第72話 ごめんね

「おはよう師匠、今日は遊びにきたよ?」


「よく来たなぁシロ?今日は元気そ… おい!なんだその顔は!?」


「あ、いやちょっとね… それより皆さんにご報告が」


 師匠、ヘラジカのアジト。


 ここには個性豊かなフレンズ達が師匠を慕い集まっている。


 そしてそんな皆さんには今日は幸せをおすすわけしに来ました。

 

 \二人が恋人同士に!?/

 

「よかったじゃないか!お前たちがそういう関係になるとはなぁ!」


「やけに辛そうにしていたのはそれが関係してましたのね?」


「うんまぁ… その節はどうも…」


「シロちゃんここでなにかしてたの?」


 恥ずかしいからあんまり話さないでほしいなぁ…。


「心も体もズタボロなくせに稽古を付けろと迫ってきたんだ!返り討ちにしてやったがな!」


「えぇー!?さすがに可哀想だよ!」


「あんまり無理しないでくださいね?心配してるんですからね?」


「いや~ハハハ… ごめんなさい…」


 そんな会話をしていると「仲睦まじいでござるな」とか「わざと見せ付けてきてるですぅ!」とか… まぁ祝福の雰囲気がとても心地好かった、昨日の件を一瞬忘れてしまうほどに。


「ジー」


「ハシビロちゃん、今日はどうしたの?」


「あ… それ、痛くないの?今度は勘違いじゃないでしょ?」


 俺の左頬のことを言っているのか?気になるか~… いや気になるよね?


「まぁ、少し痛むけど平気だよ」


「それ、どうしたの?」


「ちょ~っとね?」


「ハシビロコウ、決まっているだろう!」


 ムム… さすが師匠だ、傷を見ただけで今の俺の状況を察してしまったようだ、まったくこの人には敵わn


「寝ている間にかばんが尻で潰してしまったんだろう、見ろあの健康的な尻を!間違いない!」


「えぇ!?ち、違いますよぉ!?」


「かばんちゃんはそんなに寝相悪くないよ!」


「なに?起きている間にしたということか?」


「お尻は関係ないってことですよぉ!」


でもかばんちゃんのお尻なら一度潰されてmゲフンゲフン まったく師匠の目も節穴か!やれやれ!とんだアミメ推理だぜ!


「シロはなんでちょっと嬉しそうなのさ?」


「アルマジロちゃん、笑顔は人と話すときの基本だよ?」


「笑顔というよりニヤケてるように見えますわ!」


「とにかく顔がヤバイんだわ!これが!」


「もぉシロさん!」


 姉さんのとこでもこういうのを期待してた、例えばツキノワさんが…「うそぉー!?おめでとう!」って普通の反応をして、オーロックスさんが「やるっすね!どぅこまでやったんすか!」とか聞いてきて、オリックスさんが「大将の弟さんの伴侶ということは妹さんになるんだね?」とか冷静に言ったりしてさ?

 で姉さんは「シロは甘えん坊なとこがあるからなぁ!寝るときは頭を撫でてやってくれ!」と意味ありげなことを言ってかばんちゃんがジトッと見てきたりして。

 ってもちろん頭ナデナデなんてそんな事実は俺が城に寝泊まりしてたときに“一度だけ”しかない、頼むから内緒にしてくれ姉さん?とそう願うんだ。


 なのに… どうしてなの姉さん?かばんちゃんがそんなに気に入らないの?

「平原の抗争を止めてくれたとても頼りになるいい子だ」って聞かせてくれたじゃないか?


 俺の知ってる姉さんは、力の弱い彼女に勝ち目のない戦いをわざと挑んで「勝ってみろ」と無理難題を押し付けたりはしない。


 優しくって明るくて、人懐っこいとこがなんか可愛くて… でも頼りになって頭も良くて人望も厚い、いつだって俺の味方でいてくれる最強無敵の姉さんだ。


 俺なんかとは全然似ても似つかないのに、俺がホワイトライオンというだけで面倒見てくれる世界一のお姉ちゃん。


 それが俺の姉さん…。


 なのに…。


 どうして?


「シロ、ライオンのとこには挨拶に行ったのか?」


「え…?」


「ライオンだ!姉なのだから先に行ったんだろ?」


「師匠… 実は」


 行ったさ、行ったんだけど… クソ!なんでこんなことに!


