第56話 ヒーローショー

「シロさん!体はもういいのだ?」


「うん、酷いこと言ってごめんね?今度お詫びをさせて?」


 外に出ると一方的に追い返したアライさん、それからその隣には当然フェネックちゃんもいる。

 かばんちゃんに同行してきたのであろうサーバルちゃんもだ、つまりは博士達とゴコク帰還組が外で俺を出迎えてくれた。


「アライさんが悪かったのだ!だからお詫びなんかいらないのだ!でもまたシロさんと一緒にりょーりがしたいのだ…」


「もちろん、いつでもおいで?」


「やったのだ!」


「よかったねぇ!アライさぁん!」


 結局、訳を話さないと収集がつかないということで俺の初めての発情、略して“初情”はここにいる子達にだけは説明することとなった。


 博士達は問い詰められながらも頑なに口を閉ざし俺の尊厳を守ってくれたが、話してしまってはその鉄の意思も無駄になってしまった… 申し訳ない限りだ。


「は、はつじょーきかぁ… フレンズにはそういうのないから思ってもみなかったよ!」


「博士達には隠しようがないなら仕方なく話したけど、発情してるなんて誰にも知られたくないよ…」


「でも何事もなく終わってよかったです、今度は僕たちもいますから… 一人で抱え込まないでくださいね?」


 なんだかその言い方はまるで「好きな子を選んでね?」って言われてるみたいだがかばんちゃんに限ってそれはない絶対違うから落ち着け俺。


 しかし参った、最近慣れたと思ったのにまた緊張するようになってしまった。


 昨日のことはハッキリ覚えてるんだよ?ちゃんとお互いにだ。

 かばんちゃんは何でもないのだろうか?俺は思い出すだけでもう…。


「…~///」ドキドキ


「シロさん真っ赤だねぇー?まだ発情してるのかい?」


「これはただのムッツリですね」

「そうですね、シロはムッツリなので」


「もうなんとでも呼んでよ…」


 だってあんなの忘れられる分けないでしょ、どうすんのさこれ?もう顔もまともに見れないよ…。


「シャツは今度洗濯してお返ししますね?それまではその… お借りします!」


「いや!うん、全然気にしないで!?悪いのは全部俺だから!?ゆっくりでいいよ?」


「はい、ありがとうございます… それじゃあ、僕達もう行きますね?」


 そっか、もう行くのか… ご飯食べて行ったりとか… いやダメだ、一旦離れて落ち着きたいだろうし。


「あ… うん… その、またね?でいいのかな?」


「はい、また来ます!」


 なんか、なんだ?行ってほしくない。


 発情の名残だろうか、普段は寂しくてもこんな風にならない… ツチノコちゃんとの時も似たような気持ちになったが、ずっと胸も苦しい気がする。


「シロ?お前なんて顔してるのです」

「そんな顔をされてはかばん達が帰りにくいのです」


「あ… ぼ、僕はもう少しいても…!でもシロさんのお身体に障るかなって」


「シロちゃん寂しいのー?」クスクス


 さ、寂しくなんか…!なんだよこれ!違う違う!平気さ、何も今生の別れじゃあるまいし!


「だ、大丈夫だよ!体も平気だしそれぞれ用事があるでしょ?それに会いたくなったら!会いに…ゴニョゴニョ」


「やっぱり真っ赤なのだ!」

「シロさん可愛いとこあるねー?」


「もぉ~!みんなしてからかうのやめてよ!」


「「あっははは!」」





 俺は絶対安静らしいので、アライさんもフェネックちゃんも今日の料理はやめてバスに乗り帰っていった。


 遠くなり、どんどん小さくなるジャパリバス… 行ってしまう。


 頬に触れた唇の感触を思い出すと、より一層胸が締め付けられて寂しさが込み上げる。


 だが、それは御守りを握り絞めてグッと堪えて深呼吸。



 さてと…。



「二人ともありがとうね?隠し通してくれて?」


「あれくらいお安いご用なのですよ」

「この島の長なので」


「うん、それじゃ地下室片付けてくるよ、のたうち回ってメチャクチャなんだよね」


 布切れになったかばんちゃんの服もあることだし… いや変なことには使いません。


「我々も手伝ってやるのです」

「絶対安静と言った手前一人でやらせるのは気が引けるのです」


 なんだ?優しいね今日は?


