第70話 ハードなやつ

 砂漠の地下バイパスを抜けてしばらく走ると湖が見えてくる。


 湖畔… そこにはすっかりご存知の仲良しなお二人、プレーリーちゃんとビーバーちゃんが住んでいるログハウスがある。


 よって今日は俺の人生の中でも最大で、尚且つ辛く苦しい日々を過ごした一大イベントの為にヒントをくれた、そんなお二人にご挨拶だ。

 二人のヒントが無ければまだ辛い日々が続いただろう、かばんちゃんも体を壊していたかもしれない。


「シロさん…」


「なに?」


「あの… さっき、ツチノコさんと二人でいなくなったとき…」


 不安なんだね… モヤモヤして集中できないんだろう、口頭で信じてもらえるかわからないがざっくりと話しておこう、無論壁ドンの話なんてできないが。


「一旦止めようか?少し休憩しよう」


「あ、はい…」


 バスを止めると上に頭を出していたサーバルちゃんもスッとその場に降りてきた。


「なになに?湖はすぐそこだよ?」


「休憩しよう、お昼ご飯がまだだしかばんちゃんも前に座りっぱなしだと疲れちゃうからね?」


 運転はラッキーだがそこに座っていないとならない、肩が凝ってしまうよ


「そこでサーバルちゃ~ん?お願いがあるんだけど~?」


「なに?なに?わたしにできることならなんでもやるよ!」


 ではまず若いカップルが二人きりなるために彼女の親友には席を外してもらいます、心苦しいが彼女にはジャパリマンでも探してきてもらおう。


「ごめんね?いいかな?」


「OK!任せてよ!」


「こっちも何か食材を探して見るよ、簡単だけど料理ができるかも」


「わーい!じゃあ行ってくるよ!かばんちゃん!いってきまーす!」


「うん、気をつけてね?」


 元気よく走り出すサーバルちゃんを見送り無事二人きりになれたら俺は彼女を誘って林に入る。


「それじゃ、ちょっと散歩しない?」


「え?食材は…」


「散歩しながら探そう?この時期なら秋の味覚が楽しめるよ?それから…」


 は、恥ずかしい…。

 でもオレはこう言いたいんだ「手を繋ごう」と。


 雰囲気に任せて抱きついたりはするのに唐突に言うとなると恥ずかしくて仕方ない、でもここは男を見せないと!


「よかったら… 手を…///」


「手…?」


「つ、繋いで歩きたいな~…なんて?」


 昨日のこともあるし、照れすぎてしまった為に目はあらぬ方向を見ながら手を差し出している。


 そんな俺の手を、彼女はとってくれるだろうか?


「あの…」


ギュ…


 彼女がそう言うとそのまま俺の手には温かい感触が伝わった。


「お、お願いします///」


「う、うん!行こうか?」


 よかった… この際手汗はいいや、もうこれだけで満足。


 そういえばよく考えたら、カップルらしいことはこれが初なんじゃ?


 毎回夜に二人きりになるからちょっとピンクモードに入る傾向があったけども、そうこれこそが青春だ、好きな子と手を繋いで景色を見ながら歩く… それだけでドキドキ、幸せ、これが十代の青臭いカップルの醍醐味だろう?あるいは町の中を自転車二人乗りとかね!自転車なんかないけど!


 実にカップルらしく林の中を歩いた、彼女は照れているのか帽子を深く被って顔を隠している、俺は隠しようがない… 背も彼女はより高いし無論帽子もない、彼女は帽子の穴から俺を見ることができる、見られてるのは知ってるんだよ、だってさっき目があったもの。


 じゃなくってぇ… さっきのこと話さないとね?


