第61話 せんたく
父さん母さん… 今日は人生で初のデートというものをします、何をしたらいいかまるでわかりません。
二人でゆっくりできるとこに行くべきでしょうか?でもそれは下心とかいうものが見え隠れしてる気がします。
かと言って騒がしいとこに行くのもどうかと思います、ツチノコちゃんは人混みが苦手なので悪印象かと…。
では彼女の行きたいところを聞いて連れていけばいいですか?それはダメではないかと思います、女の子は最初の段階で男を見定めてると聞いたことがあるのです… ここで俺が「君の行きたいところへ」キリッ とか言うと「どこでもいい…」無表情 になりかねない。
つまりここで「まっかせてぇ!」と丁寧にエスコートしてお姫様のように扱い、最高に楽しませることが出来てこそデート成功といえるのです。
しかし俺にそこまでの高等テクニックはありません、お腹が痛くなってきました。
ちなみにジャイアント先輩に聞いたら「それくらい自分で考えろ坊や」と一蹴されました。
万策尽きて天を仰ぐ…。
今まさにこんな気持ちです、何も試しちゃいないのに。
何より厄介なのは…。
「なぁ、これはどういうことが書いてあるんだ?」
「えーっと…“夢とセルリアン”についてだって?」
「おぉ~!すごいなぁ!ここは知識と情報の宝庫だな!」
彼女が既に図書館にいることです、地下室で資料を読みあさりデートが始まりません。
いや、彼女が楽しませることがデートなら今は順調と言えるかもしれない。
「ハッ!?すまない、こんなことをする日じゃなかったな今日は…」
「あ、いやいいんだよ?博士たちは早くに出掛けたみたいだし、特にどこへ行こうとか決めていた訳ではないから、ツチノコちゃんが楽しいならここにいても構わないよ?」
「そ、そういう訳にもいかないだろ!その…デートなんだから///」
「う、うん… そうなんだけどさ…///」
改まって向こうから言われると猛烈に恥ずかしいなぁ…。
かと言ってどこへ行こうかいよいよ決められなかったポンコツだからな俺は、どうしようかな?
「図書館の地下室… 初めて入ったがなかなか面白いな?地下迷宮みたいで居心地もいいしセルリアンもいない」
「スナネコちゃんもいないけどね」
「べ、別にあいつのためにあそこにいる訳じゃないぞ!」
こんなこと言ってるけどいないと寂しくって仕方ないんだ、知ってるよ?君は優しいけど寂しがりって。
「なぁ、なんにも決めてないのか?」
「ごめん…」
「じゃあ行きたいところがある、連れてってくれないか?」
結局行きたいところへ連れていくことに… なにかデートらしいことをしないと。
前回の教訓として、バギーの後ろに乗せて走るだけでデートだと思われるみたいなのでバギーで移動することにした。
そう思いバギーを走らせているとツチノコちゃんから行き先の指定があったのだ。
「なぁ、遊園地… 行けないか?」
「りょうかーい!でもなんで遊園地?」
「あそこは… い、いやいい!とにかく向かってくれ!」
調べものでもあっただろうか?
彼女はグッと俺の体にしがみつき身を預けて来ている、体が当たる部分は温かく目で見て確かめるまでもなく彼女が側にいると教えてくれる。
運転には集中してるが、後ろに人を乗せるのはこんなに緊張するものだっただろうか?俺はPPPのメンバーも後ろに乗せて走ったことのある男だぞ?