「なんだ?まさか行ってないのか?それはいかんぞ!身内は大事にしたほうがいい!」


「いえ、ヘラジカさん?実は昨日会ったんです… でも」


「ライオンとシロちゃんケンカしちゃって、これから仲直りしに行くとこなんだよ?」


「…シロ、まさか“それ”はライオンにやられたのか?」


 それ… とは先程のハシビロちゃんと同じように俺の左頬を示す。


 その時師匠の目付きが変わった。


 俺は昨日のことを話して相談に乗ってもらった、謝り行こうと思うが姉さんの目的が漠然としすぎてハッキリどのことに対して謝ったらいいかわからない、それに昨日の感じだとまた話を聞いてくれないかもしれないということも話すと、師匠は答えた。


「なるほど話はわかった、私も同行する」


「私達も行きますわ!」


「殴り飛ばすなんてさすがにひどいでござるよ!」


「お前たちは留守番だ、私だけでいい!」


「ありがとう師匠、心強いよ… みんなもありがとう!でも話を聞いてもらうだけだから、待っててくれる?」


 カチコミじゃないんだから、大人数で行くのは良くない。

 それに姉さんも師匠になら話せることもあるだろう。





 食事を済ませると師匠を連れた俺達四人は再度城を目指した。


 門にはツキノワさんが出迎えてくれた。


「あぁ弟さん!聞いたよ!大丈夫!?」


「大丈夫だよ、お騒がせしたね?」


「ライオンに会わせてくれ!」


「ヘラジカ… まさか仕返しに来たとかじゃないよね?」


 キッと目付きが変わった、事と返答次第では… というやつか?

 後ろにいたかばんちゃんが前に出て割って入った。


「違います、お話に来ました!」


「いいよかばんちゃん、大丈夫… ツキノワさん?まず姉さんに謝りたいんだ、通してくれる?」


「謝るって… でも怪我をさせたのは大将の方じゃ?」


 その通りだが、俺には分かる… あれだけ怒りを露にしていたにも関わらず俺は“殴られた”んだ… 即ち拳だ、それが意味するのはつまりこう。


「姉さんが本気だったら、きっと爪で八つ裂きにされてたさ?でも拳で殴られたんだ、すげー痛かったけど、きっとそうして手加減してくれるくらいには冷静だったんだよ?」


 これは師匠が教えてくれた「殴った…それは傷を残さない為だ」と。


 考えてみたらそうだ、俺だって爪を使おうとは思わなかった。

 それでもいいだけ世話になった姉さんに手を上げるなんて姉不幸もいいとこだけど。



… 



 快く通してくれたツキノワさんに連れられ城の中へ入ることができた、オーロックスさん達が俺達を見付けると師匠の姿に驚いたのか…。


「カチコミか!?」

「考え直してくれ弟さん!」


 と臨戦体制に入る… が「謝罪だよ」と伝えると、二人はその槍を下ろし「ごゆっくり」と丁寧に頭を下げてくれた。


 そしてとうとう部屋の前に着いた。


「ツキノワさん、姉さんはどんな様子?」


「なんていうか… 静かだよ?気にしてるんだろうね」


「わかった… まずは私が話を付けてくる、呼ばれたら入ってこい」


「うん、頼むよ師匠?」


 そんなやり取りも姉さんは扉越しに聞いているだろう、きっとサーバルちゃんにも師匠と姉さんの会話がその大きな耳で聞こえている。


 でも俺は耳を出して聞くことはしない… それは失礼なことだからだ。


 しばらくすると師匠が俺を呼んだ。


「シロ、入れ」


 俺は「行ってくるね?」と言い残し、襖の向こうを目指す、


「シロさん、大丈夫ですか?」


「平気だよ、かばんちゃんも心配しないで?大丈夫だから」


「はい…」


「がんばってねシロちゃん!」


「うん、ありがとう…」


 部屋に入ると和やかでも物々しいという感じでもなく。


 ただ、しん… とした空気が広がっていた。


「シロ、よく来たな…」


「失礼します姉さん」


 社交辞令的な挨拶の後すっとそこに腰を下ろした、そこで師匠が言う。


「まずはシロ、お前の言いたいことを伝えろ?」


 まず俺の伝えなくてはならないことそれは。


「ごめんなさい姉さん…」


 それは謝罪、どんな理由であれ相手に手を上げたことをまず謝るべきだと思った… ましてや相手は他ならぬ姉さんだ、始めたのが姉さんでも俺が謝るのは筋だ。


「どうして、シロが謝る?」


 表情が少し緩んだ、申し訳なさそうな目をしている。

 ここから俺の言い分を伝えなくてはならない。


「姉さんがどういう気持ちでああいう行動にでたかは今もわからないけど、それに対して暴力で返した俺も悪いと思ったから… でも姉さん?彼女が俺にとってそれくらい大事だということもわかってほしい

