第65話 二人の時間

 こんにちは、彼女ができたシロです。


 もう一度言いますが彼女ができました。


 それもこれも応援してくれた皆さんのおかげです、ありがとうございます。


 時に現在親代わりを名乗る島の長が暴走しておかしなことが起こり、時に自分の軽はずみな行動で皆さんにご迷惑を…。


 数え始めるときりがありませんが結果を言うと。


 彼女ができましたよ、幸せで鼻血が止まりません。


「シロさん!?」


「満足…」ダラダラ


「スナネコのようなことを言うな!それも止めろみっともない!」


「やったねかばんちゃん!わたしもギュッとしてー!」


「えへへ、ありがとうサーバルちゃん?」


 いやー… 満足…。


 ひとしきり鼻血を流すと弱った体に堪えたのか貧血気味になった俺は、博士達から今日はさばんなちほーに残るよう提案されることとなった。


「二人とも昨日までこの世の終わりのような顔をしていたのですがね」

「まったくヒトという生き物は何を考えているのかわからないのです、さっさとくっつけば良かったのです」


「愛だよ二人とも、愛は世界を救うのさ」


「えへへ///」


「なんか言ってるのです…」

「ギャグはいいとして… 今日のところはシロ?かばんの元で療養するといいのです」


 まぁ帰るのも名残惜しいし、その提案乗らせてもらいます。


 長の粋な計らいにより今夜はかばんちゃんと過ごす、こんなドキドキすることが他にあるだろうか?いやないな。

 待て… 夜を過ごすってそういう意味ではなくてね?まだ夜の野生解放には早すぎる、そしてそんな勇気はないんだ。


「我々は帰りますが、ちゃんと食べてよく眠るのですよ?」


「た、たうぇ!?///」ドキドキ


「気が早いよ…///」モジモジ


「そうじゃないですよ!まったくお前らは揃ってムッツリなのですか!」

「しっかりと英気を養うのです、せいぜいよろしくやるのです」


 だって博士達… 若い男女に向かってなに言ってるのさ?うぇひひひ。←ゲス野郎


 と言うのはさておき、くどいようだが今夜はさばんなちほーで過ごすことになった。


 博士達は図書館で客人に助言を授ける仕事があるので帰らなくてはならない… 無論ツチノコちゃんも。


「ツチノコちゃん、ありがとうね?いろいろ…」


「いい、気にするな?オレも“満足”だ」


「ツチノコさん… 僕… 僕…」


「辛気臭い顔をするな!嬉しくないのか?」


 ここに君がいるということは、俺が隠していたこともすべて皆に知られたということだろう。

 また助けてくれたんでしょ?バカみたいにすれ違ってる俺達の仲を取り持ってくれたんでしょ?


 君ってそういう子だ。


「僕すごく、じあわぜでぇす…!うぇぇ… ありがとうごじゃいましゅ!…ふぇぇん!」号泣


「泣ぁくな!鬱陶しい!」


 やっぱりかばんちゃんを説得したのはツチノコちゃんだったんだ。

 彼女の気持ちも知ってる俺としては複雑な気分だけど、本当に感謝してる。


 俺が本当の気持ちに気付けたのも、こうして丸く収まったのも君のおかげだもの。


「それじゃ、いいですよ…」クルリ


「「え?」」


 声をしゃくりあげながら溢れる涙を拭いていたかばんちゃんだったが、急にクルりと向こうを向きそう言ったのだ。


 いいとは?


「僕見てませんから… グスン ちょっとだけならいいですよ?」


「おいおまえぇ!?なんのつもりだよ!?」


「いいよ、ツチノコちゃんさえよければ?」

 