「さっきのこと、気になる?」


「えっと… はい、ごめんなさい…」


「あ、いいよいいよ!そりゃ気になるよね!逆の立場でも気になるよ」


「僕は、ツチノコさんの気持ちも知っています… シロさんが特に仲良しなのも分かってます… 僕はシロさんの恋人になれたけど、やっぱりああいうのは何て言うか、ごめんなさい」


 嫉妬する自分が嫌で仕方ないんだろう、俺だったらもっとムシャクシャしてしまうだろう、できた女性だよ君は?立派だ。


「ううん、謝るのは俺の方だよ?って謝らないとならないようなこともしてないんだけど、端的に言うとかばんちゃんは綺麗な心で俺との事を考えているのに俺はしょっちゅうかばんちゃんに対してその… やらしいことを考えてしまうんだ?それについての説教というか」


「や、やらしいことですか?」


「えーっと… 昨日の晩みたいなことなんだけどさ?」


 つまり、純粋な気持ちで君を好きになったはずなのにそういうことばっかり考えてますって言うことを彼女に伝え、ツチノコちゃんからは言われたことそのまんま「好きな女に欲情してるだけだ」ということを言われたと伝えた、


「よ、欲情… ですか?」


「だからその… ごめんね?無理に俺のあの~… 性欲に?合わせなくてもいいんだよ?こうして二人で歩くだけでも楽しいから」


「僕は!あの、僕も… 決して無理してる訳では…」


 というと… 君も欲情してるのかい?って、だからこのゲスな考えをやめろと言うに。


「実はシロさんが僕のことそういう風に見てくれるの… 嫌じゃないんです」


「そ、そうだったの!?」


 マジか、大義名分だぜ。←ゲス顔


「はい、僕ってあんまり女の子らしくないし… でも、それなのにシロさん僕とあんな風に… ~///」


 完全に顔を赤くして帽子に隠れてしまった、耳まで赤くなっている。


 でもそれは俺もさ?炎のように体が熱い、火傷しそうだぜ。


 確かに彼女は中性的だが内面はこんなにも女の子だ、ギャップ萌えが過ぎるよ、というか普通に外見も女の子だ、慎ましい胸もそうだがおしりが完全に俺のこと誘ってますわ。

 やはり俺を試しているのかい?我慢してムラムラしている俺を見て君もムラムラしているのかい?←だからやめろと言うに


「ちゃんと女の子としてみてくれてるんだなって… だからシロさんのそういう気持ちも、僕は嬉しいです!」


「俺はそんな君が愛しくてたまらない」


「き、急に真面目な顔でそんな…///」


 絶対幸せにしよう、でないとバチが当たる… 地獄の業火で焼かれてしまうんだ。


「あの!僕も!…」グッ


コソッ


 急に耳元でコソッと呟いたその言葉は、俺の顔を赤面させるのに十分な効果を発揮した。


「えへへ///」


「ず、ズルいよ… 急にそっちの名前で呼ぶなんて?ビックりした…」ドキドキ


「顔が真っ赤ですね?」


「責任とってね?」


「はい!」


 本名なのに呼ばれ慣れない… 妙な話だ、だけどなぜか心地好い。

 俺もかばんちゃんの内緒なことなにか知りたいなぁ~?いや、変な意味でなく。





 で、取れたのはキノコと木苺…かな?木苺はそのままいって、キノコは適当に素焼きにするしかできないな、ごめんねサーバルちゃん?今は調味料も道具もないんだよ。


 聖獣サーバルちゃんと合流して目前の愛の巣へ、せっかくだからみんなで食べようとかばんちゃんが提案したのだ。


「あ、二人ともこっちに気付いたよ!おーい!」


「サーバルさんッス!」

「かばんさんにシロさんもいるであります!」

 

 楽しいお昼ご飯のあとに(素焼きキノコ)

 二人には俺から丁寧にお礼を申し上げた。


「二人が教えてくれたから、かばんちゃんが俺の恋人になってくれたよ!ありがとう!」


「そーいうことだったっすか~…」ニヤニヤ


「シロさんはかばんさんに会いたくて生き埋めにされたような顔でここに来たでありますよ!」


「かばんちゃんもシロちゃんに会いたくてそんな顔してたよね!」


「「あはは…」」


 待て、生き埋めってなんだ…?


