第77話 へたれ

 お昼時、雪山に入る前に昼食でもと少し休憩をとっているとこです。


「ライブすごかったですね?冗談で言ってたのかもしれないけど、一緒に歌わないかと聞かれた時はビックリしました」


「うん、さすがに歌には自信ないよ… でもかばんちゃんは上手だよね?歌ってもよかったんじゃない?」


「料理の時のやつですか?あ、あれはもう忘れてくださいよぉ!少し浮かれてただけですからっ…」


「え~?またかばんちゃんの歌声聞きたいな~?」


 なーんて感じでカップルらしくイチャイチャやっていた時だった。


「音声サンプルヲ 再生スルヨ」


「え?ラッキーさん?」

「何?音声サンプルって?」


 ピピピピ…


“『ねぇ、あなた歌ってみて?』”


 おや?トキちゃんの声かな?音声サンプルでトキちゃんとかヤバイだろラッキーバカ野郎。


「あぁ!?ラララララッキーさん!それは!?」


 おや?狼狽えてどうしたんだいかばんちゃん?聞かれたくないことでも… あるのかな?


“『はしら~でたべぇ~るぅ~ ジャパリマンが~♪』”


「あ、これかばんちゃん?」

「き、聴かないでくださぁ~い!?///」


“『~… しんはっけぇーん!』”


 自作ソングかな?やだもう!か~わ~い~い~!


「へぇ~?」


「忘れてください…」


「しんはっけぇーん!」ニヤニヤ


「もぉー!シロさんのバカ!」


 なんてイチャイチャやっていた… その後しっかりと謝り倒して機嫌を取った後、雪山を目指す。





「寒くない?」


「はい、これ凄く温かいです!」


 バギーの移動はあまり天気が荒れると困る、視界も悪い走行も難しいとなると道端でも遭難してしまうかもしれない。


 という心配もなく、雪山に入った今もこの通り。


 本日は晴天なり。


 背中からぐっとしがみつく彼女の体温が心地好い、もっともお互い厚着してるので勘違いかもしれないがくっついている部分は柔らかく、そして温かい。


 顔に当たる風が冷たくて辛いが、野生解放すれば大丈夫、寒さは軽減される… 母に感謝だ。





「到着っと… 大丈夫?なんでもない?」


「大丈夫です!僕はシロさんの後ろに隠れてたから、シロさんこそ大丈夫ですか?お顔が冷たいです…」


 そう言うと彼女は両手で俺の頬に触れてくれた、温かい…。

 俺は剥き出しだけど、彼女は俺のコートの袖が長くて手が隠れてる、通りで温かい訳だ… ただそれでも寒いものは寒いだろう。


「すぐに温泉で温まろうか?」


「こ、混浴でしたよね?///」


「あ、あ~いや…」


 そうだった、混浴でしたね?そういうつもりで言ったんじゃないのだけど。


「とりあえず別にしよう?俺もその、心の準備というか…」


「は、はい…」


 俺は彼女と見つめ合いながらも、よく心の中ではあんなことやこんなことをと想像を張り巡らしているのだが。


「「~…///」」


 なんかこう改まると俺もこの様だ、二人して頬を赤くして目をそらしてしまう、やっぱり雰囲気とかって大事なんだよ。


「あー… コホン!温泉宿へようこそー!」


「「アワワワワワ!?」」アタフタ


「なにやってるの二人して…?」

「入らないの?」


「ギンギツネさんにキタキツネちゃんか、ビックリした…」


「は、はい!お邪魔します…」


 いつから見てたのかな?照れくさいよ。


 ところで二人に例のチケットを見せてみるることにした、すると…?


「あーはいはい… ハネムーン?だったかしら?分かってるわ、取りあえずおめでとう!」

「“おもてなし”しろって言われたけどいつも通りでいいよね?」


「あんまり気を使われても困るからね」


「はい、お気遣いなく!」


 世間話もほどほどに、部屋に案内されると改めてご報告をさせてもらうことにした。


「本日はこのような場を用意していただきありがとうございます」


「いえ、よくおいでくださいました…」


「あ、あぁどうもご丁寧に!」(なぜ急に堅苦しく!?)