 そうか、つまり最後に少しだけ… ほんの少しだけ俺と二人だけの時間を与えるということだろう。


 こんなことを俺が言うとまた何様だって話になるのだけど、これはかばんちゃんの勇気。

 気を使って拒否する方が失礼に当たるだろう、だから俺は両手を広げ受け入れ体勢をとった。


「腕を閉じろ!できるかそんなこと!?」


「今日だけ特別です…グスン」


「彼女はあぁ言ってるけど、やめとく…?」


「チッ!… わかったよ…」


 ギュウ… と彼女もまた、俺に身を預けて腰に手を回してきた、だから俺も抱き返す。

 こうするのはあの日の遊園地ぶりだ、そしてこれで最後、今日だけだ。


 ぐっと抱き締めながら彼女は俺に聞いた。


「いいか?もうかばんを泣かすなよ?」


「うん…」


「大事にしろよ?」


「うん… 約束する」


「あとな…」


 付け加え、彼女は少しだけ間を置くと、小さく息を吐くようにこっそりと言った。


「ん…?」


「たまに顔見せろ、バカやろう…///」


「もちろん、いいよ」


 すべて承った、君の決意… 俺は決して無駄にはしない。


 最後にツチノコちゃんは「浮気したらビームで眉間に風穴を開ける」とギャグだとしたらまったく洒落にならない忠告をしてきた。

 

 そんなに信用が無いのか俺は…?


 そ、そんなことしないよ!


 本当にしないよ!



… 



「では我々は帰るのです、ツチノコも行きますよ?」

「そうです、我々がいると野暮なので」


「問題ないと思うが、仲良くしろよ!」


「「はい!」」


「ばいばーい!」


 三人は帰る、ここに残るのは俺とかばんちゃん、そしてサーバルちゃん。

 元気よく手を振るサーバルちゃんを見て何やらキッと目付きを変えた長は一つ忠告を入れていた。


「サーバル、二人がベタベタし始めたら気を使って離れてやるのですよ?」

「お前も野暮なので」


「邪魔なんかしないよ!」


「だ、大丈夫だよサーバルちゃん!」


 ところで飛び立つほんの少し前に、ツチノコちゃんがかばんちゃんになにかコソッと耳打ちしていたが… それはなんだろうか?二人とも楽しそうにしていたから悪いことではないはずだけど。


 やがて三人は空へ舞い上がりあっという間に見えなくなってしまった。


「行っちゃったね~?」


「博士さん達のとこにはお客さんがたくさんくるもんね?すぐに帰らないと」


「それよりも~…」


「「ん?」」


 何やらニコニコとするサーバルちゃん、彼女は目を輝かせて俺たちを見ている。


「二人は“愛し合ってる”んでしょ!じゃあ赤ちゃんを作らないとね!かばんちゃんとシロちゃんの赤ちゃんかぁ~… 可愛いだろうなぁ~!楽しみー!」


「ちょ…!?///」

「さ、サーバルちゃん!?///」


 いや、赤ちゃんって君… 赤ちゃんておいおいおい… 赤ちゃ赤ちゃ… 赤ちゃんってちょっと。←動揺


 あたふたあたふた… もうひたすらあたふたとした。


 可愛いかもしれないけど!いや、可愛いだろうけど!なんで初日からそういうこと言って意識させるの!やめて!←ハァハァ


「ねぇねぇ!いつ作るの?わたしその時はカバのとこにでも行くから!大丈夫だよ!」


 なんでそこはちゃっかり気づかいが上手いんだ!発言の方にももう少し気を使ってください!ありがとうございます!


「あ、あのサーバルちゃん?そういうのは段階というものがあってだねぇ?」


「どうして?シロちゃんはイヤなの?」


「そうじゃなくて!そういうのってもっとお互い理解しあってからね!?」


「えぇ~!?愛し合ってるんだもん!いいじゃない!かばんちゃんもそう思うでしょ?」


「サーバルちゃん!い、今はまだ早すぎるよぉ?僕達まだ付き合った直後なんだもん、手を繋ぐのもまだなのに…」


 そうですよ早すぎるんですよ… 一回押し倒したりお姫様抱っこしたり服破いたりほっぺにチューされたりしたけど。


 とんでもない爆弾投下してきたよこの子、あなたもそう思いますでしょ?ねぇかばんちゃんさん?


「そういうのはちゃんと事前に体を綺麗にできたりする、人にも見られないような… そういう場所に行かないと…」


「そっか~… 誰かに見られたら恥ずかしいもんね!ヒトって大変だね?」

  

 え?そこ?その条件を満たせばいいんですか!?そそそっかぁ。←期待


 かばんちゃん、急になに言い出すの?もしかして君もやぶさかでないと言うのかい?

 実はここから港を越えて行くとロッジがあるんだけどね?そこには“なかよし”という部屋があって俺の見立てでは男女がちょいするための部屋なのでは?と…。←鼻血ダラダラ


「もう!シロさんも!やらしいこと考えてませんか?///」ドキドキ


「シロ 食ベチャダメダヨ」


「た、食べないよ!」(まだ)ドキドキ


「ボス!シロちゃんはかばんちゃんを食べるんじゃなくて赤ちゃんを作りたいだけだよ!」


 やめろ黄色い猫!ダイレクトメッセージ付け加えんな!