 そんな風に大掃除をしてみたりしながら、だんだんと日常を取り戻していった。


 食材集めたりアライさん達と料理したり、たまに姉さん達にも会ったり会いに来たり、師匠に稽古つけてもらったりだ。


 数日後かばんちゃんが俺の留守中に来たそうだ、シャツを洗濯したから返しに来てくれたらしい… 綺麗に畳まれたシャツの間には手紙が挟まれていた。


“ありがとうございます、また今度”


 お礼の手紙、それだけだ。

 それだけなんだが…。


 なぜだか俺の胸はそれだけで熱くなる。




  

「博士、あれは流石に間違いないのでは?」


「はい、フォーリンラブなのですよ助手!発情から始まる恋もあるということです!」


「また一歩大人になったということなのですね?物理的にも」


「そうですね助手?しかし早とちりはアイアンクローを呼ぶのです… ここはしばらく生暖かいめ目で見守るのです」





 そんな平和な日常を過ごしていたある日、タイリクオオカミさんが漫画を持ってやってきた。

 いつもと違うのはアミメキリンさんの他にPPPのマネージャーであるマーゲイさんが一緒にいたことだった。


 せっかくなので皆さんにも食べていってもらおう、今日は実に機嫌がいい、気合い入れて作ったんだ。


「今日はお客さんもいるので中華ずくしフルメニューでございまーす!」


「贅沢なのです!じゅるり!」

「こんなにたくさんの中華が!じゅるり!」


 長まっしぐら、楽しみしてくれたのは嬉しいがテーブルに乗り上げるのは不作法なのでやめましょうね?


 オオカミさんにキリンさん、それにマーゲイさんもこれには驚いたらしく、同時にとても喜んでいただけた。


「これはスゴい… ずいぶん気合いをいれたじゃないかシロ君?」


「私が推理してあげるわ!なにかいいことがあったのね?そうでしょう!」


「こんなのパーティーでしか見たことないわー!どうしたんですか?シロさん?」


「実はねぇ~?」


 そう理由がある、なんと長いこと山にぶん投げられていたバギーが直ったのだ。


 しばらく留守にしていたラッキーがどうやって運んできたか知らないがピッカピカに直されたバギーを持って?帰ってきた、それ新車?って感じだった。


「というわけで、キリンさん大当り!さすが名探偵!」


「私の目に狂いはなかった!」


「シロ君、キリンをあまり調子に乗らせないでくれるかい?」


 これは失礼?でも推理力上がってきたんじゃないかなキリンさん?


 さておき、それからみんなで「いただきますッ!」をして楽しい食卓になった。

 あんかけ焼きそばに炒飯、それから麻婆茄子に餃子(挽き肉の代わりに豆腐を砕いて入れた物)などなど色々作らせてもらった。


 大量にあったが人数が人数な為にあっという間に平らげてしまった、でもみんな満足そう、よかった。

 そんな満足そうなみんなの顔を見ると作った甲斐があると感じる、「美味しかったごちそうさま」ってこれだけだけで心が弾むよ。



 そこで、食後にオオカミさんがまた怖い話を始める前にこの妙な組み合わせの理由を尋ねることにした。


「マーゲイさんが来るなんて珍しいけど、今日はまたPPP関連?」


「実は、彼女とはここに来る途中で会ってね?」


「はい!今日はシロさんに用が会ったのでご一緒したんですよ」


 俺に?マーゲイさんから頼まれるようなことあるかな?まさかアイドルになれとも言わないだろうし。


「シロさんの話しは聞いてますよ~?ヒーローなんですって?」


「アライさんだけだよそれを言ってるのは、俺自身はそんなつもりないし」


「いいえ、シロさんはヒーローです!私もそう思います!そこで!シロさんにはヒーローと見込んで頼みたいことがあるんですよ」



 PPPマネージャー マーゲイの頼みとは?