 キタキツネちゃんは俺が始めた謎のノリにも迅速に対応してくれるいい子だ。


「ご存じかと思いますが、こちらのかばんさんとは想いが通じ合い、彼女には最愛の女性として共に歩んで頂いている所存なのでございます…」深々と礼

「は、はい!シロさんとは真剣にそのあの… はい」ペコリ


「そ、そうね、博士から聞いてるわ?おめでとう二人とも!そのハネムーンってやつだけど、要は二人がその… “仲良く”できる空間を用意すればいいのよね?」


 まぁ、博士達の差し金通りならそういうことになるか…?


「ヒロインの選択でストーリーが変わったり貰える特典も変わるから、周回プレイでは別の子を選んだら楽しめるよ?」


「キタキツネちゃん、人生は一度きりだよ」


「別の子…」


「かばんちゃん、今のはゲームの話だよ、生まれ変わっても一緒になろう」


「は、はい///」


 そんな茶番に真面目に答えつつプラチナハネムーンツアーの説明を聞くことにした。


「両隣の部屋は空けてあるの、そのほら…?騒いでも平気よ?」


「「あ、ありがとうございます…///」」


 抜け目なしか長よ?でもフレンズさんは耳がいい子が多いからな… というのは言わないでおこう。


「それからこんよく?って言うのよね?二人でお風呂に入る… のよね?」


「えっと~… まぁそうだね、でも難しいよね?だって俺が入ろうとしたらギンギツネさんとかカピバラちゃんも入ってきたりするじゃない?」


「どういうことですか?」ジト


「あぁいやいや!そういう意味じゃなくてね?」


 やべぇですよ、ちょっと待ってくれ!誤解だ!


「面倒だよ、みんなで入れば?」適当


「シロさん…?」ギロ


「違う違う!タイミングは図るんだけどみんな知らないで入ってくることがあるの!これ本当!やめてよキタキツネちゃんも!もう見られたくないでしょ!?」


「“もう”?」キッ


「ひえ… 勘弁してつかぁさい…」


 そうだ、俺がここにくるといつもラッキースケb…じゃなくてなぜかハプニングが起こる、事前に入ると告知して男湯の方を使っているのにもかかわらずなぜか先に「よよよ~」がいたり、なぜかなにも聞いていないギンギツネさんが「はぁ~疲れた疲れた」って入ってくるのだ、あるいはキタキツネちゃんが脱衣所から全裸で飛び出してくることもあるだろう… 女の子しかいないししゃーないと片付けたいが、今はそういうことになると凄く怖い顔をするお嬢さんがいて、そしたらしばらく口を聞いてもらえなくなる可能性があるんだよ。


 俺は彼女に嫌われたら人生おしまいなんだよ、死にたくなる。


 ところで混浴の件は解決してくれるそうで。


「それなら大丈夫よ?シロが後から使えるようにしたお風呂は、二人が泊まってる間シロとかばん専用にするわ!」


「でも、いいんですか?僕たちのために?」


「他ならぬ二人の為だもの、一日や二日くらい平気よ?もともと一つしかなかったしね?」


 なるほどさすがプラチナチケットだ、待遇が実にプラチナ。


「食事はジャパリマンがあるけど、二人はなにか作るのかしら?」


「うん、厨房は… 宿だもんね?そりゃあるか、食材があるなら作れるけど、多分卵くらいじゃない?作ると言っても限られてくるなぁ…」


「あ、卵って温泉卵ですよね?僕もあれ食べましたよ?」


 あらやだこの子ったら、あれあてくしが流行らせたのですわよ?もっと美味しい食べ方、教えてあげるよ?


「パスタに乗っけると美味しいよ?」


「わぁ、今度食べてみたいです!」


「いいよ~?なんでも作っちゃう!」キリッ


「ありがとうございますっ」ニコニコ


 イチャイチャ


「コホン!いいかしら?」


「「あ… はい」」

 

 すいませんつい… と説明はここまで、二人は仕事に戻るそうだ。


「それじゃもう行くわ、二人とも“ゆっくり”してってね?」 


「二人とも“済んだら”対戦してよ?シロ?今度は負けないからね?」

 

 なんて意味深な言葉を言い残し二人は部屋を後にした。

 


 しん…



 静かな和室… 二人きりだ、左右の両部屋には誰も泊まれないようになっており、ギンギツネさん達が近くで聞き耳を立てるようなことがなければ俺たち二人の声は誰にも聞こえることはないだろう。

 

 黙ってると気まずいのでなにか話して盛り上げないと。


「かばんちゃん、疲れてない?」


 急に寒くなると風邪をひくことがあるからね、体調管理はしっかりしないと。


「大丈夫です、シロさんは平気ですか?」


「うん、寒かったら先にお風呂入ってきてもいいよ?」


「でも…」


 混浴の件を決めかねているのかな?いや俺もだ、心の準備ってなにしたらいいんだ!俺絶対ヤバイことになるよ!