「カバン シロ 場合二ヨッテハ 避妊モ必要ダヨ 気ヲ付ケテネ? オ互イ二 ヨク相談シテカラ 行為二及ンデネ?」


「~!?///」


「ラッキーまで変なこと言い始めた…」


 誰かこの生々しいことを言い放つ腕時計を黙らせろ!なんかこのラッキー姿だけに飽きたらず中身がちょっと違うんだよなぁ… どこ産だてめー?





 サーバルちゃんはその後気を使ってくれたのか、あるいは体調が万全と言えない俺たちの為に体の方に気を使ってくれたのかそれは知らないが。


「ジャパリマンを探しに行くよ!」


 と言い残し颯爽とさばんなちほーを駆け抜けた。


 二人きり、もうすぐ夜だ…。


 俺達はバスの座席に並んで座りサーバルちゃんの帰りを待っていた。


「シロさん… こんなに痩せて…」 


 彼女はぺたりと俺の頬に手を当てて申し訳なさそうに呟いた。 

 最近食が細かったので、数日の話とは言え確かに少し痩せてるのかもしれない。


「かばんちゃんもね?」


「僕はおかげさまで… でもシロさんはさっきまで辛かったでしょ?」


「身から出た錆というやつかな~?辛いけど甘んじて受け入れたよ」


「みからでた… なんですか?」


 それを気にするの?


 “身から出た錆”

 

 まぁ簡単に言うと自業自得ってことだね、事実俺がちゃんとハッキリしなかったのが理由でもあるのだから。


「シロさんは何かの報いを受けるようなことしてませんよ?」


「したさ、態度をハッキリしないで君を傷つけたし悩ませたもの… ツチノコちゃんのこともね?」


「それは僕が勝手に…」


「同じだよ、こっちは俺が勝手に… ね?」


 「でも…」と彼女は俺の顔を下から覗き込むように見上げた、困ったような表情をしているが、上目使いがとても可愛らしい。


 そのまま優しく俺の頬を撫でながら彼女は言う。


「顔色もよくありません、目の下に隈もあります… 眠れていないんですね?少しまぶたも腫れています、もしかしてここ数日涙を流すことが多かったんじゃないですか?」


 いやぁ鋭いねハニーは?顔色が悪いのはみんなに言われたけどここまで細かく分析したのは彼女が初めてだ、よく気がつくなぁ?


 彼女の言ったことは正解だ、ここ数日枕を濡らさない日はなかった、だけど…。


「眠れてないのは一緒でしょ?泣いていたのもそう、同じだよね?ご飯も食べられなかったのだってそうさ?先日アライさんの料理を吐いてしまったのには本当に参ったよ、でも全部かばんちゃんが感じた苦しみなんだと思うとね?こんな辛い目にあわせてしまったんだと思うと… 当然の報いを受けてるなとそう思ったんだよ」


「ごめんなさい、シロさんまで苦しむことなかったのに…」シュン


「いいんだよ?おかげで君に思いが通じたから… もうご飯も食べられるようになったしね?結果オーライ、人は経験を積んで大人になるのさ」


「もう… どうしてそんなに優しいんですか?」


 と彼女は俺に言うが答えなんて決まってるだろう、一つだけだ。


「それはかばんちゃんが好きだからだよ」


「むぅ… ズルいですよぉ!」


 こういうと彼女は照れたのか帽子で顔を隠してしまった、もうなんでもかんでも可愛く見えてしまうので可愛いし可愛い。


「あ、そうだ… シロさん?」


「ん?どうしたの?」


「実はシロさんにお願いがあります」


「いいよ?なんでも言って?」


 俺に可能なことならなんでもやっちゃうよ?そんな気でいたのだが彼女のお願いは俺が思ってるのと少し違ってた。


「教えてほしいことがあるんです」 


「…?俺にわかることなら」


 俺がこう言うと彼女はこう答えた。


「シロさんにしかわからないことです」


 不思議な言い回しをしなさる… 俺にしかわからないこと?料理かな?