 姉さんはいつも俺のためにいろいろしてくれるから、何か言われても最後は一緒に喜んでくれると信じてた、だからまぁ… 少しショックではあるよ」


 あとは姉さんから理由を聞きたい、師匠を見てひとつ頷く。


 するとそこで姉さんがポツリと話し始めた。


「あの時… お前は拳を出さなかったな?なぜだ?」


「それは…」


 かばんちゃんが止めたからだ… 彼女の嫌がることはしたくないし、なにより自分のやってることがとても良くないことだとあの時気付いた。


 姉さんに手を上げるなんて最低の行いと思ったからだ。

 

 正直に伝えた、彼女が止めなければ怒りに任せて拳を振り上げただろうということも。


「わかった… ヘラジカ、少し外してくれるか?」


「かばんたちはどうする?」


「二人になりたい、少しの間誰も近づけないでほしい」


「うむ… それでは空が赤くなる前には戻る、それでいいか?」


「十分だ、すまない…」


 師匠は一時退出をして扉の向こうのかばんちゃん達も連れてその場を離れた。


 ここにいるのは、今紛れもなく俺と姉さんだけとなった。



 再度、しん…と静まり返る。



 すると姉さんは抑えていた何かが外れるように泣きだしてしまい、話をしてくれた。


「ごめんなぁシロぉ…」


「姉さん…」


「私はダメな姉ちゃんだなぁ…!」


「なんであんなことしたか聞かせてくれる?」


「うん… ヒッグ…グスン」



 理由のひとつとして… 嫉妬はあったらしい、ただそれは話を聞いた時に少しあっただけでそのためにあそこまで感情的になったのではない。


 なんとなく勘だが、俺がいつかかばんちゃんとそうなるだろうというのは感じていたらしく、俺と彼女がそういう関係になるのが明確になったことには少し寂しいと思う程度の心境だったそうだ。


 そうして部下の三人に見かけたら連れて来るように指示を出しておいた。


 ただそこで、既に俺が今にも死にそうな顔で師匠のとこを訪ねた話を聞いた姉さんは思っていた。 


 俺をそこまで精神的に追い詰めるものはなにか?と。


 すると数日も経たないうちに俺達が城に連れられてきた。


 姉さんにはこの時俺が元気そうなのは見た目からでもわかった、ではなぜ師匠の話では酷くやつれた状態だったか?


 姉さんはそれをかばんちゃんが原因だとすぐに察し、かばんちゃん本人も自分のせいだと話したのでやはり間違いないと確信した。


 この時姉さんは…。


 かばんちゃんはどういうつもりで俺を傷つけたり受け入れたりしているんだ?と考えていたんだ。


 もっと話をよく聞くべきだったと今は後悔している、だがその時は可愛い弟を弄んでいるのではないか?という考えがどうにも抜けなかった… 彼女に限ってそんなことはあるはずがないとも思っているのに、小さな嫉妬心はそれを邪魔していた。