なんて強がってみたけど… 乗せる人が違うだけで変わるもんなんだな。
…
その頃… ロッジアリツカ。
「さぁ、来てやりましたよサーバル?」
「どこにいるのです?」
「あ、博士たち… ありがとう!いつもの部屋だよ?」
長の二人はロッジに来ている、人伝にサーバルに呼ばれていたからだ。
普段なら人が来るのを長らしく待ち来るものに助言を与える二人だが、今回わざわざ出向いて来たのには理由があった。
「オオカミ、お前から見てどうなのですか?」
「かなり変だね、始めは強がっていつも通りに振る舞っていたようだけど、日が経つにつれてだんだんと表情は暗くなった… 今では悲しそうと言うより無気力というのが正しいかもしれない」
二人は続いてアリツカゲラ、アミメキリンにもその様子を訊ねた。
「ご飯も食べてないみたいです…」
「先生が怖い話をしても表情ひとつ変えなかったわ…」
「そう、それで気になって博士たちのところに連れていこうとしたんだがあの子は急に泣き出して言ったよ…」
「“図書館には行けません”…ですか?」
「それで我々が直々に来ることになったと」
皆が話しているのは、他でもないかばんのことである。
ハロウィンパーティーの翌日頃だったか、サーバルはいち早く彼女の異変に気付き、すぐに声を掛けた。
「かばんちゃんなんだか元気がないよ?どうしたの?」
「そんなことないよ?大丈夫大丈夫!」
この時はまだかばんも強がっていられた、しかしロッジに着いて数日経つとやがてボーッと外を眺めるようになった。
今では夜も眠れていないようで、朝昼晩とジャパリマンにも手をつけず話しかけても聞いているのかいないのかハッキリとしない返事をするようになっていったのだ。
サーバルは心配になりロッジのみんなに助言を求めた。
皆もその頃には既に様子がおかしいことに気付いており、あの手この手を試してみたがどれも効果は無い。
これは自分達では手に負えないと図書館に行くことをかばんに進めたのだが…。
「図書館には行けません」
それだけ言い残し、急に泣き出したかと思えば皆に返事もせずにまたボーッと外を眺める彼女…。
「図書館にはシロ君もいるから、手料理なら食べれるかもしれないしなにか原因が分かるのではと思ったのだけど… なぜ行けないと言うのかな?」
「怖いものでも見たんでしょうか?」
「れ、例の地下室で見てはいけないものを見たとか…?事件のニオイがするわね…」
サーバルを含む、ロッジのフレンズ達にはその原因が皆目検討もつかないという状態だった。
そう、ここのフレンズ達にはだ。
「ねぇ博士たち!かばんちゃんはどうしちゃったの?せっかく元気になって楽しそうにしてたのに!今度のは前よりずっとひどいよ… どーして?」
「「…」」
長にはすぐに答えが見えた…。
シロだ、詳しい理由は知らないがまたシロが原因に違いない。
「博士… やはり」
「助手、早計です… まずはかばんと話すのです」
「そうですね… それではお前たち?案内するのです」
…
遊園地… アトラクションの数々は古く動かない物が多い、観覧車は博士たちがどうにかして動かしたらしいので回ってはいるが、いくつかは落ちて歯抜け状態になっている。
観覧車と言えばせっかくのデートなので定番ではあるのだが、大変危険なので興味はあっても乗らないほうがいいだろう。
「着いたよ、疲れてない?」
「大丈夫だ、やっぱり早いな?歩くよりずっと楽だ」
「博士たちは揺れるから嫌いみたいだけどね?」
「飛べるやつにはわからないさ、最高だな乗り物ってやつは!」
不適な笑みを見せる彼女はゆっくりと歩きながら話を始める…。
俺と彼女の出会いのことだ。
「覚えてるか?お前とはここで初めて会ったんだ」
もちろん覚えている、港から人影を見つけてここまで来たんだ、そしてお化け屋敷を見付けた、いろんな情報からここにいると確信したんだ。
「あの時、どうやって見付けた?」
「クモの巣だよ、他の建物の入り口はクモの巣が張ったりして痕跡がないのに、お化け屋敷だけは入り口に巣が無くて足跡みたいなものもあった… だから出入りがあると思ったんだ」
「ほう?なるほどな?勉強になった…」
納得… と言った表情だ。
俺たちはそのままお化け屋敷のほうへ歩き、その道中こんなことを聞いてきた。
「初めて会ったときオレのことどんなやつだと思った?正直に言えよ?」
「うーん… 情緒不安定…かな?」
「ハッ!オレにはお前が冴えない野郎に見えたぞ?」
「まぁ、いろいろ悩みを抱えたままここに来たからね?不安だったし」
なんだか今日は彼女もよく喋る、思出話がしたくてここに来たんだろうか?確かに思い返すと感慨深いけど。
そして俺たちは目的の建物の前で足を止めた。
ここだ、ここで彼女と初めて会った…。
おどろおどろしい見た目のここ、お化け屋敷。
あの時からしばらく経つがクモの巣はない、ただし少しホコリっぽい。
「せっかく来たんだ、入らないか?」
「いいけど…」
こんな暗いとこに連れ込んで… どうしたのかな?中に入るとやっぱり暗い、仕方なく野生解放して夜目を利かせることにした。
「ふぅー…」
「どうしたの?」
「いや、聞きたいことがあるんだシロ?だから、今からすることを黙って見ててくれないか?多くは望まない、ただできれば抵抗しないでほしい…」
少し考えた… だって何をするの?