「あ、いいんだよ本当に?無理して一緒に入らなくても、俺が頼んだ訳ではないしそんなに気にしなくても…」


「嫌ですか…?」


 え…?


「シロさんは、僕とお風呂に入るの嫌ですか…?」


「そそそんなことは!?///」


 いやむしろ入りたいんですが!隅々まで洗うのだ!シロイさんにお任せなのだ!


「そうですよね、僕胸も小さいし…」


 胸が小さいからお風呂に入るの嫌だってわけのわからないことを仰いますね?俺は大きかろうが小さいかろうがかばんちゃんとお風呂入りたいんだよ、大きさに関して云うなら俺は正直気にしてないのだけど…。


「だからそれは大丈夫だよ?ねぇかばんちゃん?俺が誰かを好きになる要因としてどうしても胸が大きい子でないとダメだとしたら、こういう結果には落ち着いていないと思わない?」


「あ、いえその、それはそうですけど…」


 まだわかってくれないか、誰も聞いてないならもっと頑張って積極的になるか?よーし頑張るぞ!


「か、かばんちゃん!」


「はい… え…?」


 ギュ… と抱き締めてキス!と言いたいところだが、それはできなかった。


 ライブの時とは違い少し積極的な手の握りかたで彼女の両の手をとったのである、今は俺の手が震えてるが… では参ります。


「お… 俺はかばんちゃんが好きだよ?」


「へぇあ!?あの!?… あの…僕も…スキデス…///」


「胸が小さくたっていいよ?君の目が好き、耳が好き、鼻が好き、口が好き… だから小さくたってその胸も好きだよ?君の全部が好きなんだよ!だだだからほら?分かってくれる?///」


 は、恥ずかしい!言えるときはさらっと言えるのに… やっぱりこう改まって言うとなんか、なんかほら!ややややべぇよぉ~!?頭真っ白になってきたよ~!?


「そんな風に言われたら僕… 僕もシロさんのこと全部す、好きです…」


「だだだだだからね?ほ、ほら!もう気にしないで?俺はその… き、君さえ良ければ一緒に…」


「シロさん…」


 少し迫ると彼女は目を閉じた、即ちこれはキスOKである。


 ゴクリと生唾を飲むと静かに深呼吸して彼女の唇を目指す。

 


 唇同士が重なると、なんとも言えない感覚が全身に走っている気がする。



 俺の唇が彼女の唇に触れた瞬間… 「ん…」と彼女の口から小さくそんな声が漏れる。

 その時何か吹っ切れてしまったのか、俺はそのまま重力に身を任せてゆっくりと彼女を押し倒すように倒れ込んだ。


「ハァ…」


 口を離すと恍惚とした表情の彼女がまだ物欲しそうに俺を見ていた。

 

 待て、このままでは止まれなくなってしまう。


 “そのまままっすぐいって突撃”なんて師匠の言葉が頭に過るが…。


 今、いっちゃう?でもお風呂とか… 布団とか… こういったことには準備というとのが必要でありまして。


 でもウットリとした表情で息を荒くする彼女を見てると、なぜかこれはいかないとダメだ!と妙な使命感が湧いてくる。

 

 俺は彼女の頬に手を当て“まっすぐいけ”というその言葉に習いそのままもう一度唇を奪おうと…。



 したのだが…。



「メッ…」



 その時、そんな小さな言葉と共にピトッと彼女の指が俺の口に当てられた、少し正気に戻りハッとして顔を見直すと…。


「カバン ア…」

 

 という機械音声とともに腕にあるラッキーは彼女の腕から外された、しまったこいつのことを忘れてた。


 しかし、外したということはつまりかばんちゃんまさか…。


 その時、潤んだ瞳のまま俺を見つめる彼女は言った、


「先にお風呂… 入りませんか?」


 と少しだけ照れ笑いを浮かべ俺に言った。

 