 それはさておき軍曹に言わなくてはならないことがある、挨拶なのでと割りきったつもりだったがやはり釈然としないのだ。


「ところでプレーリーちゃん、君はかばんちゃんの唇を奪ったそうだね?」


「プレーリー式の挨拶であります!」


「君にいいことを教えてあげよう…」


「おぉぉ!なんでありますか!?」

「気になるッスね?」


「いいことー?なになに?わたしにも教えてー!」


「し、シロさん… やっぱり気にしてたんですか?」


 いい感じに注目が集まったところで俺はプレーリー式挨拶の真実を彼女たちに理解していただく座談会を始めた。


「プレーリー式の挨拶… 互いの口と口を重ねるもの… 間違いないね?」


「そうであります!今朝もビーバーどのとしたでありますよ!」


「よろしい、では聞きなさい… それはヒトの世界では“キス”と言って、むやみやたらに誰とでもしていい挨拶ではない!」迫真


「「え、えぇー!?」」


「も、もう…」←呆れ


 軍曹はひたすら「えーっ!?」って感じだが、ビーバーちゃんはなんかおかしいと思ったって顔してる、あんまりやたらとさせないようにしてる意味が自分でも分かったのだろう。


「し、しかし!それではいったいどういうときにしたらいいのでありますか!」


 キス… 口づけ、接吻、チュウとも言う。


 愛情表現や友愛表現に使われる、魔除けの意味もあるとか。


 例えば愛する恋人とのキスは相手が恋人だからするのだ。

 「挨拶」と言い張ってところ構わずしまくると手錠が掛けられる、そして恋人との特別なものなので他の子ともしてると知れば相手を大いに傷つける、あるいは怒りをぶつけられるだろう。


「ちなみに唇同士の接触をソフトキスと言う… フレンチキスと言う人もいるがフレンチキスは所謂ディープキスというのに分類される」


「そ、そうだったでありますか!?では自分は、今まで何人もの特別なものを奪い続け、さらにビーバーさんを傷付けていたでありますか!?」


「そしてかばんちゃんのファーストキス… 俺がほしかったよ」


「もう!シ~ロ~さぁん!?///」


 罪を感じるのだ… かばんちゃんのファーストキスを奪った罪、いくら恩人でも!許せんッ!


「ねぇねぇ!“でぃーぷきす”って?普通のちゅーじゃないの?」


「恋人達が盛り上がった時に普通のキスじゃ足りなくてついしてしまう思いっきしハードなやつのことだよ」


「わぁー!すっごーい!」


 そうだろー?すごいだろー?めっちゃ舌絡ませるんだぜ?


「は、ハードなって… シロさんったら」


「おぉぉ!と言うことは!シロさんとかばんさんを盛り上げれば見れるのでありますか!?」


「や、やるッスか?二人とも今からやっちゃうッスか?///」


 わ、やべぇことになった… つい勢いで口を滑らしたせいで公開ディープキスをすることになってきたぞ、そういうのは流石に人に見せるわけには!


「ディープキスハ オ互イノ唇ダケデナク 舌ヲ使ッテスル キスノコトダヨ 舌ヲ相手ノ口内二侵入サセテ 絡メ合イ 性的ナ興奮ガ高マルヨ」


「ララララァッキィーさぁん!?なんでぇ!?」


「シロノ説明ハ 不十分ダッタカラ 補足シタヨ」


 お父さん!なんでこういうときは協力的なんですか!?しかも補足じゃなくてガッツリ説明してんじゃん!バカ!


「せーてきなこーふん?それって赤ちゃんを作りたくなるってことでしょ!?教えてボス!教えてくれないとかばんちゃんを食べちゃうぞー!」


「サーバル 食べチャダメダヨ 性的ナ興奮ハ 主二繁殖ヲ目的トシタモノダカラ ソウイウ意味デ合ッテルヨ 動物デ言ウ発情期ダネ」


「うみゃー!?じゃあかばんちゃんとシロちゃんがでぃーぷきすをすれば赤ちゃんを作りたくなるんだ!?二人とも!やってみようよ!」


 お父さん!いいんですかそんなこと言って!?昨晩は止めたクセに!腕時計お前マジふざけんな!わかっててやってるだろこの超高性能AI!なんで本番までみんなの前でやらなくちゃいけないんだ!


「シロさん?僕どうしたら…」


「ごめんね?俺が余計なこと言ったからとんでもないことになってしまったね?でも大丈夫、もしするときは二人きりの静かなとこでじっくりとしようね?」鼻血たらー


「は、はい…///」ウットリ


 鼻血さえなければ決まったな… さてどう切り抜ける?