でも悪いことではないんだと思う、俺は彼女に対しそれを無条件で信じるくらいの信頼を向けている。
なら簡単だ、俺は「いいよ」と答えた。
でもその瞬間俺は度肝を抜かれた、まさかこんなことになるなんて思っていなかった。
「ありがとう…」
「え…ッ!?」
彼女は俺を抱き締めた、ぎゅう…っとこんなに強く抱き締められたことがないくらい強くだ。
「ごめんな… いきなりこんなこと…」ギュウ
そう言うと彼女は少し力を弱めてポツポツと話し始めた、今回のデートに彼女にも思うところがあるのかもしれない。
「無理に答えなくていいから聞いてくれるか?」
「…う、うん」
彼女は、始めに今日のデートのことを聞いてきた、「なにか理由があるんだろ?」と。
お見通しだったのかと少し驚いたが、彼女ならそれくらい察しがよくてもなんとなく納得できる。
デートしたかったのは俺が自分の気持ちを知るために君と二人で過ごす時間が欲しかったから… 一日恋人同士みたいに過ごせばなにか分かると思った。
てもそれは言わず、俺はまた「うん」とだけ答えた。
「正直な… 嬉しかったよ…」
「本当に?」
「あぁ… 今までのこともデートしたいって言われたことも全部だ」
彼女の声が震え始めたころ、俺も自然に抱き返していた。
野生解放はやめてなにも見えなくたってどこにいるか分かる、彼女は俺の腕の中だ。
「とにかくお前が絡むといちいち嬉しくなったんだよ…」
「うん」
「オレはさ… こんな性格だけどさ?」
「うん…」
俺が頷いた後、彼女は少し黙り込んだ。
言いにくいことなんだろう、だから言えるまで待つんだ。
どれくらい待ったかわからない、でもその時彼女は俺に言った。
「お前に“惚れた”みたいなんだ…」
聞いた時、ドキドキと鼓動が早くなった。
こういう時、俺もだよ… って言ったらいいんだろうか?言ってしまえって思う俺もいる。
でも… 踏み込もうとするとそれを止める物がある、心の中で俺の腕を引っ張る誰かがいる。
「お前がパークで唯一オスとして存在するからなのか、こんな気難しいオレをいちいち構ってくれたからなのかはわからんが、とにかくオレは“お前が好きだ”なぜかな… わかんらん」
彼女は俺を好きだと言ってくれたんだ。
正直ここまで言わせたら気持ちに答えてあげたい… でもそれをさせまいとなにかがブレーキを掛けている。
返事もできず黙る俺を気にせずに彼女が続けて言ったことに俺はハッとした。
「だが、オレはお前をどうにかして自分の物にしようとは思わない…」
「え…?」
何をいっているのか俺にはわからない… 想いをぶつけてきたはずの彼女の言ってる意味がわからなかった。
「よく聞けシロ?お前かばんに惚れたな?」
「ッ!?」
「やっぱりな… お前は分かりやすい、嘘もつかない」
かばんちゃん?俺はかばんちゃんが好き?
心の中の霧が晴れていき腕を引っ張る子の正体が見えてきた。
「いいことを教えてやる、かばんもお前に惚れているぞ?」
「え…?そんなことって?」
「信じられないか?でもあいつはお前よりさらに分かりやすいぞ?」
彼女は… 俺に最後まで自分の気持ちをぶつけ、暗闇でこんなにも強く抱き締めながらも、それでも現実に対する自分の考えを話し始めた。
「お前のことは特別に好きだ、でもオレはかばんのことも負けないくらい大好きだなんだ、お前に対する好きとは違うが、かばんも好きなことに変わりはない」
彼女が続けて言った言葉に込められた意味それは。
そんな大好きな友人を悲しませてまで俺とくっつこうとは思えない、でもそんな大好きな連中がくっつくならそれは文句はない。
とこう言っているのだ。
でも… そんな、そんなのって。
俺はかばんちゃんが好きなのかもしれない、でもだったらツチノコちゃんに対するこの気持ちはなんなんだ!確かにこれも好きって気持ちのはずだ…!