 即ち、これは混浴OKと同時に今夜OKを意味する。



 しかし、寸止めか… ど、ドキドキした!まさかあんな小悪魔的な表情を見れるとは。


 お互いに初めてだが、こういうのは男が上手くやらないといけないらしいじゃないか?そりゃそうだ、女性が受けで男性が攻めにまわるのだから… いや、例外もあるけど。


 とにかく今夜は大空ドリーマーすることになる可能性が非常に高い、温泉で体の汚れと共に心の汚れも洗い流し、邪念を消し去った上で曇りの無い綺麗な心と体で彼女と契りを交わすんだ、そこにあるのは愛であり、その時の性欲とは愛の延長に過ぎないのだ。←熱い正当化


 かばんちゃんも言ったそうなのだ。


 “そういうことは事前に体を綺麗にできて人に見られないとこなら”と… つまり“ここ”のことだ!


 長の命令は「一発決めてくるのです」


 彼女からは「我慢できないなら…」


 彼女の親友は「赤ちゃんを作らないと!」


 では俺は?


 いや、男の子だもの… 好きな子の体には触れたい、撫で回したい、マーゲイさんの言い方ではないが純情可憐な君をメチャクチャにしたい… もうおしべとめしべがオッペケぺーですよ。


 先程同様に、以前もそのような雰囲気になった時も正直我慢の限界だった、あそこまでいったらやるしかないと思った… が、残念ながらあの時はパパ時計に邪魔をされたことで自分の行いを再認識してしまった、しかしそんな俺は実は悔しい反面少しホッとしているんだ。


 正直、上手にしてあげる自信が無い…。


 女の子の初めては痛みを伴うと言うし、もちろんなによりも大事な彼女との初めてだから目一杯優しくしようとは思ってる、でも御馳走を前にした獣にどこまでそれが通用するのか?発情期の時みたいに乱暴になってしまったら… そしたら彼女は俺を見る度に恐れるようになるんじゃないか?


 失敗したら彼女を傷つけるだけでなにもいいことはひとつもない、そしてそれ以上に彼女に恐怖を向けられるのが怖い…。


 でもいつまでも我慢する自信もない、こういう関係になった以上避けては通れないし、むしろそっちに突撃したい。


 今まで自分は男だから仕方ないと思っていたんだが、違う… 俺は獣なんだ、始まってしまったらその行為を制御する自信がない。


 いろいろ言われているが、彼女を傷付けてまで性欲を満たそうとは思えない、ただやりたいもんはやりたい、それだけは言っておく。


 ビビるなよ… 彼女に恥をかかせるな。





 タオルを手にもち、二人で温泉に向かう途中言われた。

 

「シロさん?どうしたんですか?」


「…え?」


「なんだか難しい顔をしてたから…」


「あ、いや…」


「あ、ごめんなさい… でもやっぱり、ちゃんと綺麗にしてからその…」


 寸止めに対する謝罪を頂いてしまった… いやそんなつもりではない。


「謝らないで?そんなんじゃないからさ?あ、ほら!かばんちゃんの体のどこから洗ってあげようか考えてたんだよ?」


「あ、あらぅぇっ!?///」


 なんだろうね?こういうときは変なことも言えるのにね、なんでだろうね本番でしどろもどろになるのは…。





「あ、あぁ~二人ともお風呂かしら?」


 ギンギツネさん、できれば見つかりたくなかった!これからいいことしてきますと言っているようなものだ。


「ごめんなさい、カピバラが入っちゃったのよ… あの子長風呂だから少しかかるかも」


「い、いいですいいです!大丈夫ですよ?」


「そうそう!気にしないで?夜にゆっくり使わせてもらうよ!… あぁいや変な意味じゃなくね?」


 はぁなるほど… 出鼻を挫かれたな、なんだろ?スゲー残念なんだけどやっぱりどこか遠くの方でホッとしてる


 あぁ~クソ!どうするんだよ!?こんなの誰にも話せないよ~!?

 優しいの!?へたれなの!?どっちでもないのが オ♪レ♪さ♪


「シロさん、残念… でした?」


「え!?えと、うーん… ちょっとね?ほ、ほら!気を取り直してゲームでもしようよ!俺はキタキツネちゃんに負けたことがないのさ!」


「そうなんですか?すごいですね!」


 はぁ… ほら夜だ夜!なるようにしかならないんだよ世界は!

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