「「「ヒーローショー?」」」


「はい!是非お願いします!」


 そう、ヒーローショーをやりたいらしい。

 

 ある日彼女はPPPのライブの待ち時間について考えていた、マネージャーとは言え演出などすべてのことを彼女一人が企画しなくてはならないからだ。


「せっかく来てくれたのにあまり長いとお客さんが可哀想ですねぇ…」


 待ち時間はひとつの課題だった。


 せっかく来たのだから早く見たいし聞きたい、これはお客様全員に言えることだと思う。

 そこでマーゲイさんは考えながらいろんな部屋などをうろついていたその時、ヒーローショーなるものの資料を発見した。


「前座でこういうのをやってみると面白そうね!困ったフレンズのために悪い人っぽいものたちをたった一人でやっつけていく… まさにヒーロー!あ!ヒーローといえばたしか…?」


 という経緯があり、マーゲイさんはヒーローのことならヒーロー本人に頼もうとこちらに出向いて来たのである。


 要は俺に役者になれと言いたいのだ。


「こちらが資料です」


「なになに?“仮面フレンズ”?」


 へぇ~ジャパリパークのご当地ヒーローかな?こんなのテレビでよく見てたなぁ昔は、結構カッコいいとか思うのは俺だけ?うぉー!変身!なんちて。


「不思議だね?なぜヒーローなのに顔を隠しているんだい?」


「怪しいわ!本当にヒーローなの?」


 不評、俺だけだったかぁ…。


「ほう?仮面フレンズ?それの資料なら図書館にもあるのです」

「ええ、これですね?」


「ん?どれどれ?」


 仮面フレンズはパークの平和の為に戦うヒーローである、セルリアンを始めジャパリマン市場を支配しようと目論む悪のフレンズにたった一人で立ち向かう、彼は愛車ジャパライド号に乗り今日も戦う。


 仮面フレンズ… 一体何者なんだ…。


「仮面“フレンズ”なのに“彼”なんだ?」


 その時点でもうフレンズじゃないんですがそれは…。


 でもわかったぞ、パークスタッフの出していた催し物だねこれは、見るに男性職員がそういう格好とつけ耳つけ尻尾でフレンズっぽい仮面のヒーローの出来上がりってわけだ。


「そうよシロさん!フレンズは女の子なのに!そこもまさにシロさんじゃないですか!」←今知った


「そ、そうだね…」


「ほら!丁度バギーも直ったことだし!やってみませんか!」


「う~ん…」


 って言われても困るんだよなぁ~…。

 あてくしこう見えても暇じゃないんですのよ?忙しいのよ?そうでしょ長?


「待つのですよマーゲイ」

「シロを使いたいならまず我々に話を通すのです」


 そうだよ、俺は料理しないとならないんだし先に上司に話し通してくださる?そう頻繁にステージには上がれないんだよ俺は。


「取引ってわけですね?いいわ… なにが望み?」


「役者は我々が決めるのです」

「そしてストーリー脚本はタイリクオオカミ、お前がやるのです」


「フフ、まぁ私は構わないよ?」


「なるほど… いいでしょう」


 え!?ちょっと待ってなに今のスムーズなやり取り?決まったの!?おいおいなに勝手に決めてんだよ!?


 「話を通すのです」キリッ じゃないよ!なんでだよ!?出演は確定なの!?俺はやるなんて言ってないよボス!大体そんなのできないよ!役者じゃあないんだよ俺は!いい加減にしろ!


 止めなくては!