「シロさん!かばんさんのふぁーすときすの件、解決するでありますよ!」


「え?失ったものは返らないよ?」


「大丈夫ッス!プレーリーさんは挨拶で、そふときす?って言うのしかしてないッスから、そのでぃーぷきす?っていうのはシロさんが初めてのはずッス!」


「あぁ…」


「な、納得しないでくださーい!?」


 いや、妙に納得してしまった… そうか、いろんな初めてがあるもんね、本当のキスはここにあるってな?してさえしまえば得意気に言えるよね?キスしたぜぇ~ディープで熱いやつをなぁ?って。


「大丈夫だよ!わたしたち遠くで見守ってるから!」


「もう!見られるのがダメなんだよサーバルちゃん!」


「えぇー!それじゃあビーバーたち!ちょっとだけ二人の家を使わせてあげて?二人だけの時間を作ればきっと赤ちゃんもすぐできるよ!ねぇだから二人ともやってみない?子作り!」


「オレっちたちは構わないっすよ?」


「二人の愛のために一肌脱ぐであります!」


 いや脱ぐのは俺達なんだけど…。ゲフンゲフン

 

 これからおっ始めるから家を貸せってさすがにハイレベルにも程があるだろ、なんでそんなに安請け合いするんだよ。


 はぁ… なぜキスの話が生本番に繋がってしまったのか?いや延長線上にはあるんだけどさ。←主犯


 その後なんとか説得をしたものの「いつかディープキスが見たいであります!」と言い張る軍曹をはいはいと適当に流しておく、そんなに見たいなら自分等でしなさいとは言わなかったが、俺達が去ったあとには普通にしてそうなのがなんか… フフッ。


 まぁべろちゅーのことはいいんだけどさ。





「じゃあ僕達行きますね?」


「良い報告を待ってるでありますよ!」


「赤ちゃんいいっすねぇ?可愛いっすよねぇ?」

 

 想像もつかないけど、可愛いんだろうな… 俺の、いや俺達の子供か… 血の繋がった家族。


「二人も作れば?」


「サーバルちゃん?女の子同士じゃ作れないよ?」


「うみゃ!?そっかぁ… じゃあシロちゃんが二人と…!」


「「サーバルちゃん!」」


「ご、ごめんなさ~い!」


 と核爆弾発言を抑止しつつ次のちほーへ、俺としてはこっからが問題なんだよねぇ?へいげんちほーの王二人、師匠はまだいいけど、姉さんは… 過保護だからなぁ?いい姉さんなんだけど。





 さて、ちゅーの話しで時間を食ったな… すっかり夕方だよ。


 湖畔を後にしてへいげんちほーに着いたが、今日もまた車中泊かな?


「サーバルちゃん?今日はベッドを使いなよ、かばんちゃんとね?」


「え?でもいいの?シロちゃんかばんちゃんとくっついてると幸せそうだし!」


「そ、それはそうなんだけど!いつもそうしてたんでしょ?こういうのは順番、かばんちゃんもいいよね?」


「はい、シロさんがそう言うなら」


 そうそう、たまには百合の花咲かせた方がいいよ?俺はそれを眺めるからさ?←いろいろ違う


「うん、それじゃあ今日は俺がご飯を探してくるよ、二人は休んで…」


「うわぁあ!?」ドンッ!


 なんだ!?


 前方に目を向けると岩が道を塞いでいる、落石?平原の真ん中で?いやこれは誰かの罠!そしてこんな物をドンと置けるのは…。


「見つけたぜ!かばん!おとーとさん!」


「ぼ、僕達ですか…?」ガクブル


「オーロックスさん、これはなんのマネかな?」野生解放


「待ってくれ弟さん!黙って着いてきてくれ!手荒な真似はしないから!」


 手荒な真似はしない… 無理矢理バスの進行を塞ぎ槍を突き付けるのが手荒じゃねぇって?


「オリックスさん、彼女になにかするつもりなら俺は…」ガルルル


「シロさん待って!話を聞きましょう!」


「たいしょーが呼んでんだ!二人とも来てくれ!」


「サーバル、ついでにお前もこい!」


「なんか前もこんなことあったよぉ…」


 姉さんが…?穏やかじゃないな…。

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