 そこで試してやろうという発想に至ったのだそうだ。


 「勝てば許す」と口では言ったが、気持ちさえ伝われば許すつもりではいたらしい。

 ただやるからには彼女の本気が分かるようにする必要があった、故に「認めてほしければ倒してみろ」と彼女を追い詰めた。


 ここでただ怖がって俺の後ろに隠れるようなら俺を利用したいだけな可能性がある、恐れながらも立ち向かうなら少なくとも気持ちを示す意思があると判断できる


 かばんちゃんはその時立ち向かうことを選んだが、俺がその邪魔をした。


 姉さんも潔く説明をすればいいものを珍しく判断力を欠いていたために視野が狭く、前方のかばんちゃんのみを捉えていた。


 そして昨日の大喧嘩になった。


 俺は彼女を守るため、姉さんは彼女の想いを確かめるために戦い…。


 その結果姉さんの鉄拳が俺の頬に。


「お前と戦っているうちについカッとなってさぁ?あの時棒が壊れた時にやめとけばよかったのに…!グスン」


「姉さん、俺は大丈夫だよ?」


「大丈夫なもんか!酷い顔じゃないか!お前を傷つける気なんてなかったんだよシロぉ… ふぇぇ…ごめん、ごめんなシロぉ…」


 大泣きで謝る姉さんを見て俺は思った。


 なんだいつもの姉さんじゃないか、全部俺を想っての行動だったんだ。


 今回はそれがたまたま空回りしただけだったんだ。


「良かったよ姉さん、やっぱりいつもの優しい姉さんだった、安心した」


「私は姉ちゃん失格だ… 弟の幸せも素直に喜んでやれない、痛かったろう?腫れているじゃないか…?」


「すぐに治るよ、見える傷はすぐに治る… 姉さんは心が痛いでしょ?」


「お前の痛みに比べたらなんてことはないさ…?」


「じゃあ、仲直りしてくれる?」


「うん… グスン」


 今回の失敗は、すぐに姉さんを頼らなかったところか。

 珍しく空回りした姉さんだったけど万能じゃないんだ、これくらいのことはあるだろう。


「シロぉ…?」


「なに姉さん?」


「ちょっと抱き締めて…?」


「姉さんも甘えん坊だよね?今日だけだよ?ほら…」


 ゆっくりと手を伸ばす姉さんを懐に受け入れた、姉さんの腕は優しい… 力強いがとても優しい抱擁だった。


「温かいなぁ… これを独り占めできるなんてかばんは贅沢だなぁ…」


 俺も温かいよ、いつもありがとう姉さん?これからもいい姉さんでいてね?





 太陽が傾いて来た頃に師匠がみんなを連れて帰ってきた、その頃には姉さんもスッカリ泣き止んで気持ちも落ち着いていた。


「話は済んだようだな?」


「いや悪いねヘラジカ?かばんもサーバルも… ごめんね?いきなり襲いかかって悪かったよ」


「シロちゃんと仲直りできたんだね!」 


「良かったです、僕のせいでごめんなさい…」


 はいこれで一件落着!と思ってたんだけどぉ… ここで意外な人物が意外なことを言い始めた。


「ライオンさん、やっぱり僕と勝負してくれませんか?」


「「えぇ!?」」


「かばん!もうそれはいいんだよ!シロはお前が好き、お前はシロが好き、それでいいんだよ?」


「そうだよかばんちゃん!急になに言い出すの!?」


 かばんちゃん、君のことだからもしかしてなにか考えがあるのか?


「ライオンさんはシロさんのお姉さんです… ということは、僕がシロさんと一緒になると僕はライオンさんの妹になります」


「そうだけどぉ~それがなに?」


「いえ… でもそれならやっぱりちゃんと認めてほしいんです、それなら僕も心置きなく“お姉ちゃん”って呼べると思うから」


「“お姉ちゃん”…?わかったかばん、正式に妹になるために私を倒してみろ!」ゾクゾク


 うわ!?なんか嬉しそうだ!手加減しそう!


 この勝負の立会人に師匠が立ち上がり、俺とサーバルちゃんは観客と成り果てた。





「では、風船が割れた方の負けだ!準備はいいか?」


「かばん、約束通り手加減はしない… 構わないな?」


「はい!よろしくお願いします!」


「では、始め!」


「かばんちゃん!がんばってー!」


 さぁ、黄色い声援と共に始まった姉さんVS恋人。


 

 まずは姉さんまっすぐ向かう!かばんちゃんそれを迎え撃つ… と思いきや動きを読んでかわす!そしてその隙を突き?


「えい!」


「ッ!?それは!?」


 おーっとかばんちゃんなにかばら蒔きました!あれは!?


「マキビシの術です!」


「しまった!?」


 姉さんの風船がマキビシに当たり割れた… つまり勝ったのは?


「勝者かばん!」


「わーい!かばんちゃんってやっぱりすごいね!」


「えへへ…ズルしちゃいました?」


 いやズルではない… でないとパンカメちゃんがただの反則忍者になってしまう。


 ルール上は問題ない、つまりこれで本当に!


「いや~あんな手で来るとはねぇ?まぁ負けは負けさ… じゃあ~かばぁん?気軽に“お姉ちゃん”って呼んでごらぁん?」ゾクゾク


「あ…えとぉ… お、お姉ちゃん?」


「おぉ~いいねぇ!シロはお姉ちゃんって呼んでくれないから実はちょっと寂しかったんだよ~!」


 うん、これで本当の本当に丸く収まったね?今日はもう遅いし城に泊めてもらおう、明日の朝牧場に寄って… そしたらいよいよ図書館に到着だ。


 図書館より向こうのちほーはどうしようね?

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