「ちょっと、俺は演技なんてしたことないよ?」


「面白そうではないですか?」

「ライオンは演技派で有名なのです」


「やるなんて言ってないし俺は“ホワイト”ライオン、そしてヒト」


「ほう?飽くまで断ると言うのですか?」「しかしお前の首を縦に振らせるなど我々には造作もないのです」


 言うね?ならばやってみるがいい、普段誰が料理してると思ってるのかね?二人が何を食べるかはこの俺次第なんだぜ?さて何を食わせてやろうかなぁ?へへ… うっかり味付けミスらないようにせいぜい見張るがいい、火を恐れないのならなぁー?


「どんな策があるかしらないけど俺は役者なんてできないしやらn」


「助手!そういえば地下室の換気が必要だと思いませんか?」

「そうですね博士、先日“あんなこと”があっては少し臭いも気になってくるのです」


 ピクピク!←耳の動く音


「ちょっ!?」


 ひ、卑怯だぞぉーッ!?!?!?

 まさか弱味を握ってくるなんて!それが長のやることか!


「地下室?なにかあったのかい?」


「気になるわね… 事件の臭いがするわ!行きましょう先生!」


 行かせねぇよ!くそ!絶対行かせないからな!席に戻ってくださいお願いします!


「ま、待ちなよ?掃除もしてないカビ臭い地下室になんて行く必要はないよ?」


「どうしたんだいシロ君?そんなに焦って」


「その反応… なにか隠しているわね?吐きなさい!」


 し、死んでも吐くもんかー!?おーいおい?厄介なことしてくれたな長'sーっ?

 

「地下室と言えば博士、机に置いてあったあの“ビリビリに破れた布”はなんですか?」


「あぁ、あの“赤い布”のことですか?さあ~?覚えがないのです… 誰かの服?でしょうか?あとで調べておきましょう助手!」


「ワァァァア!?ウガァーッ!?」野生解放


 なにぶっちゃけてんだよ!?ちゃんと我慢しただろうがよ!?腕痛かったんだぞぉ!?ねぇお願いもうやめて!それだけは何卒!


「ビリビリの赤い布?なんだろう?気になるね… スケッチさせてくれないか?」


「地下室… 赤い布… 服?赤い血のついた… 服?まさか… これは密室殺人!?あなたが犯人ねシロ!誰を殺ったの!?吐きなさい!」


「誰もなにも殺ってない!陰謀だよこれは!博士達変なこと言わないでよ!あとオオカミさんもスケッチしないで!何も無いから!」


 赤い布の話だけは本当にやめてくださいお願いします!名誉に関わる!俺にもあの子にも!


「変なこととは?」

「我々はただここに住むものとして地下室の掃除の話をしているだけなのです」


「「なにか問題ですか?」」


 く…そ…!見てろよ!今日の夕食で!覚えてろよ!


「わかったよ… マーゲイさん?その話しお受けします」


「本当ですか!?いやぁありがとうございます!」


 ま、やってみるさ?ヒーローか、小さいころはテレビにかじりついた物だ。

 そんな俺がヒーローになるなんてね、そうか初めてヒーローの役をやる人の気持ちはこんな感じなのか… もっとも俺は脅されたんだけどさ!


「なぁシロくん?気になるじゃないか?地下室にいかせてくれないか?フフフ、面白そうだなぁ…“あんなこと”ってどんなことだい?」


「名探偵の名に懸けてこの事件を迷宮入りになんかさせないわ!私は諦めない!」

 

 面倒なことをしてくれたな、だが死ぬ気で止めて見せる。


「この落とし前はつけてもらうよ博士達?」


「なんのことだかわからないですねー?

「忙しくなりますよシロ?掃除はまた今度です!」


「あぁもう!はいはい…」


 残りの配役はどうするのかな?PPPの前座なんだからPPPの準備中にやらなければならい、つまりフルル達は出られないし見られない… では誰に?


 というかまずは誰がどこをやるというよりはやるかやらないかではないか?


 でもやっぱり声を掛けるなら演技派と噂の姉さんからかな?


 にしても俺にヒーローなんか勤まるのかな?発情して女の子に襲いかかるヒーローなんかいるかよ… はぁ…。

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