 ワクワクしたような、ソワソワしたような… 彼女はそんな落ち着かないが少し楽しそうな表情で「俺にしかわからないこと」とやらを俺に尋ねた。


 その内容は…。


「“シロさん”というのは本当の名前ではありませんね?」


「…!」


 ハッとしたぞ。


 そう、俺はシロという名前ではない。

 

 そういえば偽名、いやあだ名なんだよなこれ?もうすっかり馴染んだから気にも止めることはなかったが。


 パークに着いた時に博士達から「白いからシロ」という死ぬほど単純な理由で命名されたんだった、思い出してみると奇しくも猫っぽい名前をつけられたことに苦笑いせざるを得ない。


「忘れてた、そういえばパークに来てから名乗ったことがなかったよ」


「誰も知りませんよね?」


「うん、すっかりシロで慣れちゃったし」


「じゃあ…」


 そういうと彼女は自分の指をツンツンと突きながら照れくさそうにして、こちらに何度も視線を向けた後こう聞いた。


「本当の名前、僕にだけこっそり教えてくれませんか…?二人だけの秘密が欲しいんです」モジモジ


 はい、喜んで!

 

 特に隠していた訳ではない、ただ博士達はそう呼ぶし… いくつも呼び名があるとややこしいからシロで定着させた。

 

 というのは建前で、ここで暮らす以上過去の自分を捨てて前向きに生きていこうという意味で本名は名乗らないことにした。


 過去との決別… とそこまで大きなことは言わないが、それが馴染んで現在に至る。


 まぁどちらにせよ隠してたわけではない。


「ダメ…ですか?」


「ううん、初めて名乗るからちょっと恥ずかしいだけ、じゃあコソッと教えるから耳を貸して?」


「あ、はい!」ワクワク


 俺はそっと彼女の耳に、親からもらった大事な名前を伝える。


「いい?俺の名前はね?」


「は、はい…!」


 

 周りに聞こえないように、君にしか聞こえないように…。


 とてもとても小さな声で。


 


「…っていうんだ、二人だけの内緒だよ?」


「はい!素敵な名前ですね!」


 御満悦、何よりだ。


 ところでなぜシロが本名じゃないと分かったのかな?かばんちゃん鋭いしなにもおかしくはないけど、いつから気付いてた?


 気になったので聞いてみたところ、犯人はツチノコちゃんのようだ。


「帰り際に教えてくれました、シロ… って言うのは博士さん達が勝手に付けた名前で、本当の名前はツチノコさんも知らないって」


 あぁ… それでコソコソ話してたのか。


 そういえばツチノコちゃんだけは当事者だ、命名の時一緒にいた。


「“恋人なら本名くらい聞いとけ”って、えへへ…」


 うぇひ///

 照れるね?恋人か、俺の恋人だもんね?そうだよね?


 はい、彼女ができましたからね?





 それから二人でずーっと飽きもせず話続けた、肩を寄せ合ったり手を握ったり… ハッと目が合うと二人して照れ笑いを浮かべたりもした。

 そんな何気ない時間が楽しくて仕方ない、これが恋か… 生きててよかったとそう思える、死にかけた甲斐もあるということだ。


 そしたらお互い疲れがあったからかな?サーバルちゃんを待たずに座ったまま眠ってしまった。


 彼女と手を繋いだまま…。





「ただいまー!遅くなっちゃった!ボス中々三つくれなくて困ったよ!… あれぇ?」


 サーバルが帰ったころ、二人は手を繋ぎ肩を寄せ合ったまま眠っていた。

 二人ともあまり幸せそうに眠っているので「シー…」と指を口の前に持ってくると、彼女はこっそりとジャパリマンを1つだけ持ってバスの外に出た。


「二人とも最近色々あったから疲れちゃったんだね?博士達が“やぼ”?って言ってたし、わたしは起こさないように久しぶりに木に登って寝ようかな!」


 かばんとの生活ですっかり昼行性となったサーバルは枝の上でジャパリマンをかじりながら、二人におやすみを言った。


 食べた後に自分もうとうとしてきたので、ひとつアクビをすると彼女も木の上で器用に体を横にして眠った。






 次の日の朝になって気付いたんだけど、話に夢中でできなかったなぁ… ほら、今日中にするって言ったのに。


 プレーリー式の…。

 


 いや、いいのいいの… 

 かばんちゃんは彼女ですから、次の日でも可能!いやいっそ今からでも!

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