「ツチノコちゃん俺!」
「待て… おまえどうせ自分の気持ちがよくわからないんだろ?」
「だって!」
「いいか?目を閉じたとき始めに思い浮かぶのは誰だ?パッとでる名前は?顔は?一日中そいつのことで頭がいっぱいになったことはないか?口にしなくてもいい… 無心になってやってみろ?精神統一だ、できるだろ?」
目を閉じて… 始めに思い浮かぶ?
無心に… この状況じゃ難しいが無心になって考えたら…。
考えたら。
…
“僕は… シロさんのこと嫌いになったりしませんよ…?”
…
そんな言葉がふと頭をよぎった、まずおもいだしたのは頬に当たる唇の感触、そして次に浮かんだのは優しい笑顔。
俺の心で手を握ってくれるのは乱暴されても変わらず接してくれた彼女。
優しくって頼りがいがあるあの子。
そっか… 君だったのか…。
「どうだ?」
「うん…」
「わかったな?自分の気持ちが?」
「わかったよ… でも!」
「大丈夫だ、いいんだ…」
「ごめん、ごめんツチノコちゃん…!」
でも同時にわかったんだよ、俺は君のことも好きだったよ?ハッキリ言えるよ?
きっと泣きたいのは彼女の方なんだ、なのに彼女は黙って泣きじゃくる俺を慰めてくれた、俺は最低だ。
俺はかばんちゃんが好きさ、かばんちゃんも俺を好きだと言うならそれは幸せなことだ。
でもそれじゃあ君はどうするんだ?俺を好きだと言ってくれた君は?
俺がもっと器用な男なら二人同時に愛してやれたんだろうか?いや、それはなんか違う… やっぱりどう頑張っても一人だけなんだと思う。
「お別れ… なの?」
「いや、惚れた腫れたの前にオレ達はいい友人だ?違うか?」
「親友だよ… パークで1番大好きな親友」
「友達に順位をつけるな… でも、そうだな?親友だ、何度も助けてくれたな?ありがとうな?」
「うん…!」
この場合はフラれた… に該当するんだろうか?ツチノコちゃんとは恋人同士にはなれなかった。
でも成長できた気がする。
物事を選択していく、辛くても苦しくても選ばなければならないことがあるって。
「さぁ、送ってくれるか?」
「うん」
どれくらい暗闇で抱き合っていたかわからない、でも外にでたころ太陽は傾きかけていた… 思っていたより長かったのかもしれない。
俺は彼女を後ろに乗せてさばくちほーまでバギーを走らせた、その間もぐっとしがみつく彼女の体温を感じ存在を噛み締めながら。
「じゃあ、またな?頑張れよ?」
「…」
「なんて顔してんだ!言っとくが!かばんを泣かすなよ!」
「ツチノコちゃん、最後に俺もお願いいいかな?」
これで、これで終わりにするから?どうか君にも聞いてほしい。
「なんだよ?」
「フード下ろして?」
「ったくまたそれか!っんとに懲りないなお前は!ほら!」
さらりと現れた青く美しい彼女の髪を撫でるのもこれが最後かもしれない、八方美人はダメなんだ、そうだろう?
だからこれが最後、本当に最後。
俺は彼女の髪に触れると前髪をあげて額を露にさせた、そして。
「…」チュ
「ッぇあぁ!?!?!?」
「これで終わり、じゃあね?」
「な、なにしてんだよ!?このやろぅ!?///」
これ以上は一線を越えてしまいそうだ、だからここまでだ、ここから気持ちを切り換えていかなくてはならない。
もう悩んだりしない、俺はかばんちゃんだけを想って生きていく。
これが本当の気持ちだし、約束だから…。
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