはない。


 二人っきりの遊園地だが、実はツチノコちゃんと前にデートしに来ましたなんて口が裂けても言えない… でもここでのことは彼女との最高の思い出にしよう、プロポーズ現場でもある。


「じゃあ、帰ろうか?サーバルちゃんも待ってるよ?」


「はい!あの…!」

 

「ん?」


 目を閉じて顔を少し前に出して「ンー///」とおねだりの顔をしている… どこまで俺を萌え苦しませれば気が済むんだこの子は?

 

 だから俺もゆっくりと顔を近づけ唇を重ね、これまでのことを思い出す…。


 君のこと、妙なすれ違いからたくさん苦しめて、その報いのように俺も苦しんだ。


 三人で旅を始めてラッキーに邪魔されながらたくさん仲良くして、みんなに祝福されてると君とはそういう関係なんだってどんどんうれしくなったよ。


 姉さんとは少しもめたけどもっと絆を深めたし、君も無事家族として迎えられた。


 サーバルちゃんを残して二人になって、ステージに上がってお風呂に入って…。


 結ばれて… もっと仲良くなって…。


 だからさらにもっと仲良くなろう、これからもっと仲良くしよう。


 俺はかばんちゃんが大好きだ、君がいれば俺の人生万事良好で、どんなに辛くても乗り越えられる。


 そんな気がしてならない、俺には君が必要だ。


 だからありがとう!出会ってくれて!





 そんな歯の浮きそうな台詞を心で語り、俺達はバギーに乗り込み図書館への帰路へ着いた。

 ここからもうすこーしかかるけど、こうして二人でいられるなら遠回りしちゃおうかな?な~んて…。


 独り占めばっかりしてたら怒られちゃうね?はい気を付けまーす。

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